あくる日の夜の回想-1
「ふぅ…… 今日は堪えるな」
「えぇ。寒いですよねー」
とある海岸沿いの森。ぽつぽつと見え始めた星々と薄くオレンジがかった地平。黄昏の下に焚火を囲むルクシオとツタージャの姿があった。
「ネジュ、今日は早く寝ないの? いつも陽が落ちるときにすぐ寝ちゃうだろ?」
「いや、今日は少し夜更かしですねー 目がさえてるんです。世界の命運を分ける戦いですしプレッシャーですかね」
ルクシオはツタージャに疑問を投げかける。その問いに、ツタージャは朗らかに答えると、静かな微笑を湛えながら視線を下に逸らし、付け足す。
「それに……」
「それに?」
「もしかしたら、ゆっくりと話せるの最後かもしれないと思っちゃうんですよね。その…… 伝説でも元人間の方々って、戦いの後に一度消えてしまうらしいじゃないですか。もしかしたら僕らは戦いが終わったら…… って」
「それは…… 俺も思う」
しばらくの沈黙の間を一陣の寒風が通り過ぎる。
「おいおい、辛気臭い話すんなって。いつものリーダーとネジュらしくないぞ」
沈黙を破ったのは後ろから現れるリオルであった。そのリオルの足の近くには何か透き通ったジェルのようなものが広がっているように見える。
「辛気臭い話してると本当にそうなっちまうかもしれないだろ? マイナス思考でいい結果は生まないって」
「…… そうですよね。申し訳ない」
「いや、謝らなくてもいいけどさ」
リオルはそう断った後、続ける。
「それよりもさ。リーダーのこれまでのことでも聞いた方が断然いい。決戦前にみんなの事情知って結束強くした方がいいって! だからさアスハ、頼むよ。最後かもしれないだろ?」
「おおっ、僕もアスハさんのこれまでのこと、聞きたいです。そういえば聞いてませんでしたよねー」
「………… まあ仕方ないなぁ…… 英雄談でもないし、どうせつまらない話だけど……」
二匹が期待する中、ルクシオは静かに始まりを語りだす。
夜はまだ、始まったばかりだ