解決編
学校の本館にて、話を続けている火川。
「では、今日はこのあたりで、明日も念のため、取り調べを……」
と、その時火川の携帯が。
「はい、もしもし?……あぁ、月島。……なっ」
何かを言おうとして、火川は止まった。
「……わ、わかった」
電話を切ると、火川は……
「みなさん、……山村さんが先程、お亡くなりになったそうです」
「えぇ!?」
それを聞いた瞬間、宇野は膝から崩れ落ちた。
「……春香……春香あぁぁぁぁ!」
そしてそのまま、地面に顔をつけて大声で泣いた。
「……」
歯を食いしばる綾瀬と柊。
グライダー部の部室……
「はぁっ……はぁっ……!」
ある人物が、何かを探している。
「どうして……どうしてないの……!?」
ガサガサ……
隅から隅まで物色するが、見つからない。
「どうして……?」
「どうして?当たり前でしょう。ここにはあなたの探しているものはないのですから」
「!?」
電気を点けると……
「柊 美冬さん」
「……」
柊は、じっと立っていた。
「ど、どういうことだ月島」
と、火川と綾瀬、宇野、亀山がやってくる。
「……今から話すのは、俺のある程度の推測も入りますが、まずは落ち着いて聞いてください」
柊さん。あなたは確かに、体育館へやってきた。
その途中で、あなたは体育館を飛び出した。
もちろん、山村さんを殺害するため。
あなたはグライダーの整備に使うトンカチと、そしてあるものをあらかじめ持ち出していたので、それを使い、体育館を抜け出す。
そしてあなたは、グライダー部の部室にやってくる。しかしそこで、思わぬ事態に襲われた。
ゴロゴロゴロ……ビカ〜〜〜ン!
「きゃあ!」
悲鳴とともに真っ暗になる、グライダー部の部室。停電です。
さすがの山村さんも焦ったのでしょう。ですが、一度残ると決めた以上、体育館に移動するわけにもいけません。
そして再び座り直した、そこで気付かれないように、あなたはドアをゆっくりと開け……
「……」
ゴス!
「ぐぅ……!」
カシャン!
スマホに夢中になっていた山村さんを殴る。
「はぁ……はぁ……」
しかしあなたは、凶器として使ったトンカチをどうするか、迷いました。
そこで、彼女のポケモンペリッパーを、凶器を運搬させる役として使った。
ポケモンに持たせるアイテム、くっつきバリをもたせ、ペリッパーを飛ばせる。
そうすれば、ペリッパーがくっつきバリで弱れば、どこかに凶器を吐き出す。
それで隠せる。そう思ったのでしょう。
そしてあなたは、先ほどと同じくあるものを持って体育館に入り、何食わぬ顔で俺の公演を受けた。
次に、綾瀬さんが山村さんを発見する時、あなたはどこにいたのか。
それは簡単です。この部屋の中にいたのです。
あなたが落としてしまった。くっつきバリを探すためにね。
ところが、探してもどこにもなかった。
そこへ綾瀬さんの足音が近づく。
するとあなたはある場所に隠れました。
このプレハブ小屋は内側に開きます。そこで、ちょうど死角になる部分があります。
「さて、それはどこでしょうか、綾瀬さん」
「え?……えっと……机の下ですか?」
「その場合、俺たちがやってきたあと、彼女はスムーズに俺たちに混じることが出来ません」
月島は歩き出す。
「おそらく柊さんは、ここに隠れたんです」
そこは、扉だった。
「何!?扉の中に異次元があるのか!?」
「いや、簡単ですよ。火川さん、ドアを開けてください」
「お、おう……」
ガチャ……
「な……」
すると扉の下の部分で、月島が隠れてしまった。
「なるほど、扉の近くなら、月島たちがやってきてもすぐに混じれるというわけだな」
「そういうことです」
「では、体育館を抜け出したことはどう説明する?」
「それは簡単ですよ」
月島は、あるものを見せた。
「これは、山村さんのブログです。その中で、この記事を見てください」
それは夏のインターハイの予選の前の写真だった。
ちょっと変身!
見てください!私の髪!金髪にイメチェンしたんですよ!
