第七話 動き出す時間
{デルファイナス港}周辺にやってきた4人。周囲を見渡すと、
「あった。あれだよね」
巨大な軍艦が。これこそまさに軍艦ホエルオーである。
「すごい大きい……」
「その分、無骨だな」
「無骨にして豪壮。だがそれ故に美しい」
ナナはそう言った。
「それにあれだけの鉄の塊が海を往く事。それが最大限の美しさなの」
「機能美ってやつか?」
こくりと頷く。
こっそり持ってきたカメラを構えるナナ。
「どのアングルが、一番綺麗に撮れるかな」
「写真、好きなの?」
「別に。ただ写真に収めたかっただけ」
しかし遠いためか、あまりうまく撮れないようだ。
「……もう」
するとマイは、突然ナナの足元に潜り込んで、
「え……えぇ!」
ナナを肩車した。
「どう?これで綺麗に取れる?」
「い、いや。その……」
「まったく、ほら、肩車してあげるわよ」
「これでよく見える?」
「!?」
何か映像が頭の中で流れた瞬間、突然ナナは取り乱した。
マイに肩車されたまま、激しく暴れだす。
「ちょ、ちょっと、ナナちゃん!危ないよ!」
「!?」
我に返るナナ。
「もう、いきなり暴れたら危ないよ」
「……」
ゆっくりと下ろすマイ。
ナナは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「……お姉ちゃんが、戦闘機が好きだったの」
しばらく軍艦を遠くから観察していると、ナナが話し始めた。
「……でも、お姉ちゃんはポケモンレンジャーとしての任務中に、命を落とした」
「白石さん……」
「……私と一緒にいたからなの。私は人を不幸にさせるの。お父さんもお母さんも、私の身の回りにいる人は、みんなみんな死んでいく。
私の目の前から消えていくんだよ。私は、不幸の塊なの。
私なんて……生まれてこなきゃよかったのかもしれない……」
暗い顔をするナナ。
「そんな事言っちゃダメです!」
「え?」
シズルが反論する。
「お姉さんの事は、そりゃ残念ですけど……あなたはあなたを責める必要ないと思います!」
「こんな状況に陥っていないから、あなたはそんな偽善じみた事が言えるの」
「……」
「私の、何がわかるの」
ナナの言うことももっともだ。
話を聞いただけなので、ナナの気持ちなど分かるはずがないかも知れない。
3人は、ただただ彼方を見つめた。
その時、
「おい、あれ!」
カエデが何かを発見した。
そこにいたのは、真っ白なネンドールだ。
「あ、あ、あれは?」
間発入れずして、通信が入る。
「浦川さん!エンプティが」
「ああ、分かってる。現在進藤君にも連絡をして、バックアップを図っているところだ」
ネンドールが目から光線を打つ。サイケこうせんのようだ。
あたり一面に放ち、うち一発が軍艦ホエルオーに命中した。
そして軍艦ホエルオーは、黒い煙を上げて炎上し始めた。
「い、いかん。あの中には、まだ避難できていない人々が……!」
「助けに行きます!」
シズルが言うが、
「ダメだ。軍艦内は無数の部屋があり、入り組んでいる。栗生君の飛行能力では、煙が強くて飛べん」
「そ、そんな……じゃ、じゃあどうすれば」
すると突然、
「私なら、私なら軍艦の構造を知ってる……」
と、ナナが声を出した。
「本当!?」
「{ディアルガスティーニ}の、<週刊軍艦ホエルオーを作る>毎週買っていたから……」
「な、小鳥遊君。また近くに人がいる状態でエンプティのことを言ったのか!?」
「ご、ごめんなさい。で、でも、非常事態にそんなこと言えますか!?」
そう言われたカズマは、
「う、それもそうだ。ではどうする。ネンドールをとにかく止めねば」
すると3人は、フュージョンボールを取り出し、
「「「スタートアップ!」」」
と、変身した。
「な、何?」
その姿に、ナナは驚くばかり。
「内部はすでに崩壊が始まっている可能性が高く、ガス漏れの危険性もある。よって突入できるのは小鳥遊君、君だけだ。
栗生君、二階堂君、ネンドールを止めるため、戦ってくれ!」
「了解」
カエデはシズルに乗り込む。
「あっちは任せとけ!」
「うん!」
「マイちゃんも、気をつけてね!」
蒼い閃光は、空へと飛び出した。
「さ、行こう。ナナちゃん」
「え?」
マイは槍を一時的に鎧に携帯し、ナナを背負った。
そのまま走り出す。
一方エンプティと化したネンドールは、既に港に侵入していた。
動いているカエデを見て、サイケこうせんを打つ。
「くっ……!」
港にあるコンテナなどを使い、ネンドールに駆け寄るカエデ。
「はぁ〜〜〜!」
ドッゴォ!
