第一章 フュージョンボール
第一話 エリダヌス島



「くっ!」
桃色の髪をした少女が、とあるポケモンと戦っていた。
「グアアオォォォ!」
「やめて…!大人しく…してちょうだい!」
少女は無数の斬撃を飛ばした。
サイコカッターだ。
無数の斬撃は、そのポケモン…ウインディに激しく命中。
だがしかし、ウインディは倒れなかった。
「はぁ…はぁ…」
その時だ。
「…!」
上を見上げると、白いポケモンがいた。
そのポケモンが咆哮を上げると、空から無数の白い星が降り注いで…



「!?」
目を覚ます少女。目の前に広がっていたのは、なんの変哲もない海だった。
「…また…この夢だ…!」



セイザ地方。
その南、エリダヌス島。
人口は少ないながらも、人々は何一つ変わりない時間を過ごしていた。
その中で、人気のうどん屋がある。
「ふんふんふ〜ん♪ふ〜んふ〜ん♪」
明るく鼻歌を歌う少女。髪は黒色のショートヘア。
この少女こそ、今回の物語の主人公。

小鳥遊 麻衣(たかなし まい)14歳。

「ねぇお父さん、これ、洗っといたよ」
と、配送用のトレイを父に渡すマイ。
「おぉ、助かった。朝飯出来てるぞ」
「うん」
店の奥へと向かうマイ。すると…
「ん〜…このにおい、たまんないなぁ」
「お?お姉ちゃんおはよう」
妹の小鳥遊 美緒(たかなし みお)が声をかける。
「おはよう。ミオ」
「お父さ〜ん!朝ごはん出来てるよ〜!」
「おう、ちょっと待ってくれ」

「「「いただきま〜す」」」
朝食にがっつくマイ。
「もう、お姉ちゃん流石にはしたないよ」
「むぐむぐ、ごめんごめん。お腹すいてたもんだからさ」
「ふん、朝飯も真面目に食えんのか」
と、言う父であったが…
ご飯には大量のマヨネーズ。卵焼きにも、味噌汁にも。
「いや、お父さんに言われたくないんだけど」
「…そういえばさ、お姉ちゃん。手紙が届いてたんだけど」
「手紙?」
その手紙の宛名は、「栗生 静流(くりゅう しずる)」
「あ〜!シズルちゃんからだ!」
「本当か!なんて書いてあるんだ」
「えっと、読んでみるね」

マイちゃんへ
突然の手紙、ごめんね。
今日、ミオシティからそちらへ向かいます。
お父様のお仕事のご都合で、これからセイザ地方で暮らすことになりました。
今日の夜には、そちらの地方に到着するはずです。
そうすれば、マイちゃんといつでも会えるから、とても楽しみです!
ふつつかな私ですが、これからもよろしくお願いします。

栗生 静流

「だって」
「ほう…シズルちゃんってのは、確か栗生造船所の社長令嬢だったよな」
「そう。明日にはこっちに着くんだって。楽しみだなぁ〜」

シズルとの出会いは、小学生4年生の頃だった。
父と二人で、うどんの小鳥遊を切り盛りしていた時のこと。
がらがら、
「いらっしゃいませ〜!」
「きゃあ!?」
「あ…ごめんね。驚かせちゃった?」
「え…?あ、いや…その…」
ドギマギする少女。髪は青いツインテール。
この少女こそ、マイの親友となる少女、シズル。
するとマイは笑みを浮かべ、
「まぁ、座って」
と、シズルを席につかせた。
「どうしたの?君、一人?」
「え?う……はい」
「ふうん。お父さんはどうしたのかな?」
「お、お父様は…」
ただならぬ雰囲気を感じたマイ。すると…
「お父さ〜ん!この子にうどん作ってあげて〜!」
「えぇ!?」
「おう分かった!」
父親がうどんを作り始めるが、ドギマギするシズル。
「わ、私…お金持ってません」
「いいよ。君にはサービス!お金の代わりに、君の笑顔をもらうよ」
「そ、そう…ですか…ありがとうございます」

