第4話 アラン・ノゼル・ベリーワークス
「……で?オケアノは知り合いなの?」
カルロスが頬杖をつきながら問い掛けてくる。
よっぽどアランが気に入らないみたいだ。
「あ、ああ…いつだか、命を狙われたがな」
「やっぱり今殺しておくべきだ!」カルロスが目の色を変え、アランに突っ掛かる。
俺は必死に食い止めた。
…あれ?逆になってないか?
「落ち着けっつーの!お前は暫くテントの中に居ろ!そんで頭冷やしてこい!」
「…悪ぃな」
俺はカルロスをテントの中に叩きこみ、アランの元へ戻った。
「いや…オケアノが謝る事じゃない。アイツが悪いんだ」
「はぁ……」溜め息をつき、顔を覆う。
しかし、こんなにも反りが合わないモンなんだな。
「で、一体何しに来たんだ」
「別に。たまたまオケアノを見掛けたから」
「なら、もっと穏便な呼び掛けをしろ」
アランは「フン」と鼻で笑った。
青い瞳が、ネオン達に移る。
「あれ…オケアノがつるんでる仲間か?」
「もっと別な言い方はねぇのか…あながち間違いじゃねぇが」
「成程」
アランは納得したような、しないような声で返した。
「それはそうと…お前の事が良く掴めねぇんだが…」
「…オケアノは知らなくて良い」
そう言うなり、
踵を返して
どこかへ去ってしまった。
「全く……」
「そら、もう消えたぞ」
カルロスをテントから引っ張り出し、目を覚まさせた。
「オケアノ、あいつは誰なんだ?」と、リギギ・ラグガ。
「あいつは…アラン・ノゼル・ベリーワークス。殺し屋っつーのか…所謂”暗殺者”だ」
あいつと出会ったのは、2年程前だ。
俺は当時、"南の大陸"の北半分を占める"ザハド砂漠”で戦っていた。
日差しは強い、砂嵐が酷い…
最悪すぎる環境下でだ。
敵は現地の軍で、地理に富んでいた。だが、俺の所属していた軍は奮戦し、戦いは2週間に及んだ。
そして、3週間目に突入しようとしていたその日の夜…
「っくしッ!」
あちこちで、兵士のくしゃみが聞こえる。
砂漠の夜は寒い。
日中の暑さとは裏腹に、夜になると途端に冷え込む。
俺は”傭兵”と言うだけで陣地の見張りをさせられている。
まあ、夜に襲ってくる奴なんか居ないだろう…
そう思っていた。
「……!?」
右隣を一瞥すると、さっきまで一緒に見張りをしていた兵士の姿が無かった。
次いで左隣を一瞥すると、またも兵士が消えていた。
俺は剣を抜き、辺りを見回す。
しかし、兵士達を殺ったであろう影はどこにも無い。
俺は別の見張り場所へ走った。
砂の音と、火の爆ぜる音。
俺の耳に入ってくるのはそれだけだった。
「な……誰も居ねぇ…!?」
俺は唖然としてしまった。
悲鳴すら聞こえず、ましてや兵士達が武器を落とした痕跡も無い。
暫く理解に時間が掛かったが、兵士達は全て殺されてしまった…次に狙うのは俺だろう――。
目を閉じ、静かに呼吸を整える。
「―――――ハッ!!」
ガキィィィン!
「やっぱりな…そうすると思ったぜ」
剣を振り、斬撃を受け止めた。
そいつの持っているモノ――刀だった。
黒いマスクと黒い装束、そして青い瞳。
格好からして、俺は確信した。
「お前…暗殺者か」
「答えた所でどうなる。お前の命が狙われている事には変わりないんだぞ」
「知るかそんな事。それに…”逆”かも知れねぇぜ」
そいつは後ろを振り向く。
俺達の周りを、兵士達が囲んでいた。
「さて、どうする。暗殺者」
「…次は仕留める…」
そう囁いて、そいつは風のように去った。
兵士達が矢を射ったり、槍を投げるがまるで追い付かない。
「クソッ…追え!奴を逃がすな!」
「急げ!奴は敵の間者――スパイ――かもしれないぞ!」
上官だの部隊長だのが喚く。
俺はただただ、あいつの去った後を見つめていた。
「――っつー訳だ」
話し終えると、間髪を入れずネオンが質問してきた。
「オケアノ君、その後は一体……」
「アランはその一件以来、俺を追っていたらしいが……俺も各地を転々としてたから
見付けられなかったんだろう」
「それで、ここで追い付いたって訳か」と、リギギ・ラグガ。
俺は頷く。
「あいつ…またどこかで会うだろうぜ」
「何でだ?」
「俺が思うにだが…一度会った相手と再び会うってのは、”縁”あっての事だと思う。よっぽどの関わりが無けりゃそれは単なる”邂逅”にしか過ぎねぇ」
淡々と話し続けるリギギ・ラグガ。
「だから――オケアノ、お前が出会う奴らは全て”縁”がある。俺やカルロス、ネオン、ノトス
もそうだろう」
つまり、と俺は思った。
アラン・ノゼル・ベリーワークス……あいつもまた、曰く付きなんだろう、と。