事件編
「ふわぁ〜あぁ……」
大あくびをする月島。それもそのはず。
「なんで徹夜明けの日に限って……」
月島はポケットから、あるものを取り出す。
それは、何者かから贈られてきた手紙だった。
〜ミアレ署 月島和也様へ〜
本来警察のお方に頼むのは筋違いかも知れませぬが、藁にもすがる思いでこの手紙を書かせていただきます。
明日、午後6時、パンプジン仮面を名乗る者が、有栖川家15代目当主、有栖川 嶺花(ありすがわ れいか)様を殺害すると、手紙が届いたのです。
警察に連絡をするならば、有栖川家そのものが亡きものになると思えと脅迫されたのですが、
数多くの事件を解決に導いてきたあなた様なら、犯人を止められる気がしたのです。
どうか、有栖川家を守るため、犯人を止めてください。よろしくお願いいたします。
この手紙の件は、くれぐれも内密にお願いします。 黒田 正典(くろだ まさのり)
「脅迫……ねぇ」
「信頼されているのはとてもいいことじゃない?このことを大樹が知ったら、きっと喜ぶと思うわ」
「いや、兄貴ならまず馬鹿にすると思うな。<図に乗るな>とかよ」
と、その時だ。
「ん?」
立っている金髪のお団子ヘアの女の子に、太っている男がカバンを擦り付けていた。しかも尻に。
「……」
顔を赤くしているが、女の子は声を上げずに耐えている。
「……」
すると月島は立ち上がったかと思うと……
ドカ!
「ぐえ!」
自分のカバンを男の頭にぶつけた。
「あぁ、失礼」
「ちっ……」
男はそのまま、女の子から離れた。
「……」
次の停留所で、男を含め、多くの客が降りた。
「なんだ、意外とかっこいいじゃない和也」
「うるせぇ。意外とは余計だ」
「あの」
するとさっきの女の子が、月島に話しかけてきた。
ゾロ子は慌ててゾロアークに変身する。
「先程はありがとうございました」
黒いスカートの裾を持ち、上品に頭を下げる。
「え?……あぁ。あれか」
一応月島はおどけた。
「まぁ、社会の常識って言うの?痴漢は許せないからね」
「……(なによ、微妙にかっこつけちゃって……)」
頬を膨らませるゾロ子。
それにしても気になるのは……
「……」
気品漂う佇まい。透き通るかのような白い肌。
そしてなにより、見事なプロポーション。
「……」
ビタ〜ン!
ゾロ子のじんつうりきで前に突っ伏す月島。
「あら……?」
会話をする月島と女の子。
「私の名前は金城 美緒(かねしろ みお)と申します。このミアレシティで、探偵をしております」
「探偵……ですか。となると素行の調査とか、浮気調査とかですか?」
「えぇ、まぁ。とはいえ最近は、妙な依頼も増えました。今回の依頼も……いえ、あなた方には関係ありませんね」
すると金城は、胸の内ポケットに手を伸ばす。
「ん?」
じっとそれを見る月島。
「どうしたのです?見とれているのですか?」
と、胸をもう一方の手で隠しながら金城は続ける。
「……いや、もしかして、君の目的地は俺の目的地と同じかも知れない」
「え?」
ミアレシティ郊外、山の中に、その家はあった。
有栖川邸。
「……でかい……」
なにか入りたくなくなりそうな、そんな威容すら感じる。
「さぁ、行きますよ。月島さん」
「え?……あ、あぁ」
月島と金城は、威容に負けないように扉の中に入っていった。
インターホンを押す月島。
「どなた様ですかな?」
「ミアレ署の月島 和也です。脅迫状の件でお呼びされました」
「おぉ、これはこれは……ただいま扉を開けますゆえ、少しお待ちを」
そのまま巨大なドアが開き、月島と金城は邸宅の中に入った。
その中も広く、様々な絵画が飾られていた。
「ようこそお越しくださいました。私が今回、あなたにご依頼をお伝えした、黒田 正典です。
そして……月島様と……」
「金城 美緒です。私も有栖川様からお手紙をいただいたのですが」
「おぉ、金城様。よくぞ参られました」
よくぞ参られた。そう言うほどなのだから名うての探偵なのだろう。
