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インプット

 四方八方、果てしなく続くスカイブルーの中に私は浮かんでいた。ふと斜め上を眺めると、ひたすらに眩しい何かが宙に輝いている。さすがに見つめ続けることはできず、目を逸らす。それは依然と輝き続けているままだ。あぁ、思い出した。これが太陽だっけ。下を眺めると溢れる深緑が風にそよぐ場所、かと思えば白色、ベージュに、カラフルな三角が上に取り付けられている建物が陽光を反射している場所、それが近くにあれば遠くに望めるものまで。ただ初めて見る景色に圧巻された。ただその世界の広さに圧巻された。

 向こうから鳥の群れが飛んでくる。彼らは…… ピジョンだ。初めて見る話し相手に意気揚々と、私は彼らの群れの傍らへと移動して同じスピード、方向を進みながら彼らに話しかけた。

 ――こんにちは。私はミュウ、貴方たちの名前は? ねぇ。気づいてる? 気づいてたら誰か返事して? ねぇってば。



「あの人間達の町の先の森で一度休憩しよう」

「賛成」

「もう一息だな。スピード上げるぞ」

「おう」

 彼らはそう話し合う。言葉通りスピードを上げる彼ら。私は呆然と速度を落とす。誰も私に気づくことはなかった。その事実だけがただ、心に鈍い音を轟かせた。

 ピジョンの彼らは忙しかっただけで話せなかったに違いない――

 私は他のみんなにも話しかけた。きっと誰かと話せる。確証の一欠片もないその理論を信じて。

 ――こんにちは。私のこと分かる? 聞こえてる? もしかして…… 分からない……?

 ピカチュウ、サンド、ナゾノクサ、マンキー、人間。とにかく目に入ったみんなに話しかけた。



 彼らの言葉は分かった。分かったのだけれど……

 やはり、誰も私に気づくことはなかった。



 No.151 ミュウ
 そのナンバーは存在しません










 ――お願い! お願いだから誰か私に気づいてッ! 誰でもいい! 聞こえるポケモンはいないの!? 聞こえる人間は!?

 私は涙を湛えながら、半ば狂乱しながら叫んだ。ひたすらに飛んでは叫ぶ。誰も気づく者はいない。誰も振り返る者はいない。

 時は過ぎ、陽が傾く。橙の強まる空の下で私はついに止まった。もう叫ぶ気力も、飛び回る気力もなかった。心に隙間風が吹くような感覚。涙が止まらない。最後のあがきか、そういうもので声をあげて泣く。周囲には誰も居ない。



 私はポケモンだ。その概念は気づいた時から脳に焼き付いているように覚えている。何の理由もなく、そう感じる。でも私は他のポケモンのように他人に話すこともできないし、他人に知覚もされない。結局自分は何者なのだろう。

 それに信じられなかった。いや、信じたくなかった。みんなの言葉は分かるのに、話しかけても誰も気づいてくれない。私は誰からも気づかれない存在だなんて。誰とも繋がることができない私はどうすればいいのだろう。






 ほどなく空は暗い藍に染まり、三日月が真上から照らし始める。私はただ、茫然と夜の空を浮かんでいた。泣き疲れ、考えるのも嫌になった。

 これからが不安で不安で仕方なかった。とにかく漠然とした不安。自分でもよく分からない自分の気持ち。

 ただ、その気持ちの分析も疲れと眠気には勝てなかった。その日、私は藍の空に包まれて静かに眠った。

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■筆者メッセージ
 ひとつ注釈を加えなければならない。
 水は、涙は地面に落ちるとやがてそこに染み渡る。だが、彼女が流した涙は地面を濡らさなかった。それはまるで、地面のその下まで落ちていくようで。
 それは、彼女が見ている世界すべてが幻のような。はたまた彼女の存在自体が幻のような――
やふ ( 2018/02/12(月) 13:19 )