動き出す物語-1(ポケダン4作品ネタバレあり 読み飛ばしても物語は追えると思われます)
この回では「超ポケモン不思議のダンジョン」までの4作品のラストのネタバレが含まれます。実際そこまで重要な情報ではないので、苦手な方は後半まで読み飛ばしてくださると助かります。
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さて、俺は今、フタチマルのレンテと近くの街に向かっている。ついさっき、森の小道へと合流した。笑ってしまうことに、俺はスタート地点から目いっぱい小道とは逆の方向に移動していたらしい。あれじゃ一生、街なんかには辿り着けなかったろう。
最初は他愛のない話をした。レンテの好きなものはブリーの実らしい。甘さと渋みのバランスが良いとかなんとか。俺はとりあえずスイカと答えたら、「スイカって何!?」と解説を迫られた。この世界にはスイカとかの果物もないのか。コンチクショウ。肉はなさそうだけどその他までほとんどないのかよ。ちょっと泣ける。
そして、レンテは小道を歩きながら、こう聞いた。
「ところでさ、アスハの世界はどんな感じの世界?」
「あ? 俺の世界?」
「うん。ニンゲンの世界のこと」
「そうだな……」
俺は最初に話すべきことは何かを考える。うん、まずはポケモンの認識からだな。
「えぇとな。ニンゲンの世界ではポケモンはあるゲームの中のキャラクターだ」
「きゃらくたー、って何?」
まずそこからか、と俺は思う。ところどころ使われてない言葉があるってことなのか。コンピューターとか、ITとか、確実に使われてないだろうな。正直、この世界にあるイメージがない。
「ゲームの…… 物語の登場人物って言えば分かるか? 多分こっちの世界でも昔話ってのはあるだろ」
「昔話はあるよ。でもゲームの登場人物って。ゲームって、じゃんけんとか表裏あてとかでどうやって物語があるのさ」
「んーと。予想だけど、ニンゲンの世界の水準は、この世界をかなり上回ってると思う。あっちの世界では、機械って分かるか? えぇと。物語を追体験して遊ぶための機械みたいなのがあるんだよ。その機械で出来る色々な遊びもゲームと言う」
とりあえず、こんな感じだろうか。ゲームの説明って難しい。おそらくVR技術みたいなものと語弊が出るけど、許せレンテ。
「機械。おとぎ話と一緒だ。ニンゲンはワザは使えないけど機械など色々な技術を作れるっておとぎ話があるの。まあとにかく体験型の小説みたいのがあるということだね。了解」
レンテはそう返す。なるほど。的を得たおとぎ話だ。ギリギリ機械についてはこの世界にはないけど存在は知っているということかな。それにしても小説はあるのか。
えぇと。本家の方のポケモンの話は…… 止めておこうと静かに俺は考える。俺たちを捕まえるゲームとか、流石に言うのは倫理的にためらわれるね。やや外道だ。そうだ。ポケダンについて話そう。俺は話を続ける。
「それでさ。ポケモンが登場する体験型小説っていうのは、ニンゲンがポケモンになって世界を救う、って話なんだけどさ。ポケモンの世界に俺が来たっていうこのパターン、そっくりなんだよね」
「え?」
レンテは驚きの表情を浮かべる。そして彼女は真剣な様子でこう続けた。
「ちょっとごめん。その物語のあらすじに関して詳しく」
「え? うーんと。主人公がレックウザに頼んで隕石から世界を守ったり、暴走したディアルガを止めて時間が止まる災害から世界を守ったり?」
「その主人公たちの名前は?」
「えぇと。名前は、そのゲームのやる人にお任せだけど」
レンテは急に足を止めた。どうしたんだ急に、と彼女の方を見ると、彼女の表情はまるで聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような深刻なものであった。直後、彼女はこう呟く。
「……同じだ」
「……同じ?」
「主人公の名前はともかくその二つの話、どっちも昔話にそっくりなんだよ」
は? 昔話にそっくり? これは問わずにはいられない。
「その昔話、詳しく」
「うん。これはおよそ四百年前の話と言われてる。この時期に四つの災厄と英雄の伝説が固まっているの。その英雄はみんな元人間と言われている」
四つの伝説―― 救助隊、探検隊、マグナゲート、超。確かにこの事実は重なっている。まさか。内容は。
「一つ目に風の大陸の伝説。この時、風の大陸にめがけて隕石が落ちてきたの。ここでミズゴロウのシグレとチコリータのリナリヤを初めとした、救助隊トニトルスのチームが天空の塔のレックウザへ隕石を壊してほしいと知らせに行ったの。あと数分遅かったらおそらく風の大陸は壊滅だったらしい。で、その内のシグレが元々ニンゲンだったという話」
完全に一致しているじゃないか。英雄の名前やチーム名は微塵も知らないものだが、ポケダンの救助隊の終盤の内容に思い切り一致している。
「二つ目に草の大陸の伝説。ヒノアラシのフレンとナエトルのリンドを初めとした探検隊シュタイフェ。彼らはディアルガの暴走を抑えて、狂いかけた時を直した。フレンは元々ニンゲンだったという話」
まただ。探検隊シリーズの終盤のシナリオに同じ。
「三つ目に霧の大陸の伝説。ツタージャのライムとキバゴのミハルの探検隊イナビカリ。彼らは負の感情によって生まれた物質を壊し、負の感情の氾濫を抑えた。そしてライムもまた、ニンゲンだった」
レンテはさらに続ける。
「最後に水の大陸の伝説。ミズゴロウのオボロとリオルのナユタの調査団の2人は、溢れた負の感情の力を、受け入れることでこの世界から守った。そのオボロがこの世界に最後に現れたニンゲン」
なるほど。この昔話で確信が付く。俺はやっぱりポケダンの世界に飛ばされたんだ。ここは誰かのポケダンの世界。そして、本編から、未来のポケダンの世界。
「……フフフッ」
「え? 何?」
笑ってしまう。いいじゃないか。誰かの世界だろうと関係ない。せっかくポケダンの世界まで来たんだ。この世界で、俺は――
「俺は…… この世界のすべてを回りたい。伝説の探検家になってみたい」
「随分と突然だね。少し気味が悪かったよ?」
「それは悪かった。この世界に来れたことが、純粋に嬉しいんだ」
レンテは少しの間、不思議そうなな顔をしていたが、直後こう言った。
「まあ、私もそう聞けて嬉しいよ。私の夢も同じなんだ。一流の冒険家になって、世界のいろいろな場所を回りたい。ダンジョンの冒険は確かに危険だけどね」
レンテはまた歩き出しながら、朗らかに答える。しかし、少しの沈黙の後、彼女は真剣な口調でこう語る。
「でもね、これだけは言わないといけない。アスハと私は、きっと世界を賭けた戦いに巻き込まれる」
俺は自分の心を何か、冷たい物で撫でられるような感覚を覚えた。