ヨカン
……まず、あらかじめ事件の流れを追って説明しておくよ。
この事件が最初に起こったのは20年前。
ここの地方よりも遥か遠く……カントー地方で起こった事件なんだ。
ヤマブキシティのとある会社に出社してきたOL……まぁ、名前はわからないから「A子」と言っておこうか。
彼女がいつもどおり、会社にやってくると……
なぜか会社のOL仲間だった、金田 智子(かなだ ともこ)さんが、倒れていた。
頭、そして両手が血で真っ赤に染め上がり、その姿はまるで……
サザンドラのようだったんだ。
そしてその隣には血文字でこういう文字が残されていた……
ゼ ツ ボ ウ サ ー カ ス
それ以降。彼女のように多くの人々が狙われた。
その犯人はこの手紙とともに、世界のどこかで犯行を繰り返した。
ゼ ツ ボ ウ サ ー カ ス カ イ エ ン
手紙の末尾には必ず犯行の日にちを載せその日になったら世界中のどこかで人が死ぬ……
この猟奇的な殺人事件は世間を震撼させた。
場合によっては、とある施設を狙っての犯行も行われた。
しかし、犯人はまるでそれを楽しむかのように、連続殺人事件は続いていった。
被害者の数は合計28人。いずれも女性。
さらには日本人ではなく、外人ですら被害者になった。
この事件はずっと世間を震撼させて来たけど……
やがて事件は流れていく時間の中で、人々の記憶から薄れていった。
僕の父、月島 春次郎のみ、ずっとその事件を追っていた……
だけど……10年前。
月島 春次郎は、迷宮入りの事件を解決するまもなく、交通事故でこの世を去ったんだ……
僕と和也は、その事件の謎をつかみとろうとしたが為に、刑事になったんだけど……
結果的に、その事件は捜査していた月島 春次郎の死を境に一切語られなくなってね。
世界規模最大の未解決事件として、語り継がれるようになったんだよ。
「血みどろサザンドラのゼツボウサーカス」 として……
翌日……
「……」
眠れなかった。
なぜ?
<ゼツボウサーカス>の話を聞いたから?
それとも昨日、いろいろなことが起きすぎたから?
……いや、違う。
「ぐが〜……すぴ〜……ぐが〜……すぴ〜……」
兄のいびきがうるさいから。
「兄貴……そろそろ起きろよ」
「ん〜。あと5時間だけ……」
「せめて5分だろ!お前はコアラか!」
「はい。そうですね……むにゃむにゃ……」
「……」
台所にやってくると、金城が朝食を作っていた。
「……おはよう。金城さん」
「おはようございます。……えっと、わかりやすくするために、和也さんとお呼びしますね。
和也さん。さっそくですが、朝食のお時間です」
台所に立つ金城は、やたらと似合っていた。
そして、台所に立ち上るにおい。
「お?このにおいは……」
金城はトースト……
「においは……」
の、ような炭のようなもの。さらに目玉焼き……
「におい……は……」
というには目玉がどこにあるかわからない。さらにはベーコン……
「……」
と、言うにはあまりにも茶色がかったあるものを皿に盛った。
「……なぁ。金城さん。これを……食えって言わないよね……?」
「え?そうですが?」
「……」
味?
・ ・ ・ ・ ・
苦いに決まってんだろ。
朝から若干憂鬱な月島に対し、大樹は黙々と炭のようなものを口に運んでいく。
「……うまい?兄貴」
「うん。新しい朝って感じがするね」
そういえば、兄は昔から味覚音痴だった……
「……」
あんまり朝食の話をするのもなんなので、金城に話を聞いた。
「金城さん。昨日の話の続きをしてくれ」
「はい。……あれは、今から3週間ほど前のことでした」
・
・
・
コンコン……ガチャ……
誰かが入ってきた。
金髪……若干ブロンドのような色の髪に、赤い目をして、ヘルメットをかぶった少女。
「どちらさまかな?」
「あ、あの。あたし……この探偵事務所のことをお聞きして、少し頼んでおきたいことが……」
「え?」
その少女は、おどおどした口調をしていた。
「失礼ですが、あなたの名前は?」
「あたしはコルニ。この街でジムリーダーをやっています」
「コルニ……あぁ。名前は聞いたことがあるよ。僕はトレーナーじゃないから、詳しいことはわかんないけどさ。
それで……君がなんのようかな?」
するとコルニと名乗った少女は……
「お願いです。助けてください!」
と、突然頭を下げた。
「実は……あたしの母校である高校に、こんなものが送られてきたんです」
それは、脅迫状のようなものだった。
しかし大樹には、見覚えのあるものだった。
ゼ ツ ボ ウ サ ー カ ス カ イ エ ン DECEMBER 11
「これは……」
「えぇ。とある図書館で読んだことがあるんですが……これは、ブラッド・ハイドレイゴンの犯行予告では……?」
「……」
ブラッド・ハイドレイゴン。
自身が追い求めてきた大いなる謎のひとつ。
その、犯行声明と言わんばかりに……
「……!」
手紙の裏には、血まみれになっていた女性の遺体の写真が。
後頭部から激しく出血し、両手も血まみれになっている。
「……おそらくブラッド・ハイドレイゴンは、あたしたちの学校を狙ってくるはず……
おまけにこれは、私が卒業した<特別学科>の教室です」
「特別学科?」
そこへ金城が、コーヒーを持ってくる。
「シャラシティマスターハイスクール……そこにある、特別学科のことですわね」
「詳しいようだね金城さん。そのまま続けてくれるかな」
「えぇ。その高校の特別学科はトレーナーのエキスパートのようなものを育成する特別学科であって、
コルニさんが最初の卒業生だったはずです。
トレーナーとしての強さ、たくましさ、そしてかしこさ。その全てを身につけるための特別学科……
毎年、多くて6〜8人くらいまでしか入れない高校です。
そしてその学校の卒業試験が、高校の中で一週間、様々な難題をこなしつつ過ごすというもの……間違いないですわね?」
こくりと頷くコルニ。
「その卒業試験が始まる日が、12月11日……つまり、この犯行予告と同じ日です。あたしは卒業生として、何としてでも防ぎたい……
だからこそ、あなた方の力が必要なのです。お願いします!なんでもしますから!」
「……」
しかし大樹には疑問もあった。
仮に犯行予告がその日であったとしても、ブラッド・ハイドレイゴンはマスターハイスクールを狙うのだろうか?
「……大樹さん。どうするのです」
「そうだね……まず僕たちがどうやって、この学校に潜入するかを考えないと」
「つまり、協力する……そうでいいですね?」
「もちろん。これが犯行予告だとしたら……お父さんが挑んできた事件に挑めるまたとないチャンスだからね」
コルニは大きく頷き、大樹の手をとった。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「あ、あとさ」
「え?」
そして大樹は左手を広げ……
「もう一人、招待したい人がいるんだけど、いいかな?」
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