第十一話 恐怖のサバイバル(1)
「……以上が、うちの調べた限りのエンプティに対して分かったことです」
ホロロジウム軍事センターの会議室にて、アキラが説明している。
「流石は浦川さん。その情報収集能力は目を見張るものがありますね」
と、ユウジ。
「いや、そんな風に褒めてもらわんでええですよ。うちなんてまだまだですし」
「それにしても……奴らはどうして、このセイザ地方を狙うのか」
「それもだいたい目星は付いてるよ。ダーリン」
アキラはセイザ地方の地図と、エンプティの襲来ルートを見せた。
「これまでエンプティは、全部海、もしくは空から落下することでここに来てる。やけど、それぞれがグルースシティを目指してやってきてる。
やから奴らは、このグルースシティになんか用があるとか、そんな感じやと思う」
「では直接、グルースシティにやってくればいいだけじゃないのかな?」
「それが謎やねんな〜。このグルースシティに結界みたいなもんが張られてるとか……それはありえへんか。
まず誰が張ってるんやろって話やしねぇ」
その時だ。
「森羅万象、あらゆるものには疑問が存在するもの」
「!?誰だ!」
ユウジが構える。しかしカズマは……
「まさか、この声……」
聞き覚えがあるようだった。
ボン!
「げほ……げほ……」
煙幕が会議室に張られた。
「げほ……げほ……すまん、少し強すぎた」
そこには、白いヒゲと髪、そしてメガネをかけた男が。
「所長!」
……吉井 藤次郎(よしい とうじろう)。ホロロジウム軍事センターの所長。
普段はポケモントレーナーとしても活躍し、セイザ地方では名の知れたトレーナーである。
そしてカズマの憧れの的でもある。
「じゃ、また最初から。森羅万象、あらゆるものには疑問が存在するもの。されど、その疑問を解き明かすことは容易ならざることである」
「所長、どうしてここに。普段からここには現れないはずでは」
「……浦川。少しぐらい決めさせておくれよ」
「……も、申し訳ありません」
換気したあと、トウジロウは話し始めた。
「まぁここに来た理由は、お前が話しておった、あの4人の少女のことに対してもっと知りたいからじゃ」
「ほう、小鳥遊君、栗生君、二階堂君、白石君の4名。確かにあなたは以前よりお会いしたがっていましたね」
「おう。最近のエンプティの暴走、そしてそれに立ち向かう4人。わしは感動を覚えたのじゃ。
まだ若いのに、命を賭してこの地方を守ろうと戦おうとするあの4人に。
その命、危険な目に会い、まして散りゆくなぞそれほど悲しきことはない。そこで……」
「……そこで?」
トウジロウは不敵な笑みを浮かべた。
「ま、まさか所長」
「その、まさかじゃよ」
日曜日……
この日は学校は休み、次の日も休日だ。
店も定休日だが、マイが特別に他の3人を誘った。
ズルズル……
勢いよく麺をほおばるのはカエデ。
「うまい。このだしの風味と麺のちょうどいい硬さが絶妙だな」
「ありがとう、カエデちゃん」
そしてシズルも笑顔になって、
「この味、食べたのいつ以来かな。変わらない味だね」
「えへへ、まぁ作ったのは私じゃないんだけどね」
「……かきあげ、おいしい」
様々な感想を言い合う3人。
「本当は、もうひとり呼びたかったの。だけど……」
「……五十嵐さんだよね」
シズルの問いに、こくりと頷く。
お願いがあるの 小鳥遊さん 私に 手を伸ばさないで
別れが寂しくなるから!」
私はすでに死体……時が来れば、土に還るのみよ。それに……
あなたがいう未来は、きっと来ない
口でなら、何とでも言えるのよ……!
