真相編
「いや、違う。今の推理は、あなた<だけ>が犯人である時でしか、成立しないんだ」
「な……!」
「考えてもみてください」
ゆっくり歩きながらこう言った。
「本来、スペアキーがないか、有栖川さん自身が部屋のドアを開けない限り、ドアは開かないはずだった。
それにもかかわらず、あなたはスペアキーを手に取ることなく部屋に手をかけ、ドアが開いた。
まるで、有栖川さんが部屋を開けていたのを、知っていなかったかのように」
「で……では……!」
月島が指をさした。
そしてそのまま指を、他の参加者にもさし続ける。
「月島さん、それはどういうことです」
と、金城がいうと……
「そう。俺はこう考えた」
「このパーティに参加している俺と金城さん、そして被害者の二人。それ以外の参加者、全員が犯人だと」
「い……!?」
「な……!?」
「コキュ?」
「ぬあ……!?」
「……」
突然過ぎる発表に、その場が凍りついた。
「……貴様、何を言ってるんだ……俺たちが犯人な……訳ないじゃないか……
全部俺がやったんだよ!全部俺が……!」
「あんたのいい加減な推理にはうんざりよ!この執事さんがやったって言ってんだからそれでいいじゃない!」
「ふん、面白くもない冗談をこの場で言えるなんて、君の頭には恐れ入ったよ」
全員一斉に食ってかかるが、
「……」
有栖川だけは冷静だった。
いや、ただおびえているだけ……にも見える。
「まず、桐生さんが倒れている金城さんを見て、大騒ぎした時のこと」
「……!?」
「あぁ〜スッキリしたっと。さて、僕のエンジェル嶺花ちゃんを……」
ここから、
「!?」
「え……あ、いや、その……こ、これは……ち、違うんです……」
「人殺しだぁ〜〜〜!」
大声を聞いた西園寺以外の一行が、一斉にやってくる。
「ち、違う!俺が殺したんじゃない!肩に手が触れたら……その、えっと……」
「じゃあ誰が殺したって言うの?西園寺さん以外は、みんな食堂にいたのよ!?
西園寺さんはさっきメイドの里中さんが部屋にいるのを見たし、犯行はできないはずよ!?」
「ですが、あなたはスッキリした、と言った割に、トイレの流れる音はしませんでしたし……
そもそもずっと食堂にいた浅野さんが、どうして里中さんが西園寺さんを呼びに行ったことを知っていたんですか?」
「そ……そんなの!向かう先でわかるじゃない!」
「果たしてそうでしょうか。見取り図を見てください」
「2階に行く階段は一箇所のみだ。だけどあなたは2階に上がる階段に向かう里中さんを見ただけで、どうして西園寺さんの部屋に行くとわかったんですか?」
「そんなの決まってるじゃない!西園寺さんを殺害するため、でしょう!?」
「その頃西園寺さんはまだ殺されていなかったんですよ?殺されたのは、俺と金城さんが戻ってきてから、ですから」
「うぐ……!」
口を押さえる浅野。
「それにもうひとつ。西園寺さんの現場に行った際……」
「お開けします」
ガチャガチャ……
「あら……?」
鍵を回そうとするが、回らない。
「鍵が故障しているのでは?」
と、金城が言う。
「……」
ガチャ……
「ほら、空きましたわよ」
「あれ?おかしいですね……?さっきは鍵がかかっていたはず……」
「本来ここだけを見ると怪しくもなんともないですが、<鍵を回そうとするが回らない>演技をする人など、どこにもいません。
そもそも西園寺さんは、密室殺人に見せかけるために、里中さんに殺された。
それを里中さんのアリバイを確かなものにするためにも、里中さんはドアが開くなら開けるはずでしょうし」
「じゃあ……誰かが鍵を壊したとでも?」
「その通りです。それに、現場には本来なくてはならないはずのあるものがなくなっていた。それは……」
金城がうなずいた。
「西園寺さんのカイリューのモンスターボール、ですね」
「おそらくそこに、里中さんを殺害した本当の凶器があったはずだ。里中さんを麻痺させるための……ね」
「それだけの理由で犯人をあたしたちと決め付けるなんて、ひどくない!?」
「それだけじゃないんですよ」
「ほ……ほら、言ってるじゃない……これは……その幽霊の犯行だって……
もう逃げる場所なんて、どこにもないじゃないのよおおおお!」
「あなたはこの<幽霊の犯行>というのをどこで聞いたんですか?」
「それはあんたたちが言ってたでしょう!?父親の幽霊の仕業……!」
言ったところで口を押さえる浅野。
「あなたたちは食堂に戻ったにも関わらず、<幽霊の犯行>をいつ聞く隙があったんですか?
