捜査編
「被害者は山村 春香さん、17歳。このグライダー部のキャプテンだそうです。
おそらく血の付き方から、鈍器により殴打されたのかと」
「殴打か……ちなみに被害者は?」
「先程、病院に搬送しました」
火川が部屋の中を歩き回る。
「しかし……この部屋は熱いな。クーラーもなにもないのか」
「おそらく、先程この付近で落ちた雷により、停電したものかと。復旧にはまだ時間がかかるようです」
部屋の中には、2匹のランターンがいた。明かりの代わりだ。
「第一発見者は」
そう火川が言うので、月島は指さした。
「あなたですね。えっと、名前は……」
「はい、綾瀬 夏美(あやせ なつみ)グライダー部の副キャプテンです」
「申し訳ありませんが、念のため山村さんを発見した時の状況をできるだけ詳しく説明してください」
「う、疑っているんですか!?」
怯える綾瀬。
「いえ、念のためと言ったはずです」
「あ……はい。あれは、あなたの公演を見たあとです。あたしは泣いている美冬をようやくなだめて、その後まっすぐ体育館に向かいました。
そして公演が始まってからは一歩も動いていません。
その後、体育館にこなかった春香を心配して、部室に戻ったんです。そしたら、部室の中で春香が倒れていて……
時間は間違いありません。千秋を体育館に呼びに行く前のことです」
「公演?月島が?」
火川が目を真ん丸と。
「俺、この高校の卒業生なんです。今日は<犯罪から身を守るために>というテーマで体育館で公演を行いました。
体育館に入っている生徒は、途中で抜け出す生徒もいましたが、みんな金髪や茶髪の子ばかり。
つまり綾瀬さんは、途中で抜け出すことは出来なかったはずです。……念のため、体育館に行く前の行動も教えていただけませんか?」
「美冬をなだめて、美冬と一緒に体育館へまっすぐ向かいました。証人は……美冬が。
あ、でも、忘れ物を取りに一度だけ戻りましたけど、その時は春香は座って、何かを書いているようでした」
頷く月島。
「何かを書いていた……それは確かですね?」
「はい」
「つまり、あなたには犯行が可能というわけだ」
火川が突っ込む。
「え?え?」
「だってそうじゃないですか。忘れ物をした拍子に、戻って来てそこで山村さんと言い合いになり、もみ合いの果てに殴り殺した!
と、言うのであれば、あなたにも可能なはずですよ。犯行が」
「そういえば夏美、あなた春香を恨んでいたわね。知っているのよ。あなたが副キャプテンになってから、まるでやる気を見せていないのを」
と、宇野。
「第一発見者が犯人というのはよくあるケースではありますね」
「ま、待ってください!あ、あたしが春香を殺すなんて、そんなこと……」
すると火川が、
「続きは署で聞こう」
「えぇ!?」
「これで第三話終了!ってね!」
若干のメタ発言が飛び出したところで、月島が日野に説明を求める。
「あ、あの……鑑定した結果、山村さんの体からは、皮膚組織も、繊維物質も見つかりませんでした……」
「え?」
「もみ合いになったのなら、何らかの物質が山村さんの爪の中に残るはずと言っているんです」
「……」
そう突っ込まれると、火川は急に改まって。
「そ、そうということはわかっていたよ!うん!」
咳払いをして、
「あとで謝っておいてくださいよ。火川さん。では次は……あなたの話を聞かせてください」
黒髪の女の子を見る月島。
「私は……柊 美冬(ひいらぎ みふゆ)グライダー部の……1年生です……
山村先輩とは……1年後輩にあたります……
私は……綾瀬先輩が言う通り、ずっと泣いていて……体育館に行くのが少し遅れてしまったんです……」
「泣いていたって、どういう理由ですか?」
「顧問の亀山先生に怒られたんです……いい加減な設計図ばかりを書いてくるなって……」
ぽかんとする日野に、月島が説明。
「彼女が書いてきた設計図を、顧問の先生が怒ったんだよ。彼女、何回も自分が設計した設計図を破られているらしい」
「つまり、あなたにも犯行が可能というわけだ!」
またしゃしゃり出る火川。
「えぇ……?」
「設計図を破られたことに腹を立て、山村さんを殺害したんだろう!そうだ!そうに違いない!」
「そ、そんな……山村先輩を恨んでいたなんて……」
しかしそんな言葉を聞く前に、
「続きは、署で聞こう……」
