捜査編
現場となったアパートに2人ともやってくる。
「まずはこのドアノブだ。このドアノブに、指紋がついていたはず。
他にもじゅうたんと椅子に指紋がついていたはずだよな。日野はそれを採取してくれ」
「は、はい!」
その間に月島は、現場となった奥の部屋に向かった。
「確か後藤田さんの遺体は、水浸しになっていたんだよな……そして現場から消えた花瓶……
おそらく撲殺であることから、凶器はそれで間違いないはず」
そう自分に言い聞かせる。だが……
「その割には、この部屋の壁にも床にも……目立った血痕がない……」
だが、現場を調べているうちに、おかしな点がいくつか見つかった。
「……?」
机の周りを調べたが、ルミノール反応が全く出なかった。
つまり、この部屋で殺害されたわけではないということなのだろうか。
そしてシャワールームを調べると……
「あ、これ……」
多少ではあるが、ルミノール反応が出た。
「どういうことだ?被害者の写真では、ちゃんと頭から血を流して倒れていたはずだ」
「……そ、それは……」
さらに、
「……?」
月島は、女物のピアスを見つけた。
「なぁ日野。これは土門さんのか?」
「え?……多分、そうかも……」
念のため、水原に確認をとる。
「被害者にはピアスのつけていたあとはなかったよ。多分そういった、穴を開ける必要のないピアスをつけていたら……
皮膚組織に何らかの痕跡が残るはずだからね」
電話を切ったあと、現場に落ちていたギルガルドの技を見る。
ギルガルド 親:ユキポン 技;ラスターカノン シャドーボール キングシールド かげうち
「これに特に変わったところはないみたいだ」
「でも……ユキポンって……」
ますますあの顔からは想像もできない。
「ま、この部屋は大体調べ終わったかな……」
「……」
「日野?」
考え事をしていた様子の日野は、月島の声でようやく我に返り、
「あ、ごめんなさい」
と、謝った。
「そういえば、土門さんは、<たこ焼きを買ってやってきた>って言ってたよな」
「そ、そうですね。では、私はそのたこ焼き屋を聞き込みに回ればいいんですね?」
「あぁ。頼む。俺は近所の人に聞き込みを続けてみるよ」
「お願いします」
隣に住む住民の、音無 泰弘(おとなし やすひろ)に話を聞いた。
なぜか手袋とマスクをつけていて、やたらと重装備だ。
「えぇ。あの日、隣の部屋がやたら騒々しかったのは知ってるっすよ」
「その他に、何か怪しいことは」
「確か後藤田さんは、たこ焼きを買って来てたみたいっす。あの人、たこ焼きには目がないみたいだったですし。
いつもいつも、毎週日曜日には近くのたこ焼き屋で購入してたって言うの聞いたことありますよ」
この証言が本当なら、被害者の胃にたこが残っていたのも頷ける。
「ぴぴぴちちち!ぴぴぴちちち!」
すると、奥の部屋からヤヤコマが飛んできた。
「あぁ、おとなしくしてろよ!」
「このヤヤコマは?」
なんとか捕まえたあと、音無がしゃべりだす。
「あぁ……ゴミ捨て場に捨ててあったんすよ。やたらと傷だらけで、すげぇ弱ってて、俺鳥アレルギーだったけど、
このまま死ぬのを待つばかりだったらかわいそうすぎて、ポケモンセンター連れて行ったんすよ」
「だから、羽毛を吸い込んでしまわないように厚着をして、メガネをかけて、手袋とマスクをつけているんですね」
「えぇ。まぁ、親がいたらそいつに文句を言って、返してやろうかと思ってるんすけどね」
右手の指を回すと……
ヤヤコマ 親:おとなし 技 たいあたり なきごえ
「親はあなたになっていますが……」
「えぇ!?マジッすか!?じゃあこれ……野生のポケモンだったんすか……!?」
「本来、誰かのポケモンであるというのなら、あなたのモンスターボールに入っているのはおかしいですしね」
「そ、それも……そうっすね。じゃあこれは……刑事さんにあげるっす。俺……また体かゆくなりそうだし……
何しろ……暑いし……」
と言って、ヤヤコマとモンスターボールを出す。
「念のため、2週間前の日曜日のあなたの行動を詳しくお聞かせください」
「俺は家族旅行に行ってたんすよ。そのことなら大家さんに話してたから、よくわかるはずっすよ。
で、日曜日の夜、帰ってきたところで、この傷だらけのヤヤコマを見つけたんすよ」
大家の今引 泰葉(いまびき やすは)に話を聞く。
足が不自由らしく、車椅子に乗っている。
「えぇ、音無さんは3週間前の水曜日からずっと留守でしたよ」
「つまりちゃんとアリバイがあるのですね」
