第二章 グルースシティの人々
第四話 「天才」と呼ばれる故に
新白鶴学園。
グルースシティ最大の小中高一貫校であり、政治家等、様々な人物を輩出してきた超マンモス校。
その地にマイたちは向かっている。
「……あ、あの……」
「うん?どうした?」
ミオが、カズマに話しかけた。
が、ミオはカズマのどこか形容し難いオーラに圧倒されている。
「何だね?質問があるなら言ってごらん。おじさんが答えてあげるよ」
「……あの、昨日のやつって……また出るんですか?」
「……」
ミオは不安なようだ。
「怖いかね?」
こくりと頷く。
「はっはっは。無理もないか。何しろ、得体が知れない奴だからね」
「……違います。お姉ちゃんが、また危ない目に遭うのかなって……それが怖くて……」
「……」
「そうなったら、あたし……」
するとカズマはミオの肩を黙って持ち、
「大丈夫。君のお姉さんは思った以上に強い。君は君のお姉さんを信じないでどうするんだい?」
「あ、それは」
「信じていれば、きっと君のお姉さんも、そして君自身も大丈夫だよ。
 このおじさんも、必死で君を守るからね!」
するとミオはようやく笑顔になり、
「はい!」
と言った。
「ちなみに君のお姉さんとそのお友達は一応軍事の最高機密となっているから、公の場では言わないようにね」
「あ、ごめんなさい」
「はっはっは。素直で純粋な子だなぁ」
親しげに話す二人。その様子を見たマイは、
「本当に同じ人間……?」
と、カズマに対して疑問を得ざるを得なかった。
「おっと、おなかでも減ったのかい?」
「あ、そういうわけじゃ……」



新白鶴学園、体育館。
「やああぁぁぁ〜〜〜!」
ダッ!
「チェスト〜〜〜!」
ギュ〜〜〜ン……ファサ!   ピー!
女子ハンドボール部の朝練が行われていた。
「カエデ!ナイスだよ!」
カエデと呼ばれた少女は、凛とした表情で振り返った。
髪は燃えるような焔色のポニーテール。
背はやや高く、足の筋肉が発達している。少しだけ肌は焼けているようだ。
「……」
無言のまま、笑みを浮かべた。
「さすがだな、二階堂」
顧問の先生が話しかける。
「この調子で次の大会も、頼んだぞ」
「もちろんです。先生。女子ハンドボール部の主将として、オレは絶対に立ち止まりません」
カエデはぎゅっと、右腕を握った。



2年B組の教室。
「おはよう」「おはよう」
生徒たちが何気ない会話で盛り上がる中、カエデはと言うと、
「……」
勉強の復習をしていた。
運動神経抜群。成績優秀。そして人当たりもよい。
気がつけば、「新白鶴学園きっての天才」と呼ばれるようにもなった。
しかしカエデは常に一人。必要最低限以外の交流はない。
なぜなら、彼女が完璧すぎるから。
高嶺の花には、誰も寄り付かない。
しかし彼女は、そんな孤独などどうということはない。
「……はぁ」
いや、もう慣れた。

学校の入口でカズマと別れたあと、ユウジに連れられて校長室へ。
転校の挨拶をしたあと、ユウジに連れられたまま教室へと向かう。
「お姉ちゃん。また後でね」
「うん。ミオも頑張るのよ!」
「うん!」
ミオと別れ、マイとシズルはユウジに促されるままに教室の前に。
「さてと、じゃあ僕が呼んだら中に入ってくれるかな」
「え?」

「え〜、今日から転勤された玉木先生の代わりに、この2年B組の担任を任されました。進藤 裕二です。
 以後、よろしくお願いします」
「キャ〜〜〜、かっこいい〜〜〜!」
教室の中で黄色い歓声が聞こえた。
「あいつ……よくもちゃっかりと……」
ドアの隙間から覗き込むマイとシズル。
「もしかして……進藤さんってこの学校に来るから私たちを迎えに来てくれたのかな?」
「そりゃないでしょ。だいたいあれのどこを見たらかっこいいんだか」
教室でユウジがくしゃみをした。
「っと、失礼。ではさらに、今日は転校生がいます。入ってくれ」
「「はい」」
ドアを開ける二人。
「おぉ〜」
男性陣は声を上げた。
「転校してきました。小鳥遊 麻衣です。えっと……マイか、小鳥遊って呼んでください」
「転校してきた、栗生 静流です。よろしくお願いいたします」
がやがやと騒ぎ出す。
「はい。静かに。二人は昨日、エンプティという異質の生物の仕業で、エリダヌス島の学校から転校してきたんです。
 分からない所があるでしょうから、みなさんでサポートしてあげてください」
「「は〜い!」」
「えっと、席は……3箇所空いてるか。じゃあ君はあの席に……」
廊下側の席を指差すが、
「あ、ダメだ。ここはほかの人が既にいる。じゃあ……二階堂さんの隣にしよう」
「はい」
マイは窓際の席に座った。
「……ん?」
カエデはマイをじっと見る。
「よろしくね。二階堂さん」
「え……?」
なぜか頬を染めるカエデ。
「ん?」
「あ、いや。な、何でもない!何でも……ないよ」
「?」
その様子を眺める少女。
「……」
セントラルタワーの頂上にいた少女だ。



