第十三話 恐怖のサバイバル(3)
ユレイドルの体内……っぽい場所を抜けると、光が見えた。
「あれは……」
出るとそこは、強い風が吹き付ける場所……
どうやら、ここが山頂のようだ。
しかし寺のような建物は見えない。
「あれ?浦川さんの話だとここにお寺があるはずなんだけど」
辺りを見回す4人。その時だ。
「ぐふふふふ、よくぞここまでたどり着いたな、小娘共」
「!?」
何やら声が聞こえた。
ギュイン!ギュイン!ギュイギュイン!
黄色い閃光が飛んでくる。それはマイたちの目の前で止まった。
ルカリオだ。しかも色違いの。
「まずはここまで来たお前たちのことに敬意を評しよう」
「あなたがこの山の長ですか?」
「いかにも。そして今回のこのサバイバルを考えたのもわしだ」
しかしなんだ。話しかけてくるだけで威容が伝わってくる。
「あなたが誰だろうが関係ない。オレたちは、この山でそのサバイバルというやつを勝ち抜くために登ってきたんだ。
だから、札がどこにあるかを教えてくれないかな?」
「あるぞ。ここに」
腕組みを解くルカリオ。腹部には札が貼られていた。
「!?」
「これをわしから奪うこと、それがお前たちに下された本当の試練じゃ。お前たちの目的のものは、ここにある。
じゃが、今はわしのものじゃ。さぁ、どうする?」
少しだけ考えたあと、マイはこう言った。
「奪い返す」
「……そうするがよい」
ルカリオの目が赤く光った。
「……出来るものなら」
「行くよ!みんな!」
4人同時に駆け寄る。
「先手必勝だ!」
カエデが炎をまとった拳を突き出すが、
バシュン!
「!?」
一瞬でルカリオの姿が消えた。
「カエデちゃん!上!」
「?」
足で踏みつけようとするルカリオを、バク転でかわす。
「いい身のこなし。じゃが……」
が、その声はカエデの背後から聞こえた。
「!?」
バキ!
鋭い回し蹴り。
「素早いだけでは勝てんぞ」
「ぐ……!」
すぐに体勢を立て直し、飛び上がるが、
「まして、無防備になる空中に逃げるなど、もってのほか」
「!?」
ガシ!……ドサ!
背後からカエデの両腕を掴んで投げるルカリオ。カエデは大きくバランスを崩し、地面に叩きつけられた。
「ぐ……げほ……!」
「このように、返ってピンチを招くこともある」
そのまま蹴り抜こうとするルカリオだが……
「させない!」
コットンガードを使うシズル。
フワン……
間一髪、カエデへの直撃をまぬがれた。……が、
「え?」
突然ルカリオは高く飛び上がる。コットンガードを足場にしてジャンプしたようだ。
「術なんぞ使ってんじゃねぇ!」
どこかで聞いたようなセリフを言い、りゅうのはどうを撃つ。
「術じゃないですよ!」
間一髪で回避するが……
「何をしておる!攻撃が来た時は回避するのでなく、受け止めるという道もあるものだぞ」
「え?」
ドッゴォ!
「きゃあ!」
背後から力強く殴られ、地面に落ちていくシズル。
「受け止めぬ故に、かようなピンチも招く」
「シズルちゃん!」
「……」
立て続けにタネマシンガンを撃つナナ。
ドドドドドドド……
「ふん」
バシュン!バシュンバシュン!
しかし神速の動きに、ついていくことができない。
「豆鉄砲なぞ当たらんぞ」
少し後退してからタネマシンガンを撃つが、
「飛び道具とは停止しながら撃つものではないぞ」
背後に回られる。
「!?」
素早く変形をとき、スイープビンタでなぎ払おうとするが、
バキ!
「ん……!」
力強く蹴り飛ばされる。ナナは大きくのけぞったあと、その場に倒れた。
「遠距離からの攻撃では、攻撃側が動かぬ場合動きが早い敵だと返って狩られることになるぞ」
「みんな……」
「さて」
一気に駆け寄るルカリオ。
「そなたはどうする?」
「!?……くっ!」
ガキィン!
何とかしてガードするマイ。しかしルカリオはすかさず回し蹴りを放つ。
「ちょっ……!」
ガキィン!
これもガードするが、蹴りの威力が凄まじく、体勢を崩しそうになる。
「ふむ、防御はよい、じゃが……」
ルカリオが足を引いたところで、すかさず左の槍を伸ばすが、
ガシ!
