Pocket Fusion - 第二章 グルースシティの人々
第六話 ふさぎ込んだ少女
カチカチ。ポチ。カチカチカチ。ポチ。
……ゲームは好きだ。
その時だけ現実を忘れられる。
人が死ぬことは少ないし、万が一死んでも、コンティニューすれば復活できる。
だから私は、ゲームが大好きだ。
現実も、ゲームみたいになればいいのに。ゲームみたいに、復活魔法が唱えられたらいいのに。
ゲームみたいに、残機が何機もあればいいのに。ゲームみたいに、死ぬことがなかったらいいのに。
ゲームみたいに、
ガタ。
「……」

写真立てには、白いお団子ヘアの女の子と、黒いサイドアップテールの女の子。

「……時が、巻き戻ればいいのに……」



「まったく……」
うどんの小鳥遊。カズマが食事をとっていた。
店内には客がひとりもいない。昼時を過ぎているためだろうか。
「君たちは一応、国家の最高機密なんだがねぇ」
「えへへ」
「これで万が一、二階堂君が変身しなかったら、もう国家機密ダダ漏れだよ」
「ご、ごめんなさい」
「まぁ、そのおかげで今回の事件はちゃんと解決できたんだ。感謝しているよ」
ズルズルと大きな音を立ててうどんを食べるカズマ。
「そういえば、今回のエンプティの被害、流石に道路の陥没だけでは無理があるんでは……」
「いや?意外と押し通るものだよ。それに、そうやって無理矢理にでも理由をつけないと、機密は守れないしね」
「そ、そうですか……」
「まぁ、明日にはカントー地方から調査団が来る。説明は直接……」
その時、カズマの携帯が鳴った。
「あ、すまない。俺のだ」
カズマは携帯に出ると、トイレに向かって駆け込んだ。
「今のがお前の話してた、浦川って人か?」
「うん。普段はすっごく優しいんだけど、戦闘ではすっごく厳しいの。だから頼れるんだけどね」
が、その時だ。
「その話はもう二度とするなと言ったはずだ!追い返せ!」
「!?」
カズマの怒鳴り声が、店内にまで聞こえた。
しばらくしてから、カズマが戻ってくる。
「うん?……あぁすまない。いささか声を張り上げすぎた」
「こ、怖かった……どなたからですか?」
「ん……まぁ。何でもないよ」
席に座り、再びうどんを食べ始めるカズマ。
「……」
なんでもない。と言われると、ますます気になる。
「あの、浦川さん……」
「あえて言っておこう」
カズマは真剣な眼差しを向け、
「知らないほうがいい事もあるんだよ」
「!」
それだけを言うと、再びカズマはうどんを食べ始めた。
マイはそれ以上、カズマに詰め寄っても意味がないと悟り、追求をやめた。



翌日……
「「「いっただきま〜す!」」」
いつもと同じように、中庭で弁当を広げるマイ、シズル、カエデの三人。
「うわぁ〜、カエデちゃんのお弁当、なんだかすごい……!」
シズルが言うので見てみると、カエデの弁当は重箱に入っていた。
「あ、いや……と、友達が出来たって母さんに話したら、母さん随分張り切って……朝から今日出る寸前まで作ってくれて……
 オレはいいって言ったんだけど、母さんが本当に張り切りまくってて、こんなことに……
 え?あ、その……お友達と分けて食べなさいってもちろん言ってたよ。だから……」
タラ〜……
「よだれ垂らすのをやめろ、マイ」
「じゃあ遠慮なく!」
「私も」
素早くほおばると、二人共大騒ぎした。
「「おいしい〜〜〜!」」
「そ、そうか?母さんに言っとくよ」
「カエデちゃんの料理上手って、お母さんに似たんだね!」
「ん……そうかもな」
ある程度重箱に入れられた弁当を平らげたあと、マイはふと思ったことを切り出してみた。
「……そういえば、カエデちゃんなら知ってるかな」
「何を?」
「教室の廊下側にある席なんだけど、ずっと空いてるよね」
「あぁ、あれか。あれは白石、白石 奈々(しらいし なな)の席」
水筒に入っているお茶を流し込み、話を続ける。
「何でも白石、小学校5年の終わりの頃からずっと学校に来てないらしい。課題はやってるから、学校の退学はしてないけど。
 オレも会ったことはないから何とも言えないけど、なんでも天才的なゲーマーらしいぞ」
「どうして?何か病気とかを患っているの?」
「いや、そんなわけじゃない。病気を患っていたら、ちゃんと学校から説明があるはずだ。だからおそらく……」
「まさか、引きこもり?」
大声でマイが言う。中庭中の視線がマイに向けられた。
「さ、流石にデリカシーがないぞ……」
「ご、ごめん……」
「小学校5年生の終わりの頃……二年前……?」
シズルが顎に手を当てる。
「ねぇ、マイちゃんこの前先生が言っていたこと、覚えてる?」
「え?」
「エンプティが、初めてセイザ地方を襲ったのは2年前。その時は、ある少女の犠牲によってエンプティの暴走は止まったって」
「!?」
思い出した。まさか、それがナナが引きこもる原因になってしまっている……?
「あくまで仮説だろ?あまり決め付けるのは良くないぞ」
「えぇ、でも……」
「……なら、本人に直接聞いてみるか?」
「え?」

