捜査編
警察が来たあと、現場検証を行うことになった。
「被害者は国定 義男さん51歳と、花田 一郎(はなだ いちろう)さん39歳。死因はいずれも失血死であると思われます。
致命傷はおそらく首の切り傷、国定さんの死亡推定時刻は15時頃と、考えられます」
「う〜ん……しかし花田さんは……」
火川が唖然としている。
「どうしてこんな被り物を……」
「国定さん、花田さん、ともに斬撃戦隊キリキザンジャーのスーツアクターだったんです。
今日はこのヒーローショーが、このデパートの屋上で行われていたんです」
「え?月島……そんな趣味があったのか?」
「あ、いや、その……」
そこへ、
「僕が……連れて来たんだ……」
現場の外から、土門が声を出した。
「君は?」
「ぼ、僕は土門 翼……今日は月島お兄ちゃんに連れられて、このキリキザンジャーのショーにやってきたんだ」
「お兄ちゃん!?まさか月島……お前隠し子がいたのか!?」
「んなわけねえだろ」
(一応)目上にタメ口で突っ込む。
「どうやら、国定さんがドアに寄りかかっていたからドアが開かなかったようですね。
俺たちがドアを開けようとした前の状況を教えてくれますか?」
「はい」
竹下が声を上げる。
「僕はトイレに行って、帰ってきたんです。そしたら、突然ドアが開かなくなって、国定さんに何度も呼びかけたんですが、
そこへ刑事さんがやってきて……」
「トイレに行っていた事を証明できることは何かありますか?」
「それは出来ませんけど……でも、僕が離れていたのは5分程でした」
と、ここで……
「じゃあ犯人は外山さん以外にありえませんな」
火川がこう言った。
「えぇ!?」
「だって、竹下さんがトイレに立っていた時間は5分しかないって言ってたんですし。
その間にあなたが殺害を起こす事も出来るはずだ」
「いや、いやいや、ちょっと待ってくださいよぉ!」
だが、月島には外山を疑う材料もあった。
「外山さん。あなたは俺たちが遺体を発見した時、別の場所から現れましたね?」
「は?いやいや、違いますって!あれはただ、花田を探してただけで……」
「そうでしょうか?花田さんを探したと見せかけて国定さんを殺害し、何らかのトリックを使って脱出。何食わぬ顔で俺たちに合流しただけでは?」
そう言うと、外山は黙ってしまった。
「それにあなたに見せられたこの画像も、考えてみれば変だ」
先程見た、携帯の写メールである。
「あなたが言っていたトイレには、キザングリーンがいなかった。なのにどうしてあなたは、こんな姿のキザングリーンを見た。そう言えるのでしょうか?」
「そ、それは本当に見たんだって!信じてくれよ!時刻もちゃんとしてるじゃないか!」
時刻を見ると、今日の午後14:40 になっていた。
「確かにそうですが、これも信憑性にかけますね」
「え?どうして?」
「携帯電話の時計は、手動で時刻設定が出来るはずです。つまりその画像の撮影時刻がその時間であるということでも、
あなたがその時、その場所でキザングリーンを見た証拠とは言えないんです」
「ま、マジかよ〜……」
と、ここで意外な人物が口を挟む。
「でもさ〜、それだとその写真のキザングリーンと、花田さんのキザングリーンが、同じように血を流しているのが説明できなくない?」
「ん?」
花田の遺体と、画像のキザングリーンを見比べる。
「確かにそうだ……どっちも左の首のあたりに血がついてる。つまりこれは同一人物なのか……?」
と言ったところで気付く。
「あ、朝海検事!?どうしてここに!?」
そう、土門の裁判の際に検事を務めた朝海である。
「なんでって……あたしもキリキザンジャーショー見てたからだよ」
「は……はぁ……そう……ですか……」
やっぱり知らなかったのは自分だけのようだ……
「で、朝海さん。何かわかったことありませんか?」
「わかったこと……?いや、なにもだよ。だって、あたしはショーを最後まで見終わったあと、ラーメン食べてたし……」
「最後までショーを……?じゃあ、俺が昏倒した後のことも覚えてますよね?あのあとどうなったんですか?」
「え?言えばいいの?わかった」
朝海は思い出すようにしゃべりだした。
えっと、月島がステージにあげられたあと、あの男の子がステージに上がったところまでは覚えてるよね?
