ガクエンノヒトビト
シャラシティ。
目覚めの街とも呼ばれる街で、ポケモンの新たなる力を求めてこの街を訪れる人物が多い。
この町の奥には、マスタータワーと呼ばれるメガシンカに関する巨大な建物もあり、
そのマスタータワーの奥、海を波乗りで進んだ先に、その場所はあった。
マスターハイスクール。
「……」
人知れない海にポツンと立っているような感じが、少し異様な雰囲気を醸し出していた。
「みなさん、来てくれたんですね!ありがとうございます!」
コルニが出迎える。
「……」
月島と大樹は顔色が優れないようだった。
「どうしたのですか?」
「少し海が時化ているようでした。私のラプラスに3人乗ったのはいいのですが……」
「……出していいかな?今日の朝ごはん」
「ダメに決まってます」
マスターハイスクールの中に入ると、そこは広い玄関ホールになっていた。
「……広いな」
「もちろん。いわば政府機関のようなものですから」
するとそこへ、水色のツインテールの女の子がやってきた。
「あ、コルニさん。おはようございます」
「うん。おはよう」
「……?」
その女の子は、不思議そうに月島たちを見つめる。
「この御方達はポケモントレーナー。この学校の卒業生でもあるんだよ」
「……よ、よろしくお願いします」
「……はい」
何やらこちらを警戒しているようだ……
「ところで青葉ちゃん。体育館に集まるよう言っていたはずなんだけど……」
「……道に迷ってしまいました」
「体育館は、ここから左に曲がって、突き当たりを右だよ」
「……感謝します」
青葉と呼ばれた女の子は、玄関ホールから出て右に曲がり……
「だから左に曲がって……」
「……すいません」
再び左に曲がって移動し始めた。
「……絵に書いたような方向音痴だな」
「そうだ。すでにみんな体育館に集まっていますんで、みなさんも来てもらえますか?」
「……あぁ。もちろんだよ。……でも、僕はちょっと調べておきたいことがあるんで、少し遅れてもいいかな」
と、大樹が言う。
「どうぞ。みなさんに地図を渡しておきますんで、好きな時に好きな場所に行って構いませんよ」
学校の地図を見ながらゆっくりと歩くと、政府機関という割には意外と普通の学校だった。
寮としてホテルが備え付けであること。それぐらいが変わったところである。
職員室にやってきた大樹は、とあるリストを見ていた。
「……なるほど」
赤井 誠(あかい まこと)身長172cm。体重59kg
青葉 エレーナ(あおば ー)身長142cm 体重38kg
黄山 慎太郎(きやま しんたろう)身長162cm 体重110kg
緑川 玲(みどりかわ れい)身長160cm 体重48kg
紫山 哲志(しばやま てつじ)身長189cm 体重68kg
白戸 恵美(しらと えみ)身長152cm 体重45kg
黒木 舞(くろき まい)身長150cm 体重49kg
「……男子3人女子4人。今回の挑戦者リストはこうなっているのか……
もしブラッドハイドレイゴンが狙うとするなら、青葉さん、緑川さん、白戸さん、黒木さん。
おそらくそれで間違いないはず……おっと、コルニさんもそうか……」
パタン……
ファイルをたたむ音が大きい。いや、それ以外の音がまるで聞こえない。
「本当に僕たち以外誰もいないみたいだね」
地図を見る大樹。
「ところで今ここはどこなんだろうか?」
……どうやら、大樹も迷ってしまっているようだ……
体育館にやってくると……
「全員、揃ったね?」
と、コルニが声を上げた。
「もちろんです。コルニさん」
赤いショートヘアの男……赤井が口火を切る。
「では、まず最初に、この卒業試験のルールを説明します。なお、今回は特別に、この学校の卒業生であるお三方にも来ていただきました。
月島 和也さん。金城 美緒さんです」
「あ、あはは……どうも……」