炎をまとった一撃を使うが、ネンドールにはあまり効いていない。
「……」
「!?」
直後にネンドールは、ストーンエッジを飛ばしてきた。
「このっ!」
素早い動きで岩を砕くが、さばききれない。
「コットンガード!」
ポワワワワ!ファサファサ!
コットンガードで防ぐシズル。
しかしそこへれいとうビームが飛んできた。
「え!?」
シュボウ!
「うぐ……!」
カエデが炎をまとった腕で受け止める。
「カエデちゃん!」
「大丈夫だ!」
れいとうビームが掻き消え、ネンドールはサイケこうせんを放つ。
「!?」
猛スピードで駆け出し、カエデはサイケこうせんを何とかよける。
直後に指を鳴らし、大ジャンプと同時に右足を爆発させた。
「おらぁ!」
ドッゴォ!
勢いのある蹴りを決めたあと、連続で殴る。インファイトだ。
後ろに向かって大ジャンプ、そしてシズルに再び乗った。
「あまり強くない……?」
「油断するな。多分、こっちもダメージをあまり与えられてない」
直後にネンドールが撃ったサイケこうせんを、急上昇して避ける。
「!?」
しかし、その先には、軍艦ホエルオーが。
「マイちゃん!」
「落ち着いて逃げてください!まだ脱出口は崩落していません!」
一方こちらはマイとナナ。
ナナは入口にあったガスマスクを付けていた。
食堂にいたカントー地方の調査団は、船の甲板へ向かった。
「浦川さん、残りは」
「船倉のボイラー室に3人残っている。それで最後だ。急げ!」
「はい!」
迷路のような船内を通り、船倉への階段を見つけた。
「ナナちゃん、大丈夫?苦しくない?」
「う、うん。……そこを降りて、突き当りを右!」
ナナの的確な道案内で、マイは迷うことなく進む。
そしてボイラー室にたどり着いた。カズマの言うとおり、3人の乗員がいた。
「し、しっかり!大丈夫ですか!」
「う……う〜ん……」
目を覚ます一人の乗員。
「ここは危険です。私が皆さんを案内しますから、落ち着いてください」
「わ、わかった。ありがとう。しかし君は……ポケモンレンジャーか何かかい?」
「……!」
ポケモンレンジャー。その言葉にナナは反応する。
「大丈夫。ポケモンレンジャーは負けないよ」
姉の言葉が脳をえぐった。
「お、お、お姉ちゃん……!」
「?どうしたの?ナナちゃん!?」
しかしその時だ。
ズウン……!
突然船内を揺れが襲う。
「くっ……な、何!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
そして船内は大きく傾き、
ドゴ〜〜〜ン!
天井の一部が崩落した。
「きゃあ!」
「ぐわぁ〜〜〜!」
ズシ〜〜〜ン!ドゴンズシンズシ〜〜〜ン!
・
・
・
「また私の勝ち」
ゲームで対戦すると、いつも私が勝った。
「い、い、いや。今のはダメでしょ!その、今のは間が悪かった!」
そしてお姉ちゃんは、いつもこんな感じで言い訳する。
「違う。私の実力」
「違う!」
そうやっていつもしのぎを削っていたが、私はそれがたまらなく楽しかった。
子供のように文句を言うお姉ちゃん。
それをたしなめる私。
こんな状況が、いつまでも続くと思った。
「えぇい。じゃあもっかい!もっかい同じルールで対戦しよう!」
「無理だよ」
「無理じゃない!0.1%でも確率があればやるの!」
お姉ちゃんは鼻息を噴出して張り切っていた。
「ふふ」
軍隊の兵器のパレードにも、姉はよく連れて行ってくれた。
「見てよ。あれがエアームドフォースワン。これから導入される可能性があるステルス機だよ」
「ふ〜ん」
「何?あんまり興味ない?」
「いや、すごくあるんだけど」
私はどうにも、感情の数が少ないらしい。
「……せっかくだから、写真撮りたい」
と、お姉ちゃんに言うと、
「おいおい。そんな事言われても」
そう言った。
当然だ。前方には観客が多いし、そのま満足に写すことができないだろう。
「……」
するとお姉ちゃんは、
「まったく、ほら、肩車してあげるわよ」
私を肩車した。
「!?」
「どう?これでうまく撮れるでしょ?」
「え、う、うん」
戦闘機を写す。しかし少しだけ安定しなかったため、手が少しぶれた。
「ぶれた」
「我慢してよ。あたしだって恥ずかしいよ」
