解決編
戻ってくる月島。
「おいおせぇぞ!トイレなら先に言えよ!」
夕神が怒って言う。
「ごめんなさい。少しもよおしてきてしまって……」
「ちっまぁいい。どうせ事件はほぼ終わったと同じだ。お前の証言だけじゃ、きっと変わらねぇよ」
「さぁ、どうでしょうかね?」
「あ?」
証言台に立つ月島。すると……
「まず単刀直入に言いましょう。犯人は土門さんではありません」
「な!?」
「ん?」
「で!?」
法廷に立つ3人が、一斉に声を上げた。
「ちょっちょっと待て!おめぇが変なことを言ってると、退場させるぞ!」
「いえ、裁判長。もしや聞こえませんでしたか?……<あの人>の言葉に隠された矛盾を」
「……」
すると夕神は……
「へっ!おもしれぇ。じゃあ言ってみな」
「……では……」
月島は何かを取り出す。
「お二人には申し訳ありませんが、証言記録のコピーをいただきました」
「か、簡単にもらえるの?それ……」
「一応証人に証言記録のコピーを渡すのはなんの咎めも受けないよ。相手が刑事なら尚更ね」
「そういうことです。ここをご覧下さいますか?」
弁護人「花瓶を使ったのなら犯人の周囲が濡れてるのも頷けるしね」
「花瓶、というのはどこで知ったんですか?」
「決まってんでしょ?メーカーに問い合わせたんだよ」
「なるほど」
すると月島はあるものを見せた。
「うん?」
それを見た瞬間、夜宮の顔が……
「!」
一瞬だけ歪んだ。
「全く同じ会社が、ウツボット型の水差しとウツボット型の花瓶を販売しています。
……朝海さん、あなたは<水が入っていたから>という理由で水差しと言ったんですよね?」
「う、うん。被害者のそばはびしょ濡れだったから、それで水が入ってたからと思って……
でも、花瓶にも当てはまるよね?それって」
「夜宮さん、あなたがこれが花瓶であると知っていた理由は、実際に見たからではないのですか?」
「そ、そりゃ……被告人から聞いたんだよ」
と、土門を見る夜宮。
「う、うん……検事さんには話してないけど……弁護士さんには話したんだ……
あの凶器が、後藤田君に送った、花瓶だって」
「そういう重要なことはあたしにも言ってよ。対等な立場で裁判ができないよ」
「ご、ごめんなさい……」
見た目や言葉の軽さの割に結構まともな事を言う朝海。
「次に、この証言です」
弁護人「これを見な。すでにたこ焼きは3個食われてたんだ」
「本当にこのたこ焼きは、被害に遭う直前に食べられたものなんでしょうか?」
「はっ。何を言い出すのかと思ったら、急に覆すつもりかい?
だったらこのたこ焼きが、被害に遭う直前に食べられたものなんかじゃないってことを証明してみな!」
「それは、鑑識の日野が」
日野が立ち上がった。
「日野、お前がこのたこ焼きを買った時の状況を教えてくれ」
「は、はい。このたこ焼きは、現場から離れた場所で売っていたたこ焼きなんです。
そして、私は足に自信がないんですけど、全速力で走って、現場まで15分ほどかかりました」
「つまり、どういう意味かわかりますね?」
すると夕神が、
「15分も経っちゃ、冷めちまうな。まして、犯人が女なら余計だよ」
「その通りです。本当に土門さんが購入し、それを持っていったというのなら、たこ焼きは冷めて当然なんです」
「でも、それなら温めればいいんじゃないのかな?」
と、朝海。
「なるほど、確かに。普通だとそうですね。ですが……」
「その容器は、電子レンジで温めると溶けてしまいます。だから皿に移し変えないと」
「誰から聞いた?」
「店の人からです。だから間違いないかと……」
「実験してみたところ、電子レンジで温め始め、1分経ったあたりから、容器が溶け始めたんです」
経過の映像を見せる。
「ま、マジかよ……」
「つまり、冷めたたこ焼きが3個<だけ>抜けているのは逆におかしいんです。おそらく、犯人が捜査を撹乱するために抜いたんでしょう」
「だ、だったら!」
夜宮が大声を張る。
「被害者の胃の中に入っていたたこはなんて説明するんだい!」
「簡単です。被害者は別のたこ焼きを食べていたんです」
「……は?」
目が点になる夜宮。
「だから、読んで字の如くですよ。被害者は別のたこ焼きを食べていたんです。これは俺の推測なんですが……
被害者は、別のたこ焼きを食べ終わったあと、ゴミを捨てに外に出て、戻ったところを……」
「犯人と鉢合わせして殺された。だよね?」
「その通りです」
月島が証言を終えるが、朝海は納得していない様子だった。
「でも、それだけだと、やっぱり犯人は土門さんだよ。だってびしょびしょの遺体と、頭から血を流してるのは間違いないんだし、
あの時間帯、部屋を出入りできたのは、土門さんだけだもん」
「あの時間帯部屋を訪れたのは、確かに土門さんだけです。では、考えを変えてみましょう」
「どんな風に?」
「部屋を訪れた土門さんより前に、後藤田さんは殺害されていた。とね」
ざわざわと騒ぎ出す法廷。
ダン!
