捜査編 A
「いやああああああ!」
月島が状況を把握するより先に、浅野が大声を上げた。
「ななななな、なによこれ!?なんなの!?一体……なんなのよぉ!?」
「見てわかりませんか、殺人事件だと」
金城が一喝。
「殺人事件?」
桐生が怪しんで言葉を上げる。
「あぁ、これは紛れもなく事件。これだけの手の込んだ自殺なんて出来ないに決まってる。それに……」
月島が湯船に入ろうとするが……
「と、現場の保全が第一だな。……見えづらいですが、見えるでしょうか?」
「……何が」
「首元です」
そこには、引っ掻いた傷のような痕と、首を絞められたような痕があった。
「引っかき傷?」
「これは防御創ですね」
「防御……創?それはどういうものですか?」
有栖川が説明を求めたので、
「今回の事件のように首を絞められた際、あなたならどうしますか?有栖川さん」
「え?……経験したこともないから、なんとも……」
「例えばで結構です」
「し、絞められているところを振りほどくために、首に手を……あ」
そう言ったところで気がつく有栖川。
「その通りです。そうやって抵抗した際に、爪などで引っ掻いて自分の体を傷つけること、それを防御創と言うのです。覚えましたか?」
「覚えましたかは余計かと、月島さん」
「いや、ただ言いたかっただけだよ」
湯船に浮かぶモンスターボールを取る。
「……」
モンスターボールからポケモンを出すと……
「?」
ロズレイドが現れた。続いて技とトレーナー名を確認する。
ロズレイド 親:さとなか ヘドロばくだん やどりぎのタネ はなびらのまい ねむりごな
「……里中さんのポケモンか……」
「……一度、食堂に戻りましょう。私たちが捜査しているうちに、あなた方が何をしていたのか……
それを聞く必要もありますし」
食堂に戻ったあと、全員に話を聞く。
「僕はずっと食堂にいた。途中、黒田さんにワインセラーにワインを取ってきてもらうように言ったんだ。
そしてワインセラーで持ってきたワインを見た無良さんが、突然怒り出して、そのワインを割ってしまったんだ」
「騒ぎの理由はそれだったのですね」
「あぁ。結果的に今日はワインを飲めずじまいになりそうだよ。はぁ……」
「無良さん、あなたが割ったというのは間違いないですね?」
と、月島が言うが……
「……」
無良は相も変わらず口を閉ざしたまま、何も話さない。
「……無良さん。あなたが無言だと俺はあなたを疑うことになりますが、それでいいですか?」
「……」
やはり無言だ。
「そういえば、無良さんはなぜか雷が鳴るたびに、異常に興奮していたわね?私たちはみんなみんな、怖がっていたのに」
「……」
「ほら、答えなさいよいい加減!」
「……」
それでも無言。
「ふざけるならいい加減にしなさいよ!犯人なのね!?あなたが犯人なのね!?」
「……」
「落ち着いてください。無言だからといって、犯人と決め付けるにはまだ早合点がすぎますよ」
「黙りなさいよ!あんただって捜査とか言って、証拠を隠滅する時間があったでしょう!?」
金城の胸ぐらをつかむ浅野。
「それは無理ですよ」
「なんで!?」
「だって、俺たちが捜査している時は、俺たちの後ろにずっと、里中さんがいたんです。
金城さんが証拠を隠滅するのなら、まず目の上のたんこぶの里中さんを何とかするはず。そうは思いませんか?」
「……」
ふんと、鼻息を荒くして手を離した。
「じゃあ犯人は誰なのよ……もう嫌よ……!こんな場所で見えない何かに怯えるだなんてえぇぇぇ!」
浅野は食堂を出てしまった。
「浅野さん!」
「……放っておいたほうがよろしいかと」
金城がそう言うので、月島は……
「では、みなさんも部屋に戻るべきです」
「え?」
「冗談じゃない!犯人は一人になるところを狙ってるんじゃないのか!?」
「……では、一人でワインセラーに向かった黒田さんが襲われず、
殺害される間際まで俺の隣にいた里中さんを襲ったのはどうしてですか?」
それだけを言うと、桐生は黙ってしまった。