周りの視線は、自分たちに集まった。
「ご、ごめん」
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
帰り際、私はお姉ちゃんに話しかけた。
「あのね。写真を撮りたいの」
「何で?」
「フィルム、1枚だけ余っちゃった」
そう言うと、お姉ちゃんはこう言った。
「あぁ、いいよ。せっかく久しぶりの二人きりの外出だし」
私はシャッターのボタンを押すと、時間差でシャッターが切られた。
これが、お姉ちゃんと最後に撮った写真だった。
「出かけるの?お姉ちゃん……」
「……ごめん。出動要請なんだ」
ポケモンレンジャーであるお姉ちゃんは、緊急の出動要請があればいつでも出れる状況を整えていた。
「そう、なんだ」
翌日に遊園地に行く約束をしていた。私はチケットをギュッと握り締める。
「大丈夫、レンジャーは負けないよ」
お姉ちゃんはチケットの片端を持ち、
「早く仕事を済ませて、明日には遊園地に行こう」
と、私に優しく言った。
「お姉ちゃん、約束……」
「約束」
するとお姉ちゃんは、小指を出した。
私も同じように小指を出し、指切りをした。
次の日、姉は帰ってこない。
私の両親は、私が幼い頃に亡くなっていた。
父に至っては、酒に酔っ払って階段から足を踏み外し、死んだという。なんとも情けない話である。
私、一人。
「……」
非常に静かだ。テレビゲームの音しか聞こえない。
その時、携帯が鳴った。
「もしもし」
「……もしもし。白石 聡美さんの、ご両親ですか」
聞いたことのない声だった。
「あなたは」
「僕は進藤 裕二。白石 聡美さんの、上司にあたります」
「……どう、したんです。お姉ちゃんは」
するとユウジはこう言った。
「白石さんの妹さんですか。……」
無言。
こう云う時は大抵、どんな事か分かる。
いや、私には分かりたくなかった。
「まさか」
「……」
「話して!何があったか!」
ユウジはこう言った。
「君のお姉さんは……異形の化物に……背中を斬られ……」
「……!」
嘘だ。うそだ。ウソだ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「冗談は、やめてくれませんか」
「……」
嘘だ嘘だ。きっと、嘘だ。お姉ちゃんは負けないと言った。
今日はお姉ちゃんと遊園地に行く約束をしているんだ。
「冗談はやめて」
「……」
「やめて!」
しかし大声を出せば出すほど、ユウジは何も言わなくなった。
「……」
意味が分からない。姉は何故、私の前からいなくなったんだろう。
姉だけじゃない。
お父さんもお母さんも、私の前からいなくなる。
そして私は孤独になる。
…………………………
分かった気がする。
悪いのは、私なんだ。
私がみんなに不幸をあげてしまったから、お姉ちゃんも、お父さんもお母さんも、
みんなみんな私の前からいなくなるんだ。
私なんて、生まれてこなければよかったのかな。
・
・
・
「……」
目を覚ますと、周囲には倒れこんでいる3人の乗員とマイ。
乗員たち3人は、頭から血を流している。
「……」
死んだ。死んだんだ。ナナはそう思った。
「ははは、ははははは……」
そしてぼやっとしている視界を保持しながら、天井を見上げて笑う。
「やっぱり、悪いのは私なんだ。悪いのは……私……私はみんなを、不幸にしてしまう……
お姉ちゃんが死んだのも、この人たちが死んだのも、みんなみんな私のせいなんだ……」
そして天井から、巨大な鉄骨が落ちてきた。
「……」
しかしそれも終わり。ここで自分が死ねば、誰も不幸にならなくなる。
ナナは目を閉じた。
しかしなぜか、頬には伝うものがあった。
ズウン……!
「ん……?」
目を開けるナナ、するとその視線の先には、
「……」
鉄骨を支えているマイの姿が見えた。
そしてマイは、鉄骨を放り投げ、床に突き刺した。
「な、何をしているの」
「……」
「どうして私を死なせてくれないの?ただの不幸の塊である、私を」
するとマイは、ナナの胸ぐらを掴んで、
「根暗になるのも」
バキ!
「いい加減にしてよ!!」
握りこぶしで力強くナナを殴った。
「存在だけで人を不幸にする?お姉ちゃんが死んだのは私のせい?……笑わせんじゃないわよ!