「白石 奈々さん」
職員室にやってきた3人。
「確かにこのクラスにはそう言った人がいる。だけど、学校には来ていないのも事実だね。…………で?」
「え?」
「白石さんに会って、どうするんだい?」
ユウジの問いに、マイはこう答えた。
「ユウジさん。ごまかすのはやめて」
「おや?」
「二年前の事故……その事故が、白石さんの心に深い影を落としたんじゃないの?」
するとユウジは、一瞬だけ肩をいからせた。
「図星、のようですね。進藤先生」
「さぁ。なんのことやら」
「あまりごまかせると思わないでください。オレたち、意外としつこいですよ」
その時、チャイムが鳴った。
「さて、休憩時間は終わりだ。午後から体育の授業なのに、君たちは着替えなくていいのかい?」
「「あ」」
マイとシズルは、急いで教室に向かった。
「また後で、聞かせてもらえませんか」
カエデもそう言ったあと、マイたちを追った。



体育の授業は、ソフトボールだった。
試合は白熱したまま進み、5回ウラ、最終回。
マイが打席に立った。
スコアボードは、2−1と書かれている。
「よぉ〜し……」
「マイちゃ〜ん!ホームランが出れば、サヨナラだよ〜!」
「まっかしといて!彼方まで飛ばしてやるわ!」
と、堂々ホームラン宣言。
「マイ、打ち取るよ!」
「望むところ!」
そして女子生徒はボールを投げた!

…………一塁に。
「あ」
何故か大きくリードを取っていたカエデは、あっさりタッチアウト。
「か、カエデちゃん……」
シズルの隣へやってきて、
バタン。
「お……お……!」
倒れ、震えるカエデ。
「つ、次があるから!プロでも希に見るミスで貴重で嬉しいから、気にしないで!」
微妙にフォローになってないフォローを入れるシズル。
「むぅん!」
「ストラ〜イク!」
女子生徒は安心した様子で、ボールを投げ込む。
「ふんっぐ!」
「ストラ〜イク!ツー!」
追い込まれるマイ。
「これで決まりよ!」
そして女子生徒はボールを投げる。
(大丈夫、何とかなるって……!)
そのボールは、
ど真ん中に飛び込んできた!
「ふんどりゃ〜〜〜〜〜!」

「そんなこと言わずに、君が来るのを待っている人だっているんだよ」
屋上で誰かに電話をかけているユウジ。
「……」
「聞いているのかい?」
「あなたに話すことなんて、何もない」
電話の相手は、そうとだけ言った。
「う……あの事故は、本当に申し訳ないと思ってる。だからこそ、直接会って謝罪が」
「私はあなたを許さない。私から日常を奪った、あなたたちを」
「う、でも」
「それに、私に構うのはやめて。あなたも不幸になりたいわけじゃないでしょ」
電話先の声は、徐々に冷淡さを増していく。
「不幸だなんて、そん」
その時だ。
ゴツ!
「ぐえ」
カシャン!
「も、もしもし?もしもし?」



「……」
グラウンドにいる女子生徒全員が、唖然とした様子でマイの打球を見ていた。
「……ナイスバッティング」
桃色の髪の少女が、親指を立ててそう言った。

「むわぁ〜!ユウジさん!ユウジさんしっかり!」
屋上にやってきたマイたちは、ユウジが気絶しているのを見た。
「た、玉がソフトボールで本当に良かったですね……」
「いや、微妙に良くないぞ、これ」
その時だ。
「あれ?」
マイはユウジの携帯が、通話中なのに気がつく。
「もしもし?」
「ちょっマイ。また勝手に」
と言うと、
「あなたは誰……?」
感情がないというか、無気力な声が返ってきた。
「え?いや、その」
「ダメ、私が話したら、あなたまで不幸になる」
プツ!
電話は一方的に切れた。
「「「……?」」」
顔を見合わせる3人。そこへユウジが目を覚ます。
「痛いなぁもう。急に酷いことをするね」
「あ、ごめんなさい」
謝るマイ。ところが、
「あれ?」
ユウジは携帯を見た。
「まさか君……携帯に出てしまったのか!?」
「つ、通話中だったんで、ついうっかり……あはは」
「……」
するとユウジは、突然神妙な面持ちで、
「どうやら、隠し通すのはこの辺りが限界らしい」
と言った。
「やっぱり、なにか隠してたんですね」
「だが、君たちは同時に、パンドラの箱を開けることになる。それでもいいんだね」