いわゆる、天丼である。
「少し話を聞いてくれますか?火川さん」
「え?」
「彼女は何度も、設計図を破られているそうです。俺、見たんです。初めてこの部室に来た時に、
<はぁ、これで何枚目なんだろう>と言っていた春香さんを」
「そ、そうだとも!積もりに積もった怒りがついに爆発し……どうだ!?」
ぽかんとする月島と日野。
「な、何だ、その目は」
「決め打ちにもほどがありますねと思いまして。大体まだ山村さん死んでませんから。
そもそも俺の公演を一度も抜け出していないし、凶器がまだ発見されていないのに彼女はどうやって山村さんを殺したんですか」
「え〜っと……?……と、とにかく、俺はダメな推理を披露したかっただけ!ここから本気出す!」
ここから本気出す=出さない。そう思った月島だった。
「……しかし……」
「どうしたんですか?先輩」
「気になるのは発見されない凶器と、山村さんが意識を失う前に言っていた<かべ>という言葉だ」
「かべ?」
日野が壁を調べ始める。
「そういえば、顧問の亀山先生って人に聞き込みを忘れてた。日野、悪いけど火川さんと一緒に現場検証の続きを頼む」
「は、はい!」
外に出る月島。
「……満足か?ゾロ子」
小屋の影に隠れ、クレープを食べているゾロ子を発見。
「ん?うん」
「ちょっと職員室に行ってくる。お前は一応、モンスターボールに入っててくれ、あとで捜査結果を言うから」
「わかったわ」
「何だ?」
先程出会った男に会う月島。
「先程、グライダー部の部室にて事件が発生しまして、主将の山村さんが後頭部を殴打され」
「貴様がやったのか!?」
警察手帳を見せつけるように出す。
「申し遅れました。俺はミアレ署の月島 和也と言うものです」
「ほう?まるで俺が犯人とでも言いたげだな」
「いえ?別にあなたが犯人だとは思っていませんが?……それよりあなたのお名前を」
「バカバカしい。なら帰れ!犯人を見つけたら俺が八つ裂きにしてやる!」
流石に横柄が過ぎる男に対し、月島は、
「あなた以外の関係者はみんな、聴取に応じてくれました。あなたが聴取に応じなければ、一番の疑いはあなたにかかるのですが?」
と、できる限り冷酷に言う。
「……ちっ!俺は亀山 明憲(かめやま あきのり)グライダー部の顧問だ!」
「では、あなたの行動を、念のためお聞かせくださいませんか?」
「俺はグライダー部を覗いてから、ずっと職員室にいたんだ!証人はここに多くいる!聞けばいいだろう!?」
「ちなみに山村さんが襲われたのは、どなたから聞いたんです?」
「さっき出会ったヒゲはやしたおっさんからだよ!」
ヒゲはやしたおっさん……?
「……」
あぁ、火川か。
そう思ったところで話を戻す。
「では、山村さんを恨んでいたような人はいませんでしたか?」
「知るかよ。俺が山村をグライダー部のキャプテンとして育て上げたんだ。あいつは誰からも好かれる奴だった!」
「ふむ……では、山村さんの最近変わったところは?」
「んなもんない!……いや、待てよ」
亀山は急に考え込み……
「あいつ、最近ブログを始めたって言ってたな」
「ブログ……?」
「あぁ。一応あいつはミス南鳳でもあるからな、メディアからも注目されているんだよ。
もしかしたら、そいつを妬んだ奴が山村を殴ったのかもな」
鼻息が荒くなる亀山。
「……?」
しかし月島は、亀山の机の上に競馬新聞が乗ってあることに気づいた。
「……ふん。俺が知っているのはそれだけだ。分かったならとっとと帰れ!」
「……」
すると月島は職員室の外で突然ゾロアークを出し、
「……」
ビタン!
「ぐえっ!」
亀山にじんつうりき。
「……」
ゾロ子に対し指を立てた。
事件現場に戻ってきた月島。
「何か分かったか?」
「あぁ、先輩。ダメです。壁からは指紋も血痕も検出されませんでした。
念のため黒板も調べてみたんですが……」
「発見されなかったのか」
こくりと頷く日野。
「あ、でも」
日野が袋に入ったトンカチを出す。
「これが、中庭に落ちていました」
「中庭!?」
「はい、しかも、ペリッパーが近くを飛んでいたんです」
モンスターボールから、ペリッパーを出す日野。
それを調べると……
ペリッパー 親:はるか 技:たくわえる そらをとぶ ねっとう
まさか、ペリッパーが凶器を運んだのか?