「あぁ、ところで刑事さん……」
今引は、こういったことを言った。
「わしの考え過ぎかもしれんけどねぇ……土門って子、なんか様子が変だったんよ」
「変?」
「うん。普段は背が小さくて、スカートを履いてて、服も女の子用のやつだったんだけどね。
背が低いコンプレックスを持っていた彼女は何故か、厚底の靴とかを履いてなかったんよ」
「い、いや、それはただ、高校が認めてないだけでしょう」
だが今引の話は止まらない。
「それに、女の子らしい化粧もしてなかったねぇ」
「いや、だからそれは……」
「それに彼女、強くなりたいって言っててこの間、ダンベルも買ったらしいし」
「いや、だからそれは……」
「それに……」
「いやだから……」
20分後、現場に戻ってきた。
「どっと……疲れた……」
立ち上がったまま、うなだれる月島。
「なんだよ、女の子なのに女の子なのにって……そんな事言わなくても、学校が認めてないからだろうが……
南鳳の校則による拘束……なめんじゃねぇぞ……」
寒いギャグが飛んできたところで、
「ん?」
電話がかかってきた。
「はい月島です」
「せ……先輩……!見つけ……ましたよ……!翼ちゃんが……立ち寄ったたこ焼き屋……!」
「ほ、本当か?」
「はぁっ……はぁっ……はいぃ……」
日野の様子は何かおかしかった。
「どうした?」
「な、なんでもありません……」
すると月島は……
「ちょうど小腹がすいた。その店でいいから、たこ焼きを買って現場に戻ってくれ」
「わ、分かりました……い、今から、たこ焼きを買って戻りますね!」
「わかった。出来る限り早く頼む」
15分後……
「はぁっ……はぁっ……」
「遅いぞ日野」
「ご、ごめんなさい……でも、私全速力で走ってきて、この結果なんですよ……?」
「え?」
一応一個食べてみる。
「ん、冷めてる……」
「ご、ごめんなさい……」
「電子レンジで温めれば、また食えるんじゃないのか?」
と、容器を電子レンジに入れようとするが……
「あ、ダメです月島先輩」
「え?」
「その容器は、電子レンジで温めると溶けてしまいます。だから皿に移し変えないと」
「誰から聞いた?」
「店の人からです。だから間違いないかと……」
その日の夜……
「……」
念のため、ゾロ子に話をしたが……
「……」
ゾロ子にしては珍しく、悩んでいる様子だった。
「あの……ゾロ子さん?」
「う〜ん……ダメ」
首を横に振った。
「和也の話を聞く限りだと、土門さんが犯人としか思えないよ。だって、音無さんにはアリバイがあるし、足が不自由な今引さんには犯行自体が無理だよ」
「そんな……」
「……まぁ、明日の裁判で何か明らかになるかも知れないけどね」
「そうだな。捜査は一応終わったんだ。あとは天命を待つしかない」
そんなこんなで、裁判当日になった。
月島と日野は、証人として出席することになった。
「……」
と言っても、裁判ははじめての経験。異常な緊張感に包まれる。
リーゼントスタイルの裁判官、夕神 透(ゆうがみ とおる)が現れる。
「んじゃ、これより、後藤田 幸宏殺人事件の裁判を始める」
「検察側、準備完了してま〜す♪」
褐色肌で、肩にべラップを乗せた検事の朝海 なぎさ(あさみ ー)……
「弁護側、準備完了だよ」
ピンク色の髪の弁護人、夜宮 美由紀(よみや みゆき)が声をかける。
「じゃ、まず検事の意見を頼む」
「ほいほ〜い♪」
しかし朝海。どうも軽い……
「えっと、被害者の後藤田 幸宏さんが殺害された現場をあれから調査したんだけど、現場には何か重いものがあったはずなの」
「へぇ。どうしてわかるんだ?」
「ほら、このテーブルクロス。ここだけなんだか繊維が古いよね?これって、何か上に重いものが乗っていたものだと思うよ。
だってこのテーブルクロスは、最近買い換えたものだもん」
朝海が伝票を取り出す。
「ほら、この伝票が物語ってるよ」
そこには、殺害された1ヶ月前の伝票が。
「だから犯人は、このテーブルに乗ってた重いもので……ガツーン!ってやったんだと思う」
「あんたはバカ?」
「ば、バカって何さ!」
「言い返すのがバカなのよ、バカ」
夜宮が何かを出す。
「犯人はこの花瓶を使って被害者を撲殺したんだ。すでに現場からはその花瓶のガラス片も採取している。
それに、花瓶を使ったのなら犯人の周囲が濡れてるのも頷けるしね。
ちょうど入れていた水が、犯人の周囲に飛び散ったんだ。……そんな事も分からずによく検事が務まるわね」
「な……こっちはまだこれが、水差しかどうかわからなかったんだよ!