マイは遠い目をした。
「今……何してるんだろう。ミズキちゃん」
ミズキのことは、他の仲間には話していない。
話したところで、にわかには信じてもらえないだろうし、それによってミズキをさらに遠ざけてしまいかねない。
そう思ったからである。
「?」
「え?あぁ。なんでもない。なんでもないよ」
と、その時全員の携帯が鳴った。
「な、何だ?」
カズマからのようだ。
「浦川だ。今日の1時半、ホロロジウム軍事センターへ集合して欲しい」
「え?急ですね。何か調べ物がわかったんですか?」
「あ〜、いや。その……ま、まぁとにかく来てくれ」
「?」
電話は一方的に切れた。
「だ、そうだよ」
「ふうん。まぁ浦川さん直々の呼び出しだ。ただ事じゃないのかもしれない」
「でも」
ナナが疑問を挟む。
「浦川先生おじさんモードだったよ?」
「?そういえばそうだったね。あぁ言うときやりとりモードだったらなって言うだろう」
「浦川だ。大至急今日の1時半にホロロジウム軍事センターへ集合しろ。理由はそこで話す。 ……みたいな」
「大至急なのに2時間後集合なの……?」
とにかく。と、言うように席を立つカエデ。
「浦川さん本人に聞いてみれば分かることだ。さっそく……」
「……」
「どうした?シズル」
シズルは新聞を見てこう言った。
「{ディフェンス30}今日あったんだよね。……録画しておけばよかった……」
「……YouTubeで探せば」
「それ法律違反だからな!?」
ホロロジウム軍事センターにやってきた4人。だが……
「……何?」
「静か……すぎるね」
そこは、既にもぬけの殻だった。
「気をつけろ、何かがあったのかもしれない。そして……敵がいるのかもしれない……」
その時だ。
「おぉ。来たか、みんな」
カズマが現れた。
「あの、浦川さん、これは……」
「ふ、まぁ、俺についてきてくれ」
何も言わず、歩き始めるカズマ。
4人はそれを追うしかできなかった。
「……」
重々しい扉を開けるカズマ。するとその先には、巨大な山が見えた。
「ここは{フォルナクス山}。様々なポケモンが生息する、セイザ地方有数の山岳地帯だ」
「え〜〜〜!?なんて言ったんですか〜〜〜!?」
風が強く、何を言っているのかわからない。
「と、とにかく。お前たちには、ここでサバイバルをしてもらう!」
「え〜〜〜!?サバイバル!?」
「あぁ!正確には特訓だ!この山の山頂に、巨大な寺がある!そこにある札を、取ることが出来たらクリアだ!
全員で協力して、札を取り帰るように!」
と、カズマが言う。
「あの、浦川さん……」
「なんだ!?小鳥遊君!?」
「こんな山……ありましたっけ?」
一瞬、表情を崩すカズマであったが……
「とにかく!特訓を始めるのだ!先に言うが、寺の札を取れるまで、帰るのは許さんぞ!」
「えぇ〜〜〜!?」
そしてカズマは、エアームドを出し、空を飛んだ。
「行っちゃった」
「行っちゃったね」
「あぁ。行ったな」
「……飛ぶ姿も素敵」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「で、どうするの!?札が取れるまで帰れないって!」
「決まってるだろう。特訓とはいえ、これは戦いだ」
カエデはフュージョンした。
「もたもたしているとおいてくぞ!」
「あぁ、待ってよカエデちゃん!」
こうして4人全員、フォルナクス山の洞窟に入っていった。
「ぐふふふふ、さて、どんな感じになるかの?」
「各オペレーション、すべて準備整いました」
「洞窟内に不穏な動きもなし」
アキラとユウジもいる。どうやらこの二人も協力者のようだ。
「あの、所長……」
カズマが戻ってきた。
「心配するな。命までは取らんよ。……多分」
「た、多分!?」
「と、いうわけで、第2回!フォルナクス山サバイバル!スタートじゃ!」
「……」
洞窟を進んでいた二人は、2つの分岐路に差し掛かった。
「……これは……どっちだ?」
「ん、何か看板に書いてある」
ナナが見つけた。
「なになに?」
恋人が 携帯電話のメールを勝手に覗くのは 許せる?許せない? 許せるなら左へ 許せないなら右へ
「何だこりゃ」
「あ〜、なるほど。つまりそれによってここから先のルートが変わるのね?」
とりあえず意見を言ってみた。
「私は許せないかな。いくら恋人だからって、勝手に覗くのはよくないと思う」
「私も同じかな。恋人……出来たことないけど」
「オレも許せないな。もともと覗き見自体趣味じゃない」
「ん」
全員が左へ。
好きな食べ物は 最初に食べる?最後に残す? 最初に食べるなら左 最後に食べるなら右
「最初!」「最初!」「最初!」「……最初」
と、言うわけで再び全員が左へ。
「こんなのでいいのかな」
「別にいいと思う。ここで分かれる方が、よほど危険」
「ナナの言う通りだ。まずは団体行動を心がけるぞ」
その後も、こんな感じの分岐路は続く。
ニシンって10回言って?
「ニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシンニシン」
子供が産まれることは?
「「「「妊娠」」」」
正解は出産 間違えたら左 間違えなかったら右
もし手に入るとしたら 莫大なお金 不老不死の薬 どっち? 莫大なお金なら左 不老不死の薬なら右
「「「「お金!」」」」
……シズルも結果お金。
……こんな流れが続き、12個目の質問。
どんなパンティーを履いている? 履いているなら左 履いていないなら右
「何この(ピー)染みた質問!」
「こ、答えるべきか、答えないべきかも悩むな」
「わ、私は……」
「言わんでいい!」
言いよどむ3人。そんな中、
「はいてない」
「「「え!?」」」
ナナだけが即答した。
「な、ナナ……」
「こんな場所でのんびりしている暇はない。それに、はいてないと答えたほうがいいことがあると思うの。
……真○神転生がそうだった」
「そうじゃなくて……お前……」
なぜかカエデの顔は真っ赤。
「……見せようか?」
「「「やめろぉ!」」」
結果的に、ナナについていくことになった3人。
「ふむぅ。以心伝心。素晴らしい絆じゃな」
「いやいや、若干おかしい表現もありましたから」
「じゃが特訓はまだ始まったばかり、すこしだけ、難易度を上げようかの」
トウジロウはスイッチを押した。
ドゴ〜〜〜ン!
「!?」
突如背後で爆発音がしたかと思うと、
背後からペンドラーが現れた。
「ペンドラー!?エンプティ……ではなさそうだけど……」
「ふっふっふ。ここに人間が来るとはもはや幾ばくぶりか」
「!?しゃ、喋った!?」
ボイスチェンジャーで声が変わっている。
ネタばらししてしまうと、喋っているのはユウジ。
「しかしここは我らポケモンの聖地。そう簡単に汚されるわけにはいかん」
「く……しかたない。やるしかないか」
「さぁ、誰から我が角の餌食となるか!?」
だが、そんな中、
「む、虫……!」
「え?」
マイが顔を真っ青にして……
「ぎいいいやあああぁぁぁ!虫!虫!む〜〜〜し〜〜〜!」
大騒ぎし始めた。
「ちょ、マイ!落ち着け!暴れてたら敵の思う壺」
ガシ。
「は?」
「いぃ〜〜〜〜〜やぁ〜〜〜〜〜〜!」
なぜかマイはカエデを抱きかかえながら洞窟の奥へ走っていった。
「「「……」」」
取り残されたシズルとナナ、そしてペン……ユウジは呆然としていた。
「どうする?追う?」
「いや、まずはこいつをどうにかしないと」
「そ、その通りだとも!」
ペンドラーは大きく鳴いた。
「ロックブラスト」
ズド〜〜〜ン!ドゴ〜〜〜ン!
ロックブラストが命中。
「む、む〜ね〜ん〜〜〜!」
ズウン!
たった一発当たっただけで、ペンドラーは伸びてしまった。
「は?」
「……倒しちゃったみたいです」
「……」
ナナは考えを巡らせた。
ペンドラーにロックブラストは効果的とは言え、こんなにも効くものだろうか?
「シズル。多分こいつは倒せてない」
「え?」
「だから今のうちに逃げよう。こいつは多分、死んだふりをしてる」
「いや、だからどうして……?」
「死んだふりをしてる相手は、起き上がる時の攻撃が一番痛い。狩人の常識だよ」
またポケモンと関係ない話をして、逃げようとするナナ。
「あの……」
「何?早く逃げ」
「それだったらもう一発ロックブラストを撃ったほうが」
もっともらしい意見に、
「あ、そうか」
ズドンドゴン!ズドンドゴン!ズドンドゴン!ズドンドゴン!ズドンドゴン!
