捜査編
粗方事件の概要を話したあと、一応わかるように説明する。
……そのあと、聞き込みを始めるとしたんだ。
まず最初に、同じ会社の部下にあたる、高倉 耕三(たかくら こうぞう)51歳。
小太りな体型だが、身長はやや高かった。
「なんだと、先生が!?それは本当なんですか!?」
「はい。死因はおそらく毒殺かと」
「そんな……先生は私が尊敬する人物……先生には感謝してもしきれんぐらいだよ。その先生が……」
「落ち着いてください。多田野さんを恨んでいた人物などはいましたか?」
高倉さんは、少し考えたあと、こう言った。
「私が知る限りは知りませんね。恨みとは無縁な人物であったはず。
78歳にして、スラっとしたスマートな体格に、キビキビした命令っぷり。まさに経営者の鑑ですよ」
「スマートな体格?」
俺が見た多田野さんは、スマートとは程遠かった。
身長は低く、痩せてはいたが、スマートとは言い難かった。
「そう言っといて、実はあなたが恨んでいたんじゃないですか?」
「ととと、とんでもない!第一いきなりしゃしゃり出て、なんなんですかあなたは!」
俺が火川さんを抑えて、
「ごめんなさい。時々この人おかしくなるんです」
「事件解決のためなら、俺は悪魔にでもなってやる!」
今度は火川さんの口を押さえてこう続けた。
「その事件で使われたのが、このドラピオンです。トレーナー名は不明ですが、おそらく野生ではないはず。
あなたはこのポケモンに見覚えはありますか?」
「いえ、先生がドラピオンなるポケモンを持っていたわけでもありませんし、私はそもそも、トレーナーではありません」
「そうですか。……多田野さんが殺されたと見られるのは、午後12時から午後2時。その時あなたは、何をしていましたか?」
「私はその時、庭の手入れをしていました。証人は……ほら、私の隣に住む人が」
「それで、高倉って人のアリバイは立証されたのね?」
「あぁ。隣の人がその時間は家にいたって言ってたよ。軽い話もしたらしい」
次に、多田野さんの部屋の隣に住む比嘉 由美子(ひが ゆみこ)61歳。
今回の事件の通報者でもある。
聞き込みをした中では、最も身長が低かった。
「脅すつもりはないが、一応あなたのアリバイを教えてくださいますか?」
「あたしは買い物から帰ってきてずっと、家にいたんだよ。そしたら隣から争う声が聞こえて……
社長さんの声っていうのはわかったんだけど、もう片方の声は聞こえなかったねぇ」
「その時、何か違和感は?」
すると比嘉さんは、
「そういや、随分激しい喧嘩だったんだねぇ。こっちの部屋が軽く揺れるくらいだったよ」
「揺れる?」
「えぇ」
「それは気のせいというものでしょう」
またまた火川さん。
「あなたは相当気が立っていた。わずかな振動でも、十分怯えるくらいには」
「すいません黙っていただけますか」
「……すまん」
「そういやもう一つ」
比嘉さんはこう言った。
「買い物から帰ってきたあと、ゴミ出しを忘れてて、部屋から出たら……
社長さんの部屋から、大きな男が出て行ったよ。2メートルほどあったんじゃないかねぇ」
「2メートルの大男?……間違いないですか?」
「えぇ。もちろん。写真撮ったから見せてあげるよ」
月島がゾロ子に写真を見せる。背中を向けているが、男であるとわかる。、
「確かに大きな男ね。これを比嘉さんが見たってわけね」
「あぁ。俺もまさかとは思ったけど」
「でも、今熱い季節なのにこんなに着込むかしら」
男はコートを着ていた。
「……さぁな。怪しまれないようにするため、じゃなかったのか?」
で、3人目が靴屋のアルバイト、高橋 香苗(たかはし かなえ)31歳。
なんでも高倉さんの話じゃ、愛人関係にあったらしい。
高橋さんは身長がほかの二人と比べて高く、スラっとした体型をしてた。
「うちが犯人や言うの?信じられへんわ」
