第三章 何気ない、少し逸脱した日常
第十五話 伝えたかったこと
一通り今日起こったことと、リオとその事務所、そしてあまさきの事をダイスケに話した。
「……」
最初こそ疑っていたダイスケだったが、カエデの説得力は本物か。そう思った。
「仮にそれが本当だとして、俺に何ができる?」
「あ、それは……」
不安そうな顔をするカエデ。
「……カエデ」
「何、かな……」
ダイスケは立ち上がると、
「念のため、そのあまさきって店の店主さんと話がしたい。明日にでも、連れて行ってくれるか?」
と、捜査をする素振りを見せた。
「ダイにぃ……いいの?」
「あぁ。もともと黒い噂の絶えなかったレイ・プラネットだ。化けの皮を剥がすのにいい機会かもしれねぇ」
「うん、ありがとう。ダイにぃ」
「別に礼はいらねぇよ。俺は警官の仕事を全うするだけさ」
照れくさそうにダイスケは言った。



翌日、朝早起きしてあまさきの前にやってきた二人。だったが……
「あぁ、君は」
店長は、すでにシャッターを閉めていた。
「店長さん……!」
「はっはっは。今日から取り壊しの作業を始めることとなったから、今日中に立ち退いてくれ。だってさ。
 参ったねぇ。いくらなんでも急すぎるって言ったんだけどなぁ」
「そんな……もう、ですか?」
「そうだよ。あの事務所の社長さんに言われちゃったよ」
何かを言おうとするカエデだったが、ダイスケは制止をし、
「グルースシティ署の、二階堂 大輔と申します」
と、警察手帳を出した。
「今回、レイ・プラネット社の買収のことで、少しお聞きしたいことがあるのですが」
「まさか、警察まで出てくるなんて、はは、悪いのは俺なんだけどね」
首を横に振るダイスケ。
「レイ・プラネットには、数多くの黒い噂があります。あなたが知っていることを話して頂けませんか?」
「ないよ。言ったところで、何も変わらないかもしれないし」
「……」
ふうっと息をつく店長。
「じゃあ言いますが」
割って入るダイスケ。
「強制代執行は、その店、もしくは建物などがその場に重大なる迷惑、損害を与えていないと執行できないものです。
 この店は見る限り、強制代執行を受けるに値しないと思いますが」
「……」
「見てわからないかなぁ。このお店が存在することで、街の外観が損なわれているのを」
「!?」
そこにはレイ・プラネットの社長の姿があった。
「あなたは……」
「やれやれ、こんな発展を続ける商店街の中で、こんな一昔前のオンボロの建物が存在すること自体がもはや奇跡なんだよ。
 奇跡……いんや、邪魔以外の何者でもないね」
「邪魔?」
社長は無視して続ける。
「こんな建物存在するだけ無駄無駄。こういう街には僕の事務所のような世界に誇れるような建物を作らないと」
「お前……!存在するだけ無駄って言い方はないだろう!?」
「あるんだよ」
すると社長は店の壁を蹴り、そのまま吐き捨てるようにこう言った。
「それに、天崎も言っていたよ?<私の店は取り壊してもいい。どうなっても構わない>って」
「!?そんな、バカな」
カエデは絶句した。
「じゃあそういうことで、君たちみたいなバカを相手にすると疲れるからね」
そのまま手を振って去ろうとする社長。
「なっ。待て!」
「待つのはお前だカエデ!」
「離してよ!リオさんがそんなことを言うはずがないのに」
「言うはずがなくてもだ!今やるべきことはあいつを追いかけることじゃねぇだろ!」
ダイスケが叱咤すると、カエデは少し落ち着いた。
「ご、ごめん……」
「いや、謝るのは俺の方だよ。君たちに巻き添えを食らわせることなかったのにね」
「……」
時計を見るカエデ。いつの間にか時刻は8時になろうとしていた。
「そろそろ学校に行かねぇとまずいんじゃねぇのか?」
「……うん」
「カエデ」
するとダイスケはこういった。
「絶対、悪いようにはしねぇよ。だからお前は、安心していればいい」
「……」
しかしカエデは不安だった。
本当に……もうどうにもならないのかもしれない。