カチカチカチカチ、カチカチ、カチカチカチカチ。
「……」
無心でゲームを続ける少女。
カチカチ、カッ……
MISS! ……GAME OVER……
「……」
コントローラーから手を離し、少女は寝転がった。
「……」
付けていたメガネを外す。どうやら、伊達メガネのようだ。
「はぁ……」
ピンポ〜ン!
その時、インターホンがなった。
「……」
しかし少女は動じることなく、そのまま少し眠りかけていた。

「いないのかな」
マイがそう言うが、
「ずっと引きこもってるんだ。いないはずがないよ」
と、すかさず否定するカエデ。
ピンポ〜ン、ピンポンピンポンピンポ〜ン!ピ〜ンポ〜ン!ピ〜〜〜ンポ〜〜〜ン!
「流石に近所迷惑だよ、マイちゃん」
「ん……」
悩むマイとカエデ。
「なら、ここは任せて」
「え?」
コンコン、
するとシズルはおもむろにドアを叩き、
「ちわ〜。宅急便で〜す!」
と大声で言った。
「し、シズルちゃん……」
「はぁ。そんな原始的な方法で出てくるわけが」
ガチャ!
「あったよ……」
「……」
すると少女は、扉を閉めようとする。
「し、白石さんだよね!?」
マイがそう言うと、少女は固まる。
「は、話したいことがあるんだけど……いいかな?」
「だが断る」
「だがも何もないだろ」
カエデの的確なツッコミ。
「……いいの?あなたは不幸になりたいの?」
「ふ、不幸?」
「それでもいいなら、構わない」
少女……ナナは部屋の中に入っていく。
それを追って、マイたちはナナの家に上がり込んだ。



「……」
家の中は散らかり放題で、ゲームだけが綺麗に整頓されていた。
しかも、部屋の中に光が入ってこず、下手したら苔でも生えてきそうな空間である。
「あ、あの……白石さん」
「……」
来ていることを知ってか知らずか、ナナはゲームに没頭している。
「ねぇ、話を……したいんだけど」
「……」
その指先は、流れるように動く。まるで精密機械のごとく、的確にボタンを押していた。
「うまいね」
「……」
その言葉にも表情と、ゲームへの姿勢を崩さない。
「話っていうのは、君のお姉さんの事なんだけど」
「……!」
するとナナは激しく狼狽し、コントローラーを落とした。
直後にテレビに、ゲームオーバー画面が映し出される。
「……とある人から、話を聞いたの」




「白石 奈々。彼女の姉、白石 明美(しらいし あけみ)はこの地方のポケモンレンジャーだった。
 2年前、彼女はエンプティ襲来の報を受け、現場に急行した。もちろん、この時はエンプティという名前は使われていなかったけどね。
 しかし現場に駆けつけた彼女を待っていたのは、恐ろしい光景だった。
 ためらいなく人を襲うポケモン、エンプティ。人々は爪で切り裂かれ、倒れていた。
 だから彼女は、ポケモンを使用し、エンプティと戦ったんだ。彼女はウォーグルを使い、エンプティをなすすべなく蹂躙した。
 ……その戦いぶりたるや、僕も目を見張るほどだったよ。だけど、事件は起きた」
「まさか、エンプティが変身して……」
「その通り。彼女に再び襲いかかったんだ。
 僕はエンプティは、すっかり討伐できたものだと思い込み、彼女に撤退を勧めてしまった。
 その結果、彼女は背中に致命傷を受けた。しかし薄れていく意識の中、彼女はウォーグルに乗ってフライゴンに突貫。
 無事にフライゴンを撃破し、モンスターボールに強引に閉じ込めることで一応の騒動の収束を得たんだ。
 ……しかし、彼女は、命の灯りを落としてしまった。その事を、白石さんに伝えたら……
 彼女は現実を直視することができず、人との関わりを自ら絶ってしまったんだ」
ユウジは視線を落とした。
「嫌なこと、思い出させてしまいましたね」
「いいんだ。全ては僕の不手際。僕に甘言をくれることはないよ」




