解決編
「では、続きは署で聞きましょう」
「いや、違うんすよ!俺は本当に何もやってないんですって!」
「誰でも最初はそういうものなんです。天命を受け入れろ!」
(意味もなく)かっこいいことを言う火川。その時だった。
「……?」
土門の携帯が鳴る。
「もしもし?あ、月島お兄ちゃん?……え?屋上に……?うん、わかった」
火川に対して声をかける。
「どうした?」
「月島お兄ちゃんが、デパートの屋上に来て欲しいんだって、理由は……わかんないけど……」
デパートの屋上、ステージにやってきた4人。
「ここで何が……」
と、思ったその時。
「!?」
BGMが流れた。それは、キリキザンジャーのショーで流れていたBGMだった。
そして奥から、キザンイエローが現れた。
「!?」
「な、これは一体……」
しかしそのポーズは、
「……月島お兄ちゃん?月島お兄ちゃんだよね?」
世界動きがぎこちない大賞を行えば、まずぶっちぎりで一位になれるほどグダグダ。
「……」
すると月島は、キザンイエローのスーツを脱ぎ、
「中が熱いし、視界がほとんど見えないし、動きにくいったらありゃしませんね……試すんじゃなかった」
汗だくのままその場に立ち尽くす。
「あぁ。すいません。少し業者の方に連絡をして、スペアのキザンイエローを着ていただけです」
「で、何をしている。まさかこの動きを見てくれとか言わないだろうな」
「そんな簡単な理由でこんな場所に人を呼びませんよ」
そして指をさし……
「この事件の全貌を明らかにするために、皆さんを呼んだんです」
「何?つまり犯人は……外山さんか!」
「いやいやいやいや、そういう為なら呼び止めたりしませんよ」
月島は歩き出すと、ある人物の前で足を止めた。
「まず最初に、外山さんにお聞きしたいことがあります」
「え?」
「この場所に覚えがありますか?」
緑色と青色の塗料が混じった、ステージの一部だ。
「ここは確か、最後に俺っちが倒れた場所……って、あれ?何だこの色……俺はキザンブルーで入ってたはず……」
「こう言う仮説を立ててみましょう。あなたが着ていたのは、もともとキザンブルーのスーツではなかったと」
「じゃ、じゃあこれって……」
疑問に思う外山に対し、月島はなお続ける。
「あなたがステージ上で感じた違和感。そしてこの塗料。そう、つまり犯人は、キザンブルーの衣装を偽装したんです。
もともとのカラー、キザングリーンからね」
「ちょっちょっと待って、月島お兄ちゃん。でも外山さんが楽屋で衣装を着た時、違和感なんてなかったよ」
「それは簡単だよ。俺たちが楽屋を離れたあと、犯人が本物のキザンブルーの衣装にすり替えたんだ」
そして……
「そうですよね?竹下 悠さん」
「……」
竹下は一瞬、自分が名指しされたことに気付かなかったようだ。
しかし少し経って落ち着きを取り戻すと、
「う〜ん。いきなりで驚くばかりだよ。一体どうすれば僕が犯人になるのかな?」
と、両手を広げて言う。
「まず、外山さんが目撃したキザングリーンの正体から明かしていきましょう。場所を変えます」
そこは楽屋だった。
「おそらく、花田さんはあらかじめ殺されていたんです。この楽屋で」
「え!?じゃ、じゃあ俺っちが目撃したキザングリーンって……」
「もちろん、それも犯人の偽装工作です。あの中にいたのはおそらく、竹下さんでしょう」
というと、竹下は大声で笑いだした。
「ここまで来ると面白いね。いいよ、聞かせてくれ。僕が犯人だっていう推論を」
「言われなくても聞かせるつもりですよ。真犯人を暴き出すのが俺の仕事ですから」
まずあなたは、ショーが始まる前に花田さんを殺害したあと、なに食わぬ顔でショーに出る。
その際に、あなたはあまり動かないキザンイエローである役回りを利用したんだ。
最後のキリキザンジャー・デ・ダンスぐらいでしか激しく動く場所がないあなたは、
その際にあえて、キザンブルーにぶつかりやすいような立ち位置を心がけ、キザンブルーの踊りに違和感を持たせる。
そうすれば、あとで本物のキザンブルーの衣装を外山さんに着せる際に、疑いの目を深めることができますからね。
そしてあなたはショーが終わったあと、花田さんを探しに行くと言ったあとで……
トイレに行き、あらかじめ隠していた予備のキザンイエローのスーツに、細工を施した。
それは、あなた自身がキザングリーン、つまり花田さんの遺体になりきること。
花田さんのキザングリーンと同じ箇所に血の色を塗り、そしてトイレに腰掛ける。
そして外山さんはキザングリーンを発見し、俺たちに伝えるように戻らせる。
あなたはそれを見計らって楽屋に戻り、ロッカーに隠していた花田さんの遺体を引き出す。
だがそこで、あなたに誤算が起きた。
「なっ……!?」
「!?」
国定さんが帰ってきたんだ。
国定さんは外山さんと同じく、花田さんを探しに行っていたと勘違いしていたあなたはたいそう驚いただろう。
慌てたあなたがとった行動は……
「……恨まないでくださいね」
「な、何を?」
グサ!