「これは本当か?進藤君」
一方こちらはホロロジウム軍事センター。
「はい。間違いありません。エンプティが、この地方に向かっております」
そこには、空から飛んでくるエンプティを指し示した座標が。
「分かった。ただ、スクランブル出動にはまだ早い。念のため、あの子達には伝えておくように頼むよ」
「了解しました」
電話を切る浦川。
「あっちゃん。仕事だ」
「……はぁい」
気のない返事をするアキラ。
「あっちゃん?」
「うえぇ!?」
すぐに空気を察したカズマ。
「……ごめん。こんな状況で済まないが、頭を切り替えてくれるかな?」
「……はいは〜い。……で、何すればよかったんやったっけ?」
「……」



「カエデちゃん……?カエデちゃん?」
「ん?」
昼休み、マイの言葉で我に返るカエデ。
「どうしたの?今日ずっと上の空だけど……」
「……ごめん。何だか今日は……」
「……」
するとナナが、
「カエデ、やっぱり気にしてる」
「!?」
と、顔を覗きながら言う。
「天崎さんのこと」
「き、気にしてるわけないだろう!?」
「そんな必死に否定すると余計怪しいよ……」
「うぅ……!」
マイとシズルも、カエデの方を向いた。
「……物欲しそうな目はやめてくれ。ちゃんと話すから」

いろいろと整理をして話すカエデ、3人は静かにその話を聞いていた。
「ねぇ、なら質問なんだけど」
「?」
「カエデちゃん、どうして天崎さんをそこまで気にしているの?」
「……似ているんだよ。昔のオレに。周りからは期待を置かれる一方で、みんなからは一方的に距離を置かれる。
 ……そんな境遇が、マイに会う前のオレに似てるんだ。だから……」
と、話していると……
「確かにりおりんは最近変だね」
「「「「うわぁ!」」」」
「そ、そんなに驚かなくていいじゃないか……」
ユウジが話に割って入ってきた。
「昔まではなんというか、伸びやかだったしそれに、歌に魂がこもっていた。そんな感じがしたんだけど、最近はどこか心が無いというか、そんな感じがしたんだ。
 ライブでもなんというか、歌っているというより、<歌わせられている>みたいな感じが否めない……そんな感じだった。
 このままだと、同じくトップアイドルの<KNT>とか<しろクロ>、<ヤマナカリーナ>に遅れをとっちゃうかもしれないよ。
 まぁヤマナカリーナは歌が上手いけど、事務所に入ってないし、KNTはメンバーの仲が良くない。しろクロはメンバーが取っ替えひっかえしてる。
 すぐに抜かれるということはないかもしれないけどね」
「く、詳しいですね、先生」
「一般常識の範囲だよ。それに……」
と、何か言おうとした時だ。
「!?」
5人の携帯が一斉に鳴った。
「アキラさんからだ」

「セイザ地方にエンプティ接近中 出動準備願います」

「エンプティ、思ったより早かったか。任せられるかい?」
「「「はい!」」」
「……」
カエデのみ返事をしない。ユウジはそれを見て、
「二階堂さん。わかったね」
と、言い聞かせるように言った。
「え?あ、はい」
「……」



一方その頃記者会見場では、
「……ではこれより、レイ・プラネット社、セイザ地方進出記念記者会見を行います。まずは代表取締役からの説明です」
レイ・プラネットの記者会見が始まっていた。
社長が話し込んでいるうちに、リオの緊張の度合いはピークに達する。
「……」
このままで、本当にいいのか。
自分は確かに、社長に世話になったのも事実だ。
しかし、父親のことも、放ってはおけない。

飼い犬ごときの君が僕の手を噛んだらどうなるか、分かっているよね?