「黙りやがれ!……おもしれぇ月島、続けな」
「はい」
おそらく犯人は、土門さんが訪れる前にある偽装工作を行った。
あらかじめ、あるものを用意した上で、後藤田さんを殺害。その時机を含め、周囲がびしょびしょになった。
そして犯人は証拠隠滅に取り掛かる。
割れた花瓶の破片を処分し、そして後藤田さんの頭に……
血を塗ったんです。
そうすることで、事件がついさっき起こったように見せかける。
<頭から血を流している>被害者を土門さんに目撃させれば、それで犯人は土門さんというようなものですからね。
そして犯人は電話をかけたんです。
「人を……殺し……ました……」
小さく、かすれた声で言えば、声を判別することはほぼ不可能だ。
そして運悪く、そのタイミングでやってきた土門さんは……
倒れ伏した後藤田さんを目撃してしまい、そのままあらゆる場所に指紋をつけ、さらに<自分が犯人>と言うような証拠を残してしまった。
これが今回の事件が起こった時の概要です。
「ですが、そこで犯人にとって一つの誤算が起きた。それは……わかりますね?朝海さん」
「ええぇ!?ここであたしに振るの!?……う、う〜ん、でも指紋は残ったし、電話も……」
そこで朝海が閃いた。
「そうだ!電話には何も指紋がついてなかったよ!」
「そう、その通り。電話に指紋がついていなかったんです」
「そ、それの何が誤算になるんだよ。教えてくれ」
閃いていない様子の夕神に、朝海が説明。
「だって、犯人が自分から電話をかけたなら、電話にも指紋が残ってないとおかしいよ。
電話をする時だけ手袋をはめて指紋がつくのを免れるなんて、ドアノブの指紋を見る限りありえないし」
「ありがとう。朝海さん」
「で、でもよぉ。その血って、誰のなんだよ。それに、どうやって偽装したんだよ」
月島が写真を見せた。
「このヤヤコマです」
「な、なにこれ……傷だらけじゃん!」
ゴミ捨て場に捨てられた、ヤヤコマの写真。
「これはヤヤコマの第一発見者である、後藤田さんの隣に住む音無 泰弘さんが撮っていた写メールを、コピーしたものです。
そう、犯人はこのヤヤコマの血を使って、後藤田さんの死亡推定時刻を大幅に遅らせたんです。……違いますか?」
月島は右を向く。それはつまり……
「夜宮 美由紀さん」
「なっ……!?」
大きくうろたえる夜宮だったが……
「何を言い出すかと思ったら……裁判長!こいつは事件の解決を妨害してるよ!
なにせ、そんなヤヤコマを見せられただけで、どうして犯人扱いされないといけないんだい?