「いや、何もまだ、あなたが犯人だと決めつけたわけじゃない。念のため、アリバイを」
「うちは今日ずっと仕事。でも、それがなんなん?うちはあの人を愛しとったんやで?」
念のためにほかのバイト仲間に聞いたんだけど、全員が立証してる。
「ちっもうええ?うち店長に呼ばれてんのよ」
「なんで?」
「怒られるんや。うち最近、仕事に身が入ってなかったから」
「彼を愛した故……ですか」
こくりと頷く。
「もう、うちは生きていける気がせぇへん……どないしよ」
「なら、俺と今夜は温かな食事でも……」
火川さん……あぁ〜もういいや、火川で。とにかく変なことを言うから俺は睨んだ。
「うわぁ!」
声に驚いたのか、高橋さんはつまづいた。
「大丈夫ですか?」
「……何でもない!」
その後、法医学の水原 尊(みずはら たける)さんから電話が入った。
「それは本当ですか!?」
司法解剖の結果、多田野さんの体内から毒が見つかったが……
「あぁ、血管のどこにも損傷が見られない。なぜか心臓に血が溜まっていただけだ。
これは心臓病か、そういった人物の死体に見られるものだよ」
その時、俺は思い出した。
多田野さんの部屋に、心臓病の薬があったってことを。
「毒殺……で、間違いないと思うけど、その割には血管は綺麗だったね」
「はっはぁ。わかったぞ」
「え?」
しばしの間、火川劇場に付き合ってくれ。
「犯人はゴーストポケモンだ!ゴーストポケモンが多田野さんの体に入り込み、心臓をグイって握ったんだ!
そしてその後、犯人は薬を飲んで巨大化し、まるで化物がやった仕業に見せかける!……どうだ!」
「じゃあ多田野さんのものではないドラピオンはどう説明するんですか」
「あ……」
「で、今ってわけ」
「……」
ゾロ子は顎に手を当てて考えていた。
「ねぇ、ところで君は……」
「和也でいい」
「和也は、どうして多田野さんのドラピオンが多田野さんのものではないって分かったの?」
「あぁ、この右手のおかげさ」
月島は右手を見せびらかした。
「……こんな風に、右手を動かすことによってポケモンの技やトレーナーを見たり、一応少しの時間なら操ることも可能さ。
もちろん、悪いことに使う気はないけどな。俺が子供の頃から持ってた、特異な技なんだ。
調べてみたんだが、あのモンスターボールに入っているポケモンは、多田野さんでも容疑者3人でもない。
おそらくGTSか何かで入手したものだと思う」
「ふうん」
するとゾロ子は立ち上がって、
「じゃあ、聞くけど」
「え?」
顔を月島に寄せ……
「そんな力を持ってるのにこんな簡単な事件がわからないなんて、あんたの脳みそバチュル並しかないんじゃない?」
バチュル。大きさ0.1メートル。重さ、0.6キログラム。
ポケモンの中で最も小さなポケモン。
……それイコール、自分の脳の大きさ。
「……」
こういう時、若者では何と言うのだろうか。
激おこぷんぷん丸?いや、違うな。
激おこぷんぷん丸ムカ着火インフェルノ?……あぁ、これだ。これ。
「てめぇ人を馬鹿にすんのもいい加減にしろぉ〜!」
ついに怒る月島。
「メシ喰いたいとか言ったり事件のこと聞きたい言ったり挙げ句の果てには人けなし!お前は鬼か!
ろ・く・で・な・し。ろくでなしか!いきなり逃がすぞオラ〜!」
「い、言いすぎたことは謝るわ!だけど逃がすとかやめてよ!」
「そもそもお前を受け取った俺が根本から間違ってたよ!あ〜あ!この小説最初っからやり直したいわ!」
若干のメタ発言が飛び出した時、月島の脳に、
「!?」
電流が走った。
それを見て、ニコッと笑うゾロ子。
「……根本から、間違ってる?」
右手をこめかみに押し当てる。
「なぁ、ゾロ子。もしかして、毒ポケモンを使った、それで毒殺として捜査していた、俺たちが間違ってたって言うのか?」
「そういう事。ねぇ、和也」
「ん?」
「ちょっと長くなるけど、あたしの話、聞いて欲しいな」