「……」

俺はリオを許さないなんて、一度も言ってませんし、俺の家族ですし、当然ですよ

「……」
「では続きまして、天崎 理緒さん、お話をお願いします」
「は、はい」
立ち上がるリオ。
「み、皆様、本日は……」

決める権利はあなたにあります

「本日は……」

失うために戦うんじゃなく、取り戻すために戦えばいいでしょう?

「……!」
カエデの言葉と、父親の言葉が深く脳を刺激し……
「み、み、みな、様……」
リオが覚悟を決めるのに、時間はかからなかった。
生唾を飲み込んだあと、彼女は……
「私は今日、この事務所をやめます」
と、はっきりした口調で言った。
にわかに騒ぎ出す会見場。
「な、何を言っているんだ天崎、君は」
「私はこの社長に、何もかもを取り決められ、給料も8割以上を社長の私利私欲に使われ、そして社長は……
 私の家にまで、その毒牙を伸ばしてきました。
 今回の新事務所設立も、私の家を無理やり取り壊してまで行おうとしているのです!」
慌ただしくなる会見場。
「天崎、嘘はよくない」
社長が立ち上がるが……
「私はもう、あなたの操り人形じゃないんです!私は……ただ、アイドルの前に、人でありたい!」
と、言って、リオは会見場を駆け出した。
「な、待て!天崎!何を言っているんだ!」
手を伸ばす社長だったが……
「社長!どう言う意味ですか!」
「この話が事実なら、とんでもないことですよ!?あなたは最低じゃないですか〜!」
「何か一言お願いします!」
「う、うるさい!どけっ!どけっ!全部あいつのでっち上げだ!」
記者が邪魔し、リオとの差はどんどん開いていった。



一方その頃……
「!?」
無数の重機が、何故か横転している場所にたどり着いた4人。
エンプティの場所は、そう遠くないようだ。
……ひしゃげたパワーシャベルなど、凄惨な光景ではあるが、運転手は全員無事のようだ。
「ど、どうされましたか?」
シズルが聞きに行く。
「わ、わからない。だけど、いきなり変なポケモンにぶつかったと思ったら、ものすごい力で車を持ち上げられて……
 あ〜もう!これじゃまたあの社長に怒られる!」
社長。その言葉に敏感に反応するカエデ。
「その社長って、まさかレイ・プラネットの?」
「え?」
「あぁ、そうだよ。自分の意思だけで店を取り壊すなんて、あの社長相当怖いもの知らずなんだろうなぁ。
 俺は嫌って言ったんだけど、あの社長、言うこと聞かないみたいだし……」
「……」
顎に手を添えるカエデ。
「二階堂君。どうした?今はエンプティを追うのが先だ」
カズマが念のため、灸を据える。しかしカエデは……
「すいません。だけど、ちょっと気になることが……」
と、反論。
「何を気にすることがある。今はエンプティを優先すべきだ。エンプティが暴れれば、この被害以上の被害が……」
「いた」
ナナの一言で、一行は一斉にそちらを見る。
そこには、真っ白い姿のソーナンスがいた。
「……よし、分かった。3人はエンプティを追ってくれ。二階堂君、君はその方々の保護を頼む」
「「「了解!」」」
「わかりました。……できる限り早く行く。頼むぞ」
「任せてよ!」