えへへ、嘘です。近所の貸衣装屋で、金髪のウィッグを買ったんです。
ちょっと……似合わないかなぁ……^^;
「犯人はこれを使ったんでしょう。もちろんそのまま使えば綾瀬さんか宇野さんにバレてしまう。
そこで犯人は、少しだけそれを切って使用しました。
俺が公演中抜け出したのは金髪と茶髪の子。そう言いましたよね?
その中にあなたも混じっていたんです。柊さん。その証拠に、入口にどなたにも一致しない金髪の髪の毛が見つかりました」
しかしここで火川。
「で、でもそれなら、綾瀬さんにも犯行が可能だったはず。なぜなら彼女は、キャプテンになれなかった頃からずっと無気力だったのだろう?」
「確かにそうです。しかし火川さん。本当に綾瀬さんは、キャプテンになれなかったから無気力になったのでしょうか?」
月島は綾瀬に口を開けるよう促すと、綾瀬は大きく口を開けた。
「宇野さん」
「……?」
宇野がその中を覗くと……
「虫歯?!」
「そう、彼女は虫歯を患っていたんです。口の中を痛みが走っているあなたが、練習に身が入らないのも無理はない」
さらに月島は続ける。
「彼女はそれでも、心配をかけまいとして皆さんに言わなかったんです。ですが、山村さんはわかっていた。
あなたたちに最初に出会った時、砂糖がテーブルの上にあったんですが、
その時、椅子に座っていた位置とそのままの位置ならば、あなた方が座っていた席に、一箇所だけ砂糖がありませんでした。
それが、綾瀬さん、あなたの座っていた席です。あらぬ疑いをかけたことをお許し下さい」
「……」
すると柊は、涙ぐんだ。
「……柊さん。つまり、綾瀬さんとずっと俺と同じ場所にいた宇野さんには犯行は不可能なんです。
どうか……自供していただけませんか」
「美冬」「美冬さん……」
綾瀬と宇野の言葉に、柊はついに口を開いた。
「……はい。私が……山村先輩を……このっ……手で……!」
「柊ぃ!貴様ァ!」
亀山が殴りかかるが……
「お待ちを、まだ話は終わっていません」
と、睨みつける月島。
「……柊さん、あなたはどうしてこんな行動に出たんですか?」
「……許せなかったんです……山村先輩が……」
「設計図を破られたこと、ですか?」
首を横に振る。
「あの人は……インターハイの予選に出る前に私が設計図を見せたら私が見ている前で、それをビリビリに破りました。
そして、予選……私たちのチームは早々に脱落……その時あの人は言ったんです……」
「でも、美冬ちゃんの機体じゃなくてよかった。あれに乗ってたら、もっとひどいことになったかも知れないもんね」
「……それが、許せなかったんです……私が苦労して……3日かけてアイデアを練って書いた設計図を……あの人は……
まるでゴミクズでも扱うかのように……!」
「……」
「だから闇討ちに近い形であの人を私が……!抵抗されないように……私が……!」
すると月島は、
「柊さん。あなたは多くの勘違いをしていますよ」
「え……!」
「これを」
月島が写真を見せる。それはくっつきバリだった。
「あなたが探していたのは、このくっつきバリでは?」
「そんな、でも、どこで……」
「山村さんが持っていたんです。おそらく、あなたの持ち物であることを知っていた彼女は、あなたに疑いがかかるのを避けたかったんでしょう。
最後の力を振り絞って、それを拾い、スカートのポケットに入れたんです」
しかし柊は、唖然とした様子をしていた。
「まだ、疑っているんですか。では次に、山村さんの言葉の意味を考えてみましょうか」
再び携帯を取り出す。
「これは、山村さんがインターハイの予選で敗北した時の記事の様子です。見てください。この表情を」
何とかして笑みを浮かべる山村。
「……これは……?」
「彼女はおそらく、足に何らかの違和感を持っていたはずです」
「え……?」
写真の下を拡大。
「見てください。左足が、つま先立ちしているようにも見えませんか?」
「そ、それは……彼女がおどけて……」
「彼女は写真写りは必ずおどける様子はありませんでした。他の記事を見てもそれは明らかです」
