捜索編
午前11時。
「ふん。よくもまぁ。この謎も解けたものだな」
「えぇ。バカにしないでいただけますか?ウチらは一応。妹の命が掛かっているから、しぶといですよ」
ルミタンが電話に応対している。
「お?あれビビヨン5のコスプレじゃね?」
「うほ〜!本当だ!特に青い子レベルたっけぇ〜!」
明らかにそっち方面の男たちが、ルスワールを見て言う。
「お、おい。でもブラックとイエローとグリーンが足りねぇじゃねぇか」
「本当だ。コスプレするならコスプレするで、ちゃんとしろよな。あいつら絶対にわかだぜ」
「おうおう。でもブルーの子、本当にレベル高いな〜……レッドは?」
「いや、あれもにわかだっての。だってフラフラしてんじゃねぇか」
ブチ。
「ローラースケートも履けねぇくせに、無茶するなっての!ぎゃはははは!」
ブッチ〜ン♪
「アタシは好きでやってないとよ!次変なこと言ったらアタシのエルフーンてめーらの口に突っ込んでムーンフォースさすぞゴラァ〜〜〜!」
「「ひ……ひぃ〜〜〜!」」
男たちは、足早に去っていった。
「……ら、ラジュルネさん……」
怯える土門。
「ありゃ女城主って言うより……女戦士だな」
「何か言った!?」
「いや、なんにも……」
「もう、踏んだり蹴ったり!」
イライラしているラジュルネを……
「で、でもラジュルネ姉様……あんまり騒ぎ過ぎたらダメですよ……」
ルスワールが必死になだめる。
「だ、だってウチらは……ラニュイば助けるためにやってるんですよ……今やることは……怒ることじゃないはずです……?」
「だぁらっしゃい!気に入らん奴にブチギレるのは自然の摂理」
キラ〜ン……
「な、なぁ〜んてね。うん。以後気を付けるね」
「ルミタンさん。先程は随分話し込まれましたね」
その話し込んで、店から出てきたルミタンの目が、また赤く光った気がする。
……気のせいだ。気のせい……の、はずだ。
「えぇ。犯人にラニュイと電話を代わってもらいました」
「ラニュイさんに?」
「内容は特に何も……おそらくラニュイは犯人に口封じされているのかと」
「……」
やはり、妙だ。
ラニュイを捕えていると言うのなら、そのラニュイにおめおめ発言の機会を与えるだろうか?
ラニュイが変なことを口走れば、不利になるのは犯人のはずだ。
「それで刑事さん。次の暗号なんですけど……」
回る食べ物 滴る飲み物 それらを兼ね備えし所 13:00
「回る……?滴る……?」
それに兼ね備えし。とはどういうことだろう。
「回る食べ物も、滴る飲み物もあるってことだよね。それってやっぱり……」
土門が声を上げた。
「僕、その二つがある場所を知っているのかも知れない」
「え?」
「ついてきてくれるかな……」
やってきたのは、ルージュ広場のレストラン。ローリングドリーマー。
「ここなの?」
と、ルミタンが聞く。
「う、うん。超高級の回転寿司屋だって聞いたから、回るっていうのはお寿司で……え〜……滴るもの……?」
なにか困っている様子の土門。
「それって、あがりのことかな?」
日野が言う。
「あがり……?ゴールのこと?じゃあここがゴール……ここにラニュイが!?」
「多分違うと思います。……え〜っと……」
「ラジュルネ」
「ラジュルネさん。ここがゴールというのはありえないはずです。この周りはそれなりに人が多いですし、
犯人がラニュイさんを匿っているのなら、誰かに目撃されるはずではないのでしょうか。
あがりというのは、寿司屋で言うお茶のことですよ」
ムッとした顔をしつつ、納得した様子だ。
「でも確かに、そろそろ腹も減ったところ。ここで食事にするか」
「お寿司……ですか。実は回るお寿司は初めましてですわ」
「お寿司が回るって……」
ルスワール想像中……
「はわわ!想像するだけでおぞましい!」
「どんな想像をしたんですか!」
「アタシはパス!今日は洋食が食べたいの!」
グギュルルルルル……
「……」
「本心は?」
「なんでもいいから食べたいに決まってるけん!アタシ今日ルミタン姉様が急かすから朝カ○リーメイトしか食べてないとよ!?」
「う、ウチもここでいいけん……それに歩き回って疲れたから休みたかです……」
6人は、ぞろぞろとローリングドリーマーに入っていった。
そして3人が追い出された。
「……」
月島、日野、土門の3人。
「なぁにが……顔を洗って出直して来いだよ!なんだよスタイリッシュって!少なくともあんなコスプレしてるやつよりよっぽどスタイリッシュだろうが〜!」