3人は変身し、ソーナンスの前に立ちふさがった。
「さぁ!止まりなさい!エンプティ!」
「ン〜?」
ソーナンスはまるで聞いていないのか、まっすぐに歩き出す。
「ちょっ止まりなさいって!」
マイはソーナンスに走り寄る。足の速さはそれほどはやくないようだ。
「止まれって……言ってんでしょうが!」
そのまま槍を突き立てる。
「な、待て!小鳥遊君!」
「え?」
すると突然ソーナンスは震えだし……
ズド〜〜〜ン!
「きゃあ!」
力を解放し、衝撃波と成した。
そのまま片膝をつくマイ。
「やはりカウンターか……」
「マイちゃん!」
「小鳥遊君ですらこの火力……なら、どうすればいい……!」
するとナナが、
「なら、遠くから」
と、タネマシンガンを構える。
「待て、白石君!遠くから狙えばいいというものでもない」
「?」
「カウンターは力を解放する技。どこから狙おうと一緒だ」
「む……」
構えを解くナナ。
「浦川さん、私のコットンガードで軽減できませんか?」
「ダメだ。カウンターの力の解放の前には、生半可な守りは無為に等しい。
 小鳥遊君が、身をもって証明してくれただろう?」
「そ、そんな」
するとソーナンスは、ゆっくりと歩き始める。
「う……待ってよ!」
背中にしがみつくマイだったが……
「ン〜?」
と、まるで気にしない。
「えぇ!?いや、ま、待ってって!」
「マイちゃん!」
「浦川先生!何か手はないんですか!」
「むぅ……」
知恵を絞るカズマ。と、ここで……
「二階堂君は?」
「あ、そういえば……」



一方、あまさきの前。
「はぁ……」
荷物をまとめ、の前に立つ店長。と、そこへ……
「お父さん!」
「!?」
リオがやってきた。
「り、リオ!?……な、何の用だ?」
突っぱねる店長。すると……
「ごめん、お父さん」
リオは深々と頭を下げた。
「え?」
「遅く……なっちゃった」
「な、何を言っているんだ。俺の言うことを聞けないお前は俺の娘じゃねぇって言ったはずだ。……今更、何が言いたい」
さらに突き放すが、
「許して欲しいなんて、今さら言わないよ。だけど、ただ一言言いたかったの」
リオは息を吸い込んで、何かを言おうとした。
だが……
「やっと……やっと見つけたぞ、天崎……」
「「!?」」
そこへ社長がやって来る。
「いい加減な嘘をでっち上げて、俺を蹴落とそうとしやがって……飼い犬風情が手を噛むつもりか!」
「社長……!」
「観念するんだね。僕を怒らせた罪はとても重い。君という存在を、芸能界から洗い流してやる」
「り、リオ……!お前」
しかしリオは下がらなかった。
「消せるなら消してください」
と、反論した。
「私が消えても、お父さんは……私の帰る家は消さないで!」
「!?」
「お父さんは……私の大切な人、家族なんだから!」
凛とした表情で社長を見つめるリオ。
「僕に命令をするな。何様だよ」
「何様でもいい!私は……お父さんを守れるなら、なんだってする!だから、もうやめてください!」
「じゃあ何だってするならそこをどけ。もうすぐ重機が……」
が、そこにやって来たのは、
「だ、だ、誰かは知らないけど、ちょっとどいて〜〜〜!」
「うん?」
マイがやって来る。ソーナンスにつかまりながら。
「やれやれ、今度はなんだ。今ちょっと忙しいんだ。席を」
「やめて!本当に死ぬわよ!」
「ん?さては君もこいつらの味方か。そんなチンケなからくりまで呼び出して」
「からくりでもなんでもないって!その……えっと」
おもむろにソーナンスを蹴る社長。
「あ゛〜〜〜!」
「なんだね君は、騒がしい……」
その瞬間、ソーナンスは体を震わせ……
ドウン!
「うおわ!」
「きゃあ!」
しがみついていたマイと、社長を吹っ飛ばした。
「あ!」
「な、なんだ!?」
ぶるぶると体を震わせるソーナンス。どうやらまだ発散したりないらしい。
「!?」
視線がリオと、店長に向けられる。
「あ……」
「ま、まずい……!」
立ち上がろうとするマイだが、距離があるため間に合わない。
「ン〜……」
反射的に店長の前に出るリオ。
「な、バカ!逃げろ!リオ!」
「あなたが誰か知らないけど、お父さんを傷付けるのはやめて!」
「ンン〜〜〜!」
ソーナンスに力がこもる。
「お父さんは……私の大切な人……宝物だから!」
と、大声を上げる。
「り、リオ……!」
「ンン〜〜〜!」