頭を掻く月島に対し……
「フハハハハハハハ!貴様がこの学校の卒業生だと?」
紫色の髪の男……柴山が言った。
「笑わせるな!貴様から感じる邪気は、言ってせいぜいハムスター程度のもの!貴様がこの学校の卒業生など、認めはしない!」
「邪気?ハムスター?……と、とにかく俺はこの学校の卒業生なんだよ」
「ではその証拠を提示してもらおう……提示ができなければ、我が冥府よりの使者。ゲンちゃんに砕き飛ばされると知れ……」
「……(なんかめんどくさい奴だなおい)」
なおも言い寄ってくる柴山に対し、金城が……
「コルニさんが言ったことが、そのまま証拠になりませんか?」
「何?」
「私たちが偽物の卒業生であるならば、コルニさんはここまで連れてきていないはずですよ」
「……ふん。まぁそれもそうだな」
腕組みをする柴山。
「にしても、ゲンちゃんって名前、可愛いですわね」
そう言うと、柴山は急に腕を震わせ……
「き、貴様!我が冥府よりの使者、ゲンちゃんを……かわいいと言うか!?」
「……え?ダメでした?」
「……」
そして大声で、こう言った。
「ありがとうございます!」
「もう何なんだよお前!」
柴山とは仲良くなれない。反射的に月島はそう思った。
「……と、とにかく話を戻すわね」
その後、コルニによる卒業試験のルールが発表された。
1、ポケモンは実技練習以外では使ってはいけない(特別な事情がある場合は別)
2、1週間の間、この学園の中だけで生活すること
3、耐えられないと思った場合、職員室へ行き鍵を受け取ること その場合卒業試験を棄権とし、追試を行う
「つまり……実技練習以外ではポケモンとはお別れということなんだな」
黄色い服を着たかなり太った男、黄山が物悲しそうに言う。
「そんな永遠の別れじゃあるまいし、大げさだっての」
黒髪の女の子、黒木がそう言いつつも、黄山を励まし、
「だが、いざポケモンを使えぬとなると、なかなか不憫なことになりうるぞ」
緑色の髪の女の子、緑川は少し戸惑いを見せていた。
「まぁええんちゃう?とりあえずさぁ……」
白い服で統一した少女、白戸がそう言う。
「まずは実技練習!ですよね!」
「そう!その通り!各々練習してね!」
と、言ってコルニがボタンを操作すると、体育館の床が開き……
「!?」
スタジアムになった。
「すげぇなおい……」
「リザードン!かえんほうしゃ!」
「ユキノオー!かわしてふぶきや!」
激しい戦いが始まった。
双方の技が激しくぶつかり合い、
「かえんほうしゃ!」
「なっ……!」
ゴオオオォォォ……ドサッ……
「うぅ……また赤井っちに勝てんかった……」
そして雌雄を決し合う。それがポケモンバトルである。
列記としたその試合を間近で見て、月島は少し興奮した。
「やっぱり、僕もまだまだいけるね。僕に戦いたい人は誰かいるかな?」
「じゃあ次はあたしが相手よ」
黒木も赤井に戦いを挑むが……
「きあいだま!」
「ヘルガー!かわして……!」
ドゴ〜〜〜ン!
「よし、2連勝だ」
「うぅ……少しは手加減しなさいよ」
「ごめんごめん。だけど僕も手加減するわけには行かないよ」
その様子を見た月島は……
「あの赤井って奴、かなり強いみたいだな。なぁ金城さ……ん?」
金城の姿がないことに気が付く。
「では、私と勝負する……というのはどうでしょう」
「え?えっと……金城さん……だったよね」
「えぇ、私もこの学校を卒業した身。少しは腕に自信がありますよ」
「いいよ。ただし負けない自信はあるけどね」
突然の金城の宣戦布告に、一同の目は釘付けになる。
「出なさい。ルチャブル」
金城はルチャブルを繰り出した。
「ルチャブルか……リザードン!エアスラッシュ!」
「アクロバット!」
ビュビュン!
ルチャブルの動きに翻弄されるリザードン。
「くそっ……リザードン!エアスラッシュ!」
ビュビュン!