だって現場にあるこの容器には、花が入ってなかったんだよ!」
「バカ。水差しで水を飲むなら冷蔵庫に入れるはずよ」
「異議あり!」
手を挙げる朝海。
「ん。異議を認めるぞ」
「ちょうどその時、被害者はたこ焼きを食べてたんじゃない?ほら、被害者の足元にはたこ焼きも入ってたし。
だから水差しと間違えるのも、無理はないって!」
「だからどうしたんだい?あんたは花瓶に水をいれて飲むのかい?後藤田さんが花瓶であると、知らないわけないし」
「むぐぐぐぐ……!」
歯を食いしばる朝海。
「次に弁護人の意見を頼む」
「任しときなよ」
何かを取り出す夜宮。
「これを見な。すでにたこ焼きは3個食われてたんだ」
そこには、土門が買ってきたたこ焼きと同じたこ焼きの容器と、たこ焼きが3個入っていた痕跡が。
「つまり犯人は、たこ焼きを後藤田さんに食わせて、その隙をついてぶん殴ったんでしょう。花瓶で。
証拠に、被害者の顔の周りはびしょ濡れだし、それに犯人の体の中からは、消化されていないたこが入ってた。
これが何よりの証拠でしょ?それに、計画的な犯行にしては雑すぎた……
つまりこれは、衝動的な犯行なんだよ。間違いなくね」
「待って」
朝海が手を挙げた。
「それは本当にその店のたこなの?」
「さぁ、それはわかんないよ?でも、犯人がほかにいつたこ焼きを食べたのかわからないのに、間違いないでしょ」
「……よし、2人とも終わったな。……じゃ、次は被告人に証言してもらうか」
そう夕神が言うと、土門が涙目で入ってきた。
その様子を見た朝海が、土門に歩み寄る。
「土門さん。落ち着いてからでいいから、話してくれない?事件当日のこと」
「は……はい」
土門は落ち着いて話し始めた。が……
「うぷっ……!」
死体のことを思い出したのか吐き気をもよおした。
「だ、大丈夫!?」
「ほら見なさい。これは衝動的な殺人なんだよ。死体を思い出して、吐きそうになるようなこだからな。
だからこれは、有罪になっても罪は軽いものになりそうだよ」
「……」
また涙を流す土門。
「ち、女の子に大してひどい言い方だなあの弁護人」
「……」
日野は、その様子を黙って見ることしか出来なかった。
ツンツン。
「……」
それを見ていた月島は、考え事をしていた。
ツンツン。
「(妙だな……何か引っかかる……なんだ?何が……引っかかるんだ?)」
ツンツン。
「(一体……何が……)」
ガッ!
「え?」
何かに引きずられながら、月島は法廷から出てしまった。
「何すんだよゾロ子!」
そう、人型になっていたゾロ子だ。
「何って、ちょっと話があるの!」
「今更何の話があるんだよ!俺もう少しで証人ででないといけないんだぞ!」
「え……?」
「時間がねぇの!」
と、子供のように言う月島。
それを見たゾロ子は……
「……」
「……な、何だよ」
「……」
「何か言えよ!」
「……」
さらにゾロ子は顔を近づけ……
「どうせ何を言っても、あんたは日本語が分かんないはずだもん」
「……」
月島 和也。月島 和也。月島 和也。
……いや、どう聞いても日本名だ。
つ、ま、り。
自分が日本語がわからないなんてあり得ない。
国語だけは、随分勉強したし。
「じゃあお前は今さら俺が英語で話してもいいってことか〜!」
変な怒り方。
「シャラップ!ゲットアウトプリーズ!」
「そ、そんな風には言ってないでしょうが!大体未だに逃がすとか言うのね!?」
「オフコースだ!大体俺がもし女ならお前に即効でビンタものだぞ!男であるだけでありが……」
そして、電流が走った。
「……嘘、だろ……?」
事件の鍵がわかった。その思いとは裏腹に、何故か震えが止まらない。
「嘘だと思うけど、それが事実なの。その事実を教えない限り、事件は解決しないよ」