ドゴ〜〜〜ン!
「ン〜〜〜!」
「!?」
しかしソーナンスが力を解放する前に、何かが命中した。
「な、何……」
「……」
カエデだ。
「遅れてすいません。浦川さん!」
「ふう、やれやれ。ヒヤヒヤさせる。大事な用なら早く済ませて欲しかったな」
「……挽回します」
ソーナンスはむしろ、ダメージを受けることを喜んでいるように見えた。
「な、なんなの……?」
「ま、まずい。これはおそらく、ソーナンスは力を溜めに溜めて開放するつもりだ!」
「えぇ!?」
「一撃殴られただけであの威力なら、辺り一帯が吹き飛んでもおかしくはないぞ!」
焦るマイとカズマ。しかしカエデは……
「構わないよ」
「え!?」
「に、二階堂君。何を」
するとカエデは一気にソーナンスに接近し、
「マイ!シズル!ナナ!手伝ってくれ!一気に殴るぞ!」
「ば、バカなことを言うな二階堂君!小鳥遊君が一撃食らっただけで卒倒する威力だぞ!」
声を荒らげるカズマ。
「待って、ダーリン。二階堂ちゃんは多分……」
バキ!ドカ!ドドドドドドド……ペチン!
袋叩きにする4人。するとソーナンスの体は、ものすごく膨張した。
「ン〜〜〜!ンン〜〜〜!ンンン〜〜〜!」
我慢の限界のソーナンス。
「どどど、どうするの!カエデちゃん!」
「……」
そしてカエデが、ソーナンスの足元に潜り込み……
「ブラストバーン!」
ブラストバーンで、ソーナンスを遥か上空へ打ち上げた。
「ン〜〜〜〜〜〜!」
カッ……!
上空で、まるで打ち上げ花火のように力を発散するソーナンス。
「なるほど。開放が届かないような遠くで力を発散させるのか……まさか一瞬でその考えにたどり着くとは」
溜まりに溜まった力を発散したソーナンスは、自らもその衝撃に耐えられず、飛ばしたジェット風船のようにへなへなと地面に落ちてきた。
「エンプティ……ブレイク!」
そしてカエデは、エンプティブレイクを発動し、ソーナンスを捕まえた。
「ふぅ。ようやく終わったか」
カズマも安心した。
「……」
その様をじっと見ていたリオ。
「……」
カエデは何も言わず、その場を立ち去ろうとした。
「あ、あの、ありがとうございました」
「……」
「お名前は?」
と、リオが言うと……
「名乗る程じゃ、ありませんよ」
そうとだけ言って、残り3人を伴い、その場を立ち去った。

「リオ」
店長が言う。
「お父さん……」
見つめ合う二人。だったが……
「も、も、もう……許さんぞ……!」
「!」
社長が立ち上がる。
「貴様のような腐れ外道が……俺を蹴落とそうなんて10年早い……!」
「しゃ、社長……」
「大体証拠も何もないのに、そんな嘘、まかり通るとでも思ったか!貴様を訴えれば、俺はまず間違いなく勝てるぞ!」
一人称も変わっている。
「貴様らなぞ……破片も残らずぶっ潰して……!」
<まさか君たちは、僕の言うことが聞けないというのか?大したものだね。
 僕のような、何もかもを超越できるような天才的な才能を持った人間が、やっと現れたんだ。
 君たちのような素人は、黙ってその言うことを聞くのが礼儀だと思うけど?>
「!?」
録音したような、社長の声が聞こえた。
「そろそろいい加減にしてくれないか」
カエデだ。手にはボイスレコーダーを持っている。
「き、貴様!?」
「さっき出会った作業員の方から、こんなものを頂いたんですよ。ついでにもう一個録音がありますけど、聞きます?」
「……!」
これで観念するのかと思いきや……
バシ!カシャ!
カエデの右手のレコーダーを叩き落とし、踏みつけて壊した。
「ざ、残念だったなぁ。こ、これで証拠は……」
<天崎 理緒か?あぁ。奴ならどうでもいいよ。散々金をむしり取った上で、ゴミのように捨ててやるさ。
 あいつは何も知らずに僕に使われて、いざとなったらさようなら。帰る家もなくのたれ死ぬんじゃないのかな。
 ……そんな風に思うことはないよ。だって、僕さえよければそれでいいんだもん。
 それとも君は僕の言うことが聞けないのかい?君一人の命を取ることなんて、簡単にできるんだけどなぁ?>
しかしまた、録音の声が聞こえた。
「!?な、なんで!?」
そして物陰から、ダイスケが出てくる。ボイスレコーダーを持ちながら。
「警察、なめないでくださいよ。大事な大事な証拠、そんな簡単に潰せるとでも思ったんですか?
 それにあんたには、約3億円の脱税の容疑もかかっているんです。さっき事務所の方にお伺いしたところ、すべてを喋ってくれました」
「……!……!」
「腐れ外道はあんただよ。おとなしくお縄につくんだな」
社長はその場にうなだれた。