その後、男の子が弱々しくパンチを使ったあとに、月島が気絶して、慌ててキザンブルーが後ろに吹っ飛んだの。
そこでステージ上に煙幕がたかれて、キザンレッドの「きょ、今日はこれくらいで勘弁してやる!覚えてろ!」って声の後、
煙が晴れた時には月島はもうステージ上にいなかったよ。
その後キリキザンジャーが、全員で「キリキザンジャー・デ・ダンス」を踊って、終わり。
「でも、その時違和感があったかなぁ」
「違和感?」
「うん……なんというか、何とも言えない違和感?」
「え?検事のお姉ちゃんもそう思った?」
土門が口を挟む。
「プロの捜査に素人が口を挟むんじゃない!」
と、火川が叱咤するが……
「違和感ってなんです?土門君も、教えて欲しいな」
「え?シカト?」
左の頬に左手の人差し指をあてて考える。
「何というか……変だったんだよね。いつものキザンブルーではありえないくらい、ギクシャクしてた」
「ギクシャク?……どういうことです?外山さん」
「えぇ!?いや、その……」
ここで驚きの声を上げる。
「なんか今日のキザンブルー、変だったんすよ」
「変?」
「えぇ、なんか知らんけど、やたらときつくて、動きにくいったらありゃしないですよ」
もちろん、信じることは出来ない。
「な、なぁ、さっきから言ってるけど、そろそろキリキザンジャーの事を……」
「それなら、今試してみますか?」
「え?」
楽屋に置いてあるキザンブルーのスーツを、早速外山に着てもらった。
のだが……
「……」
「……」
違和感なんてない。ピッタリだ。
「あ……あれ?」
「……さて、説明してもらえませんか?あなたが変だったという事を」
「……い、いや、確かにショーの時は違和感があって……ですね。うん」
しかしその言葉はもはや、言い訳以外に聞こえなかった。
「なんだ、あの違和感って気のせいだったのかも」
と朝海が言う。
「……」
しかし一人だけ納得していない人物がいた。
「……ち、違うよ……これは……何かの間違い……だよ……」
「え?」
土門だ。
「外山さんが……人殺しなんて、するわけないよ……!」
そうすると、楽屋から出て行ってしまった。
「土門君!」
「あ、またあの子泣かせたね月島」
「いやいやいや!前は百歩譲っていいとして今回はなんでそうなるんですか!」
デパートの屋上のステージの上に、土門はいた。
「……土門君、君の気持ちはわかるけど……」
「ごめんなさい……本当はわかってるんだ、怪しいのは外山さんだって……でも、僕には信じられないんだ……」
「どうして?」
すると土門は、話をし始めた。
僕は子供の頃から、ずっとずっと一人だったんだ。
体が弱い自分を、お父さんやお母さんは僕を女の子として育てた。
だけど僕が小学校2年生の時……お父さんも、お母さんも交通事故に遭って……
それからずっと、僕は彩菜お姉ちゃんの家で育てられたんだけど……
僕をからかう人は、すごく多かった。親がいないってことだけで……
そんな時出会ったのが、キリキザンジャーだったんだ。
やられてもやられても、勝つ方法を探すために何度でも何度でも立ち上がって、
やられてもやられても、全然懲りなくて、
そんなキリキザンジャーを見て、僕はいつしかこう思うようになったんだ。