一杯のごくごく普通のうどん。
「味薄かったら、薬味とか入れてみてね。ネギと天かすは無料だから」
「は、はい」
ズルズルと音を立て、うどんを食べるシズル。
「あ…おいしい!」
「そう?よかった。私のお父さんが作るうどん、きっと絶品だと思ってたけどね!」
「こんな美味しいうどん、食べたことないです!」
「ふふん。美味しそうに食べる君の顔を見てたら、私まで笑顔になっちゃうよ」
シズルはあっという間にうどんを平らげると、マイはその器をそっと取り下げた。
「君、名前は?この島じゃ見かけない顔だけど」
「…」
無言のまま何も喋らない。その様子を見たマイは、
「あ、嫌ならいいんだよ。ごめんね」
と、早急に謝った。
「あ、いえ…」
しかしその時だ。
「お嬢様!見つけましたぞ!」
黒服を着た男が入ってきた。
「あ、遠藤さん…」
「帰りの飛行機のお時間が迫っております。お急ぎを」
マイには状況が飲み込めなかった。
「…嫌です。あの地方に、私の居場所なんてないのですから…」
「そう言われても困ります。旦那様は心配されていますぞ」
「…」
戸惑うシズルに対し、マイは…
「やめてください。この子、嫌がってるじゃないですか」
と、遠藤と呼ばれた男に反論した。
「…何ですかあなたは?これは私たちの話なのですよ。割り込まれては困ります」
「でも…」
するとシズルは立ち上がり、
「もういいのです。あなたにまでご迷惑をお掛けするわけには参りません」
「え?」
と、一方的に話を遮った。
そして遠藤という男に付き添われて店を出ようとした時、
「栗生 静流です」
「え?」
マイに向かってこう言った。
「私の名前です。ありがとうございました。こんな見ず知らずの私に、うどんを食べさせていただいて…」
「…」
するとマイは、
「またいつでも食べに来てね、栗生さん」
笑顔でこう返した。
「えぇ、是非」
それが彼女たちの、ファーストコンタクトだった。

それ以降マイとシズルはテレビ電話などで交流を深め、今では無二の親友となっていた。
そのシズルの引越しと聞いて、喜ぶことができないマイではない。
「わわ〜い!」
と、両腕を高々とあげた。
バシャ!
その拍子で味噌汁を床にぶちまける。
「…たく、はしゃぎすぎだ」
「あはは…ごめんお父さん…」
「ちゃんと後で拭いといてやるから、早く食え、学校に遅刻するぞ」
「え…」
すでにミオは食事を終え、着替え始めていた。
「うわわ、ちょっと待ってよミオ〜!んぐんぐ…」
勢いよく食事をかきこんだあと、急いで着替えを済まし、
「行ってきま〜す!」
「行ってきます!」
と、二人で仲良く学校に飛び出した。
「おう、気をつけてな〜」



その日の昼休み。
「ふっふふ〜ん、シュビドゥビ〜♪」
と、相も変わらず鼻歌を歌っていると…
ガシャ〜ン!
「!?」
大きな音が聞こえて駆け寄ると、先生が多くの教科書を散乱させていた。
「大丈夫ですか?先生」
「あぁ…済まない。今日は腰の調子が…」
すると散乱した教科書を集め、それを抱えるマイ。
「よいしょ」
そのまま平然とした様子で上の階の教室まで運ぶ。
「いやぁすまんすまん。おかげで助かったよ。それにしてもすごい力だね」
「礼には及ばないですよ。困ってる人はほっとけませんし」
「本当にありがとう」
教室のドアを閉める先生。するとマイは両腕を見て…
「(そんなに力あるかな、私…)」
と、若干ぼやいた。

同時刻、シンオウ地方ミオシティ。
船着場にやってくる、白いワンピースを着た水色のツインテールの女の子。
シズルだ。
「お嬢様、お待ちしておりました」
「私のために、こんな船舶を…本当に、ありがとうございます」
「いえいえ、これもご主人様と、あなた様のためです。この船は、最新鋭のテクノロジーと、硬い装甲で出来ている我が造船所新進気鋭の船です。
 沈没などの心配をせずに、安心かつ快適な海の旅を、お楽しみください」
「はい」
スロープが下ろされ、船へ乗り込むシズル。
「…」
メールを打つ。
「よし、これで大丈夫。待っててね、マイちゃん。今いくよ!」
汽笛を鳴らした船は、ゆっくりと動き始めた。



「それじゃ、私先帰るね」
「うん。買い物が終わったらあたしも家に帰るから、気をつけて帰ってね」
「分かってる。ミオも気をつけてね」
二人は交差点で別れた。
「今日の晩御飯はカレーカレーっと♪」
だが、その時だ。
「…!?」
背中に身も凍るような強い気配を感じる。
「…」
そこには、フードで顔を隠した少女がいた。
「…な、何?」
「…」
しかし少女は何も言わずに、背を向けて歩き始めた。
「…ちょっと、君」
マイが声をかけるが、すでにそこに少女の姿はなかった。
「あれ?」
カァー。カァー。
「…あれ?」