「嶺花お嬢様が食堂にてお待ちです。お二方、どうぞこちらへ」
家の中も、迷路のようで執事がいなければ迷うところだった。
そして食堂に入ると、そこに水色の髪をした女の子が座っている。
「ようこそお越しくださいました。月島さん、金城さん。私がこの有栖川家15代目当主、有栖川 嶺花です」
「金城 美緒です。よろしくお願いいたします」
挨拶もそこそこに、食堂の席に座る二人。
「有栖川さん。まずはこの脅迫状を俺と金城さんに贈るまでの経緯をお教え願います」
「はい。あれは……1週間前のことでした。私は、いつもと同じように中庭でスカッシュをしていたんです。
その時、空を飛んでいたドンカラスが、コートの中にくわえていた手紙を落としてきたのです。
それが……こちらです」
ら い し ゆ う の た ん じ よ う び き み の い の ち を い た だ く よ
パンプジン仮面
「来週の誕生日、君の命をいただくよ。か……」
「それ以外に、何か変わったことは?」
金城が聞くと、有栖川は首を横に振った。
「……では」
ぐぎゅるるるるる……
月島が何かを言おうとした瞬間、腹の音がなった。
「ん?」
「申し訳ありません……私です……」
と、金城。
「そういえば、まもなく午後の1時になりますわね。黒田さん。このお二方と皆様にお食事を」
「かしこまりました」
次から次へと、食事が運び込まれてくる。
「……」
その様子を、月島は黙って見ていた。
「……こ、こんな食事……久しく食ってねぇ……いや、生まれて初めてか」
さらにそこへ……
「失礼するわ」
「やっと飯の時間かよ……」
「お腹が減っては戦はできないね」
「……」
4人、見知らぬ人物が入ってきた。
「……金城さん、あの方たちは?」
「いえ、私は初めてお目にかかるのは3人……あら?」
そう、その中には金城を触っていた男がいた。
「あなたは……どうしてかような場所に!」
「うん?誰だお前?」
「とぼけないでください。私にバスの中でお会いしたはずですが」
「知らねぇよんなもん」
そう言うと男は座り、カメラのレンズを吹き始めた。
少しいきり立って、金城が男を追及する。
「あなたに、私は痴漢被害にあったのですが、なんならこのお方が証人です。この期に及んでシラをお切りになるつもりですか?」
「知らねぇっつってんだろ?いちいち触った奴の顔なんか覚えられっか」
歯を食いしばる。しかし月島は金城をなだめるように……
「やめときなよ。ああいう奴は怒るだけ損だ」
「……」
椅子に座りなおす金城。
「すいません、血が上りました」
「いや、君が悪いわけじゃないけど、他の人たちも見ているから」
そこへだ。
「君も、嶺花ちゃんに勝るとも劣らないかわいさだね」
「(うわ来たぞおい)」
ナルシストと見れば分かる、白いスーツを着た男がいた。
「僕は桐生 奏太(きりゅう そうた)。桐生財閥の御曹司さ。どうだい?今度の日曜日、僕と夜景の綺麗なレストランで、ディナーでも」
「見てお分かりになりませんか?私は今機嫌を害しているのです。そのような状況で食事にお誘いするなど、デリカシーも何もないようですね」
「うん。知ってるよ?だけど突っぱねた君の姿も、かわいいなぁって」
それだけを言うと桐生は踵を返し……
「まぁ僕は嶺花ちゃん一筋なんだけどね」
と言った。
「「ちっ」」
月島金城、ふたり仲良く舌打ち一回。
「……あの人ああ見えていいところもあるのよ?」
赤いドレスを着た女の人が言っている。
「あなたは?」
「私は浅野 由希奈(あさの ゆきな)彼の秘書です」
「……私は金城 美緒。有栖川さんとは友人にあたります」
嘘だが、探偵です。というわけにもいかない。
「俺は月島 和也。同じく有栖川さんの友人です」
犯人がまだ誰かもわからないのに、素行をばらすわけにはいかないからだ。
「まぁ誕生日パーティまでは時間がありそうだし、仲良くしましょうか」
