捜査編
最初に聞き込みを始めたのは、佑磨さんの息子にあたる、浅井 拓也(あさい たくや)さん26歳。
身長は結構高めで、まぁ簡単に言うと……イケメンってやつかな。
看護師として病院に勤務してて、この日は夜勤明けだったらしい。
「……そうですか」
「……随分冷静ですね。実の親がどちらも死んだというのに。……メリープをご存知ですか?」
「メリープは僕がお母さんにプレゼントしたポケモンです。僕は仕事柄、家に帰ることが少ないですから。
……お父さんにもポケモンをプレゼントしたんです。ヒノヤコマを」
確かに佑磨さんのポケットの中にはモンスターボールが入っていて、そこにはヒノヤコマが入っていた。
ヒノヤコマ 親:タクヤ 技 そらをとぶ
最初はそのヒノヤコマが火種になったのかと思ったんだが、ヒノヤコマが勝手にモンスターボールから出るのは考えにくかった。
「……家庭内の空気というのは、どうなんです?」
「僕はお父さんやお母さんから厳しく育てられました。それに、僕がどんだけ頑張っても、お父さんやお母さんは喜んでくれなかった。
そんな両親が……心の底では嫌だったのかもしれないですね」
「「なるほど、つまりあなたには動機が十分にあるということですね」」
こんな時に限って、火川さんと会話のタイミングがかぶる。
「……ほら、二人とも言うとおり」
「とんでもない。僕は一応息子なんです。嫌なことがあったとはいえ、親に手をかけるなんて……」
「浅井さん、ちょっと」
看護師が呼ぶ。
「はい。……では、刑事さん。何かわかったらお願いします……」
「はい。お忙しい時間を割いていただき、ありがとうございました」
「一応アリバイを聞いてみたが、拓也さんは昨日夜勤で、犯行時刻には家に帰ることは出来なかった」
「看護師さんの夜勤って遅くまであるらしいもんね。テレビで言ってたわ」
「テレビ……お前どんなテレビ見てるんだ」
「プロジェクトメタグロス」
次に聞き込んだのは、向かいのマンションに住む大友 聡(おおとも さとし)22歳。
大学生だが、今は夏休みだ。
ちなみに最初に火災の通報を送ったのは、彼だった。
「へぇ〜。あの夫婦さんが二人とも、ね。そういや、最近仲悪いみたいだったっす」
「仲が悪い」
「はい。こないだたまたま買いもんに行った先で、あの夫婦にあったんすけど、顔も合わせねぇし、会話も少ねぇみたいっした。
しかもなんか、マヨネーズのサイズどうこうで喧嘩してたみたいっす」
大友さんが言うとおり、その後のスーパーでの聞き込みで、夫婦仲は悪かったらしい。
喧嘩することはしょっちゅうで、妻が怒ってる時は夫が一人で買い物に行ってたそうだ。
「今回も、夫婦喧嘩の果てじゃねぇっすか?」
「その説もぬぐい去れませんが、一応あなたは通報者なので、昨日の通報に至るまでの様子を詳しくお聞かせ願えますか?」
「はぁい」
無気力に話し出す大友さん。
「俺、昨日はなんか寝付きが悪くて、仕方ないからちょっとばかし散歩でも行こうかと思ったんすよ。
そしたら歩いて行った場所で、燃え上がってるあの夫婦の家を目撃したんすよ。
見た限り、相当な勢いで燃え広がっていたと思うんすよね。
俺慌てて、救急車と消防車を読んだんっす。時間は間違いねえっす。夜中の、2時っした。
あ、そういや燃えたのは、あの夫婦の奥さんが帰ってきてからっすかね。バイクの走る音が聞こえましたし」
「バイクですか」
「あの奥さん、普段はバイク通勤なんすよ。夜中にバイクの音が聞こえることがあるっす。たまにバイト帰りが夜中になるんで」
確かに、浅井夫婦の家の入口には駐車場があり、車のバイクがあった。