もう一発と言わず、5発全てを当てるナナ。
「ふ……敵ながらあっぱれ……我が死んだふりを見破るとは……」
「それほどでもある」
「あるんだ……」
「だが貴様たちは地獄の一丁目を通ったのだ……ここから先……死より恐ろしい時間を味うがいい……ぐふっ!」
これまたどこかで聞いたような断末魔をあげ、ペンドラーは気を失った。
「……」
「マイたちを追いかけよう。きっとそんな遠くには行っていないはず」
「うん。そうだね」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らすマイ。かなり遠くまで逃げてきてしまったようだ。
「ど、どうしよう。ここ……どこ!?」
「あ、あのさ」
「え?」
「降ろしてくれ」
お姫様抱っこのままの二人。
「あ、ご、ごめん」
カエデを降ろすマイ。なぜかカエデの顔は真っ赤だ。
「たく、そんなに怖いかよ虫が」
「6本以上足が生えた生き物はほぼなんでも無理!た、食べられるは別だけど……
と、とにかく虫は全然ダメ!想像しただけで鳥肌が出そう……」
「マイ。お前が変身するポケモンも虫だぞ」
「シュバルゴはぎりぎり虫っぽく見えないからいいの!」
「都合のいい奴だなぁ。じゃあ言ってしまうけど」
カエデはいたずらっぽく言った。
「タラバガニは食べたことあるか?」
「え?うん。仕入先の水産業者の人が送ってくれたのを、一度だけ」
「あれも虫だ。正確にはヤドカリの仲間だけど」
「えっ……」
カエデはさらに続ける。
「カニは本来足が8本。ハサミが2本の合計10本だ。だがタラバガニは足が6本しかない。
足が6本、すなわち虫と同じ。だからタラバガニはヤドカリ科だ」
「さすが、カエデちゃんはよく知ってるね」
「まぁな。ところで……」
耳をすませるカエデ。なにかカサカサと音がする。
「ここって、まさか」
「まさかって何?カエデちゃん……」
ビチャ!
「え?」
マイの体に、何かが絡まった。
ネバネバしていて、半固体状のもの……
これは蜘蛛の糸だ。
大量の緑色の体と、それを率いるようにいるオレンジ色の巨体。
「……!?」
そう、イトマルとアリアドスだ。無論、マイはこんな状況に耐えられるはずもなく……
「……」
ドサ!
その場に倒れこんだ。
「マイ!……くそっ」
カエデは左足に炎をまとい、
「近寄る……なっ!」
勢いよく回し蹴りを放ち、ねっぷうを巻き起こした。
到底耐えられないイトマルが、ドサドサと地面に向かって大量に落ちる。
「う……流石にくるな……!」
やはり気持ち悪さを禁じ得ない。
「……はぁっ!」
再びねっぷう。しかしカエデは違和感を感じた。
「そういえば……アリアドスは……?」
そう思っていた時である。
ドゴン!
「!?」
足元から穴を掘って、アリアドスが飛び出してきた。
右にいなすカエデ。そして足を振り上げ、
「じっとしてろ!」
炎をまとったかかと落とし。アリアドスは一撃で伸びた。
「……」
しかし依然として気配を感じる。
カエデはここにいては(主にマイが)危険と感じ、
「マイ、目を覚ませ」
「ん……」
マイの腕をとった。
「お前は目をつむったままでいい。走るぞ」
「え?あ、うん」
二人は手をつないだまま、猛ダッシュで走る。
マイはある程度動きが鈍いが、カエデの素早さを合わせればどうということはない。
「カエデちゃん!どのくらい目を閉じてればいい?」
「オレがいいというまで!今目をあけたら多分お前は元の木阿弥だ!」
通路上には壁際に無数の虫系統のポケモンが巣を作っていた。
マイがここで目を開ければ、失神するのは誰の目にも明らかだろう。
少し開けた場所に出て、カエデはマイに目を開けるように言った。
「ありがとう、カエデちゃん」
「……まったく。世話が焼ける。……とにかく、頂上を目指すぞ。シズルとナナは、先に行ってる可能性が高い」
「え?引き返したほうがいいんじゃ」
「本気で殴るぞ!?」
「オペレーション・スパイダーオーシャン、オペレーション・ハードローラー、どちらも突破されました」
アキラがそう言うと、トウジロウはにやりと笑みを浮かべた。
「ふむ、流石にこれしきでは音を上げぬか」
「これでも、俺自慢の教え子ですからな。そう簡単に諦めてもらっては困ります」
「では、次はこれはどうかの」
トウジロウは別のスイッチを押した。
TO BE CONTINUED……