「えぇ。お願いしますわ」
そして最後の一人。
「……」
「あの、あなたは」
恰幅のいい、額に傷がある。カタギのような男がいた。
「……」
男は何も言おうとはしない。
「……」
「……変わった人だな」
昼食を終える一行。
「ふぅ……」
金城は、腹をさすりながら幸せそうな笑みを見せた。
「……よく、食べるね」
「探偵というものは給料が安いですから、食べられる時に食べないと」
「給料ねぇ……」
そんな話をしていると、
「では、お次は……」
「おう、あれだな」
「えぇ、あれね」
一行が全員、口を揃えて「あれ」という。
「……あれ?」
中庭に行くと、そこにはリングのような文様が。
「……なるほど、ポケモンバトルか……」
そう、ポケモンバトルだ。
ここで一番勝利数を重ねた人物には、最高級の菓子折りが送られるという。
「……ゾロ子、ダメもとで出てみるか?」
「え、ダメもとなの?」
「もちろん。だってお前、戦闘とかあんまりしないだろ?」
「……それも、そうね」
ゾロ子はゾロアークに変身し、月島の隣に座り込んだ。
「それでは第1回戦。赤コーナーに金城 美緒様、青コーナーに西園寺 琢磨(さいおんじ たくま)様」
と、メイドの里中 留美(さとなか るみ)が紹介する。
先程美緒がいきり立っていた男だ。名前は西園寺 琢磨と言うらしい。
「行け、カイリュー」
西園寺はカイリューをだし、
「……ポケモンバトルは不得手なのですが……仕方ありませんね。ルチャブル」
金城はルチャブルを出した。
「カイリュー相手にルチャブルぅ!?やる気ないなら帰れっての!」
大笑いする西園寺に対し、金城は……
キッ……!
「すぐその減らず口を聞かせなくしてあげますわ?」
鋭い眼光を放ちながら、こう一言。
「ストーンエッジ!」
「カイリュー!げきりんで早々に……」
グサァ!
勝負は、
「アクロバット!」
バシバシバシ!
……ドシン……
一瞬だった。
アクロバットを受けると、カイリューは早々に倒れてしまった。
「勝者、金城様!」
「……」
圧倒的な力を見せつけ、ニコリと笑みを浮かべた。
もちろんこれは「ざまぁみろ」の意味で。
「……く、くそう……なんで……この日のために用意した特別なポケモンだぞぉ!?」
膝をついて悔しがる西園寺。
「それは残念でございましたわね。うふふ」
「(笑顔がこえぇよ金城さん……)」
「第二試合!嶺花お嬢様対月島様!」
「よし、行け、ゾロ子!」
月島はゾロ子を出す。
「では私は……おいで、マフォクシー!」
嶺花はマフォクシー。このまま行けば普通ならばゾロ子の圧勝だろう。
しかし、ゾロ子にはひとつだけ大きな欠点があった。
「ゾロ子!じんつうりきだ!」
「くあん!」
ビビビビビ……
「なかなかやりますね、マフォクシー、大丈夫?」
「マフォ!」
「じんつうりき!」
ビビビビビ……
「じんつうりき!」
ビビビビビ……
「じんつう……」
そう、ゾロ子、じんつうりき以外の技を一切使えない。
しかしそれでも天性の運か、それともゾロ子の実力か、マフォクシーは連続で怯み……
バタン。
その場に倒れた。
「あらあら、私の負けですわ。お見事な腕前ですわね」
この一言が、逆に申し訳なくなる。
「こういう戦法ならトゲキッスかメガガルーラでやりなさいよ!」
「知るかよ!兄貴がじんつうりき以外一切技覚えさせてないからしょうがねぇだろ!?」
しかし勝ちは勝ち。2回戦の相手を見てみると……
「……あ、2回戦は金城さんとか」
「えっちょっと待ちなさいよ。金城さんの手持ちルチャブルだったじゃない」
「あぁ。そうだけど?」
「……とびひざげりされる未来しか見えないんだけど」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
しばしの静寂。
「……お、おう。で、でもお前にはじんつうりきがあるだろ?それがあればなんとか……」
「とびひざげり!」
ドッゴォ!