昼休み。
昼食を取ろうと中庭にやってきたマイとシズル。
学校内も相当な広さで、迷ってしまうほどだった。
「楽しそうなクラスでよかったね。マイちゃん」
「うん。でも……」
「でも?」
「やっぱりあいつが先生って」
「まだ言ってる……?マイちゃんったら」
弁当を広げる二人。と、その時、
「ん?」
マイの目に、カエデの姿が飛び込んだ。
カエデは一人黙々と、食事を流し込んでいる。
「……ねぇ、シズルちゃん」
「ん?」
気づかれるのもなんなので、黙って指を指す。
「あ、あの人は二階堂さん……だよね?」
「うん。休憩時間中も、ずっとひとりで教科書を読んだりしてたの。
 他の人たちはみんな、色々話してるのに……何か理由があるのかな」
「……」
するとマイは弁当を折り畳み、
「ちょっと話しかけてみる」
「え?マイちゃん」
カエデに向かって歩きだした。
「……」
気づいていないカエデ。
弁当は唐揚げや、ポテトサラダなど、彩り豊かではあるが、ボリュームがすごい。
「これだけカロリーを摂取して、大丈夫?」
「……!?」
ガシャン!
「あ……!」
「!」
驚いた拍子に、カエデは弁当を落としてしまった。
「ご、ごめんなさい!え、えっと……と、とりあえずティッシュ!」
「な、い、いいよ!大丈夫!」
するとカエデはそそくさとこぼした弁当をまとめ、足早に立ち去ってしまった。
「あ……」
悪い事をしてしまった。マイは深く後悔した。
「マイちゃん……」



「以上が、今回のエンプティの被害の状況、全てです」
一方ユウジとカズマは、今回の襲来の被害状況を算出していた。
「うむ、死者が出なかったのは不幸中の幸いだな。それで、政府にはなんと」
「念のため、今回の事件は公の場に出さぬように釘を刺しておきました」
「そうか、済まないな。しかし、いつまでもロケット団の仕業でごまかしきれるだろうか……」
しかしカズマにはもっと気になることがある。
「ところで進藤君。昨日のエンプティだが、突然エネルギーが振り切れるとは一体」
「エネルギーのみならず、エンプティの色も変わり、攻撃も激化していました。
 もはやあれは元のエンプティであって、エンプティでない。そう言えるのではないでしょうか。
 まるで新種のウイルスに突然侵されたような、そんな状況でした」
「そうだな。姿、技、すべてが変わり、凶暴化する……仮に{変異ウイルス}と名付けるとしよう。
 変異ウイルスに侵されたエンプティの動きは凶悪だ。今回のようなことが立て続けに起これば。ごまかしきることもできまい」
「……そこで、彼女らのエンプティブレイクです。その力があれば、止めることもできるでしょう」
顎に手を当てるカズマ。
「どうされました?浦川先生」
「進藤君」
「?」
するとおもむろにユウジを見て、
「そのエンプティブレイクというまんまなネーミング、もう少し何とかならないかね?」
「……」
しばらく間が包んだあと、ユウジはこういった。
「3日3晩考えて、この結果なのです」
「……察しよう」



次の日。
「……」
カエデの隣に座るマイ。だがさすがに気まずい。
「あのさ、二階堂さん」
「……」
「昨日はごめん。驚かすつもりなかったんだけど……」
「気にしてない」
それだけ言うと、カエデは再び本を読みだした。
英語の教科書だ。
「……あのさ、二階堂さん。教科書」
「……どうせ何もやることないからさ。予習してるの」
「え?」
「あんまり構わないで。今集中してるの」
と、「話しかけるな」と言わんばかりに教科書を見る。
「いや、1時間目英語じゃなくて数学なんだけど」
「!?」
急いでカバンから数学の教科書を取り出す。
「先に言ってよ!」
「いや、だって聞かなかったし」
「……」