家路を行くマイ。しかしどうも先ほどの少女のことが気になって仕方がない。
「…あの子…何だったんだろう」
と、その時だ。
コロンコロン。
「え?」
足で何かを転がした。
それを拾い上げると、モンスターボールのようなものだった。
「何これ。ボールみたいだけど…」
中にはシュバルゴが入っているようだが、どこを見ても開けるところが見当たらない。
それよりも何よりも気になるのは、モンスターボールに書いてある、「F」の文字だ。
「そのボールは、君に助けを求めているのかもしれないよ」
「ん?」
振り返ると、ラフな姿をした男の姿が。髪は若干ボサボサ気味。
「うら若き女神である、君にね」
「…はぁ?」
キザにウインクまで決める男に、とっさにタメ口が出てしまうマイ。
「ちょっと、何ですか?ナンパなら間に合ってます」
「ナンパじゃない。君の運命に関わる話をしているんだ」
「…」
何やら危険な香りがする。
マイは反射的にダッシュで男から走り去った。
「…誘い方が、まずかったかな」



…一方その頃、セイザ地方近海、アントリア海。
「こちら、2番隊のエアームド。特に変わった様子なし」
パトロールに出ていた男が、通信をしていた。
「こちら、4番隊のウォーグル。こちらも変わった様子なし」
「了解、パトロールを終え、帰還する」
だがその時だ。
「…何だ、あれは!?」
「うん?」
目の前で突然瞳が怪しく光ったと思うと、
ギュイ〜ン!ギュインギュイン!
「…!?」
ドゴ〜〜〜ン!
サイコショックがウォーグルに命中。
「ぐおわぁ〜〜〜〜〜!」
部隊長は海へと落ちていった。
そこにいたのは、まるでシルエットのような真っ白なシンボラーだった。
「ひ、ひいぃ〜〜〜!」
エアームドに乗った男も逃げようとするが…
ギュイ〜〜〜ン!ドゴ〜〜〜ン!
同じように撃墜されてしまった。



「…では、今回の騒ぎも、10年前に解散したロケット団の残党の犯行であると、そう申すのですね」
とある一室で電話をしている、髭を生やした男。
「その通りだが。…まさか君は、あれが進藤という男が言う、{エンプティ}とでも言うのかね?」
「…ですが、近隣海域での被害は多いのは事実。ロケット団がどうしてこの地方を狙うのか、それも明らかにせぬまま、
 一方的に残党の犯行と決め付けるのは、いかがなものでしょうか?」
「では何故君はエンプティというポケモンがここを狙うのか、説明できるのかね?」
「う、そ、それは…」
すると、電話相手の男は大声で笑い、
「何、ポケモンレンジャーを呼べば何とでもなる。君はもう少し肩の力を抜くことから始めればどうかね?」
髭をはやした男は、ふぅと息を吐き、
「…分かりました。警戒を続けます」
電話を切ったあと、男は立ち上がり、壁を殴りつけた。
「危機的状況にも関わらず、話を聞くことすらせんとは、この地方の政府も陳腐になったものだ…
 君の言う通り、破滅の序曲は始まっているのかも知れんな。進藤君」