そのトリックなら、誰でも出来るはずだろ?隣にいる音無って人にもさ」
「出来ないんですよ」
「はぁ?」
威圧するように声を絞り出す夜宮に対し、月島はこう言った。
「彼は鳥アレルギーだったんです。そんな彼が、ヤヤコマを傷つけて血を抜く。そんなまね出来るわけないんです」
「その証拠はあるのかい?」
「……」
すると……
「証拠ならあるよ」
と、朝海が言った。
「あたしが音無さんに一応話を聞いておこうと思って、部屋を尋ねたら、音無さんが騒ぎ出したもん。
かゆいかゆいって、だからあたし、慌ててペラップをモンスターボールに戻したの。
そしたら音無さん、落ち着いた様子で取り調べに応じてくれたよ」
「ふうんわかったよ」
突然夜宮は月島を指差し……
「あんた、このバカ検事にいくら金を渡したんだ!」
「金?」
「第一証拠がないのにあたしをいきなり犯人に仕立て上げて……バカもいい加減いいなよ!」
「お金なんてもらってないよ!それに……」
朝海は何かを言おうとするが……
「だあってろ!この検察の面汚しがぁ!」
と、一蹴。
「じゃあ見せてやるよ。あいつの犯行というとっておきの証拠をなぁ!」
すると夜宮はあるものを見せた。
「このピアス!見覚えあんだろ?」
「……え?」
それは月島が見つけたピアスと、全く同じピアスだった。
「あんだろって言ってんだ!この野郎が!」
「え……えっと……!」
恫喝されてたじろぐ土門。
「これがてめぇが犯人だって証拠なんだよ!見覚えあんだろ?あるって言えよ!」
「……!」
「言えっつってんだろ!?」
「……は……は……」
土門が何かを言おうとした時……
「見覚えは無いでしょう。それに、そのピアスは女性用です」
「あん?」
「だから、そのピアスは女性用なんです」
「だからなんだ!?こいつも女である以上、こんなピアス付けたことあんだろうよ!」
含み笑いを浮かべる月島。
「では、朝海さん」
「え?」
「彼女の……土門さんの全身を触っていただけますか?」
「……は?」
「いいですから、早く」
そう言われた朝海は、土門の前に立つ。
「……いいですか?じっくり触ってください」
「……」
顔を真っ赤にする土門。
「じ、じっくり触ってって言われてもなぁ……」
すりすり……
「……ん?」
すぐに違和感に気付く。
「胸……小さすぎ?というか……ない?」
「……土門さん」
「え!?」
月島は土門を指差して……
「事実を言うなら今のうちですよ。どのみちバレるんですし」
「え……!えぇ……!」
しかし土門は二の足を踏む。
「でも、そんなことをしたら……彩菜お姉ちゃん、私のことを嫌いになる……」
「……」
そう言われた日野は……
「翼ちゃん、怒らないから正直に話して」
「……あ、彩菜お姉ちゃん……!」
目を閉じる土門。
「……ど、どう、したの?」
「自分がやったって認める気?遅いっての!」
「……」
そしてゆっくりと、口を開ける。
「わ……わ……たし……私……は……」
首を大きく横に振って、パチリと目を開け……
「私……いや、僕は……」
「僕は男です!」
唖然とする朝海、夜宮、夕神、日野。
そして当然ながら騒然となる法廷。
ダンダンダン!
「だっだっだっだっだっだっだっだっ黙りやがれ!」
「土門さんが……」
「男……ですって!?」
言い終えた土門は、電源の切れたロボットのように動かなくなった。
「後藤田さんのアパートの大家さんが言っていました。あなたは女の子らしい服装をしているにも関わらず、化粧を全くしていなかったり、
背が低いのがコンプレックスなのに厚底の靴を履いたこともなかったり、ダンベルを買っていたりと……
それはあなたが女なら、あなたの高校の校則が厳しいということで間違いありません、
逆にあなたが男なら、それは至極当然のことなのです」
「……」
「つまり、現場に落ちているピアスが、彼女……いや、彼のものだとは考えられないんですよ」
「くっ……!」
「何か反論はありますか?」
すると夜宮は……
「あるに決まってんだろこのボケナスがぁ!」
「ぼ、ボケナスって……」
「じゃああたしがやったっていう証拠があんのか!?あたしがやったって証拠!」
「証拠ならありますよ。もちろん」
「あぁん!?出してみろオラァ!」
すると月島がモンスターボールからギルガルドを出す。
「このギルガルドが証拠です」
「はっ!何見せるかと思ったらたかがギルガルドってだけで」