……カエデは作業員に事情を聞いた際、作業員はとっさに録音していた録音機を提供した。
車の中についている簡素なものであったが、それでも証拠には十二分になった。
そこへ、重機横転の騒ぎを聞きつけたダイスケが現れ、カエデは説明。
ダイスケはバックアップを取ると、後のことを自分に任せるように言い、カエデはマイたちに合流したのである。



一週間後……
「はいらっしゃ……あぁ。浦川さん」
アキラが入ってきた。
「どうも。っておぉ。今日も大忙しみたいですね」
「えぇ。これもメディアとリオが、俺の店を助けてくれたおかげですよ。おかげで店もこの通り。猫の手も借りたいくらい。
 まぁ、嬉しい悲鳴ですね……焼肉チャーハン、お待ちどうさまです」
ひとつだけ空いていた席に座る。そこにはカエデもいた。
「でもええんですか?せっかくお店を守ってくれた娘さんを、また自由に活動させて」
「アイドルを続けろって言ったのは俺です。俺はただ、ずっと素直になれなかっただけなんです。
 俺は今度こそ、ずっとずっとリオを応援したい。そう思ったから、また別の事務所に行こうとする彼女の背中を押したんですよ。
 今度こそ、リオには頑張ってもらいたい。リオには元気いっぱいに歌ってもらいたい。そう思いましてね。
 でも、約束はしましたよ。いつでもいいから、今度は素顔で食べにこいって」
ビクッとするカエデ。
「まさか店長さん。あの時のオレの隣にいた子がリオさんって」
「当たり前じゃないですか。だっていくら時が離れようと、親子ですよ。娘の顔を見間違える親なんて、この世にいませんよ」
得意げに店長が言うと、カエデはニコッと笑った。
「そろそろ恋もしたいでしょ。事務所の問題も終わったし」
テレビでは、リオが{テレフォンエキサイティング}に出演している。
「あ、でも、好みのタイプはいるんですよ?」
「え!?ちょっと待って興味があるなぁ。聞いてもいい?」
リオは、心からの満面の笑みでこう言った。
「燃えるようなお方で、颯爽と現れて、私の危機を救ってくれる人。
 他の人をまとめるリーダーみたいな感じで、ゴウカザルみたいな熱血さを持ったような人がいいです!」
「は……?」
司会者は呆れたような顔をしたが、リオは続けた。
「しかもその人、去り際に<名乗る程でもない>ってクールに去っていったんです。かっこいいと思いませんか?」
「ちょっと言ってることがよくわかんないよ!」
「あはは、すいません。多分、夢か何かで見たと思うんです……」
そこでCM。
「……(ま、まさか……な)」
カエデは少しだけ額に冷や汗を浮かべながら、焼肉チャーハンを口に運んだ。

TO BE CONTINUED……
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バタフライ ( 2013/08/28(水) 23:56 )