あんたはただ、自分が見たくない現実を見て、何もかも自分のせいにすればお姉ちゃんは許してくれると思ってるわけ!?」
「……」
「許すわけ無いでしょうが!」
ナナの肩を持つマイ。
「あんたのお姉ちゃんはポケモンレンジャー。ポケモンレンジャーは何のために戦うか分かってる?
人々の平和を守るため。そして、未来を守るために戦っているの!
お姉ちゃんは最期まで、あんたの未来を守るために戦ったの。ポケモンレンジャーの仕事を全うした、最高のお姉ちゃんだと思う」
「……」
「あんたはどうなの!?そのお姉ちゃんの意思をちゃんと汲んであげてる?」
こくりと頷くナナ。
するとマイはナナを地面に叩きつけた。
「違うわ!」
「……!?」
「あんたはお姉ちゃんを無視して、自分のわがままだけで時間を止めているのよ!それでいつまで自分の時間を止めてるつもり!?
いや、違うわ。
自分と、あんたのお姉ちゃんが紡ごうとした未来を、いつまで見ないつもり!?」
「……」
ナナは、大粒の涙を流し始めた。
「……嫌だ」
「?」
「嫌だ。死んだお姉ちゃんにさらに追い討ちをかけるなんて……私は嫌だ!」
するとマイは、厳しい顔を緩めた。
「……大丈夫、かな。今から頑張れば、お姉ちゃん、許してくれるかな」
不安そうな顔をしてナナが言うが、マイは笑ってみせた。
「もちろんだよ。私がナナちゃんのお姉ちゃんなら、全然許すよ」
「……」
その時、天井から何かが突き破ってきた。
「無事かい!?小鳥遊さん、白石さん」
「ユウジさん!」
フライゴンに乗ったユウジだ。
「……!」
視線の先に、ナナを発見した。
「白石さん……」
「……」
ユウジをじっと見るナナ。
「あなたが、お姉ちゃんの」
「……」
黙って見つめ合う二人。
「いいから、早く脱出しないと」
マイが言うと、ナナは……
「ごめんなさい!」
「え?」
「あなたの話を聞かずに、一方的にあなたを許さないって……私が……私が……」
床に手をつこうとするナナ。それを必死で制止するのはマイ。
「もう、いいですよね。ユウジさん。ナナちゃんを……」
「……あぁ。分かってる」
と、その時だ。
「!?」
ユウジは、何かを見つけた。
「小鳥遊さん」
それは、宙に浮く白いフュージョンボール。
「こ、これは……」
「フュージョンボール……白石さん。これはお姉さんからのプレゼントかも知れないよ」
「……」
ナナはそれを包み込むように持った。
「大丈夫……かな」
「え?」
「私も……戦えるのかな」
そう言うと、マイがこういった。
「大丈夫。なんとかなるって!」
「……」
するとナナは、光に包まれてフュージョンボールに入り込んだ。
「スタートアップ、<Cinccino>!」
バサ〜〜〜〜〜!
ビ〜〜〜!
「くっ……!」
ビ〜〜〜〜〜!
「うわぁっと!」
サイケこうせんを避けるのに必死なシズルとカエデ。
しかしその時、ネンドールはストーンエッジを撃ってきた。
「!?シズル!危ない!」
「え?」
それはまっすぐ、シズルの方へ飛んできた。
「くそっ、間に合わない……!」
「タネマシンガン!」
ドドドドドドド……ドゴンドゴンドゴ〜〜〜ン!
ストーンエッジに、タネマシンガンが命中。
「な……何?」
視線の先には……
カチャン。シュルシュル……
マシンガンをスカーフに戻す、ナナの姿が。
「し、白石……今の……?」
「二人共、遅れてごめん!」
フライゴンの上に乗っているマイが、そう言った。
「新しい仲間、……友達を連れてきたよ!」
「!?」
ナナは顔を真っ赤にする。
しかしネンドールは、フライゴンに向かってれいとうビームを撃ってきた。
「危ない!」
シュルシュル……カチャン!ズド〜〜〜ン!
スカーフをバズーカ砲に変え、前方に岩を射出。ロックブラストだ。
れいとうビームは、目の前で砂埃に姿を変えた。
「す、すごい……」
カチャン!ドドドドドドド!ドゴンドゴンドゴンドゴン!
さらにスカーフをマシンガンに変え、ネンドールに撃つ。
シュルシュル……
そしてスカーフに戻し、ロープのように防波堤に巻きつけて地面に降り立った。
「白石……」
しかしそれと同時に、
「……」
フードをかぶった少女が、ネンドールに向かって羽を投げつけた。
グサ……ブシブシブシ……グワッシャ〜〜〜!