そう考える月島。
「そう、ペリッパーが凶器を運んだんだそうに違いない!つ・ま・り!」
突然しゃしゃり出る火川。あ、このトリックは違うなと、反射的に分かる。
「宇野さん!あなたにも犯行が可能というわけだ!」
「えぇ!?」
「続きは署で聞こう」
「いや、ちょっと、私だけ展開が早くないですか!?」
月島、軽く咳払い。
「彼女は公演が始まる前からずっと俺の近くにいたんです。そんな彼女がどうやって山村さんを襲うことが出来るんですか」
「そ、それはその……ペリッパーを使って……さぁ……」
「そんなラジコンじゃあるまいし、大体はきだすを覚えていないペリッパーがどうやって凶器を落としたんですか」
「火川さん!」
警察の一人がやってきて、
「先程山村さんの制服のスカートのポケットから、こんなものが」
それは、ちいさな装飾品のようなものだった。
「これは……?いて」
ところどころ尖っていて、手に持つには少し持ちにくい。
「……一体これは……?」
「あ、そうだ。月島先輩」
さらに日野。
「先程この部室の入り口付近で、こんなものが」
金髪の髪の毛が一本。
「金髪?……ちょっと待て。綾瀬さん、宇野さん、柊さん、そして山村さん。全員髪の毛は金色じゃない。じゃあこの髪は……」
「わかったぞ!ついにわかったぞ!犯人が!」
……火川の推理は、このグライダー部に関係のない人物の犯行。と言うものだったが、
無駄に長い上に全然的を得ていない推理だったので、カットさせていただきます。
「で、今に至る。ってわけなのね」
体育館の裏にやってきた二人。
「……あぁ」
考えを巡らせている様子のゾロ子。
「お前、大体なんで事件現場に来ようともしなかったんだよ」
「そりゃもちろん。食べ物を食べたかったし。あぁ〜、あの停電さえなければなぁ……もう一回クレープ食べられたのに……」
「ちっ。俺はずっと、推理詰めなのによ」
「そう言う割には、和也ずっと携帯を見てるけど……」
と、言うので、和也はゾロ子にブログを見せることにした。
「見ろよ。山村さんのブログ」
〜ちょっと変身!〜
見てください!私の髪!金髪にイメチェンしたんですよ!
えへへ、嘘です。近所の貸衣装屋で、金髪のウィッグを買ったんです。
ちょっと……似合わないかなぁ……^^;
〜インターハイ、終了!〜
はい、負けちゃいました。
でも、私たちは一生懸命がんばりました。
みんなみんな、一生懸命頑張ったから、それがこの結果につながったんだと思う。
みんな、ありがとう。本当に、お疲れ様。
……でも、やっぱ悔しい!Σ( >△<)ノ
今日は悔しさに打ちひしがれながら、寝ようと思います!
……なんてね。とにかく疲れたから、今日は早く寝ます。
秋季大会こそ、飛びまくりたいなぁ……
手がかりとなる記事は、これぐらいだった。
インターハイの記事は何とかして笑みを作ろうとしている山村の写真と、顔を隠したグライダー部の写真で締められていた。
ゾロ子は少しだけ表情を固くして、
「和也はもう、推理が出来たの?」
「あぁ。大体はな。だけど証拠がないんだ……」
「証拠?」
月島はこう言った。
「おそらく犯人は、このグライダー部に恨みを持つ女性だろう。……今日は長くなりそうだ。また聞き込みを始めないと……」
するとゾロ子は突然、月島ににじり寄った。
「な。なんだよ」
「あのね、和也……」
「グライダー部だけに、あんたの頭まで水平線に向かって飛んで行っちゃったの?」
「……」
水平線。うん。確かにバードヒューマンコンテストは海に向かって飛ぶね。
アズール湾からテイクオフ。そして着水するまでの距離を競う。
それと同じように、俺の頭がテイク……
「俺の頭はいつもオンじゃ〜!」
もはや恒例行事。
「てめぇふざけんのもいい加減にしろ!誰が脳だけバードヒューマンだこら!次言ったら逃がすぞって言ったはずだぞおら〜!」
「へ、変なことを言ったのは謝るわ!だけど脳だけバードヒューマンとも次言ったら逃がすとも言ってないでしょ!」
「それともなんだ!?お前は俺はおかしいとでも言いたいのか!?俺はちゃんと髪、頭蓋骨、脳ってなってるって……」
と、ここで……
「!?」
月島の脳に、電流が走った。
「……髪……?」
少し考えたあと、
「……なぁ、あの髪の毛って……」
「えぇ、おそらくね」
一通り話し終えたあと、ゾロ子は腰に手を当てた。
「でも、仮にそうであるとしても、犯人は自分から名乗り出てくれるのか?」
「いいや?名乗り出る前に、多分犯人はこう言えば、尻尾を出してくれるはずだよ。
犯人、多分山村さんを殺す気はなかったはずだしね」
「……まぁ、な」
月島は携帯電話を開く。そこには山村のブログが書いてあった。
「……でも、悲しい事件でもあるな……」