「土門……君。何か違和感がないかな」
「あたしが犯人である証拠になんざ、なり得るわけが……」
その声は、直後の土門の大声で掻き消える。
「ない!?」
「あ?」
「ないんだ!後藤田君が持ってるギルガルドにあるものが……」
「何がないって?言ってみろ!」
すると月島が……
「えぇ。後藤田さんのギルガルドにあって、このギルガルドにないものがあるんですよ」
「んなもん知らないわ。あたし初めて見たんだよ?」
「そうですか……」
「アイアンヘッドがあろうがなかろうが、あたしには関係……」
自分自身が口を滑らせたことに、
「……!」
気づくのに時間はかからなかった。
「アイアンヘッド?どうしてそこでその技が出てくるんです?」
「そ、そんな、もん……ギルガルドと言ったらアイアンヘッドじゃねぇかよ!」
「なのにこのギルガルドは持っていません。さて、どうしてでしょうか?」
「そ、そ……それっ……はっ……!」
月島はこう言った。
「もう終わりにしましょう。騙し合いは……」
テーブルに乗っていた花瓶で、後藤田さんを殺害したあなたは……
その後ギルガルドを回復させ、たまたま近くを飛んでいたヤヤコマを捕獲し、
そのヤヤコマをバスルームに連れて行き、血を抜いた。
おそらく血を入れておくのに最適な容器……シャンプーの容器に入れたんでしょう。
容器の中にまで、捜査の目は行き届きにくいでしょうからね。
そしてその血を犯人の頭に塗ったあと、ヤヤコマを逃がし、その場を立ち去った。
その後あなたは土門さんが逮捕されたあと、再び現場に向かった。
そしてそこで土門さんの買ってきたたこ焼きを3個抜き、あたかも土門さんの犯行に見せかけるため。
それを証拠として見せつければ、たこ焼きを食べている隙を突かれて殺されたという現場が出来上がりますからね。
おそらく「弁護人として調査に入ります」といえば、容易に現場に入れたでしょうし、
そんな証拠を作る手間など、いつでもあった。
だがあなたは、大きなミスを犯してしまった。
現場にあるモンスターボールから取ったギルガルドは、あなたのものではなく、後藤田さんのものだったんだ。
当初は現場に2個落ちていたために、勘違いに気付くことなんてなかった。
そして、そのことが出来たあなたこそ、この事件の真犯人。
「お前の負けだよ。夜宮 美由紀」
「……」
「ギルガルドのバトルスイッチのように、攻めに転じた結果が仇になったな」
「……」
すると朝海が……
「で、でも、今夜宮さんがギルガルドを持ってるかどうかわかんないのに、確かめられる?」
「出来ますよ。ギルガルドを変なタイミングで逃がしてしまえば、怪しまれるのは自分ですし、だからこそ、今ここで確認すれば……」
「その必要なんて……ないわ……」
夜宮が搾り出すように声を上げた。
「……ほら、見なさいよ。このギルガルドで、間違いないでしょうが」
ギルガルド 親:ヤス 技:アイアンヘッド かげうち せいなるつるぎ キングシールド
「うん、間違いないよ……でも、どうして……」
「どうして、ねぇ……さぁ、それはあたしにもわかんないわよ。気が付いたら、あいつを殺してた。
あたしの異母姉弟である、あいつを……」
「え……!」
すると夜宮は、ゆっくりと話し始めた。
「あたしはあいつの姉だったんだ。でも、何をしようにもあいつが優れてた……
ポケモンバトルも、頭の良さも、運動神経も、すべて……
そんな折、あいつに会いに行ったら、あいつはこう言ってたの」
「姉貴によく似たやつを知ってるんだ。そいつとなら、話しが合うかもな。
性別は違うけど、お前の境遇によく似てると思うぜ?」
と、後藤田が言った。
「……それが、何?」
「え?」
「まさか、あたしをバカにしてんの?」
「バカになんかしてね〜よ!だって姉貴……」
すると夜宮はいきり立って……
「してるでしょ……あんたはずっとずっとずっとずっと、強いままだったからあたしの気持ちなんざわからないっての!」
「いや、待ってくれ!変なことを言ったのは謝るよ!でも、姉貴は姉貴、俺は俺……それでいいと思うんだ!だ、だから……!」
「このままでいろって?無理に決まってんだろうが」
そして花瓶を持ち上げ……
「お前のその強さが、あたしを追い詰めてるって遠まわしに言ってんのに……!」
「な、やめてくれよ姉貴!」
「なんで気づかないんだよ!」
「やめっ……」
ガシャ〜ン!
