解決編
「……これが、今回の事件のトリック。わかった?」
ゾロ子の話はにわかには信じ難い物ばかりであったが、どれも的を得ている。
まるで自分が、事件を見てきたようだ。
「……でも、そうやって追い詰めたところで、犯人は自白するのか?」
「それなら簡単よ。ドラピオンの技をね……」
「はいもしもし、火川です」
電話に出る火川。
「あぁ、月島か。……何!?犯人がわかっただとぉ!?」
「はい。殺害現場に、3人を連れてきていただけますか?それと……」
「それと?」
「多田野さんと同じぐらいの、マネキンをお願いできますか?」
多田野が殺された場所に、火川。そして高倉、比嘉、高橋の3人がやってきた。
「犯人がわかったというのは本当か月島!」
「まぁそう慌てずに、まず、俺たちがやってきた勘違いから直し始めましょう」
「勘違い?」
こくりと頷く月島。
「まず現場には、寿司と湯呑みが置いてありました。しかし調べてみましたが、いずれからも毒物は検出されませんでした。
念のため、テーブルなど、部屋全体を調べても、全く出ませんでした。
「……うむ、それは間違いないな。で?犯人って誰だ」
「まぁまずは俺の話を聞いてください」
月島は4人に部屋の中に入るよう促し、自分は同じ場所に立っていた。
「ところで高倉さん。多田野さんはどうして、このアパートに住んでいたのでしょう」
「い、いや……先生は倹約家で、どれほどお金を手に入れても、このアパートを出ようとはしなかった。
ですが、私はこのアパートに来たことはありません。本当です!」
「……次に、比嘉さん」
比嘉はポカンとした様子で、月島を見つめる。
「あなたは昼ごろ、買い物から帰ってきた時に、大男を見た。そうですね?」
「あぁ……間違いないよ。刑事さんに写真を見せたでしょう?」
「……」
すると月島は高橋を見て、
「あなたはずっと、アルバイトをしていた。間違いないですか?」
「何回も言わせんといて。刑事さんも聞いとったでしょ?」
それだけを聞くと、月島は部屋の奥に。
「まず、犯人が使ったトリックです」
すると月島は、あるものを取り出す。
「これはご存知ですか?」
「それは心臓病の薬!?……確かに先生は、仕事中も心臓病の薬を飲むことが多かった」
「そう。多田野さんは重度の心臓病だった。それを聞かされた犯人は、とあることを思いつきます」
ゆっくりと歩きながら続ける。
「この際多田野さんを殺害し、遺産を全てもらおう。と」
モンスターボールから、ドラピオンを出す。
「ちょっと待ってくれ月島、ドラピオンはどくどくを持っていなかったんだろ?ならどうやって外傷もなく、毒を盛ったんだ」
「違います。俺が言いたいのは、そもそも多田野さんは毒殺ではなかった。そういうことです」
「はぁ!?ちょっと待て。それだとどうやって多田野さんは殺されたんだ!」
マネキンを床に寝かせる。
「この上にドラピオンを乗せます」
右手をドラピオンに向け、くるくると目を回させたあと、ドラピオンを操ってマネキンに乗せる。
「そしてドラピオンに、ある技を使わせます」
「ある技?それは……」
「これですよ」
そして右手の薬指を鳴らし……
グラグラグラグラ……
「じしん!?そんな技覚えてたん!?」
「ドラピオンにじしんを覚えさせるトレーナーは、数多くいます。犯人のようにね。
押さえ込まれ、じしんを間近で受けた多田野さんの心臓はついに限界を迎え、激しく細動。
そのまま亡くなった。……と、いうわけです。
比嘉さんが帰ってきた時、家の中まで揺れた。というのはこういうことです」
「なるほど……」
火川は納得しているようだった。
「こちらをご覧ください」
月島は、多田野の血管の写真を見せる。
「毒殺されているのなら、血管はボロボロになっているはず、しかし損傷が見られているのは心臓のみだった。
このことからも、今回の殺人は、毒殺ではなかった。と言えるのです。
……次に二つ目のトリックを。比嘉さんが見た、2メートルくらいの大男。あれは犯人です」
「何?つまり犯人は、高倉さん!?」
火川が言う。
「な、大男を見ただけで、犯人が私であると!?じょ、冗談じゃない!」
「しかし男の容疑者はあなただけです。残念でしたなぁ」
「残念なのはあなたの頭です。火川さん」
若干毒舌を吐きながら、
「5分ほど経ってから外に出ていただけますか?」
「……わかった」
5分後。
「月島、まだか?」
しかし月島の声はない。
「月島、月島!」
外に出ると……
「!?」
そこには、2メートルほどある大男が。
「な、なんだ!?お前は誰だ!」
「……」
男は何も話さない。
「お前が犯人か!正体を表せ!」
「……」
男が正面を向く。
「俺ですよ。火川さん」
「え!?」
その正体は、月島だった。
