トラックトリップ
ゴトン、ゴトン…
「あれ、ここは……倉庫?」
恐らく気絶していたのだろうが、今いるところが裕太には分からない。先程までは自宅の部屋でゲームをしていたはずなのだが、どうしたものだ?
「それにしても動く倉庫なんておかしいし……トラックか。荷物と一緒に運ばれている?」
周りには大きめの段ボールが沢山積まれている。それに少ないがタンスなどの家具も置かれている。
「連れ去られたのか?でも不自然だな、第一理由もない」
ただの大学生である裕太を誘拐なんてしても得るものなんて少ないし、恨まれているようなことも思い付かない。
しばらくすると、トラックが止まる。そして、ドアの部分が開かれて明るい日光が目に刺さる。
「ここから出ればいいのか?」
俺は他にどうしようもないのでそこから出てみることにする。
「ユウタお疲れ様!長い間トラックに揺られて大変だったでしょ?ここがミシロタウンよ!どう?これが私たちの新しいおうち!ちょっと古風な感じで住みやすそうな所でしょ?今度はユウタのお部屋もあるのよ!さぁなかに入りましょ!」
トラックから出たらいきなりふんわりとした髪をまとった綺麗な女性が現れてペラペラと俺に話しかけてくる。
……これは恐らくそういうことだ。いきなりのことで混乱するが、ある程度理解できる。
つまり俺はゲームのなかに入ってしまったみたいだ。それ以外は考えられない。
俺は恐らく今後母親となる女性に連れられてすこし小さめと思える家のなかに入る。
「ほら、ユウタ。お家のなかもステキでしょ?」
「そうだね、気に入ったよ」
俺は母親に合わせておく。ゲームでは確か喋ることは主人公は無かったけれども、こんなリアルな状況で返事しないのはおかしい。
「でしょでしょ!やっぱり移ってきて良かったみたいね!」
母親も喜色を浮かべている。ゲームのキャラとはいえ、嬉しいまのだ。……いや、これはゲームとは思わない方がいいだろう。そのような考えだと態度に出てしまいそうだ。側にいる女性はまちがいなく本物だ。真剣に対応しないと失礼だ。
「お家の片付けは引っ越し屋さんのポケモンが手伝ってくれるから楽チンよ!ユウタも二階の自分のお部屋に行ってごらん!パパが引っ越しのお祝いに買ってくれた時計があるから時間を合わせておきなさいよ」
時間か、止まっていなければ良いけどな。確かゲームでは電池切れで使われてなかったはずだ。
引っ越し屋さんのゴーリキーが働いているのを見ながら俺は階段を昇る。割りと急だったので体かすこし火照る。
「部屋でかすぎじゃね?」
部屋につくと一階のリビングくらい広い。俺の元の部屋の二倍はある。
「時計が……どうやら普通に動いているみたいだな。よかったよ」
俺が手元の腕時計と同じ時間に設定を終えると母親が部屋に入ってくる。
「ユウタ、どう新しい部屋は?綺麗に片付いてるわね!下も片付いたわ、ポケモンがいると暮らしが楽ね!あっ、机の上のものも大丈夫か見ておいてね?」
いうこといって母は出ていく。うーん、やっぱりテンプレートの台詞しか出ていないような気がするのは気のせいじゃないみたいだな。こう、決まったことしか言っていないような……
「まぁいいか。普通に喋れるみたいだしな。」
モヤモヤとした気持ちは置いておいて、俺は机の上のものをチェックする。
そこにはノートがあり、多少乱雑な字で探険の心得と言うものが書いてあった。
それはメニューとレポートに関する言及だった。
ぶっちゃけた話、レポートなんてただのセーブの代用で書かなくても今の俺は問題はないと思う。ただのゲームの名残として考えておいて、このノートについてはなかったことにしておく。だいたいレポートなんて三秒でかけるわけないだろうが。
ノートは無視して隣のパソコンについて調べてみる。これは日本でいえばかなり古い型
だと思う。早速スイッチを入れて起動する。
デスクトップには三つの表示がある。その中にあった道具預かりを選択する。
「これは……いくらなんでも」
そこにあったのは
不思議な飴×99
不思議な飴×99
不思議な飴×99
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金の玉×99
金の玉×99
金の玉×99
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・
「いやいや、チート過ぎるだろこれ……」
昔データの改造を行った為に残されていた遺産だ。あまりの量に気圧されている。
「アイテムでこれならポケモンはどうなるんだろう……恐いな」
これを使うと何だか大変なことになりそうなので自重しようと決意する。今後どうなるか俺にも分からないのだ。目立つ行動は止めよう。
それに、年甲斐もなくワクワクしているのだ。なんせポケモンなんて不思議生物がいる世界だ。ここからチャンピオンへの道がある意味約束されているようなものだ。正攻法で攻めて見たいという気持ちもあるのだ。
そんな浮かれた気持ちで一階へと降りる。すると、母親がテレビの前で俺を呼び寄せる。
何だろうとテレビを覗き込む。
「パパのジムのインタビューよ!パパが出るかも知れないわ……あらら、終わっちゃった。残念ね」
そうか、確か父はジムリーダーだったな。カッコいいパパというやつだ、はやく本物を見に行きたいな。
「……あっそうそう!この町にはオダマキ博士っていうパパのお友達がいるの。お隣さんだからきちんと挨拶して来るといいわ」
といって母は席につく。博士か、日本では大学でよく見かけたがここでの博士はどんな人物なんだろうな。
ちょっとした期待を胸に俺は家を後にした。