国定さんも殺害したんだ。
そしてあなたは遺体でドアを塞ぐように、国定さんの位置をずらしたあと、
「国定さん!国定さん!開けてください!」
なに食わぬ顔で、俺たちと合流したんだ。
「ちょ、ちょっと待って月島。国定さんは検死の結果、国定さんはほぼ即死だったんだぞ。
そんな中でドアを塞ぐようにして、国定さんを倒すことなんか……」
「出来ますよ。簡単に。国定さんを立たせたまま、ドアの横に置いておくんです。そうすれば、ドアを閉めると同時に……」
バタン!ドサッ!
「ドアを塞ぐようにして、彼を倒すことが出来るんです」
「なるほどな……」
しかし疑問は残る。
「立たせるようにするとなると、返り血はどうするんだ?」
「返り血?それを気にする必要はないんですよ。彼がまた、キザンイエローの衣装を着たまま行えばいいんです」
そう言い終えると、竹下はあることを言った。
「あ〜あ。さすがに怒るよ僕も。君の言うことはまるで的を得てないよ。それなら、僕はどうやってキザングリーンの衣装を偽装したって言うんだい?
僕にそんなことを短時間で行う余裕なんて、まるでないと思うんだけど」
「まるであるんですよ。あなたのポケモンの力を借りれば」
「どうやって?」
月島は、竹下からモンスターボールを受け取る。
ケンタロス 親:TY 技:おんがえし じしん ストーンエッジ いばる
トリミアン 親:TY 技:ずつき でんじは コットンガード ねむる
リングマ 親:TY 技:からげんき シャドークロー アームハンマー じしん
カビゴン 親:TY 技:おんがえし かみくだく のろい じしん
ポリゴンZ 親:TY 技:トライアタック 10まんボルト シャドーボール れいとうビーム
「!?」
その中に、月島の考えていたポケモンはいなかった。
「どうしたの?僕のポケモンで、どうやってキザングリーンを偽装するって?」
「……(な、なんで……)」
「月島。どうなんだ?説明できるのか?」
歯を食いしばる。
説明できるはずがない。
あんな一瞬で着ているスーツの色を変えるなど……
ドーブルの力を借りなければ不可能だ。
「やれやれ、僕を疑うのは勝手だけど、決め付けるのはよくないな」
あざ笑うように月島に軽蔑の眼差しを向ける竹下。
「……」
「とりあえず僕に謝ってよ。無実の罪を着せられた僕にさ。今なら土下座で済ませてあげるけど」
だが、その時意外な人物が口を挟んだ。
「あれ?」
「どうしたんだい?」
「竹下さんこの前言ってましたよね?ポケモンが6匹いないと落ち着かないって。
でも今日はどうして、5匹しかいないんですか?」
「!?」
竹下の表情が一瞬だけ崩れた。
「そうか……竹下さん。あなたは確かに6匹連れていたんだ。だけど、バレないようにドーブルを逃がしたんだ。
そのドーブルを調べれば出るはずです。あなたが偽装に使った、{スケッチ}が。
……火川さん、捜査員を回してください。デパートの中や外をくまなく調べるよう、お願いします!」
「わ、わかった」
無線で連絡を取る火川。
「で、でも、仮にドーブルがいても、どうやって僕が証拠を偽装するって!?それに、僕がドーブルを逃がすタイミングを作るなんて、
刑事さんたちがいる時では不可能なはずだよ!」
「……ポテトチップスですよ」
ゴミ箱からポテトチップスの袋を出す。
「あなたはここに下剤を混ぜ、外山さんと火川さん、そして朝海検事を部屋から追い出したんです」
「そんなこと出来るわけないじゃないか。君が倒れていた時には、このポテトチップスの封は空いていなかったんだよ?」
「ポテトチップスで、確実に下剤を3人に食べさせる方法。それはただ一つです。一度外に出ましょう」
楽屋の外に出たあとに、朝海がやってきた。
「朝海検事。お疲れ様です」
「も〜、おなか痛い時に働かせないでよ。とりあえず、持ってきたから」
それは、楽屋に置いてあったものと同じポテトチップス。まだ封は開いていない。
「では、竹下さん。このドアをあけてください」
「えっ……?」
「もう一度言います。ドアを開けてください」
言われるがままに、ドアを開けると……
「はい、そこでストップ。次に……」
月島はポテトチップスの袋の封を開け、
「これを食べてください」