昼休み、今日もカエデは一人で食事をしている。
「……」
その様子をじっと見るマイ。
「マイちゃん、まさか……」
「……え?」
シズルは不安そうな顔でマイを見る。
「いやいや、流石にもうしないよ。また昨日みたいなことになったらダメだし」
「……そう」
とそこへ……
「おい、お前ら」
「え?」
「ここは俺らが座るって決めてんだよ。どけ」
見るからにガラの悪そうな男二人が、マイとシズルの前にやってきた。
「そ、そんなの、早い者勝ちじゃないんですか?」
立ち上がって反論するシズル。
「うっせぇ!第一お前ら転校生だろうが!どけって言われたらどけばいいんだよ!」
「そうだ、俺らの方が歴史が古いからよ。お前らは反論すんな!」
「む、無茶苦茶な意見……」
すると男たちは二人共、マイとシズルを強引に立たせようとしてきた。
「ちょっ離してよ!痛いでしょうが!」
「黙れブスが。とっとと立てやおら!」
その時だ。
「何やってんだ」
「え?」
ゴス!
「ぐへっ」
マイを掴んでいた男に肘打ち。
「てめっ!」
さらにシズルを掴んでいた男には……
ザッ!
「うぉわ!」
合気道のような投げを使った。
「いってぇ……な、何しやがる!」
「ここはみんなの中庭だ。誰の物でもない」
カエデだ。
「ち、て、てめぇ……覚えてろ!」
「あぁ、待ってくれよぉ!……夜道に気を付けろよコラ!」
これまたわかりやすい捨て台詞で、二人共逃げ出した。
「……」
「に、二階堂さん」
「何」
ガシ!
マイとシズルは二人共、カエデの手を取った。
「ありがとぉ〜〜〜!神様仏様二階堂様〜〜〜!」
「そ、そこまで言う?」

「自己紹介がまだだったわ。オレは二階堂 楓(にかいどう かえで)。一応女子ハンドボール部の主将をやってる。
 さっきのは、兄さんから習った古武術をちょっと使ったまでだよ」
「そ、そう……」
「マルチなんですね、二階堂さん」
「ん……あんまり褒めるな」
顔を赤くするカエデ。まるで紅葉のようである。……カエデだけに。
「そのお弁当、どうやって作ったの?」
「これはオレのお手製。別に自慢できるやつでもないけど」
「え?本当?」
するとマイはおもむろに唐揚げをつまみ一口。
「……おいしい!こんな美味しい唐揚げ、食べたことないよ!」
「そうか?……なら良かった」
笑みを浮かべるカエデ。シズルも一個食べてみる。
「本当だ……おいしい……!二階堂さんって、お料理がうまいんですね」
「……別に、普通だよ」
「いや違うよ!こんな美味しい唐揚げを作るなんて、二階堂さんは天才だよ!」
「!?」
するとハッとして、
「ごめん、行く場所ができた。じゃ、じゃあね!」
そそくさと弁当をまとめ、走り去ってしまった。
「あぁ二階堂さん!爪楊枝〜!」
「それぐらい捨てようよ、マイちゃん……」

「天才でもなんでもないよ、オレは……!」
教室に戻りながら、カエデはそう言った。
「オレは……普通でいたいだけなのに……!」
それを物陰で聞くユウジ。
「ほう……?」



放課後。
体育館で部活動に励むカエデだが……
「くっ!」
ガシ。
「あっ……!」
ファサ……!ピー!
「白チーム逆転!」
「うっ……」
「どうした二階堂。今日は調子が悪いのか?」
「そ、そんなこと、ありません!」
再び試合が始まった。
「パス!」
と、チームメイトがパスし……
「オーライ!」
受け取るが……

さすが 我が校始まって以来の天才肌だよ 二階堂
お前たちも二階堂に負けるなよ!

周囲から天才と言われるほど、周りの人間は自分から離れていく。
だからこそ、その期待に応えないといけない。
自分には、ハンドボールしかないし、それ以外には何もない。
だからこそ勉強もするし、料理もするし、何でもする。
努力に努力を重ね、自分はもはや何でもできるような人間になった。
「……」
だが、そうしても、自分には孤独だけが残る。
何でもしているのに、何でもできるのに。
誰も自分を頼らない。誰も自分に声をかけない。
誰も自分に目を向けてくれない。
「二階堂!前!」
「え……?」
そう考えているうちに、目の前に相手チームがいて、
ゴス!
「うわぁ!」「きゃあ!」
ドサ!
正面衝突。
「いたたたた……」
「だ、大丈夫か?」
立ち上がろうとした瞬間、
ズキッ!
「!」
足に鈍い痛みが走った。
「ちょ、二階堂、大丈夫?」
「だ、大丈夫。大丈夫だって」
ズキッ!
「ん……!」
まただ。しかも先ほどより痛みが激しい。
「……いいから二階堂、もう休め。お前は切り詰めすぎだ」
「だ、大丈夫です!大丈夫ですってば……!」
言葉とは裏腹に、痛みはどんどん増していく。
「お前のわがままで、こっちはどんだけ迷惑してると思う?」
「……」
カエデはそれ以上何も言わず、大人しくしている事にした。