「……」
「それを、笑いに来たの」
「……違うよ。君が不憫すぎたから。それに、電話先で言ってた<不幸になる>って言うのも気になるし」
するとナナは突然、布団をかぶってふさぎこんだ。
「……!白石さん!?」
「かわいそうと思うのは、バカにするのと同じ。私は私、あなたはあなた。大切なものを失った、私の気持ちなんてわからない」
「……」
「白石……」
気まずくなってきた。
「……」
するとシズルは部屋を見回して、
「あ、あれ」
あるものを発見した。
「{エアームドフォースワン}と{軍艦ホエルオー}だよね。にゅ、ニュースで見たことあるよ」
兵器のポスターだ。
「え、エアームド、フォースワン?」
「……」
首をかしげるマイに、ナナはこう言った。
「ポケモンのエアームドのように迅速に、そして頑丈に空を舞うことができるステルス機の一種。カントー地方を主軸に導入が進められていたけど、地元の住民の反発を受け見送られた。もちろん丈夫なだけじゃないわ。内部にはバンカーバスターや巨大な誘導性ミサイルなど……」

10分を超える話なので、中略すると、とりあえずものすご〜い戦闘機。

「そして軍艦ホエルオー。これはポケモンのホエルオーを意識して作られた海をゆく戦闘用軍艦。同じくカントー地方を主軸に導入が進められ、現在はエアームドフォースワンと違い、幅広く利用されている。さっき紹介されたエアームドフォースワンを最大20機積むことができ、20mを超える波にも耐えうるボディと……」

これも中略すると、要はものすご〜い軍艦。

「……と、言うわけ」
「は、ははは……」
ドン引きするカエデ。
「どうせ私なんて変な子だよ。私に構うことないんだから」
「変じゃないよ」
陽気な声でマイが言った。
「好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。それでいいと思う。それを私は笑わないし、馬鹿にすることだってしない。
 だって、それが白石さんの……ナナちゃんのナナちゃんらしさでいいと思うんだ」
「私……らしさ?……またバカにして」
「バカにしてないよ。私だって……」
と、ここでカズマの言葉を思い出した。

明日にはカントー地方から調査団が来る。

「何」
「ねぇ、その軍艦ホエルオー。見てみたくない?」
「はぁ?」
「今日、港に来てるよ!見に行こうよ、ナナちゃん!」
しかしナナは布団をかぶったまま。
「行こうよ。行こうよナナちゃん!」
「い、嫌だ!家出たくないもん」
「ねぇ行こうって〜」
「だ、だって、太陽が眩しいし!……着ていく服だって……ないし……それに……疲れるし……」
その時、シズルが手を打った。
「服がないって言うなら!」
「え?」



バ〜〜〜ン!
と、古臭い効果音が聞こえてきそうな服の山。
「好きなものを選んでみて!」
「し、シズル……」
表には、何十人もの黒服がいた。当然全員、ナナの服を運ぶだけにやってきている。
「……」
「これなんてどうだ?似合うと思うぞ」
カエデはゴスロリ系の服を取り出した。
「カエデちゃん。そんな趣味があったの……?」
「え?お、オレはただ、似合うと思っただけで……そそそそそ、そんな趣味とか、ないよ!」
「何で言いよどむの!余計怪しいよ!」
と、話しているうちにナナはその服を取った。
「お気に入り?ナナちゃん」
そうシズルが言うと、ナナはシズルと目を合わせずに
「ん。魔女みたいな見た目が可愛い」
「だろ!白石には似合うって思ったんだ!」
「消去法だけど」
「「……」」
二人共笑顔が凍りついた。
「と、ところで……マイちゃんは?」

「何?今からか?」
カズマと電話しているマイ。
「うむ、確かに今ならホエルオーは停泊しているが……何?白石さんが?」
「どうにかして軍艦を見ることはできませんか?ナナちゃん、すっごく見たいみたいで」
「ふむ……残念ながら、港は関係者以外立ち入り禁止だ」
「そんな」
落ち込むマイ。しかし続けてカズマが、
「でもまぁ。遠くからの観察なら出来るだろう。それに写真撮影も、プライベート写真で使うというなら構わんぞ」
「本当ですか!?」
「あぁ。今からあっちゃんにも確認を取ってみる。君たちはぼちぼち、歩いてきてくれて構わんぞ」
「ありがとうございます!……って、あっちゃんって誰ですか?」
その瞬間、カズマは耳まで赤くなった。
「な、なんでもない!とにかく港へ来てくれ。許可は俺が何とかしよう」
電話は切れた。
「今の……誰から?」
と、カエデが言う。
直後にゴスロリの姿で、何故かかんざしまでつけたナナが家から出てきた。
「あ、あぁ。浦川さん。今からなら見学OKだって」
「浦川……?」
ハッとした様子のナナ。
「どうしたの?ナナちゃん」
「……何でもない」
「港までは歩いて15分くらいかな。行こう、みんな」
「「うん!」」
ナナは何も言わずに微笑んだ。

しかし、その時だ。
「……」
ホロロジウム軍事センターにて観測を続けるユウジ。すると……
「やっぱり……来たか……」
モニターには、真っ白な色の巨大なネンドールが映っていた。

TO BE CONTINUED……

バタフライ ( 2013/03/25(月) 23:13 )