「なるわけなかったね。うん」
木陰でゾロ子にきずぐすりを使いながら、残りの試合を観戦する月島。
「アホですかあんたは!一体どこをどうすればルチャブルに勝てるわけ!?じんつうりき撃とうにも相手の方が速いのは明らかでしょうが!」
「いや、主人公補正でなんとかなるかな〜。って」
「ならない!なり得ない!なるわけがない!今証明されたでしょうが!」
と、騒いでいるうちに。
「ごめんなさい月島さん。大丈夫でしたか?」
金城が歩いてくる。
「あぁいえ……しかし強いですね金城さん」
「えぇ。これでもポケモンリーグでチャンピオンになったこともあるんで、簡単には負けられませんからね」
と、金城はゾロ子を見て……
「……ここを強く蹴りましたからね、ここにきずぐすりを塗らないと……」
ゾロ子の額に、きずぐすりを塗る。
「ひっ……!」
「え?」
だが、ゾロ子には我慢できないようで……
「く……くすぐっ……」
「……?」
すると月島が……
「く……くすぐっしょ〜い!」
「……?」
鼻をさすりながらこう言った。
「へ、変なくしゃみが出てしまった……ご、ごめん。あ、あと俺がやるから!」
そう言って金城から逃げ出した。
「……変わったお方」
結果、優勝は金城に決まったらしい。
食堂では淡々と誕生日パーティの準備が続く。
里中が装飾を行い、華やかな様子になってきた。
「……あの、すいません」
そんな中月島が……
「はい?」
「と、トイレに行きたいんですけど、どこにありますかね?」
黒田にトイレの場所を聞いた。
「ここを出て、左側に。……そういえば金城様もご不浄に行かれたのに、随分と遅いようですね」
「?」
何か嫌な予感がする。月島はトイレに急いだ。
トイレに差し掛かると……
「!?」
月島は、窓の外を見ている金城を発見した。
「金城さん。黒田さんが心配してるよ。早く食堂に……」
しかし、金城はピクリとも動かない。
「金城さん?」
肩を叩くと……
フラ……バタン!
その場に金城は倒れ伏してしまった。
「……!?」
「あぁ〜スッキリしたっと。さて、僕のエンジェル嶺花ちゃんを……」
そこへ桐生が出てきて、
「!?」
鉢合わせ。
「え……あ、いや、その……こ、これは……ち、違うんです……」
「人殺しだぁ〜〜〜!」
その大声を聞いた西園寺以外の一行が、一斉にやってくる。
「ち、違う!俺が殺したんじゃない!肩に手が触れたら……その、えっと……」
「じゃあ誰が殺したって言うの?西園寺さん以外は、みんな食堂にいたのよ!?
西園寺さんはさっきメイドの里中さんが部屋にいるのを見たし、犯行はできないはずよ!?」
「だ、だから違うって!そもそも凶器はなんですか!?動機もないし!」
「動機ならあるじゃねぇか!お前さっき一撃でこの人にやられて……」
あーだこーだ言っていると……
「ん……」
「え?」
金城が目を覚ました。
「なんですか……みなさん……」
「し、死体が蘇ったぁ!?」
「ふぁ?」
「誠に、申し訳ありませんでした」
頭を下げる金城。
なんと彼女はトイレに行ったあと、外の空気を吸っているうちに眠ってしまったらしい。
「……まったく、ま、僕は人殺しなんてまずありえないって思ったけどね」
「(やべぇ、殴りたい)」
周りを見回す月島。
「そういえば、里中さんは?」
「ただいま、西園寺様をお呼びに向かっているところです。もうまもなく、西園寺様を伴って……」
ピカッ……!ゴロ〜〜〜ン!
「!?」
雷がなった。窓の外を見ると、大雨になっていた。
「……どうやら今夜は、荒れる様子らしいですわね。先程携帯電話で確認しました」
と、金城が言う。
「え〜?天気予報見てないから傘なんて持ってないわよ」
浅野はそういいながら外を見て、
「……!?」
絶句した。
「浅野さん?」
「い、い、今……窓の外に……人の影……!」
「!?」
それを聞いた月島と金城はダッシュ一番、外に向かって駆け出した。
そして食堂の窓があった場所に駆けつけると……
「!?」
そこには、変わり果てた男……西園寺の姿が。
倒れていた西園寺の背中の上に、カードが貼られていた。
さ あ て つ ぎ は だ れ を こ ろ そ う か な パンプジン仮面