「え……」
「攻めに転じるタイミングが悪いのう」
ヒュ……
「うわぁ!」
ガシャン!
そのまま投げ飛ばされる。
「束になってその程度か、そんなものだとエンプティに侵攻されるのも時間の問題じゃぞ?」
「ぐ……」
「元より、お前たちのような小娘に期待なぞしておらんがの」
立ち上がるマイ。しかしそれを見たルカリオはすぐに跳躍した。
「速い……!」
「ぼさっと立っておる場合か」
ルカリオの右足は真っ赤に赤熱している。……ブレイズキックだ。
再び槍を使って攻撃を防ごうとするが、
ガキィン……!
……ジュ〜〜〜……!
「なっ……!」
炎の一撃により、槍が黒く焦げ始めた。
「さぁ、どこまで耐えられるかの?」
「んぎ……ぐぅ……!」
片膝をつきながらなんとか耐える。しかし、激しい力が加わることにより、腕が震え始めた。
「がっ……!」
ギィン!
鈍い音が鳴った瞬間、
ズウン……!
再び鈍い音がした。
「あっがぁ……!」
大きな槍のように、マイの体に足が食い込んでいる。
ジュ〜〜〜……!
「……!」
「堅き鎧も、このように弱点はつきものじゃ」
「ぐ……ぐぎぃ……!」
ドスン……
マイはその場に、崩れるように倒れた。
「……」
4人はあっという間に、地面に倒れふしてしまった。
「やれやれ。もっと自身の動きを知り、他の者と気持ちを通わせねば」
ルカリオが桃色のはどうだんを投げつける。
ギラン!
「ん……あれ?痛く……ない」
先程まで感じていた痛みが嘘のように引いた。
「いつまでたっても今の強さの先へは進めんぞ」
いやしのはどうのようだ。
「どういうことなの?どうして私たちを助けるの?」
「今別に聞く話でもなかろう。さぁ、続けようぞ」
再び大ジャンプするルカリオ。
狙いはマイだ。
「させない!」
同じく意識を取り戻したシズルが、コットンガードで防ごうとする。
「何をしておる」
フワン……
「さっきの二の舞になるだけじゃぞ」
「!?」
急降下して避ける。そこへ……
「おらぁ!」
カエデが腕に炎を纏わせ、アッパーカット。
「ふむ」
シュン!
「!?」
しかし急降下したルカリオが、逆にアッパーを繰り出してきた。
「ここだ!ナナ!」
「……」
ロックブラストを打つ。
「ほぉ、おとりか。姑息だが、悪くはない手。じゃが」
空中を蹴り上げ、高く跳躍するルカリオ。
「これはどうかね?」
「!」
そしてそこから急降下しながらナナを蹴りぬこうとする。
ギィン!
が、そこへマイがシザークロス。
右足をなぎ払ったが、ルカリオは空中で一回転して着地した。
「……つっ!」
ブレイズキックをかすめただけで、かなりの威力がある。
「ごめん、マイ」
「いいよ、そんなの」
するとルカリオは、少しだけ笑ったあと、
「なるほど、大体分かった気がするぞい」
「な、なにを?」
「お前さんたちの弱点。そして……」
高く跳躍した。
「長所も、な」
「また来るよ!」
ブレイズキックを放つルカリオ。4人はなんとかそれを避け……
「はぁっ!」
カエデが炎をまとった腕で、バックナックル。
「お前さんに足りないもの、それは……」
「……」
後ろから回し蹴りを放つルカリオ。しかしカエデはそれをバック宙でかわす。
だが、ルカリオはそれを待っていたかのように、りゅうのはどうを撃ってきた。
「カエデちゃん!」
「……」
カエデはできる限り冷静に、それを見つめ……
「ふっ!」
腕を伸ばした。
直後に炎が、ルカリオのりゅうのはどうめがけてほとばしる。
チュド〜〜〜ン!
「うむ、素早さを活かすのは無論大事なことじゃ。じゃが……」
ズザ〜〜〜……
「……けほっ」
「今のように、受け止めるのも大事じゃぞ」
「すごい……カエデちゃん……!」
「そしてお主」
声が聞こえたかのように、ルカリオがシズルに向かって飛ぶ。
すかさずコットンガードで防ぐが、ルカリオはそれを引きちぎった。
「!?」
「さぁどうする?」
りゅうのはどうを撃った。
ズド〜〜〜ン!