「!?」
「どうしました?何もやましいことがなければ、ポテトチップスを食べることぐらい出来るはずですが」
「……あ、いや、その……」
何かを言おうとした時だ。
「言っておくけど、<ダイエット中だから脂分は控えてます>とか<虫歯があるんで食べられません>とか、
そういった言い訳なんて通用すると思わないでね」
朝海が釘を刺す。
「……チェックメイト。のようですね。竹下さん」
あなたは次に、自分のスーツの処分方法を考えた。
といっても、あれほどの大きなスーツ、処分するには時間がかかるし、どう考えてもばれる。
そこであなたは、あのスーツに再び、キザンイエローのカラーを上塗りしようとした。
そうすれば、一見すればそれがキザングリーンに偽装したと、分かるはずがありませんからね。
しかしそのためには、時間を稼ぐ必要があった。
そこであなたは、あらかじめ楽屋のドアノブに液体の強烈な下剤を塗っておき、
楽屋に入ってきた火川さん、外山さん、朝海検事に、
「どうぞ、こんな状況で食べることなんて出来ないかもしれませんが……」
と、ポテトチップスを勧める。
それを食べた3人はたちまち、腹痛を起こし……トイレに駆け込む。
そして一人になったあなたは、悠々と証拠隠滅を試みた。
偽物のキザングリーンの衣装に再びキザンイエローの色を塗り、ロッカーに直す。
だが流石のドーブルの器用なペイント技術でも、ひとつだけ消しきれないものがあった。
それは、ドーブルの使った絵の具のにおい。ですよ。
5階のあなたがいたであろうトイレの個室。ステージ上の汚れ、そしてこの楽屋。
すべてで、絵の具のにおいが残ってしまったんです。
しかしあなたは、そうは思えなかった。
「へっくしょい!」
「どうしたんです?」
「う〜ん、どうも風邪気味みたいだ。鼻が詰まってるし、くしゃみはでるし……」
そう、あなたは風邪気味で鼻が詰まっていたから、かすかなにおいに気付くことなど出来なかったんですよ。
「で、デタラメだ!そもそも外山さんはともかく、彼らは手袋をつけているはずだ!
手袋を外して食べるのだから、下剤の効果は……」
「ではあなたが、このように……」
ガサガサガサ……
「下剤のついた手で、ポテトチップスを触ったというのならどうでしょうか」
「!?」
「まさかポテトチップスを差し出されたお三方は、そんな仕掛けがあるとは夢にも思わないでしょうし、
それに何より、あなたは右手を一度も見せていませんからね。
その右手には、おそらくまだ油が付いているんじゃないですか?ポテトチップスの。いや……
あなたが犯人であると証明するための、ね」
しかし竹下は右手を見せようとしない。
「……」
すると月島は楽屋のロッカーを開け、キザンイエローの衣装を発見。
それに人差し指を突き立てると、力強くひっかいた。
その人差し指の爪の中に……
「……どの道、同じさ。お前の負けだよ」
キザンイエローではありえない、緑色の塗料が付着していた。
「竹下 悠」
「……」
そこに刑事がやってきて……
「月島さん。ドーブル、発見しました。デパートの裏の路地でした」
ドーブル 親:TY 技:キノコのほうし からをやぶる バトンタッチ スケッチ
「ありがとう」
「……」
すると竹下は……
「ふっふははははは……」
「ん?」
「あはははははははは!そうだよ。僕が殺したんだ!あの花田とかいうのと、国定とかいう先輩風男にね!」
と、顔を隠しながら爆笑した。
「そうそう。君の言うとおりだよ。偽装工作も、外山とかいうクズに罪を着せようとしたのもね」
「……どうしてそんなことをした」
「僕の踏み台にもなりえない邪魔な先輩をみんな排除したかった。それだけの理由だよ」
これから逮捕されるというのに、背筋を伸ばしてせせら笑いながら続ける。
「だって、僕はただ楽しそうだったからこういう世界に<飛び込んでやった>だけ。
それなのにあいつらは僕の元の功績を知らずに先輩風を吹かせてくる。
ポケモントレーナーとしても、役者としてもあいつらより僕の方が上なはずなんだ。
なのにどうして僕がここまで蔑まされなきゃいけなかったと思う?
ただそう言うだけの理由だよ。だって、究極的に言えば人殺しにルールも理由もいらないでしょ?