「そんな……まるで捉えられない……ルチャブルとリザードン、相性の良さは抜群なはずなのに……」
「相性だけが全てじゃないわ」
ルチャブルはさらに動きを早め、一気にリザードンの頭上まで飛び上がり、
「その相性の悪さを覆すのも、ポケモンバトルでは大事なことよ」
「く……エアスラッシュ!」
リザードンがエアスラッシュを出すよりも先に、
ズドンズド〜ン!
「!?」
ストーンエッジが命中し、リザードンは地面に落ちた。
「たとえ相性がよくても、決して油断してはいけない。それを忘れないで」
「……」
赤井は口をあんぐりと開け……
「す……」
「え?」
「すごい……すごいよ。まるでかなわなかった……だけど、ここまでやられると返って気持ちがいいよ」
「うふふ、それはよかったわ」
金城は笑みを浮かべた。
「その圧倒的な力……我がゲンちゃんがその血を欲しいと唸っているようだ……!
ふははははははは!これは滑稽なことだ!俺がここまで心躍るなど」
「要するに勝負して欲しいのね?」
「……お願いします!」
その後も金城の快進撃は続いた。
柴山のゲンガーと、黒木のヘルガーに対してはムウマージを出し、
緑川のサーナイト、黄山のフーディンに対してはルチャブル。
白戸のユキノオーに対してはフライゴンを出し、
ドサ……
いずれも圧倒した。
「じょ、冗談じゃないんだな……傷つけることですらできないだなんて……おいらたちの3年間は一体……」
「しかも、弱点であるポケモンで戦って……だ。あの金城という者……相当な手練だぞ」
金城はフライゴンをねぎらいながら、モンスターボールに戻した。
「流石だね。金城さん」
そこへ大樹が(ようやく)やってくる。
「カロス地方のチャンピオンでもあるから、強いのは当たり前だけどね」
「か……カロス地方の……」
「チャンピオン!?」
全員の視線が一斉に注がれる。
「元、よ。もはや今は普通のトレーナーですからね」
「いや、十分にすごいですよ金城さん!僕を……弟子にして欲しいぐらいです」
「弟子だなんて……大げさな……」
それでも目を輝かせる赤井に対し、金城は少しだけ照れを見せた。
そして最後に、青葉のカメックスとの戦い。金城はここでも相性の悪いウインディを出した。
「アクアジェット」
「インファイト!」
正面から激突する二匹の技。
「てっぺき」
その後守りを固めるカメックス。
「かみくだく!」
ガキィン!
「ハイドロポンプ」
「しんそく!」
息もつかせぬ展開に、釘付けになる月島。
「……金城さんと……ほとんど対等か」
「うん。青葉さんはなかなかいい腕をしているね」
しかし最終的に……
「インファイト!」
ドゴドゴドゴドゴドゴ〜ン!
ウインディのインファイトがクリーンヒットし、カメックスはその場に倒れた。
「カメックス……!」
「なかなかの腕ね。そのままの戦いを続ければ、もっと強くなれると思うわ」
「……ありがとうございました」
深々と頭を下げる青葉。
爽やかな戦いに、その場は拍手で包まれた。
実技練習はその後、1時間ほどで終了。
「では、本日はここまで。明日も今日と同じ時間に実技練習を行うから、今日はゆっくりと休むように。
ちなみに体育館は午後6時、食堂は午後8時にドアをロックするから、閉じ込められないようにね」
「はい!」
体育館を散り散りに去っていく7人。
「ねぇ。和也」
大樹は、コルニが去るのを見てから、月島に話しかけた。
「どうやら僕たちは、まんまと罠にかかってしまったらしいよ」
「……は?」
そう言うと、大樹は金城からあるものを受け取った。
「……これは、卒業試験のルールだな」
「えぇ。大樹さんに頼まれ、念のためルールをメモしておきました」
「うん。ここを見てくれるかな」
3、耐えられないと思った場合、職員室へ行き鍵を受け取ること その場合卒業試験を棄権とし、追試を行う
「つまり逆に言えば、鍵を使わない限りこの学校から出ることが出来ない。そう言えるんじゃないかな?」
「……おい、ちょっと待てよ。じゃあまさか……」
「一応の仮説として、僕はこういうのを立ててみたんだ」
「ブラッド・ハイドレイゴンの正体はコルニさんだとね」