事件編
南鳳高校(なんおうこうこう)。
ミアレシティ有数のスポーツ校であり、偏差値もやや高め。
そこに、月島とゾロ子がやって来た。
「……変わってねぇな。今も昔も」
そう、南鳳高校は月島の母校でもある。
「そういえば和也って、何かスポーツやってたの?」
「いや、俺は何も。モロ帰宅部だったさ」
「残念ね。高校野球とか、高校駅伝とか、バードヒューマンコンテストとかでもよく見るのに。そんな高校で何もしないなんて」
「それ以上言ったら逃がす」
そう言いつつも、
「……(あのことは絶対隠し通さねぇとなぁ……)」
「ん?」
「何でもない」
と、そこへ、
「あ、すいません。月島 和也さんですよね?」
長いオレンジ色の髪の女の子がやってきた。慌ててゾロアークに戻るゾロ子。
「そうですが、あなたが今回俺に招待状を送ってくれた人ですか?」
「はい。宇野 千秋(うの ちあき)生徒会の副会長をやらせてもらっております。
卒業生であり、警察官である、あなたのお言葉を拝謁賜りたく存じ、今回手紙を送らせてもらいました」
そう、月島がここへやって来た理由は、文化祭での公演。
犯罪から身を守るために というタイトルで公演するために呼ばれた。
「……で、俺の公演まではまだ時間がありますよね」
「はい。現在時刻は10時10分48秒。あなたの公演まで、あと2時間29分12秒ございます」
「そ、そうか……なら、ちょっと校舎の中を覗いてくる」
「えぇ、どうぞごゆっくり、様々な出し物がありますわ。その中でも……」
すると宇野は、突然制服を脱ぎ捨て、
「グライダー部がおすすめですわ」
「……」
体操服姿になった。
「グライダー部がおすすめですわ」
「わ、わかったから、人を前にいきなりドキッとするような真似は控えてくれ……」
宇野から手紙まで貰い、仕方なくグライダー部に向かうしかなかった。
「……まいったなぁ。ああいう人が生徒会の副会長だなんて、この学校大丈夫か?」
と、話してみると……
「ゾロ子?」
ゾロ子の姿がない。
「……ちっ、どこへ行きやがったあいつ」
仕方なく学校内を探し回る。そしてグライダー部の部室がある、プレハブ小屋の前にやってきた時だ。
ガチャ……
「……?」
ピンク色の髪の、サイドアップポニーの女の子。
「はぁ……これで、何枚目なんだろう」
ビリ!ビリ!
何かの紙を、破り捨てていた。
「……あ」
こちらに気づいたようだ。
「どなた、ですか?」
「あ、いやその、宇野って人から手紙を預かって……」
「ちあきっちからですか?あ、なら今部室の中にいますよ」
ガチャ……
「みんな、ちょっと聞いて」
女の子が言うと、部室にいる他の女の子全員が月島に視線を向けた。
全員、と言っても、女の子を除いて3人しかいないが。
「こちらが、今日体育館で公演をなさる、月島 和也さん。たまたまこの近くを通りかかったみたい」
「あ、はは……ど、どうも」
すると……
「春香。勝手に部室に人を入れたら、またカメが怒るよ?」
緑色の髪の女の子がそういう。
「えへへ、きっと大丈夫。だって亀山先生なら今、職員室にいるはずだから」
「……」
「あ、すいません。私としたことが、自己紹介を……私は山村 春香(やまむら はるか)一応、このグライダー部のキャプテンです。
……まぁ、私がキャプテンなんておこがましいんですけどね」
山村は月島を椅子に座らせると、
「紅茶、お入れしましょうか」
「いや、いいよ。ちょっと人を探してて、そんなに長くいないと思うから」
「人……ですか?」
「あぁ、青い髪をした、黒いボディースーツを着た人」
すると、
「そのお方なら……先程見ましたけど……」
黒い髪の女の子がそういう。
「それは本当?美冬ちゃん」
「はい……先程、焼きそばを食べていたような気が……」
「あいつ……」
月島は急いで立ち上がり、猛スピードで走り出した。
天気はどんよりとしていて、今にも雨が降り出しそうだった。
そんな中、噴水が吹き上がる中庭で、ゾロ子を発見。
「いいから来るんだよゾロ子!」
「嫌よ!あとたこ焼きと焼き鳥とクレープ食べるんだから!」
「食い意地張り過ぎなんだよお前は!逃がすぞ!」
「今逃すは関係ないでしょ!?」
で、プレハブ小屋に戻ってくる。
「まったく……いいか?外に出といてもいいからゾロアークには戻るなよ」
「わかったわよ。あとで買ってよね。……クレープだけでも」
ドアノブに手をかけた時だ。
「どういうつもりだお前は!その男が仮に凶悪な変質者だったら、山村の命が危うかったんだぞ!?」
「……申し訳ありません。浅はかな、考えでした」
「まったく、今日のお前たちは何なんだ。柊はいい加減な設計図は書くわ、綾瀬は俺のコーヒー豆を買い忘れるわ、
そしてお前は勝手に男にここに来るよう促すわ……山村みたいに少しは真面目にやれ!」
男の怒鳴り声だ。
「言っておくが、ブログとかに俺のことを書いてみろ。見つけた瞬間、お前たちのクビを飛ばしてやるからな」
ガチャ!