「なるほど、お時間、ありがとうございます」
「あ、待った」
火川さんが呼び止める。
「?」
「これ、<スマイルビビヨン5!>の、ビビヨンレッドだよね」
「そうっす。たまたま抽選で当たっちまったんすよ。帰って来て飾ろうとしたら落として、羽が折れてしまったんすけどね」
「マジで!?いいなぁ〜……ちなみに僕はビビヨンホワイトが好きだな」
「通っすね〜……レッドの燃えるような性格が俺は好きなんすけどね!」
「うむぅ……とりあえず、ホワイトは俺の嫁。これは譲れない」
「じゃあレッドは……」
「……その話、何時間続いたの?」
「小一時間程度だと思うな、俺は無視して次の聞き込みに行ったんだが」
ため息をつく月島。
「そもそも、俺アニメに疎いからなぁ」
「いやいやそういう問題じゃないでしょうが」
……次に聞き込みに向かったのは、ママ友である田代 美幸(たしろ みゆき)48歳。
普段は祐実さんと同じく、警備員として働いてるらしい。
「う〜ん……」
「何か心当たりはありますか?」
田代さんは少しだけ考えたあと、
「そういえば、最近二人とも随分痩せた気がするわ」
「痩せた、ですか」
「そう。二人共痩せてたの。昨日も仕事が終わって、彼女ひどく疲れてる様子だったわ」
病気……だろうか?俺は聞き込みを続けた。
「祐実さんの死亡推定時刻は午前2時から3時。その間、あなたはどこにいましたか?」
「私は浅井さんより先に上がって、帰り道を急いだの。11時頃には家に着いて、そのまま寝たわ」
念のため、証人である田代さんの夫にも電話をかけてみたが、夫を含め、家族全員が母親の帰りを見たらしい。
「……あ、そういえば」
彼女があることを言う。
「……ふわふわと、彼女の家に人魂が飛んでたような気がしたの」
「人魂!?」
「そう、人魂。今思えば、あれはなんだったのかしら」
頭をぽりぽりとかく田代さん。
「どこで見かけたのです」
「ちょうど、台所の辺りね。すぐに消えてしまったんだけど……」
「……(火事が起こった場所と合致するな)その後は、家からは出ていないのですね?」
「えぇ。間違いないわ。それに」
田代さんはいろんなものを見たそうだ。
「昨日、帰り道で騒いでいた人がいたわ。<俺が悪かった。許してくれ!てかまず、お願いだから電話に出てくれ!>
……だったかしら。」
そのあと、日野さんに呼ばれて事件現場に戻ってきた。
「お、お疲れ様です。月島先輩」
「何かわかったか?」
「あ、えっと……ブレーカーがメリープの毛でガソリンにタンス洋服がめちゃくちゃ……」
すかさず左手を。
「まずは落ち着こう。俺は火川さんみたいにバカじゃないから、追い詰めたりしない」
火川「へっくしゅ!」
「は、はい。……す〜っは〜っふ〜……」
すると日野さんは、ゆっくりと話し始めた。
「まず、ブレーカーを調べてみたんですが、指紋は発見されませんでした。
だけど……変なんです。ブレーカーを自分で落としたのなら」
「祐実さんの指紋は残るはず。だな」
「はい。次に、メリープなんですが、メリープの毛が狭い場所に密集していたんです。
爆発に吹き飛ばされたのなら、もっと多くの場所に毛が散乱してもよかったはず……」
一応その写真も見せてもらったが、祐実さんから見て右手の位置あたりに、メリープの毛が密集していた。
「次はガソリンなんです。……えぇと……木内さん」
「あぁ。気になって調べてみたんだが、ガソリンの量は普通の放火にしちゃ、随分多すぎる気がしたんだ。
玄関先にあったガソリンの入った容器は、随分と減っていた。日野」