足には厚底の靴で身長を伸ばし、ダボダボのコートを着て、身長より丈が長いズボンをはいている。
「このトリックを使えば、誰にでも犯行が可能です。まして、男というと、高倉さんに疑いがかかるのは確定的に明らかでしょう。
買い物から帰ってきて、ゴミ出しに行く際に、比嘉さんに見られたら尚更、です」
「ちょっと待て、じゃあ、犯人は……」
「そう、あなたしかいないんですよ」
月島が指を差した。
「高橋 香苗さん」
「!?」
場の空気が一気に張り詰める。
「月島さん!」
「ん?」
鑑識が走ってきた。
「先程の引きずった跡を解析したところ、服の繊維を発見。被害者のものと一致しました」
「そうか、ありがとう」
服や靴を元に戻しながら、月島は話を続ける。
「高橋さん。あなたは多田野さんに金をもらっていた。そうですね?」
「……」
高橋は何も喋らない。
「ここからは俺の推測もある程度入りますが、どうか飽きずにお聞きください」
この日もいつもと同じく、高橋さんは多田野さんに呼ばれ、この部屋にやってきた。
しかしそこで高橋さんは見つけてしまった。
多田野さんが心臓病であり、薬を服用しなければ、満足に生きることすら叶わなかった、と。
それを知ったあなたはひどく悲嘆した。
このまま彼と付き合っていても、いつかは死んでしまう。
ならば彼の命を奪うことによって、せめて遺産だけでももらおう、と。
妻を持たなかった多田野さんが死ねば、遺産は愛情を注いでいたあなたに入るはずでしたから。
「しかし、いつも私を慰めてくれて、済まないね。ほら、た〜んとお食べ」
「……ねぇ、多田野さん」
「うん?」
「心臓病の薬見つけたんやけど、あれなんなんです?まさか……あなた……」
すると多田野さんは……
「君、禁断の箱を開けてしまったようだね。あぁ、そうだよ。私は重度の心臓病だ。もはや残された命は少ないかも知れない。
……残る人生の間、君に愛情を捧げるとするよ。私を慰めてくれた、君に」
「……」
するとあなたは、
「……ふ……何が愛情やねん」
「え?」
「んなもんでメシが食えるか」
元々あなたは、お金目的で彼と付き合っていた。
それもそうだ。78歳になる多田野さんと付き合い続けるなど、バカバカしいにも程がある。
「もう二度と金が貰われへんのやったら……しゃあないな」
「な、何を!?」
ドラピオンを出し、
「さようなら、今までええもん食わしてくれて、ありがとう」
「バ……バカなことをするんじゃない!わ、私は君を……本当に愛していたんだ!なのに……」
「残りのお金はあんたの遺産だけで我慢しといたるわ」
そして、先ほど言ったトリックを使い、殺害。
「……」
しかしそこであなたは、あることに気がつく。
このままこの部屋を出てしまっては、犯人が自分。であることを言っているのと同じ。
そこであなたは……
「……これや」
多田野さんのシークレットシューズ、コート、ズボンを使い、変装を試みた。
GTSでもらったドラピオンはそのままにしておき、力を振り絞って多田野さんの死体をテーブルまで引っ張り、
寿司を一貫だけ抜く。
そしてその後、変装を施し、部屋を出る。
これで、毒殺された(かのように見える)多田野さんだけが部屋に残る。
そう言った光景が完成しました。
「そういえば、あなたは私たちが聞き込みに行った際、躓いて転びかけていました。
あれは着替える時間がなかったからです。
急いでバイト先に向かい、自分自身のアリバイを成立させなければならない。
そこで多田野さんのコートを自分のカバンの中に押し込み、ズボンと靴はそのままにしておきました。
折しもその日は、バイト先の人が新しい人ばかりだったため、あなたの身長変化に気づく人はいなかった。
あなたが転びかけた理由は、なれない厚底の靴をずっと履いていたから、ですよ」
「高倉さんが多田野さんをスマートと言っていたのは、シークレットシューズを履いて、靴を見せないような服を着ていたからか」
すると高橋さんは……
「あはははは……面白い話やね。漫才師の方が向いてるんちゃう?」
と笑い出す。
「そこまでうちがやったって言うんやったら、証拠出してや、証拠」
「……」
「あるんやろうな?証拠。証拠!」
すると月島が言う。
「そういえばあなたは、ドラピオンが使った技を、じしんと言っていましたね」
「それがどないした?まさか、ドラピオンの技を知ってたから、とか言わんやろうな」
「では答え合わせです」
月島が高橋に、モンスターボールを手渡す。
「!?」
高橋は驚いた。
ドラピオン 親:ナス 技 クロスポイズン かみくだく つじぎり じならし
「俺がさっき使った技は、じしんではなくじならしです。なのに、どうしてあれがじしんとわかったんですか?