ショッピングに行った記事や、練習に励む記事でも、至極真面目な顔をして自分撮りをしている山村の姿。
「山村さんの乗った機体が、離陸早々に墜落した理由は、おそらく人力飛行型の飛行機でペダルを漕ごうとした瞬間……
足に激痛が走り、それ以上ペダルを回すことが出来なかったことが原因です。
あなたはもっとひどいことになっていた、その言葉を、山村さんが自分自身に言った言葉と勘違いしているようですが、
山村さんは、あなたのことを思ってそういった言葉です。
ひどいことになる、とは、あなたが責められ、山村さん以外のチームがまるでダメだという声が出るのを避けるため。
山村さんは、自分自身を自虐してそう言ったのです」
「ち、違う!あの人は……私のことを……」
すると月島は突然声を荒らげ、
「じゃあ聞くが、君は本当に山村さんに気付かれずに犯行ができたと思っているのか!?」
「え……!」
「……宇野さん、綾瀬さん、協力していただけますか?」
月島は宇野を椅子に座らせ、すぐ後ろに綾瀬を立たせた。
「では宇野さん、その場でスマートフォンを点けていただけますか?」
「は、はい」
「そして綾瀬さん、右手を振り上げてください」
「え?……えぇ」
そのようにポーズを取ったあと、
「……では、電気を消しましょう」
カチ……
「!?」
そこには、スマートフォンの明かりに映る、綾瀬の腕の影が。
「これが、山村さんの真相です」
「月島先輩!」
そこへ日野がやってきた。
「先程依頼された、山村さんの携帯のデータの復元、完了しました」
「ありがとう。……これをご覧下さい」
そこには、こう書かれていた。
〜我慢の限界〜
また今日も、同じ部の後輩の設計図を破るように顧問の先生に言われた。
だけど、私はあの機体を評価する。
だって、あの子……いつも頑張って設計図を書いてくれますもん。
私みたいなどうしようもない、キャプテンのために。
それを否定する顧問の先生。
ずっとずっと我慢してきたんだけど、もう限界が来ちゃいました。
これ以上彼女の努力を無駄にするような真似をするなら、私はこのグライダー部をやめます。
そして、あの子に謝ります。「本当にごめん」って。
あの子が許してくれるかどう
「……このブログの投稿中に、あなたに殴られたんです。あなたは腕時計を右手に付けている。
利き腕が右手なら、腕時計を右手に普通はつけない。
左利きなのはあなただけなんですよ、柊さん。
彼女は、スマートフォンでブログに書こうとしたんです。今回のことを、
そして、スマートフォンの明かりに映ったあなたの腕を見た瞬間……」
「……」
ゴス……!
「彼女はあなたの背負ってきた全ての心の闇を悟り、抵抗しなかったんです。
あなたが右手で殴ったのは、疑われないようにするため、ですよ」
「……」
柊から、目の光が消える。
「俺が彼女に駆け寄った時、彼女は俺に<かべ>と言いました。それは入口で身を隠している、あなたに注意が行かないようにするため。
彼女はこの事件を闇に葬り去ろうとしたんです。
今までずっと苦労をかけてきた……あなたが、疑われないように」
「……や……や……山村……先輩……!」
そして膝から崩れ落ちる柊。
「貴様……!」
亀山が柊の胸ぐらをつかむ。
「泣いて済む問題だと思ってるのか!よくも俺が丹精込めて仕立て上げたうちの部のエースを……!」
それを見た月島の怒りが頂点に達した。
「一番の元凶は……」
ドッゴォ!
「てめぇだろうがぁ!」
右の頬を力強く一発。
「てめぇがそもそも、柊さんを追い詰めるような真似をしなかったら、柊さんはこんな凶行に走ることはなかったさ!
丹精込めて仕立て上げたエース……?笑わせるんじゃねぇ!
誰か一人をひいきにして、そいつ以外のやつをとことん追い詰めるような奴に、
教鞭をとる資格も!わかったような口を聞く資格も!何にもねぇんだよ!」
「山村がそんなことを思っていると思うか!あいつは俺が仕立て上げた絶対的なエースだぞ!?足を向けて眠れんくらいの恩は感じている!
俺が言うから間違いねぇんだよ!」
「……」
すると、火川が、
「もういいですかな?亀山さん」
「何が!?」
カチャ!
