事件編
「ゾロ子」
月島が声をかける。
「ん〜……なぁに?まだ4時じゃない……」
「事件だ。ちょっと出てくる」
「事件?」
「あぁ、まだ寝といていいぞ。昼飯の分のポフレは買っといたから、適当に……」
するとゾロ子はすべてを言い終える前に、
「あたしも行く」
と、言った。
「事件現場、生で見たいし」
「はぁ?」
月島は事件現場にゾロ子を連れて行くか迷った。
が、前の事件はゾロ子のおかげで解決したのも事実。
「……いいけど、ゾロアークのままでいてくれよ」
「どうして?」
「恋愛とは縁が無い俺に女がいるってなると、いろいろ面倒なんだよ。……署の評判とか」
「うん。いいよ」
とある一軒家にやってきた月島。
台所は焼け焦げ、焦げ臭い匂いが漂っている。
「ミアレ署、月島 和也です」
「来たか、月島」
火川と、火災捜査官の木内 直哉(きうち なおや)が出迎える。
両開きの扉の床下収納の中に入っている、黒焦げの男、すぐそばで黒焦げになって倒れている女。
「ガイ者はこの家に住む夫婦、浅井 佑磨(あさい ゆうま)さん58歳と、妻、祐実(ゆみ)さん52歳。
おそらくどっちも焼死で間違いないだろう。
これほどの面積を焼くということは、ガソリンか何かを使ったんだろうな」
木内が説明。
「死亡推定時刻は今日の午前2時から3時までの間。佑磨さんもおそらく同じくらいだろう」
「そうですか……ん?」
すぐそばで、そわそわしている鑑識の女の子がいた。
「日野!事件現場ではそわそわするなって言ったはずだ!」
「は、はい!す、すいませんっ!」
たじろぐ日野と呼ばれた、赤いポニーテールの女の子。
「あの子は?」
「鑑識の新人。名前は確か、日野 彩菜(ひの あやな)だったかな。火川さん、新人に対して随分厳しいな」
日野を叱りつける火川。
「いや、多分……」
「……多分?」
「なんでもないです」
権力を振りかざして、弱い者いじめしたいんだろう。そう言っては自分の首が飛ぶかも知れない。
言わぬが花。というやつだ。
火川を無視し、現場の検証をはじめよう。そう思った時だ。
「つ、月島先輩!」
「ん?」
「あ……あの、月島先輩でいいですか!?」
「別に……構わんが……」
せっかくなので二人で現場検証。
「……現場から見て、これは被害者は佑磨さんで、加害者が祐実さんだろう。
おそらく祐実さんは、佑磨さんを何らかの方法で殺害し、遺体をこの床下収納に入れる。
そしてそこへガソリンを振りかけて燃やそうとしたが、何らかの原因によってガソリンが爆発。
祐実さんはその炎に巻き込まれ、二人揃って焼死した……と、言うのが現場を見る限りでの」
「あ、あの……」
「なんだ」
「な、なんだかおかしいような気がして……」
と、言う日野。
「何がおかしい?」
「……例えば、その、何らかの原因ってなんでしょうか?」
「さぁな。木内さん、どう思われます?」
すると木内はこう言う。
「ガソリンというのは、非常にデリケートなシロモノだ。酸素と少しまじれば、若干の静電気ですら、引火の元になりかねん。
他にも火花、例えば懐中電灯を点けた時の、カチっというスイッチですら、引火のもととなる。
おそらくそんなことも知らず、夫を殺そうとして、自分も死んでしまった。馬鹿な野郎だろ」
「……」
現場を見回すが、懐中電灯らしきものはどこにもない。
その時だ。
「あれ……」
日野が炭を持ち上げる。
「日野、何をしているんだぁ!」
火川の怒号が飛ぶが、月島は……
「ちょっと待ってくれ。日野さん、それを俺に渡してくれるかな」
「あ……はい」
そう、渡そうとした時だ。
「きゃっ!」
可愛らしい声とともに、日野は炭を落としてしまった。
「なぁにやってんだぁ日野ぉ!」
「す、すいませんっ!私ったら……!」
「……いや、待ってくれ」
月島が、ぐるぐると円を書くと……
メリープ 親:タクヤ 技 フラッシュ
「これは……メリープだ。多分君はさっき、静電気を浴びて驚いて落としてしまったんだろう」
「ご、ごめんなさい……」
「いやいいさ。とりあえずこれではっきりした。このメリープの静電気でガソリンが爆発してしまったんだろう」
念のためメリープの倒れていた場所にも、印を書いておく。
次に家の中を見る。
台所こそ燃え方が激しいものの、他の部屋はほとんど焼けていなかった。
「あ、これ……」
そこで再び日野。
「どうした?」
「いえ、祐実さんの倒れ方……おかしくないですか?」
「おかしいって、何が」
再び確認する。
別におかしなところは何もないはずだ。
佑磨さんと同じく上半身と足が焼けて……
「……?」
足が焼けている……?
しかもよく見ると、なぜか上半身より焼け方がひどい。
確かにおかしい。
ガソリンを撒いている最中に爆発した、というのなら、上半身の方が激しく燃えているはずだ。
「日野ぉ!」
「は、はい!」
「……聞き込みに行くから、現場を頼む」
「は、はい!」
もちろん、その聞き込みの中には月島も入っている。
月島と火川は、家を出た。
そして、聞き込みを終えたあと、一度火川と別れる。
「……」
近場の公園に二人はいた。
「んぐんぐ……どうしたの和也。早く食べなよ」
ちょうど昼食の時間だ。
「ち、お前いつでも陽気だなおい。性格がそうだからしょうがねぇけどよ。……ところで、お前はどうだ?」
ゴクリと口の中のポフレを飲み込んだあと、
「何を?」
「何をって、今回の事件。お前は何かわかったか?」
「何にも。第一、あんたがモンスターボールからあたしを出さないから、分かるわけないじゃない」
「いやまぁ、悪かったと思ってるよ。だけど公の場でゾロアークを出したら、パニックになっちまうだろ?
お前みたいな色違いは特に、な」
考えを巡らせる。
「聞きたいか?」
「もちろん」
「分かったよ。ただお前でもすぐわかると思うけどな」