「……」
一応身を隠す。
「……」
ズテン!
「ぐえっ!」
何故か転倒する男。しかしすっと立ち、そのまま歩いて行った。
「……お前、なにした」
これがゾロ子の仕業だと、すぐわかった。
「じんつうりき。なんとな〜く腹が立ったから」
ドアを開ける月島。
黒髪の女の子が号泣しており、それを緑髪の女の子が励ましている。
黒髪の女の子の右側に立つ山村と宇野は腕組みをしたままだ。
テーブルの上には、紅茶が入っていたコップ4つと、空のカップ。そして袋入りの砂糖が4つ。
「……あの〜……」
「あ、先ほどの。探していた人は見つかりましたか?」
「いや、見つかったけど、何かあったのかい?」
そう言うと、山村は黙ってしまった。
「言えないことか、ごめんね」
「いえ、あなたが謝ることないですよ。それより……」
山村が、黒髪の女の子の腕時計を見る。
「もう、1時30分になりますよ」
「あら、いけませんわね。あなたの公演の時刻まで、あと20分と21秒しかありませんわ。そろそろ体育館に移動しましょう」
「では、案内してくれるかな?」
「えぇ、もちろん。あなたたちは?」
と、宇野が聞く。
「私はここに残るよ。明日発表するビデオの編集をしないとね」
「あたしもここに残る、美冬を何とかしないと」
「そう、では、月島さんお願いします」
体育館に向かう途中。
「へぇ。山村さんとあなたが幼馴染、ですか」
月島と宇野、そしてゾロ子が歩いている。
「えぇ。幼稚園のころから、春香とはいつも遊んでいました。
彼女、昔から責任感が人一倍強くって、練習もストイックにしていたんです。
いつしか彼女は、超高校級のパイロットとして、テレビなどにも注目されていました。
そして今年のグライダーのインターハイ予選。彼女は自分自身が設計した機に乗り込みました。
ところが、彼女の機は早々に墜落、整備が足りなかったんです。
整備を任された夏美は、大変に落ち込んだんですけど、彼女は<君のせいじゃないよ。悪いのは全部私>と、励ましました。
誰からも尊敬されて、誰にでも等しく接する……私はそんな春香が大好きなんです。
あ、もちろんこれは、変な意味じゃないですよ?」
そういえば山村の足は鍛えられていた。おそらく、彼女が練習をしっかりしている証明だろう。
「ですが……」
「ですが?」
「夏美は春香がキャプテンになったあと、急に無気力になったんです。今まではずっと、笑顔が絶えない子だったのに……
美冬も、春香にグライダーの設計図を見せては、それを破られて……私はキャプテンになった瞬間。人が変わったように見えたんです」
顎に手を当てる。
ゴン!
「いで!」
「あぁ、目の前危ないですよ」
「そういうことは先に言ってくれ……」
口に手を当て笑うゾロ子。
「……(あとで覚えてろよ……)」
「失礼ですが、あなたは?」
するとゾロ子は、
「この人、和也の愛」
「わ〜!わ〜!わ〜!」
「をたっぷり受けて育った、妹で〜す♪」
「……」
早とちりしすぎた。反射的にそう思った。
公演は無事終了。内容はごく平凡で、特に面白みもなかったので省略。
「おい、一言多いぞ」
「月島さん。これからどういたします?」
「そうだなぁ……」
と、その時だ。
「はぁっ……はぁっ……!」
緑色の髪の女の子が、こちらに走ってくる。
「な、夏美?どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ!は、春香が……春香が部室で……!」
「……!」
月島は走り出した。
グライダー部の部室……
「!?」
そこには、頭から血を流して机に伏している山村が。
電気をつけようとするが、なぜか電気が点かない。
「山村さん!山村さん!しっかりしろ!山村さん!」
山村に駆け寄る月島。山村の手には、壊れて画面のつかないスマートフォンが握られていた。
「……」
パチリと弱々しく目を開ける山村。
「……」
すると、月島を見て……
「か……」
「!?」
「か……べ……」
とだけ言って、意識を失った。
少しだけ壁を見るが、特に変わりはない。
「春香!?」
そこへ、宇野がやってきた。
「春香ぁ!」
慌てて駆け寄ろうとする宇野。
「現場へ勝手に入るな!」
「!?」
そこへ、夏美と呼ばれた女の子と黒髪の女の子、そしてゾロ子もやってくる。
「……(まだ息はできてる……気を失っているだけなのか……?)
ゾロ子!電話の使い方は教えただろ。すぐに警察と救急車を呼んでくれ!」
「う、うん!」