「落ち着いてください月島先輩!多分月島先輩じゃなく、私たちがスタイリッシュじゃないからですよ!」
「その私たちって、僕も入るの!?」
だがその時だ。
「?」
ルミタンが、入口で手招きしている。
「説得をしてみましたが、OKが出ましたわ」
「ほ、本当ですか?」
するとハチマキを巻いた男が……
「言っとくが、おまけだからな!これからは二度と入れてやらないからな!おまけだからな!?」
「なんで2回言うんだよ」
席に付く6人。すると……
料理が運ばれてきた。
「こちら、NIGIRIZUSHIになりますぜ!」
白い振袖を来た女性が、運んできた。
「ただの握り寿司じゃねぇか……」
「こ、こんなんに45万円も出したんか……?」
「!?」
月島は、椅子にから転がり落ちそうになる。
「よよよ!よよよよ!よよ!45万!?」
「そうですわ。流石にそれほどお金は持っていなかったゆえ、身代金から出してしまいました」
「あんたは人質を助ける気あるのか!?」
仕方ないため、醤油を少し付けて食べてみた。
「「「「「「!!!?」」」」」」
そして手が止まる6人。
「うんめえぇぇぇぇぇ!なんじゃこりゃあ!超うめぇ!」
「こ、こんな美味しいお寿司……食べたことないです!」
「うんうん。ほっぺたが落ちそうだよ!」
「う、ウチがこんな素晴らしいもん食べてええんやろか……?でも、美味しいです……!」
「うぅ〜……悔しいけど、美味しいって言うしかなか……」
「美味ですわね。舌の上でとろけるようです」
口々に感想を言う6人。
その後も、様々な食材が運ばれてくる。
「TEMAKIZUSHIだにゃん!」
「OSHIZUSHIに候」
「THIRASHIZUSHIどすえ〜」
「まああれだ。NAREZUZHIだ」
至極の時を迎えた一行。最後に、
「口直しのINARIZUSHIでさぁ!」
と、先ほどの男が言った。
「わ〜!僕いなりずし大好き!揚げが甘くて美味しいよね!」
土門がINARI……いなりずしに手を伸ばした時。
「ちょっと待って」
日野が言った。
「どうした?日野」
「あの……今思ったら、ここのお寿司は回っていませんよね?」
「!?」
回っているのは、振袖を来た女の子だけだ。
しかし、食べ物は回るどころか、普通に運ばれてきただけである。
「つまりここじゃないってことか……じゃあ一体どこなんだよ」
「念のためお聞きしますけど、ここで電話を預かってくれって言った人は……?」
「え?いや。あいにく従業員は皆電話の使い方を知らないもので……」
その言葉を聞いた月島は、急いで店を飛び出した。
「月島お兄ちゃん!?」
それを追って、ほかの5人も駆け出し……
「あぁお客様!おまけのでかいきんのたま25個でさぁ!」
「い、いらんわ!」
高級ということもあり味わって食べてしまい、気が付くと時刻は12時40分。
次の電話までの時間がない。
「くそ……どうする……!」
ミアレシティの地図を見ながら考える月島。
「ここではないとなると、もしやミアレシティより別の場所って可能性はないでしょうか?」
「それはないはずです。ないはずなんですが……」
しかしここまで暗号が解けないと、そう言った可能性も出てくる。
「い、いっそ、皆さんで手分けして探すというのは……」
「それはダメです。だって、ラニュイさんは一人で出かけた時にさらわれたんですよ?
あなた方が一人になったところを、犯人に狙われては元も子もありません」
「ひいぃ!ごめんなさい!なんでもします!なんでもしますからぁ!」
「いちいち大げさですよ……」
そこへお〜いと声が聞こえた。
「ら、ラジュルネさん。どうし……」
なぜか7個のでかいきんのたまを、両腕で抱えながら。
「たんですか本当に……」
「い、いや、お土産であげるお土産であげるやかましいから、仕方がないからもらってきたとよ。
か、勘違いしないで!7って言う数字が好きなだけで、アンタたちの分まで持ってきたわけじゃないから!」
「なんとなく意味はわかりました。ありがとうございます」
「だ、だからそう言うわけじゃ……」
その時だ。
カンカラン!ゴロゴロゴロゴロ……
「あっ!」
ラジュルネの腕の合間を抜けて、でかいきんのたまが落ち、あちらこちらに転がり始めた。
「ちょっ!取って!取って〜!」
「ラジュルネ!ラジュルネも取らな!」
「ご、ごめんお姉様!」
転がったでかいきんのたまを、全員懸命に拾う。
「わっ!」
ドサッ!