俺たちが幽霊の犯行と言ったのは、里中さんと共にリビングを散策している時。
少なくともじっと食堂にいたと言うなら、あなたが聞くことなんてできないんですよ。
もっとも、最初から打ち合わせ通りこう言う流れだったか……もしくは俺たちの捜査を盗み聞いていたというなら話は別でしょうけどね」
「あ……あぁ……」
「では、みなさんのポケモンを見せてください。俺の推理が正しければ、その中にいるはずなんですよ。西園寺さんのカイリューが」
そう言うと……
「仕方ないなぁ……」
「仕方ないわね……」
「バレちまったからには仕方ない……」
「……」
すると、桐生、浅野、黒田の3人はポケモンを出した。
「!?」
マニューラ、ファイアロー、パンプジンの3匹。
「違う、俺が言っているのは……」
「知ってるとも!知られたからにはしょうがない。お前らを殺して、証拠を隠滅して、僕たちだけ生き延びるんだ!」
「あんたたちの死因はこのあとこの家に火を付けて、焼け死んだとでもしておいてあげるわ!」
「さぁどうするんだ刑事さんよぉ?この状況も打破してみやがれ!」
3人の目には狂気が見えていた。
「あ……あ……!」
「死ねぇ!」
そのうちのマニューラが、月島に向かって飛びかかる。
「……!」
ズシャ……!
……つじぎりだ。
やられた。月島はそう思った。
……だが、月島の腹部には、柔らかい感触があった。
「……」
「!?……有栖川さん!?」
車椅子から最後の力を振り絞って立った有栖川が月島をかばい、そして……
ドサ!
倒れた。
「有栖川さん!」
「……け、刑事……さん……!」
有栖川は語りかけた。
「あ、あなたは……ひ、ひとつだけ……勘違いを……しています……!」
「な、何を……」
「わ、私は……この事をすることに……反対して……いたんです……!」
「……どうして」
それを聞くと、有栖川は涙を流しながら話しかけた。
「だって……里中さんも……私の……大切なっ家族……だったんですよ……?
嘘をついて……いたって……私の……家族だったんです……!
メイドさんだって……なんだって……私には関係っ……なかった……
それに……無良さんが……ゾロアークだったことも……私は知っていました……!」
口から血を吐く有栖川。反射的に月島は思う。有栖川は……助からないと。
「里中さんが……情報を西園寺さんに……横流ししたのは……少しでも私の心の隙間を埋めたいために……
人を募って……いたんです……!私の……事を思ってくれる……人を……!
だ、だからこそ……里中さんは……パンプジン仮面として……私に脅迫状を送ったのです……!