「うぅ……!」
直後にルカリオが腕を伸ばしてくる。
「(よけられない……なら!)」
「ほう?」
ともに左に向かって進む。
「まずい!よけられないぞ!」
「シズルちゃ〜〜〜ん!」
ドッゴォ!
シズルは再びまともに殴られた。だが……
「んぐ……やぁ!」
雲の翼でなぎ払った。
ペチ!
頼りない一撃であるが、なんとかルカリオを振り払うことはできたようだ。
「はぁ……はぁ……」
見ると、左の雲の翼でルカリオの攻撃を和らげている。
「今の動き、なかなか良いものであったぞ。防ぎきれないなら、逃げるのではなく別の受け止め方を考えるのも手じゃ。
無論、それは最終手段。避けたり防いだりするに越したことはないがの」
地面に降り立つシズル。
「大丈夫?シズルちゃん」
「うん。ちょっと痛いけど」
そこへナナがタネマシンガン。それを素早く避けるルカリオ。
「さて、お前さんはどうじゃ?」
飛びかかってくるルカリオを、ギリギリまで引きつけたあと、
「んっ」
スカーフを変形させ、ムチのように化したあと、
シュルシュル……
ルカリオの足に伸ばし、振り子の要領で素早く右に動く。
ズドドドドドド……
「して、どうするつもりじゃ?」
しかし今度はルカリオが、地面を走ってきた。
「よっと」
すると今度はスカーフを翻し、3歩ほどの距離を飛んだ。
「なるほど、風を受けたか」
そして再び離れたところからタネマシンガンを掃射。
「飛び道具とは遠距離より相手を狙うもの。しかしそれ故に狙われることも多い」
ブン!
ルカリオのハイキックを、寸前のところで避ける。
「太古の昔より、眼前の猛将より、遠くにいる弓兵の方が恐怖であったからの。
だからこそ、攻撃範囲に頼り切ることなく、難を逃れるスピードも大切じゃ」
ガキィン!
そして振り下ろす足を、マイが受け止める。
「一体、どういう事なの?まるで私たちを試しているみたいだけど……」
「<試しているみたい>ではない。現に試しておる」
再びルカリオの足が赤熱し始める。
「ぐっ……なら……!」
キィン!
マイは、力任せにその足を弾いた。
「最初からっあなたが試せばよかったじゃない!」
「そういうわけにもいかん」
再び赤熱した足で回し蹴りを放つ。
「がっ……!」
ガキィン!
今度は受け止めたあと……
「うおぉりゃ〜〜〜!」
槍を思い切り振って、ルカリオの攻撃を受け流した。
「……」
引き続いて足を振り下ろしてくるルカリオ。
「やめろ!」
ドゴ!
それをカエデがハイキック。
立て続けに殴り合う二人。互の腕がぶつかり合い、相殺する。
「ふっ!」
左に軽く避けるカエデ。そこにはナナがいた。
「外さないっ!」
そのままタネマシンガンを撃つが……
「甘いぞ」
素早く避けられ、逆に距離を詰められてしまう。
だが……
「おいかぜ!」
素早くナナを抱きかかえ、空へ飛び立つシズル。
追いかけるルカリオを、マイがメガホーンで打ち据える。
「なら、なぜ私たちを試そうと?」
マイが尋ねる。
「お前さんたちに、期待しとるからじゃ。未知なる敵、エンプティに立ち向かおうとする無垢なる少女たち。
その力、本当のものか、その覚悟、本当のものか。そして、その絆は本当のものか。それを確かめたかったのじゃ」
「なら、さっきの洞窟も?」
と、シズル。
「あぁ。お前さんたちがどのような困難にあっても、自我を保ち続けることができるのか。そしてお前さんたちが、それぞれの弱点を把握しあって克服できるか。
それを確かめるために、この山はある。
そしてお前さんたちはこの山を登ってきた。わしはそれだけでも驚きじゃ」
「ちっ。最初からあなたの計画通りってわけか。……でも待ってくれ。ならなんで、あなたは戦おうとしない?」
今度はカエデが疑問をぶつける。
「わしは単なるポケモン。お前さんたちのように特異な力を持っているわけではないよ。
それにわしは既に第一線を退いた身。もうこれ以上、戦いというものに身を投じたくはない。
ふ、まぁ。一種のわがままじゃよ」
「……あなたにはわかっていたの?エンプティの襲来が」
最後にナナ。
「もう一度言うが、わしは単なるポケモンじゃ。今回のエンプティの襲来も、今後の展開も、神のみぞ知る。じゃ。
じゃが覚えておくがよい。その、今後の展開を左右する鍵を握るのはお前さんたちじゃ。
未来を作る力も、壊す力も、お前さんたちが持っておる。
運命を変える力が備わっているお前さんたちなら、できるやもしれん。望んでいた未来を、手に入れることが」
陽は落ち、すっかり夜になっていた。
「はぁ……はぁ……」
4人とも息も絶え絶えだ。
「ふむ、大分、良き動きになった。お互いを助け合い、そして個々を強めるような戦い方。それが出来るようになったのう。
……じゃが……」
「はぁ……はぁ……」
ドサ……ドサドサ……
マイ以外の3人が、立て続けに倒れ、
「はぁ……くっ……!」
マイも右の槍を伸ばした瞬間、
ガシャン!