「それに、無良さんがいると、ここでひと悶着あって、殺人が起こりそうなほどピリピリしていますしね」
「……わかったよ。だけど、何かあったら大声で呼ぶからな」
「なんの宣言なんですか」
そして2階にある、自分の部屋に戻っていく桐生、浅野、無良、有栖川の4人。
「黒田さん。少し残っていただけますか?」
「はい」
それを耳にした有栖川が足を止めた。
「大丈夫です。彼には俺たちがいない間に何が起こったか、教えてもらうだけですから」
脱衣所にやってきた月島、金城、そして黒田。
「……?」
そこには、テレビがあった。
「脱衣所にも、テレビがあるんですね」
「えぇ。お嬢様は大変テレビがお好きなお方。四六時中、どこにもテレビがある状況です」
「……なるほど」
テレビをつけると、そこには普通の番組が流れていた。
が……
「?」
最初に、画面の乱れがあった。
「うぅむ、このテレビも寿命が近いのでしょうか……」
「寿命?」
「えぇ、脱衣所に取り付けてから10年間。1度も買い換えておりませんから。テレビをつけること以外一切、手もつけておりませんし」
そして再び女性の浴場へ。
「あれ?」
里中の遺体は、湯船に沈んでいた。
「そうか、服で重くなるから沈むのは当たり前か……」
「沈むのは当たり前……?」
すると金城が……
「ですが、先程は確かに浮いていました」
「?」
確かにそうだ。バラの花びら、そしてモンスターボール共に里中の遺体は浮いていた。
「……」
「犯人はどうやって遺体を浮かせたのか、それを考える必要もあるかと」
「……あぁ。確かに」
ワインセラーにたどり着く3人。
ここには大小さまざまなワインが入っていた。
「ここにはあなた一人で来た。間違いありませんね?」
「えぇ。もちろん。ならばお嬢様にでも、ほかの方にでもお聞きください」
適当なワインを手に取り、ラベルを見る金城。
「ワインは好き?」
と、月島が聞くと、
「私はまだ未成年です」
即答だった。
「じゃあなんでワインなんか見てるんだよ」
「私の上司が好きなのです。私の上司は毎晩のように何らかの酒を飲んでは、私に甘えてきたり、暴れたり……
眠ったりしたこともあります。そうなった場合は、水をぶちまけて起こすんですけどね」
「最低な上司じゃねぇか!てか、君も少しは上司をいたわってあげて!」
「……あなたはどうでしょうか?私の上司に似て、酒は弱いですか?強いですか?」
すると月島はこう言った。
「あぁ強いとも。もちろん。酒は飲んでも飲まれるなって感じで。大体そうやって酔っ払うなんて……」
その時、月島の頭に弱い電流が走る。
「……なぁ、さっきの言葉をもう一回言ってくれないか?」
「え?……<私の上司は毎晩のように何らかの酒を飲んでは、私に甘えてきたり、暴れたり……
眠ったりしたこともあります。そうなった場合は、水をぶちまけて起こすんですけどね>
……これが、どうかしたのですか?」
「……」
だが、言った金城に対して、大した収穫はなかった。
「……この屋敷の中で、お酒に強い方というのは?」
「そうですね。私、桐生様、無良様あたりでしょうか?逆に弱いのは、里中さんと浅野様ですね」
「……」
悩む月島に対して、
「なるほど」
金城は、何かを確信したようだ。
再び2階に上がり、各々の部屋を見てまわろうとした、
その時だった。
「きゃあぁぁぁ!」
「!?」
「お嬢様!?」
黒田が走る。月島と金城は、そのあとを急いで追った。
「お嬢様!」
ガチャ!
黒田は急いで扉を開ける。すると……
「!?」
「……!」
そこには、足を押さえてうずくまる有栖川の姿が。
「……お、お嬢様!?」
「有栖川さん!しっかりして!」
そしてその近くには……
さ あ て つ ぎ は だ れ を こ ろ そ う か な パンプジン仮面
あのカードも。
そして何故か、香ばしいにおいが漂っている。
「……!」
「……いやあああぁぁぁ!」
騒ぎを聞きつけたほかの二人もやってきた。
近くには、モンスターボールも落ちている。中から取り出すと……
ポン!