誕生日パーティに、知らない人にも……お祝いしてもらおうと……考えて……!」
「パンプジン仮面の正体は里中さんだったのか……
しかしあなたはパンプジンだけに、彼女のやりたいことは全て、おみとおしだったわけですね……」
「そして……今回あなた方を騙すメンバーの中に……里中さんもいました……
ですが……協力して西園寺さんを……殺めた時に……!」
「里中さん……もうやめましょうよ……」
1階に降りてきた里中に、有栖川が言う。
「どうしてなのです?西園寺さんは悪いお方。粛清されるのは当然……」
「知らないはずないですよ」
「え?」
「……5年前、お父様が死んだのを横流ししたのは……里中さんだって」
里中は明らかに動揺した様子だった。
「な、何を……」
「それが、私のことを思ってやってくれていたことなのも知っています。だから……
だからもう、騙し合いなんてやめましょうよ!明日の朝……警察に出頭しましょうよ!」
「……」
気持ちが揺れる里中。
「……」
それを見た黒田は……
「……里中さん、遅いなぁ」
食堂をでた有栖川、そこで目撃してはいけないものを目撃した。
「ふぅ……やれやれ。いきなり何をやめるというのだ」
「!?」
脱衣所から出てくる、黒田の姿を。
「……!?お、お嬢様。いかがなさいました?」
「……何を、したんです」
「……?」
「里中さんに何をしたんですか!?」
すると黒田は……
「あなたは里中さんの味方をするのか?お嬢様」
「はい」
「……」
優しい笑みの黒田が、急に顔をしかめ……
「黙っておかないと、お前もそうなるんだぞ」
「……!」
脅してきた。
「それが嫌なら、里中の思いを継ぎたいっていうのなら、俺の言うとおりにするんだな」
「え……?」
「俺が刑事と探偵の奴らを2階に連れて行く。連れて行くまでにお前はどうにかして自分の足を切って……」
「……あとはっ……!はぁっ……はぁっ……!」
「もういいですよ。有栖川さん」
「……月島さん……金城さん……最後まで恐怖に勝つことができずに……黒田さんの暴走を許した……
私を……許して……欲し……い……とは……思い……まっ……せん……!
だけど……最後に……あなたが止めてくれて……よかっ……た……!」
そこで有栖川は……
「……有栖川さん?……有栖川さん!」
事切れた。
「くそ……最後の最後に来て邪魔が……気を取り直して、やれ!」
と、言う黒田に対し……
ドカ!バキ!ドカ!グシャ!
「!?」
赤い閃光が、ポケモンたちを一閃していく。
……金城のルチャブルだ。
「……」
「てめぇ……!何を……」
すると金城は、
「ひぃっ……!」
逆鱗に触れた龍のような目をして、
「道を外れ続けんのもいい加減にしろオラァ!」
と、大声を上げた。
「てめぇらのせいで……尊い命が3つも失われたんだぞ!しかも有栖川さんは……今日の誕生日パーティをどれだけ楽しみにしていたか……
てめぇらの腐った頭じゃ到底考えもつかねぇだろうよ!
その楽しみな日に命を奪われた有栖川さんの無念を考えちゃ……てめぇらの考えなんか、同じ天秤で図ることすら失礼なんだよ!」
「……」
ポケモンを失い、戦う気力をなくした3人は、その場に膝から崩れ落ちた。
翌朝……
西園寺、里中、そして有栖川の遺体が、救助に駆けつけた人々に運ばれていく。
そして警察が、桐生、浅野、黒田の3人を逮捕し、無良だったゾロアークをそのまま自然に逃がした。
「……それにしても解せないのは……」
月島が、ある人物を見ながらこう言った。
「君だよ」
金城だ。
「君は隠しているつもりだろうが、俺にはバレバレなんだ。
君はなんで、犯人が分かっていて事件の解明を俺に一任したんだ?」
「……」
「言えないことかな、じゃあいいけど」
すると金城が……
「すぐ諦めるのですね」
「え?」
「あなたの兄のように」
「……?」
それだけを言うと、金城はモンスターボールからフライゴンを出し、それに乗り込んで……
「……」
ギュッと目を閉じたと思うと、フライゴンは空へと飛んだ。
「……そんなに嫌いなのね……高いところが……」
「……」
「どうしたの?和也?」
「……」
「……あなたの、兄のように……?」
「ただ今戻りました」
とある探偵事務所の中に、金城が帰ってきた。
「やっと帰ったか。どうだった?今回の事件」
「色々、考えさせられるような事件でした。ですが、それ以上に……」
金城は笑みを浮かべ、こう言った。
「あなたの弟は、大した実力でしたよ。いえ」
「……あなたの送った、ゾロ子を含めて、ですけどね」