「!?」
「あなたが学校の修繕費を使い、ギャンブルに走っていたことはすでにこちらの捜査で明らかです。
署までご同行お願いしますね」
「……く、くそう……!なんで分かったんだぁ……!?」
そのまま火川に連行されていく亀山。
「……さて、柊さん。あなたにもうひとつ、見せたいものがあります」
「え……?」
それは、設計図だった。
右下には、山村のイニシャルであるY.Hと書いてある。
「何か、違和感を感じませんか?この設計図に」
「……!?」
そう、その設計図は……
「わ、私の……!」
「彼女はあなたの設計図を捨てていなかったんです。破り捨てていたのは、おそらく自分自身の設計図。
亀山先生に発見されては、あなたが何を言われるかわからない。そう思った彼女は、修正液でイニシャルだけを変えました。
その証拠に、この設計図を裏返し、明かりにかざすと……」
H.M。柊 美冬。
「……」
「どうですか?柊さん。彼女があなたに、殴られる理由はあれど、それが間違いだということに、気付けましたか?
……彼女はペリッパーのあめうけざらのように、あなたから、不幸を受け止めたかったんです」
「う……うぅ……!」
柊は、設計図をギュッと握り締め……
「うあああぁぁぁぁぁぁ!」
大声でむせび泣いた。
「……」
落ち着いたところで、連行しようとする月島。
「あぁ、そうだ。大事なことを言い忘れていた」
「え?」
「山村さんが死んだというのは、嘘ですよ」
しばらく静寂がつつむ。
「先程連絡が入り、意識が回復したそうです。特に脳に障害が残っているわけでもなく、打撲だけのようですよ」
それを聞いた綾瀬と宇野は……
「「やった〜!」」
喜びの声を上げた。
「……よ、よかった……よかった……!」
柊は涙を流した。
「まだ死んでいない山村さんを、勝手に死んだことにしたことは謝ります。ですが……
ここで、犯人を明かしておかないと、柊さんはもちろん、あなた方も一生重いものを背負って生きないといけない。そう思ったんです」
翌日……
「では、示談成立による不起訴。それでよろしいですね?」
警察病院の個室で、月島と山村が会話をしていた。
「お願いします」
「ですが、彼女は殺すつもりはなかったとはいえ、あなたは命の危機に襲われたのです。それなのに不起訴で本当によいのですか?」
「私が言うだけでは、ダメですか?」
目を点にする月島。
「……だって、美冬ちゃんを追い詰めたのは、亀山先生と私なんです。
だから私は、これ以上美冬ちゃんを責めないし、責めたくない。
私のことを美冬ちゃんが許してくれるなら、私は美冬ちゃんを許しますよ。それに……」
山村はこめかみに手をあて、
「また、今までとと同じようにみんなで私は飛びたい」
「……ですね」
それから二ヶ月後。
「続いて参りましょう。<秋なのに、(春)一番>
コウジンタウンで行われた春季バードヒューマン大会。階段から落ちたケガから復帰した、山村 春香さん。
機体が飛んだっ!グングン伸びる!よし行けっ!よし行けっ!ぐっと行けっ!……まだ行くっ!」
ザバン……
「ここで着水。2位の記録がかすむほどの大飛行。南鳳高校が1位と……いうわけですね」
テレビには、山村のインタビューが映し出されていた。
「私一人の力なんかじゃありません。どんな時も、仲間がいたから、私はここまで飛べたんです。
これからも、私はみんながいるから、どこまでもどこまでも飛べる気がするんです!」
「おみごとでしょうこれは!もう大おみごとですよ!」
テレビ番組だ。
「本当に仲がいいな、あの4人」
「えぇ。本当に。今回の事件以降、また仲がよくなった気がするわ」
「で?」
月島は、テーブルに目をやる。
「お前、卵焼き7つ食っただろ。一人5個って言ったはずだぞおい!」
「あれ〜?そうだっけ〜?友達の話じゃないし、忘れてた〜」
「友達じゃねぇのかよ俺は!ちくしょう!」
「だって、もう恋人みたいじゃない?あたしたち」
ゾロ子の言葉にドキッとする。
「バ〜カ。冗談よ。早く食べないと、遅刻するわよ?」
「バ〜カは余計だバ〜カは!もう知らん!お前なんかきらいだ!」
「ふふふ……」
月島は食事を口に流し込んだあと、ゾロ子を置いて出て行った。
「あ〜、待ってよ〜!」
ゾロ子は慌てて、そのあとを追いかけた。
月島の顔には、少しだけ笑みが浮かんでいた。