「ただいま〜…」
家の勝手口から帰ってきたマイ。
あのあと、やたらと気になった少女を探してみたようだが、見つからなかった様子である。
「…あぁ〜もう。気になるなぁ。ミオ〜、お父さ〜ん」
くたびれた様子で部屋の中に入り…
「いやぁ実に美味しい生姜焼きだ。それに君の笑顔も素晴らしい。ごはんあるかな?まだまだ食べられるよ」
「はい!」
そのままヘッドスライディング。
「あ、お姉ちゃんお帰り〜」
「お帰り」
「お帰り…じゃ、ないわよ!」
男を指差す。先ほど出会った男である。
「あれ?君はさっきの」
「君はさっきの。じゃないよ!何人んちに上がり込んで生姜焼き食べてるわけ!?」
「済まないね。腹ペコだったんだ」
頬を膨らませるマイ。だがミオは、
「いいじゃんお姉ちゃん。お腹を減った人から代金を取らないのはお姉ちゃんが前やってたことだよ」
「あ、あれは…また違う意味があるの!」
「それに…」
ミオが目配せすると、男はこくりと頷いた。
「君に用があるんだ。小鳥遊 麻衣さん」
「な、なんで私の名前まで知ってるの…!?」
「そりゃもちろん、僕たちは運命という名の星で結ばれた、理想の」
「あたしが教えたからだよ」
しばらく男が絶句したあと、咳払いをして続ける。
「単刀直入に言うと、君が手に入れたそのモンスターボール…{フュージョンボール}を返して欲しいんだ」
「え?…これ?」
灰色のモンスターボール。これはフュージョンボールと言う物らしい。
「どうして?」
「そのボールを使ってしまった者は、過酷な戦いに身を委ねることとなる。
 君はよく見ると僕が嫌いなようだし、持ってても仕方ないかな。と思ってね」
「過酷な戦い…?よく分かんないわ。とにかくそういうことなら…はい」
あっさりと、ボールを男に渡そうとする。その瞬間男は、ずっこけた。
「は?」
「いや、普通ならここで、「嫌です!私は戦うと決めたから、お渡しできません!」とかいうのがドラマティックじゃないのかな?
 そう、僕が思っただけだよ。気にしないでくれ」
「若干メタ発言っぽいわね。今の」
だがその時だ。
「お野菜〜ベジタボ食べなさ〜い♪ニンジン、トマトにパプリカ〜ン♪」
「あ、ごめん、僕だ」
少しおかしな着信音だが、男の携帯の音らしい。
すると男は至極真面目な顔をして、
「進藤です」
と、冷静な受け答えを始めながら、家を出ていった。
「…?」
顔を見合わせるマイとミオ。
「あの人…結果、何?」
「さぁ…」
すると家の中に戻ってきた男は、血相を変えてこう言った。
「ごちそうさま。ちょっと出る場所が出来てしまったから、僕はこれで失礼するよ」
そのまま猛ダッシュ。
「…?」



セイザ地方、{ホロロジウム軍事センター}。
「浦川先生!」
男がやって来る。先ほど、電話をしていた男が出迎えた。この男は、浦川というらしい。
「戻ったか、進藤君」
目の前のモニターには、真っ白なシンボラーが映っていた。
「あれは…」
「おそらく、君が言っていたエンプティポケモン。まっすぐに、グルースシティへと向かっているらしい。
 まずいな、上陸されては……ポケモンレンジャーはまだか?」
「先程、連絡を送りましたが、政府からの命令がない事により、動けない状況であると!」
「くそ!どこまでこの地方の政府は無能なんだ!」
歯ぎしりする浦川。
「近隣住民に避難指示を。急げ!」
「はっ!」
「残っている人物で、エンプティポケモンに対抗する!」
慌ただしさを増す軍事センター。しかしその時だ。
「浦川先生!これを!」
オペレーターが言うと、そこには巨大な船が映っていた。
しかも、極めて鈍行に船が進んでいる。これはもはや、「狙ってください」と言っているようなものだ。
「民間の船…まずい!あのシンボラーに気づかれては、一巻の終わりだぞ!」

軍事センターから、大量のポケモンが出撃する。その中のひとりに、あの男もいた。
「ホロロジウム軍事センターより、浦川だ。現在アントリア海を民間の船が航行している。
 その船にシンボラーの注意がいかないように、攻撃をするんだ!」
「ラジャー!」
一方その頃、その船に乗っていたのは…
「あれが…セイザ地方」
シズルだ。
「マイちゃん…」
顔を綻ばせるシズル。だがその時だ。
「な、何だあれは!?」
「え?」
船員が言った言葉に反応し、船の窓の外を見ると…
ギュ〜〜〜ン!
ドゴ〜〜〜ン!
「きゃあ!」
サイコショックが船に直撃した。
船は大きく傾く。幸いにも転覆はまぬがれたようだ。
シズルは急いで窓の外を見る。すると…
「あれ…!」
シンボラーが見えた。



「ホロロジウム、危機管理センターより。現在、近海にて謎の巨大なポケモンが来襲。エリダヌス島、アントリア海に、避難指示を発表しました。
 アントリア海、エリダヌス島に、お住まいの方、または航行中の船は、大至急避難をお願いいたします」
巨大なサイレン音。そしてアナウンスが、エリダヌス島にこだました。
「…避難指示!?」
当然、うどんの小鳥遊にも聞こえた。
「アントリア海…」

今日の夜には、そちらの地方に到着するはずです。

手紙の一文を思い出したマイは、はっとした。
「シズルちゃん…!」

TO BE CONTINUED…

バタフライ ( 2013/03/09(土) 15:29 )