人はいつか死ぬんだし、ただそれがちょっと早まっただけだよ」
「それだけの理由……だと……!」
「ほら、早く僕を逮捕しなよ。君の役割はよくわかってるよ。ま、僕はどうせ……」
そして氷よりも冷たい目をして、
「今の法律じゃ、死刑にはならないだろうしね」
と言ったあと、大声で笑った。
「……てめぇ……命をなんだと思ってやがる……」
「……」
「何か言えよ」
「続きは裁判で話すよ。今の言葉とは<若干異なる>かもしれないけどね?」
右手を振りかぶる。
「殴るの?警察というのは力尽くで捕まえるような野蛮な人たちだったっけ?」
「……!」
「僕はただ、罪を認めた<だけ>。だから君に殴られる筋合いは全くないんだけど?」
「……」
チャキン!
月島は、黙って手錠をかけた。
「……あ〜あ。結局殴らないのか。腑抜けな人だ。こんな人にこの国を任せて大丈夫なの」
その時、竹下の右頬を、
ドッゴォ!
「!?」
力強い右の拳が一閃した。
「……」
土門だ。
「土門君……?」
「……」
そして竹下を見ながら、
「……御託を並べてばかりいるような奴ならば、俺は貴様を嫌いになるぞ!」
と、キザンブルーの言葉を借りて言った。
「……立て!いいから!てめぇにキリキザンジャーを語る資格なんざないんだよ!
そのまけんきを、二度とだそうとするんじゃねぇ!」
「……にしても……」
帰り道、土門が月島を見ながら、
「どうして、トイレのキザングリーンが、まだ死んでないってわかったの?」
「君のおかげさ。土門君」
首をかしげる土門。
「君は死体を目撃したりそれを思い出したりすると吐き気をもよおすみたいだが、最初のキザングリーンを目撃した時の君のリアクションは……」
「な……なんだこれ……?」
「キザングリーンが……死ん……でる……?」
「確かに見たんすよ!さっき!」
「そもそも写メールを撮る暇があるなら、もっと早く楽屋に戻ってくださいよ」
「……あ、それも……そうっすね。でもとにかく見たんですよ!ここで!」
「……月島お兄ちゃん。どうするの?」
「……とりあえず戻るか。信じるか信じないかは、国定さん達に話してからだ。
でも、花田と言う人は結果的に見つからないまま……か……」
「うん……どこいったんだろう」
「君は意識してなかっただろうけど、俺はわかってたよ」
首を縦に振る土門。納得したようだ。
だが土門にはもうひとつ、わからないことがあった。
「ねぇ、月島お兄ちゃん」
「ん?どうした?」
「うまく言えないけど、キリキザンジャーのモノマネ、上手だったよ」
顔が真っ赤になる。
自分ではギクシャクしていたと思っていただけに、褒められるとますます照れる。
「い、いや、あ〜……社交辞令なら別にいらないよ」
「そんなのじゃないよ。本当に上手だったんだから」
そして交差点に差し掛かったところで……
「今日はありがとう。月島お兄ちゃん」
と、土門が夕日を背にして笑顔で言う。
その笑顔を見ると、今日一日の疲れが吹き飛ぶようだった。
……女の子なら間違いなく惚れていると思う。
「……あぁ。またいつでも呼んでくれよ。仕事さえなかったら、いつでも連れて行ってやるからさ」
「うん!」
翌日……
「あ〜……もしもし。日野か……?」
「え?はい」
「もう……大丈夫なのか……?」
「えぇ。市販の薬を飲んで一日寝たら、もう大丈夫です……て、あれ?月島先輩全然声出てませんけど……」
ベッドの上で横になっている月島。
「か、風邪ひいたみたいなんだ……火川さんにはお前から伝えといてくれるか……?」
「え、えぇ。わかりました。どうかお大事にしてくださいね」
そう。
「へっくしょい!」
「どうしたんです?」
「う〜ん、どうも風邪気味みたいだ。鼻が詰まってるし、くしゃみはでるし……」
「……」
竹下に風邪をうつされた。
しかもおそらく、日野より症状が重い。
熱は出るし、体はだるいし、咳は出るし、
「ねぇ、和也」
ゾロ子が覗き込む。
「ん?……もう出来たか?卵粥」
「……いや、言われた通りに作ったんだけど……」
ぐったりした体を何とか起こし、台所を覗くと……
「わ〜!わ〜!」
何故か鍋から火が吹き出していた。
「フランベしようとしたらこうなっちゃった」
「なんでお粥作るためにフランベするんだよ!酒の風味なんか米に合わんぞ!」
「香りがついてたほうが美味しいと思った(・ω<)♪」
「てへぺろ♪じゃねぇよ!」
と、突然ゾロ子は冷静になり……
「あれ?元気出たんじゃない?」
「出るわけねぇだろ!ちくしょう……キザンイエローめえぇ〜!」