「ギィ〜〜〜〜!」
「変身した……!」
その時、カズマから通信が入る。
「聞こえるか、小鳥遊君、栗生君、二階堂君、白石君」
「はい」
「ネンドールの中心に高エネルギー反応を確認した。奴め……このままグルースシティに向かい、だいばくはつする気だ!」
「えぇ!?でもその場合、攻撃してもまずいんじゃ……どうするんです!?」
その言葉に、カズマは返事をしなかった。
「ま、まずい。万策尽きたか……?」
「大丈夫。大丈夫です」
「うん?」
するとナナは、マイの手を握った。
「お願い」
「……」
ようやくマイは理解した様子で。
「うん。やろう。ナナちゃん!」
「何!?ま、まさか白いお嬢……」
二人で力を溜めると、
キラン!
空中から、ブレイクボールが落ちてきた。
「説明するまでもなく、エンプティブレイクを理解しただと!?しかも、自分から発動させただと!?」
シュルシュルシュルシュル!ガチャコン!カシャン!カシャンカシャン!
巨大なレーザー砲に姿を変えたスカーフの銃口が、ネンドールを捉えた。
「ギィ〜〜〜〜〜!」
「エンプティ」
ギュ〜〜〜ン!
そこへサイケこうせんが迫る。
「白石!」「白石さん!」
「……ブレイク!」
ギュオ〜〜〜〜〜ン……ゴオオオォォォ……!
「ギィ〜〜〜〜〜……!」
チュド〜〜〜ン!
ブレイクボールに、ネンドールが入った。
「やったぁ〜〜〜!」
大喜びのマイ。するとナナは、
「……」
笑みを浮かべた。
「……さっきはごめん。いくら腹が立ったとはいえ、痛かったよね」
沈んでいく軍艦ホエルオーの亡骸を見ながら、マイはナナに言った。
「いい」
ナナはそうとだけ言う。
「ナナちゃん」
「あなたの言うとおりだった。私はずっと、踏み出すのが怖かっただけ。お姉ちゃんがいない世界に」
少し目を閉じたあと、ナナはマイの方を向いて、
「でも、いつまでも止まってちゃ、ダメだよね。お姉ちゃんにも笑われちゃうし」
「……」
「明日から、学校に行く」
すると、3人は笑顔になった。
「はっはっは。友情は美しき哉。泣かせてくれるなぁ」
そこへカズマが現れる。
「浦川さん。……ごめんなさい、私……避難しそびれた人々を助けられなくて」
「あぁ。それなら大丈夫だ。先ほど船の中にいた三人、戦闘のどさくさに紛れて助けておいた。一人は重傷だが、命に別状はないよ」
「ほ、本当ですか!よかっ」
その時、ナナが前に現れ……
「浦川……やっぱり、あなただったんだ」
突然険しい顔に。
「し、白石さん……!」
「おい、まさか……!」
心配する二人。するとナナは、カズマに向かって駆け出し、
「ナナちゃんダメだよ!ユウジさんの時のように、許して」
「浦川先生!浦川先生ですよね!?」
「……は?」
そして懐から何か取り出す。
「先生の著書、{兵器に頼らない国防論}何度も何度も読み返しました!とても素晴らしい学説で、ただただ平頭するばかりです!さ、さささ、サインくださいっ!」
「はっはっは。何だそういうことだったのか。しかし俺の本が読まれているなんて、嬉しいね」
「先生のおっしゃるとおり、国防に莫大な兵器、軍事機に頼らずとも、世界の平和は守ることができると思います。ポケモンにおける国防の力は、およそ150年前に勃発した第一次ポケモン戦争において十二分に発揮されており、この時は敵国から100匹のポケモンが国を守り抜いたという史実があり、兵器において焦土と化すより、はるかに復興、戦争後の対談等にかかる時間が短いことから、兵器において平和を無理矢理手に入れるという最近の世界のあり方に一石を投じる先生の理論、私は一言一句、心に響かせました!」
ナナの言葉は止まらない。
「はっはっは。君は本当によくこの本を読んでくれているな。嬉しいよ」
「それに、楽しそうですね」
笑顔になるマイ。
「私が思うに近年世界を揺るがすことになる核兵器やそれを運搬する兵器の存在は決して見過ごすことができず、かような兵器を使って得られる平和は平和ではないと思います。憎しみは憎しみしか産まない。その事を世界はもっと知るべきなのです。ポケモンでの戦いにおいて……」
TO BE CONTINUED……