こうやって、やられてもやられても負けない、そんな人間になりたいって、
そんなある時、僕は彩菜お姉ちゃんの家族に連れられて、デパートに行ったんだ。
でも人込みが多くて、僕は迷子になっちゃったんだ。
「……」
だけど、頼りになる人は誰もいないって思った時、あの人に出会ったの。
「あれ?」
外山さんに……
「君、迷子か何か?」
「うぐっえっぐ……」
「……泣くなってほら。お兄さんが迷子センターに連れて行ってあげるから、泣いちゃダメだよ」
「お願いします」
外山さんは、館内放送で呼びかけるように言ってくれたんだ。
「えっぐ……ぐす……」
「……泣いちゃダメだぞ。もう少しでお母さん来るんだからさ」
その時に、僕が背負ってたキザンブルーのリュックを見た外山さんが……
「……君」
「え?」
「冷酷非道の白き刃!キザンブルー!……はっはっは、泣いてばかりいるような奴ならば俺は貴様を嫌いになるぞ!」
最初はモノマネだと思った。だけど、あまりにもキレがよくて、まるでその人自身がキザンブルーのように見えたんだ。
その翌週、僕は彩菜お姉ちゃんに頼んで、キリキザンジャーショーに連れて行ってもらった。
「よし、では今日は……」
「え……?」
キザンブルーは、一番前の席に座っていた僕の腕を掴んで、ステージに上げたんだ。
「はっはっは、こっちへ来い!」
「ひっ……やだ……こわいよぉ!」
ステージ上に上げられた僕に、キザンブルー……いや、外山さんは……
「やぁ、また会えたね」
「え……?」
僕のことを、覚えていてくれたんだ。
ショーが終わったあと、デパートから帰る前に……
「あぁ、君」
「え?」
外山さんとすれ違って、
「今日のショー、君のおかげですごく盛り上がったよ。ありがとう」
「そ、そんな……」
「またいつでも来てね。僕は君のこと、絶対に忘れないからさ」
僕に対して、笑顔で手を振ってくれた外山さん……
僕はそんな外山さんが大好きだった。
僕にとって、初めての「笑顔をくれた人」だったんだ……
「……そんな外山さんが……どうして……」
「……土門君。君の気持ちはわからなくもないよ。だけど……」
と、土門に歩み寄る月島に……
「……あれ?」
「ん?」
土門は首をひねって、ステージを見ていた。
「ど、どうしたんだ?」
すると土門はステージの床を指さす。
「ねぇ、月島お兄ちゃん。これって……」
そこには、緑色と青色が混じったような、不思議な色の汚れがついていた。
「……なんだ?」
「そういえば、ここ……」
「月島お兄ちゃんを殴ってしまって、お兄ちゃんが気絶したあと、キザンブルーが倒れ込んだ場所だよ」
考え込む月島。
「確かに妙だな。キザンブルーがいるなら、どうしてこんな場所に緑色の塗料が付いてるんだ?」
「ん〜……」
顔を近づけて見る。
若干色は薄まっているが、においは……絵の具のにおいだ。
「……」
しかし月島は、このにおいをどこかで嗅いだ覚えがある。
さらに……考えてみた。
入口には国定がいるためにドアが開かず、窓は内側から鍵が掛かっていた。
窓を割れば突入できるだろうが、窓は月島自身が割ったため、部屋の中に入ることはできない。
犯人が外山だとすると、どうやって二人を殺害したあと部屋から脱出したのか?