じしんとじならしの違いなど、容易にわかるはずですよ。
あなたがこのポケモンを、ずっと使ってきたのなら、ですがね」
「……た、ただの言い間違いや!悪いか!」
「では、多田野さんが持っているはずのコートは、どこにやったのですか?」
「っ、それは……!」
月島がカバンを開ける。そこにコートは入っていなかった。
「なるほどねぇ。どこかに捨てましたか」
そして月島に再び着信が。
「もしもし」
「月島、先程川の近くで、お前が言っていたものと同じ柄のコートが見つかった」
「ありがとうございます」
切ったあと、高橋を見つめる。
「……もう、逃げられませんよ。高橋さん。……ドラピオンのように、俺たち警察のするどいめが、あなたを狙っていますから」
「……」
すると……
「けっ!」
高橋は悪態をついてこう言った。
「そうやで。うちがあのくそじじいを殺したんや」
「な、なんと……こうもあっさり……」
「……動機をお聞かせください」
そしてこう言う。
「うちは貧しい生まれやった。何年経っても何年経っても、うちは夢やったモデルに、手が届きもせぇへん。
それもこれも、金がないから、やからうちは、いろんなことに手を出した。あのじじいもそうや」
とびきり馬鹿にしたような顔をして、
「大体、あんなじじい使うのなんか簡単やったわ。妻を若い頃に亡くしてずっと独り身。寂しさを紛らわすために使ったのがうち。
うちはあいつのことを調べに調べまくって、何とかして奴の会社先に就職した」
「バカな。じゃあどうしてアルバイトなんかを」
「決まってるやん。あの会社は給料やすかった。あのじじいはうちに対して、うまいもんしか食わしてくれへんかった。
やから、バイトを掛け持ちして、少しでも金を稼ごうと思ったわけ。
もうしばらくすればあのじじいからの遺産も入って、バラ色の人生が始まるはずやったのにな。残念やったわ〜」
「……なるほどな」
すると月島は高橋の前に立って、
バシ!
「……?!」
と、右手の甲でビンタをした。
「てめぇの腐った欲望のために、ポケモンを使って人殺しなんかすんじゃねぇよ。
バラ色の人生?笑わせんな。
多田野さんは本当の愛をてめぇに向けてたのに、てめぇはその愛ですら踏みにじって、そして人生すら終わらせた!
はっきり言うぜ。てめぇよりダストダスのほうが、よっぽどきれいだよ」
「……」
そのまま火川に向かって突き出した。
「……お願いします」
「わかった」
「お前の推理には脱帽もんだ。でもいつから、高橋が怪しいって思ったんだ?」
家に帰ってきてから、ゾロ子に話す。
「いつからって、消去法?」
ポフレを食べながら話を続けるゾロ子。
「だって、高倉さんはドラピオンを知らなかったから、一度見ただけで{ドラピオンなるもの}って言ったんでしょ?
それに比嘉さんは写真を撮った人物だから、彼女には大男のトリックはできない。
だったら高橋しかいないって思ったのよ」
「……消去法……ねぇ」
「でも、事件が解決できてよかったじゃない」
月島は洗い物をしながら話す。
「そもそも多田野さんには遺産がなかったらしい。彼は薄々、自分の命が長くないことを知って、自分用の墓や、新たな会社のビルを購入していたんだ。
死ぬ時ぐらい、派手に死にたい。そんな思いが多田野さんにはあったんじゃねぇのかな」
「ふうん。つまり高橋は、とんだ骨折り損だったみたいね」
「あぁ。……ところで……」
ゾロ子が座っているソファーの周りには、大量のポフレの箱が。
「そろそろ食うのやめねぇか」
「え?でも美味しいもん」
「でも美味しいもんって!掃除するの俺なんだぞ!てかお前が1日にそんなに食ったら、食費もたねぇだろうが!
せっかく働いた金をお前の餌代でほぼ使い切りたくねぇ!」
「……」
するとゾロ子は、
ポン……!
と、白い煙を出し、
「……きゅあん」
ゾロアークに戻った。
「お前せこいぞ!そんなことしたら俺が勝てるわけねぇだろうが!」
「きゅあ〜ん」
「きゅあ〜んじゃねえよちくしょ〜……兄貴にもう金貸さねぇからなぁ〜!?」