その場に倒れふした。
「体力はさすがに乙女か」
「んあ!?」
気がつくと、ホロロジウム軍事センターの中だった。
医務室のような場所のようで、隣にはシズル、向かいにはカエデとナナが眠っている。
「あ、目が覚めた。大丈夫?痛いとことかない?」
目の前には、アキラが立っている。
「アキラさん……?どうして」
「目を覚ましたか、小娘」
そこへルカリオが入ってきた。
「あ、あのルカリオ。どうしてここに……?」
「いかにも、わしはルカリオ。そして……」
メガネをかけた、白い髭をたくわえた男……トウジロウだ。
「お前さんを試した張本人じゃ」
「……え?」
「わしはこのホロロジウム軍事センターの所長、吉井 藤次郎。今回のサバイバルを企てたのもわしじゃ」
他の3人が目を覚ましたのを確認すると、トウジロウは洗いざらい話し始めた。
「つまり、あなたは私たちを試すためにあんなことをしたと、……」
「なんじゃ?その目は」
「私たちは……合格したんですか?」
「残念ながら、不合格じゃ」
いとも簡単に、傷口をえぐるようなことを言う。
「と、言いたいところじゃったが、お前さんたちの働き、決して悪いものではなかった。その証拠に……」
トウジロウは、少し破れたお札を見せた。
「これを見よ。黒い髪のお前さんの、最後の一発で傷ついたものじゃ」
「マイちゃん……」
「ほれ、受け取れ。合格の印、じゃ」
笑顔になる4人。
「私たちの、友情の印ってことでいいですよね」
「あぁ、何とでもせい」
マイはそれを高々と掲げた。
それを見たトウジロウの心は、満ち足りていた。
翌日……
「そして、友情パワーを強化した結果が……」
学校の机に突っ伏す4人。
……どうやら、徹夜で宿題を終わらせていたようだ。
「これですか。まったく……」
ユウジは頭をポリポリと掻いた。
ボーディーズ空港に、カズマ、アキラ、トウジロウがいた。
「所長。やはり……行かれるのですか」
「もちろんじゃ、世界にはまだまだ、摩訶不思議な出来事がある。それら全てに、答えを見つけ出す旅をわしはやめんよ」
「所長、たまには帰ってきてくださいね。うちだって、ダーリンだって所長を待ってますから」
「うむ」
キャリーバッグを引っ張り、搭乗口に向かおうとするトウジロウ。
「所長」
カズマはそれを呼び止めた。
「なんじゃ浦川。まさか別れが湿っぽくなったのか?」
「いえ、その前に、これを……」
それは、一枚の紙だった。
「……!!」
トウジロウ宛の請求書。そこにはとんでもない金額が載っていた。
「きっちり、お払いいただけませんか?」
「……」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
しばしの静寂が続いたあと、トウジロウは、こう言った。
「……エンプティ〜〜〜!ブレ〜〜〜イク!」
ビリ!!
「「あぁ〜〜〜〜〜!!」」
「はっはっはっは!ではあとは頼むぞ!浦川!」
トウジロウは振り返ることなく、搭乗口へ向かっていった。
「……」
「ダーリン?」
「踏み倒しは許さん!地の果てまで追いかけますぞ!所長〜〜〜!」
「落ち着いてやダーリン!うち500万ぐらいローンで出すから!」
背後にカズマとアキラの騒ぎを受けながら、トウジロウは、
「まぁ、セイザは心配ないじゃろうな」
と、安心した様子で言った。
TO BE CONTINUED……