再び楽屋に戻ると……
「……」
窓の外を見つめる、竹下の姿があった。
「……あれ、外山さんと火川さんは?」
「刑事さんなら、先程外山さんを連れてステージの方へ行きました。入れ替わりではないですか?」
「……?」
だが、ステージからここへまっすぐ来たのに、入れ替わりになるのはおかしいはずだ。
「あれ、そういえば、竹下さん……」
「どうしたの?」
「今日の着こなし……何だか変……普段は白い服を好んで着ていたのに、どうして深緑の服なんですか?」
「いや、気分のようなものかな。今日は暗い色の服を着たくなったからさ」
すると竹下は周囲を見回し……
「僕だって、外山さんを疑いたくはないよ。……だけど、彼が犯罪を犯していないという根拠はあまりにも弱い。
残念だけど……僕はまた、一人になるのかな……」
「また?」
「……」
しかし、それ以降は口をつぐんだ。
何か、思い出したくもない過去があったのかも知れない。
「……」
しかし、このにおいはなんだろうか。
先ほどのステージでも、これと同じような匂いを嗅いだような気がする。
さらに……
「ん……?」
机を見ると、先程まであったポテトチップスがなくなっていた。
「あぁ。あのポテトチップスは先ほどの刑事さんたちがすべて食べられましたよ」
「(こんな状況でのんきだなおい)」
と、そこで……
「!?」
月島のモンスターボールが、激しく振動する。
「(な、なんだよゾロ子……)ちょ、ちょっと、トイレ……」
「え?」
5階のトイレに行くと……
「ふう、スッキリした〜……」
と、火川が出てきた。
「火川さん!?……ステージに行ったんじゃ……」
「え?俺はなにもしてないよ?トイレに来ただけだけど」
「……」
トイレの洋式トイレに入ると、やはり先程嗅いだようなにおいがした。
そんな中、ゾロ子を出す。
「もう!最近になってじらしが得意になったわね!」
「なってねぇよ!お前に急かされたから出してみただけだ!」
とりあえず粗方、事件の内容を説明してみる。
「……」
するとゾロ子は意外な質問をぶつけてきた。
「刑事さんたちって言うことは、火川さんだけじゃないのね?」
「え?」
「ポテトチップスを食べた人」
「……」
土門は月島とずっと一緒にいたので、食べていない。
となると、残る可能性はひとつだ。
「……もしもし」
「ん〜……つ、月島……どうしたの……?」
朝海だ。
「申し訳ないんですが朝海検事。今どこにいますか?」
「と、トイレ!今まで何もなかったのに急にトイレに行きたくなっちゃって……と、とにかくごめん。切るよ」
一方的に電話を切ったあと……
「これで何がわかるんだよ」
と、ゾロ子に目を向ける。
するとゾロ子は頭を掻きながら、
「ねぇ、和也」
「え?」
月島に顔を近づけて、
「逆にどうしてここまできてわからないか、むしろ聞きたいのはあたしなんだけど」
いい質問ですね!
そう、俺はまだ、理解するに至っていないんです。
つまりここからはどうするかというと、
春のセンバツ高校野球、夏の全国高校野球大会、
それらと同じような……
「質問を質問で返すなオラ〜〜〜!」
恒例行事、「烈火のごとく怒る」
「逃がすぞ!ほんと逃がすぞ!?お前俺が手を出さへんと思ったら大間違いやぞオラァ!」
「なにその冤罪を生んだ刑事が言いそうな口調で!?と、とにかく、和也は何か見落としてるんじゃないの?って言いたかっただけ!
だから逃がすとか簡単に言わないでよ〜!」
「見落とすもなにも、俺はなんにも見落としてねぇっての!それなのにお前はなんかいちいち鼻につくような言い方しや……」
そこで月島に、
「!?」
電流が走った。
「……なぁ、ゾロ子。そういえばこの5階のトイレに外山さんに連れてこられた時、で、さっき竹下さんに楽屋で会った時、
それでステージで、塗料を見つけた時……共通してあることがあったんだ」
「それはにおい、でしょ?そのにおいをつけられる何かを持っているはずだよ。<あの人>は」
「……」
次に再び、朝海に電話をかけ、あることを聞いた。
それは、月島……いや、ゾロ子の考える通りだった。
「……それで、これで何がわかるの?」
「えぇ、しっかりわかりましたよ」
少しだけためたあと、月島はこう言った。
「この事件の犯人が」