「は、はい……痕跡を調べてみたんですが、使って間もないくらいでした。おそらく、事件の直前まで、並々と入っていたかと……」
玄関から外に出てみる。
「確かにそうだな。これはバイクのガソリンだろう。祐実さん、仕事先へはバイクで通っていたらしい」
「バイクか。よく乗っていられるな。運転できるようには見えないが」
「人は見かけによらないものですよ。木内さん。
帰ってきて給油してから使用したなら、これだけ大量に減っていても違和感が」
「でも」
日野さんが口を挟む。
「往復でバイクを使うだけで、バイクのガソリンは全てなくなるものでしょうか?」
「燃費の悪いバイクだったんだろ?多分。で、日野さん。次はタンス。だな」
「え?あ〜はい」
再び家の中へ。
「綺麗好きだって、一目見てわかるところなんですけど、一箇所だけおかしなところがあって……」
「君は口を開けたらおかしなところ、ばかりだなぁ」
タンスの下の段を開ける日野さん。
「ここです」
なぜかほかの段よりも散らかっていて、適当に服がねじ込まれていた。
「これは……男用の服だ。奥さんが面倒くさがって適当に直したんじゃないのか?」
「そう……でしょうか」
「夫婦仲は悪かったらしいから、そう言った可能性もあるだろう……ん?」
タンスの上には、ハート型にホコリがついていない部分もあった。
「ハート……?」
「やっとわかったぞ!月島!日野!木内!」
そこへお邪魔む……火川さんがやって来る。
「わかったって、何が?」
「この事件の犯人だ!」
「えぇ!?本当ですか!?」
はい。もちろん、当たり障りのない推理です。
「犯人はやっぱり、祐実さんなんだ!」
「……」
「祐実さんはついカッとなって、佑磨さんを殺害!その後、自分が愚かなことをしたと、ようやく気づいて自暴自棄!
自らブレーカーを落とし、暗闇の中、ガソリンを撒き……」
徐々に鋭くなる、俺たちの冷たい目。
「……と、とにかく、やっぱり自殺ってことで!今日の捜査は終わり!お疲れ!」
で、せっせと帰る準備を整える火川さん。
「今日は早く帰らなきゃ、今度こそ……はぁ」
「……?」
「で、今」
「……」
腰に両手を当てているゾロ子。
「まぁ、俺も正直、今回の事件は祐実さんの失敗か、自殺によるものだと思ったんだけどよ」
「とりあえず、和也はどうするの?」
「あ〜……まぁ、署に戻って報告書でも書くかな。悪いゾロ子。今夜は遅くなる」
「……」
なぜか悲しそうなゾロ子の目。
「……そ、そんな顔するなよ」
「じゃあ言うけどさ……」
「声に出すとバレるから言わなかったけど、あんたのその鈍感さ、正直横っ腹がいとほほほほほ!」
「……」
いや、最後もろに笑ってるじゃないか。
でも一応我慢したのかな?どうしようもない俺に対して、我慢してくれたのかな?
嬉し……
「嬉しいわけあるかあぁぁぁぁぁ!」
やっぱり激怒。
「てめぇいい加減にしねぇと本当に逃がすぞ!Letyougo!だぞ!」
「変なことを言ったのは謝るわ!だけど逃がすのは本当にやめてよ!」
「じゃあなんだ。お前は分かってるのかよ」
するとゾロ子は、
「わかってるけど、正直脳髄がほぼ空っぽなあんたに言ってわかるかどうか」
「脳髄はいっぱい詰まってるよ!もう並々と詰まってるっての!いい加減にしねぇと本当に逃が……」
と、ここで、
「……!?」
月島の頭に、電流が走る。
「並々と……?」
こめかみに右手の人差し指を押し当てる。
「……なぁ、この事件ってやっぱり……」
「えぇ、和也の思ってる通りだよ」
そしてちょこんと座るゾロ子。
「ちょっと長くなるけど、私の話、聞いて欲しいな」