「エアームド……!?」
エアームドの翼の一部は、赤黒い血が付着している。
「これに……襲われたのか……!?」
エアームド 親:しゅうぞう 技:つじぎり はがねのつばさ そらをとぶ つばめがえし
「あ……あぁ……!」
「傷口が浅い……大丈夫、応急処置をすれば助かるわ」
と、金城が慣れた手つきで傷口を消毒し、包帯を巻く。
「……親が……しゅうぞう……」
「え?」
「このエアームドの親は、有栖川家の先代当主の有栖川 秀三さんの名前と一致するんだ」
「……」
さらに現場を見回すと……
窓は全て締め切られ、入れる場所は扉のみだった。
「有栖川さん……ケガをしているところ悪いけど、この部屋に鍵をかけていましたか?」
「は、はい……でも、突然鍵が開くような音がして……」
「確かにさっき、黒田さんはすぐに扉を開けていた……鍵が開いていたのは間違いなさそうだ」
治療は金城に任せ、月島は聞き込みを続ける。
「鍵は皆さんが保管していたはず。では、スペアキーは、どのように管理しているのですか?」
「スペアキーなら、里中さんが知っている暗証番号を入力せねば開かない金庫に入っております。
私はその暗証番号を知らないので……
そういえば、先代当主の秀三様も、その暗証番号を知っておりました」
「ほ……ほら、言ってるじゃない……これは……その幽霊の犯行だって……
もう逃げる場所なんて、どこにもないじゃないのよおおおお!」
浅野の悲痛な叫びが響き渡った。
ひとまず食堂に一行を集めたあと、月島と金城は有栖川の部屋を探索する。
「ん?」
何かやたらと気になるパンプジン仮面のカード。
「なぁ、金城さん」
「どうしました?」
カードを手にしながら、月島が続ける。
「このカード……犯人がパンプジン仮面だとしたら……どうして次の犯行があるように思わせてるんだ?」
「……確かにそうですね。最初に私が見せられたカードは……」
ら い し ゆ う の た ん じ よ う び き み の い の ち を い た だ く よ
パンプジン仮面
「でしたね」
「あぁ。パンプジン仮面の目的が、本当に有栖川さんの命だけだったら、もう犯行を繰り返す必要もないだろうし、
それに、有栖川さんはまだ生きてるじゃないか。
こんなミスをここへ来て犯すなんて、何か奇妙だと思わないか?」
「……」
すると金城は……
「私の考えが正しければ……」
と言って、ある場所に向かった。
「……ここは……西園寺さんの……」
そこには、西園寺の遺体が転がっていた。
「えぇ」
しかし、そこにあったはずのあるものがない。
「……」
月島はすぐに気づいた。
「カード……?」
「……」
すると金城は……
「私は食堂に戻ります」
「え?」
「有栖川さんも心配ですし」
とだけ言って、食堂に戻った。
「……え〜っと……?」
それを待っていたかのように、
「!?」
ゾロ子の入っていたモンスターボールが、激しく揺れ始めた。
「な、なんだよゾロ子……!」
誰もいないのを確認して、ゾロ子をモンスターボールから出す。
「呼ばれて飛び出て、イリュージョン!」
そして、女性の姿になった。
「もう!いつまでも待たせるから肩こっちゃった!和也。いい加減今回の事件のこと、話してくれない!?」
「……わかったよ。どうせ、俺だけじゃわかんねぇし」
全て話し終えたあと、ゾロ子は……
「……」
押し黙った。
「どうだ?わかんねぇだろ?さすがのお前でも」
「分かんないわね……」
「……」
心の中でガッツポーズをとる月島。
……いや、ガッツポーズをとるのもおかしいが。
「分かんないわね……」
「あれ?」
するとゾロ子は月島に顔を近づけ……
「あんたが主人公っていう立ち位置なのが。どうせなら金城さんに代わってもらったら?」
「……」
確かに金城は頭も切れるし、体もナイスバディだし、
そしてなにより主人公っぽい性格してるし。
なるほど、主人公より周りの人が有能な時って、あるあるだよね〜。うん。
野球漫画にしても、推理小説にしても、RPGにしても。
○ンガ○ロン○のモ○○マにしても……
「最後のはただのド○○もんじゃ〜〜〜!」
「あ、あんた……自分で頭に浮かべて何怒ってんの……?」
はい、正月の箱根駅伝バリの恒例行事です。
「なんだよお前!?わからない振りしていきなり毒舌とか……じゃあ最初から出てきて全部話しやがれコラ〜〜〜!」
「そ、それだとこの話盛り上がらないでしょ!?……読む人的な意味で……」
「あぁ確かに俺と金城さんじゃ違うよ!?俺なんて冴えない警察だし金城さんは冴えまくってる探偵だし……
何もかも違っていても一緒なのは上司が無能……」
そこで、
「!?」
脳に電流が走る。
「……違う?」
すると月島は……
「まさか、俺はこれが連続殺人だと思ってたのって……」
「えぇ。そこから違うってこと」