事件編
「んあ〜……疲れた〜……」
男がアパートの一室に帰ってくるなり、大声を出してベッドに倒れ伏した。
この男の名は、月島 和也(つきしま かずなり)ミアレ警察の、しがない警察官(27)である。
「……しかし、今回の事件、どうしたもんかなぁ」
そう、彼は今回、とある事件を担当していた。
カシャ!カシャカシャ!
椅子に倒れ伏した男、目を閉じ、ピクリとも動かない。
「被害者は多田野泰之(ただの やすゆき)さん、78歳。多田野建設の社長です。
現場を見る限り、特に変わったところはなく、テーブルの上に寿司が置いてあるだけです。
外傷らしきものがないため、おそらくは毒殺かと思われますが……」
「ふむ……」
上司の火川 義弘(かがわ よしひろ)が、現場検証を行っている。
「置いてあるのは、このモンスターボールのみか。中身は調べたか?」
「はい。調べたところ、中身はドラピオンでした」
そう、ドラピオン。
「こいつが毒を盛ったんじゃねぇのか?」
「いえ、寿司、吸い物、茶、すべてに毒は盛られていませんでした。
ただ、寿司桶の中に一貫だけ抜けている寿司があることから、それに塗られていたかと思われます。
第一、ドラピオンが毒を盛ったのでは、ツメに含まれた毒を使うはず。
ツメの痕が残るはずなのに、それを怪しんで食べないのでは……?」
「どくどくは?」
「あ……それは……」
火川はそれだけを言うと……
「よし、分かった。これは……」
「20、30、40、50、または60代の犯行だ!」
火川のドヤ顔。……当たり前のことを大声で言ったまでだが。
「火川さん。申し訳ないんですが、右手を使っていいですか?」
「右手……?あぁ。構わんぞ」
月島の右手は、特殊な力を秘めていた。
人差し指を出し、ドラピオン顔の周りでくるくると円を描く。
いわば、ポケモンレンジャーのキャプチャのような動きだ。
キラン!
「出ました」
ドラピオン 技 クロスポイズン かみくだく つじぎり じしん
「どうやらこのドラピオンは、毒技はクロスポイズンのみのようです。外傷性のものは」
「わかった!」
「え?」
火川がわかったと言う。こういう時は大抵ダメな時だ。
「ドラピオンは、このクロスポイズンを寿司が入った桶に使ったんだ」
「……」
「……なんだよ、その目」
「……いや、クロスポイズンを使ったというのなら、傷がついていてもおかしくないはずでは。
それに、被害者が見ている前でそんなものを使ったというのなら、多田野さんは怪しむはずですが」
「……」
みるみるうちに自信が薄れる。
「……多田野さんは、目が見えないとか、そんな持病……」
「持ってません」
「あ〜。あ〜そうなの?ふうん。知らなかったなー」
……火川は一旦無視し、現場をもう一度見直す。
「ん?」
床には、何かを引きずったような後が。
「……これは……」
念のため、鑑識に調べてもらうよう連絡した。
テーブルに倒れ伏している被害者。すでに干からびている寿司のネタ。
しかし、その全てに毒は盛られていない。もちろん、湯呑みにも。
テーブルも調べてみたが、毒物は発見されなかったと言う。
鍵を握るのは、このドラピオン。
毒技がクロスポイズンしかない以上、被害者に怪しまれずに毒を盛ることなど不可能だ。
まして、被害者には外傷などなかった。
だとすれば、どうやって被害者は殺されたというのか……?
ピンポ〜ン!
「ん……?」
こんな時に誰だ。正直事件がある日は何もかもをするのが嫌になる。
「……は〜い」
「宅急便です」
「……?」
何か、応募しただろうか?
受け取ったあと、よく見てみる。しかし随分大きな箱だ。中身はなんだろうか。
あまりに気になったので、蓋を開けた。
「なんだ?」
モンスターボールと、手紙が入っていた。
和也、元気か。お前のことだ。しっかりやれているに違いない。
だけど、なんとなく、なんとな〜く心配になったから、お前にこれを譲ろうと思う。
今後も風邪とかをひかず、元気で過ごすようにな。
追伸。この前借りた1万円、まだ貸しといてね。
大樹
「ち、兄貴……」
兄の月島 大樹(つきしま だいき)からだった。
兄も刑事であり、正直言って、自分では兄に勝てるわけもない。そう思えるほど、圧倒的な差があった。
モンスターボールからポケモンを出すと、
「?」
色違いのゾロアークだった。
「……こいつを送りつけて、何になるってんだ」
しかしなんだか気になる。月島は右腕を伸ばし、人差し指をぐるぐるとゾロアークの顔の周りを回し始めた。
「たかだか色違いのゾロアークだろ……?自慢か?」
「残念。自慢だけじゃないのよね」
「!?」
声が聞こえた。周りを見回すが、誰もいない。
「……な、な、なんだ……?」
「お〜い。こっちよこっち」
「……」
女の声が聞こえた。
しかし目の前にいるのは、ただのゾロアークだ。
……いや、色違いな時点で十分貴重なものだが。
「あ〜もうじれったいなぁ。解けばいいんでしょ?」
ポン!
白い煙と同時に、
「!?」
若い女に変身した。髪の毛はゾロアークと同じ紫がかった青色。
服は黒色のボディスーツになっていた。
「……お、お前……誰だ!?」
「誰って……大樹から送られてきたゾロアークだけど?」
「……」
信じられない。
目の前で変身したとはいえ、イリュージョンにも程がある。
……いや、すでに日本語としておかしいが。
「……な、なぁ……名前は?」
「ゾロ子」
「まんまだなぁおい……」
と、グギュルルルル……
「……おなかへった」
「いきなりだなおい。えっと……ほら、食え」
弁当を出すが……
「な!?あたし一応ポケモンよ!そんなあたしに人間が食べても毒になりうる添加物たっぷりのコンビニ弁当を食べさせる気!?」
「いきなり長々と突っ込むんじゃねぇ!わかったわかった!ポフレ買ってくるから、じっとしとけよ」
「甘い味の、フルーツが乗った奴がいいな」
いきなりセレブもビックリなわがままである。
「……普通のでいいだろ」
「うわーんそれじゃないと死んじゃうかもー」
「棒読みになるな。わかったよ」
あまりわがままを言われても仕方がない。ここはおとなしく従うことにした。
「……ちっ」
「ん〜おいひい♪」
「うまそうに食いやがって。こちとらなぁ。事件持ってて大変なんだってのによ」
何気にそう言うと、
「事件?」
ゾロ子は反応した。
「ね、どんな事件?話してほしいな」
「え?……いいけど、メシ吐き出すんじゃねぇぞ」
そういえば、兄も好奇心旺盛だ。そんな兄に似たかもしれない。
月島はゾロ子に話してみるとした。