しかしルスワールが、玉につまずいて転んでしまった。
「ルスワールさん!大丈夫ですか?」
「うぅ〜痛い……あっ……!」
ルスワールの右足は、すりむいて血が出ている。
「ちょっ、大丈夫?ルスワールさん」
土門が心配そうにルスワールを見つめる。
「……」
「あれ?」
が、ルスワールのリアクションはない。
「ルスワール……さん?」
「……気絶してるわ」
どうやら、血を見ると気絶する。そんな性格のようだ。
「えぇぇ!?な、なんとかしないと!る、ルミタンさん!」
「救急車ぁ〜〜〜!」
「原始的過ぎます!」
日野が突っ込む。
「でも、どうしよう。薬局は近くになかったはずですし……応急処置するしか」
「では、薬の材料となる木の実やハーブを混ぜ合わせるのを私が」
「では私はその間毒を……って、そんな大事でもないです!」
「みんなして何してんですか!こっちはもう時間が……」
その時だ。
「!?」
月島は、メモ用紙を再び見た。
回る食べ物 滴る飲み物 それらを兼ね備えし所 13:00
「そういうことか……!」
月島は勢いよく、オトンヌアベニューへ駆け出した。
「え?月島お兄ちゃん!」
「お待ちを!そちらに草木はない気がします!」
「まだそれやってたの!?」
とある店の中で、ルミタンが電話を取っていた。
「……でも、びっくり。なんでこのメモが表すのが……」
そこは、きのみジュース店「しるや」
「このお店って分かったとよ?」
「回る食べ物と滴る飲み物。回る食べ物は、ミキサーの中で回っている木の実を表して、
滴る飲み物はそのミキサーから取り出すきのみジュースを表してると思ったんです。
兼ね備えし、というのもおそらく、一つのもので出来るものだと思いましたからね」
土門はルスワールの右足を消毒し、止血を施した。
「これでもう大丈夫……だと思う」
「あ、ありがとうございます」
と、そこへ……
「みなさん、お疲れでしょう。こういう時は甘い飲み物。ですよ」
人数分のピンク色のきのみジュースを持ってきた日野。
「お、気が利くな日野。ありがとう。お代は……」
「いえ、大丈夫。私持ちでいいですよ」
奪うようにそれを取る一行。相当喉が渇いていたんだろう。
「……え〜っと」
「ラ」
「ラジュルネさん。甘いものは大丈夫なんですか?」
「こう見えて目がないけん。飲むね」
そしてストローで飲んだ瞬間。
「……あぁあぁまあぁあぁい」
「え?……」
ルスワールも一口。
「うえっ!」
「二人共リアクションがリアリティ溢れすぎです。じゃあ一口……」
チュ〜……
「あぁあぁまあぁあぁい……あぁまぁいぃよぉこれぇ〜……ひぃのぉ……どうやって作ったんだよぉ〜……」
「すいません。流石にモモンのみ2個と砂糖6杯では甘すぎたでしょうか」
「えも言えぬ殺意を感じる……」
そこへルミタンが戻ってきた。
「み、皆様……?」
全員甘さで歪んだためか、ひどい顔だ……
「……あ、何もありません」
「……」
この時、ラジュルネに少しよからぬ考えが。
「ルミタンお姉様。甘い飲み物をお飲みになります?」
そう、せっかくだからルミタンも巻き添えにしようとした。
が、
「さっき新しいジュースを試飲させてもらったから、気持ちだけいただくわ」
「そ……そう……」
失敗。
「刑事さん……次の暗号です」
育つことなき木 それを臨むじゅうたん 14:00
「育つことなき木?」
「じ、じゅうたんといっても、じゅうたんがある場所なんて、大量にありますよね?
あわわ!役に立てなくてごめんなさい!そ、そうだ!ライコウ スイクン エンテイのモノマネが得意なんです!だから!」
「じゃあ逆に、育つことなき木……から、考えるとね」
ラジュルネが考える。
「分からん」
この間、2秒。
「もう少し考えましょうか……」
再びマップを見る。
「……」
当然ながら、木を連想するような場所はない。
これまで探してきた場所を整理してみる。
最初は午前9時。ミアレガレット屋。
次は午前9時40分。カフェ・スラローム。
3つ目は午前11時。カフェ・パルトネール。
4つ目は午後1時。しるや。
「……」
考え込む月島。次も食べ物に関する場所……なのだろうか?
そこでルミタンが、
「ところでルスワール。足はもう大丈夫?」
「は、はい!さきほど、この男の子から応急措置をしてもらって……」
「そう、ありがとう。……まだお名前を聞いていませんでしたわね」
「いや、名乗る程じゃ……」
土門がそういったあと、月島はルスワールの足を見る。
ルスワールの包帯には、血がにじんでいた。
「ところで、この暗号は解けそうですか?」
「……」
じゅうたん。そんなもの、ミアレシティを探したところであるのだろうか。
それに育つことなき木、というのも、少なくともミアレシティの中に草木が生えるような場所はない……
いや、街路樹があるにしても、街路樹を一つ一つさがすなど、途方もない時間がかかってしまいそうだ。
「……」
するとそれを聞いたルミタンが……
「……もしやじゅうたんというのなら……」
「え?」
ススっと、軽やかに歩き出すルミタン。
「る、ルミタンさん?」
日野たちが追いかけるが、
「……?」
月島は疑問に思った。
「ルミタンさん……あんなに足が速かったか……?」
しかし置いていかれるわけにもいかない。月島は足をルミタンの方に向け、駆け出した。