「気が付いたら、あいつは何も言わずに机に倒れてたよ。あとはあんたの言うとおりさ、
ヤヤコマを使って死亡推定時刻を偽装しようとして、あいつの言ってた<よく似たやつ>に罪をなすりつけようとした。
性別は違うって言ってたのに、その話を聞かずにわざとらしくピアスを置いておくなんて、バカだね、あたしは……」
「つまり、後藤田君が僕に言っていた、欲しいプレゼントって……」
「そうさ、あいつがあたしにやるつもりだったんでしょうよ。
……その気持ちですらも踏みにじって殺人を犯すあたしって……バカだね」
「バカの……極みだね」
それから、30分程後。
「おい、朝海」
「う、うん」
「夜宮はどうした」
「先程、緊急逮捕したよ」
「そうか……」
すると夕神は月島を見て……
「にしてもお前すげぇな。被告人の無実を証明するだけでなく、真犯人まで見つけちまうからよぉ。
お前みたいなやつなら大歓迎だ。早速司法試験受けてみろって!」
「か、考えておきますよ」
そう言い終えると、夕神は土門を見つめてゆっくりと言った。
「だがお前も、取り調べの際にもずっと女って言ってきた。それは捜査を邪魔することに他ならねぇ」
「ご……ごめんなさい……」
「……」
だが夕神は続けて、
「でもまぁ、これだけの聴衆を前に、堂々と本当の自分をさらけ出すにゃ、勇気がいるってもんだ。
俺は、これからもその勇気を持って先に進もうとするお前を応援するぜ」
「え?」
ダン!
「主文!被告人、土門 翼を無罪に処する!」
「あ……あ……ありがとうございます!」
涙を流して礼をする土門に、夕神は少しだけ笑みを浮かべて、
「では、これにて閉廷!」
「月島せんぱ〜い!」
法廷を出ると、日野が土門をつれてやってきた。
「お疲れ様でした」
「あぁ。日野も、土門君もな」
すると土門は……
「月島お兄ちゃん……」
と、月島を呼んだ。
「本当にありがとう」
「……あぁ」
「でも、もう後藤田君は帰ってこない……」
目を閉じる土門。
「それに、帰ってきても、後藤田君はきっと僕のこと嫌いになるよね……だって、僕はずっと……女の子として後藤田君に接してきたんだから……」
「それはどうかな」
「え?」
「夜宮が事件当時の話をしてた時に、性別は違うけどって言ってただろ?だから後藤田さんは……
君が男であることを知っていたんじゃないかな。それに……
後藤田さんが君にお前が弱いって言ってたのは、君に強くなって欲しかったんじゃないのかな?
自分のように、そして自分の姉のようにね」
すると土門は、目に涙を浮かべた。
「ぼ、僕に……強く……!」
しかしこぼれ落ちるのをぐっとこらえる。
「な、泣いちゃダメだよね……男なんだし……!」
「……」
「いや、泣けばいいと思うよ」
と、日野。
「え?」
「人間なんだもん。泣くときはいっぱい泣かないと。それでスッキリしたらいいなって、私は思うよ」
「あ、あ、彩菜……お姉ちゃん……!」
そして土門は日野に抱きつくようにして……
「う……うわあぁぁぁぁ!」
大声で泣き始めた。
それを日野は、黙って頭を撫でて寄り添った。
「あ〜!」
「え?」
そこへ朝海が通りかかる。
「月島、君が泣かせたんでしょ?」
にらみつける朝海。
「い、いや違うって!これは誤解ですって!」
「女の子を泣かせるなんて……最低だよ……!」
「いや、男の子ですからね!?彼男の子ですからね!?」
「もうこの際どっちでもいいよ!とにかく弁明してもらおうかな……?」
顔を青くする月島。
「あ、ペラップ」
「え?」
と言った瞬間、つま先を180度回転させ、全速力で走り出した。
「あ〜!だましたわね〜!待て月島〜!」
「ぬおあぁぁぁあ!そりゃねぇって〜〜〜!」
そのままふたりは、裁判所を飛び出し……
「裁判所内を走るんじゃねぇぞオラァ!」
「「ご……ごめんなさい……」」