しかしいつまでたっても痛みが引かないので、早退することにした。
「本当に一人で大丈夫?」
心配そうにするチームメイトに対し、
「大丈夫。あんまり心配しないでくれよ」
と、笑顔で答えるカエデ。
「そう。なら良かったわ。気をつけて帰ってね」
「おう、お疲れ」
チームメイトが戻ったあと、カエデはその場に座り込み、靴下を脱いだ。
足首を見ると、青紫色に変色していた。どうやら捻挫のようだ。
「……何やってんだよ。オレ……」
踏み出すと痛い。しかし自分の周りには誰もいない。
「……」
その時、
「あれ?二階堂さん?」
「ん?」
目の前にマイがいた。
「いっ……!」
「ん?」
マイはカエデの右足を見る。
「ひどいケガじゃない!ダメだよ無理して歩いちゃ!」
「大丈夫だよ。一人で帰れる!」
「ダメだよ!無理したら余計悪化するよ!」
「大きなお世話なんだよ!」
靴下を履こうとするが、
「ぐ……!」
鈍い痛みが走った。
「もう……ダメだよって言ってるのに」
するとマイはカエデの目の前でしゃがみこみ、
「ほら、掴まって」
と、おんぶをしようとした。
「自分で……歩けるって言ってんだよ」
「ダ〜メ。ちゃんと自分の体は自分で守らないと。無理させ続けるのはダメ」
「……」



保健室にやってきたマイとカエデ。カエデの足首に湿布を貼り、カエデの右足を椅子の上に乗せた。
「しばらくしたら、痺れるような痛みも引いてくるはずだよ」
「……大丈夫って言ったのに。世話焼きなんだな、小鳥遊って」
「うんうん?そんなことないよ」
湿布を元の位置に戻し、自分も椅子に座る。
「何で学校にいたんだ?」
「ほんの忘れ物。家に帰ってから気付いちゃったから、自転車で大急ぎでやってきたんだ。
 そしたら二階堂さんが、廊下でうずくまってたから何してるのかなって」
「……」
しばらく沈黙が続いたあと、
「もう帰っていいよ、小鳥遊。一人で帰れるから……」
「またそうやって自分の体をいじめる。どうしてなの?」
「いいから、帰れるって」
「……」
するとマイはいたずらっぽくこう言った。
「本当は、一緒にいて欲しいんじゃないの?」
「!?」
「あれ、図星?」
「……」



結局、帰りもカエデをおぶって帰ることに。
「オレ……嫌なんだ」
「え?」
「自分の思う通りにいかないことが。でもそれ以上に、過剰に持ち上げられることが」
「どういうこと?」
少し言うことをためらったあと、カエデはそっと語りかけた。
「オレは何の取り柄もない、普通の中学2年生だよ。だけど、女子ハンドボール部の主将だし、
 成績優秀者で表彰されたことがあるから、父さんや母さんはオレの成績に期待してる。
 ただオレは、いろいろと努力をしているだけだ。オレが生まれ持ったものでもなんでもないのに、みんなそうしてオレに期待する。
 どうしてかな。前まではずっと何にも思わなかったのに、うまくいかなかった事を想像したら、怖くなって……
 だからオレは、何でもかんでもしなくちゃいけないって思うし、そのためにみんなが離れていくのは仕方ないと思った。
 ただ、天才でもなんでもない。普通の中学生として見て欲しいんだ。オレの事」
「……」
そしてマイは、
「ごめん。昼間言ったこと……」
と言う。
「いや、小鳥遊は何も悪くないよ。ただオレの精神が弱いだけさ」

10分後……カエデの家の前にたどり着いたようだ。
「ここでいい。ここからは大丈夫。もう大分、痛さも引いてきたし」
「そ、そう……」
「ありがとう。小鳥遊」
マイがカエデを下ろすと、カエデはゆっくりと歩き出した。
「あのさ」
声を上げるマイに、カエデは振り返る。
「悩んでばかりじゃダメだよ。それに、自分ひとりで背負い込むのもダメだよ」
「……」
「してあげることはもちろん大切だよ。だけど、してもらう事も大事だと思う」
「……そう」
カエデが家に入っていくのを、マイはずっと見ていた。

TO BE CONTINUED……

バタフライ ( 2013/03/17(日) 20:50 )