第3話 殺し屋
翌朝、俺達は暫くこの場所に留まる事にした。
カルロスやらネオンやらが「歩きたくない」とほざくモンだから…
「いや〜しかし…ここは気持ち良いねぇ」
「本当ですねぇ…戦乱の世の中に居るって事を忘れてしまいそうですよ」
それ、どこかでも聞いた気がするが…
「それはそうと…ノトスは戦った事あるよね?」
カルロスが不意に声を掛けた。
ノトスは背筋をピンと張り、おどおどした声で答えた。
「え、ええと…その…あると言えば、ある…かもしれません…」
「結局無いんだな?」と、リギギ・ラグガ。
「ひゃいぃぃ!?」
変な声を上げるノトス。
「そう言う事なら、訓練をしなくてはなりませんね」
幸い近くに木があったから、訓練用の木剣や槍を作るのには困らなかった。
俺達は木を伐り、ありったけの訓練用武器を作製した。
「さぁて、こんだけありゃ大丈夫だろ」
「えっと……今から何を……」
「訓練だって言ってるだろ」
「く、訓練……」
ノトスは驚きの表情を隠せずにいた。
「大丈夫だって。木の剣なんだから」
カルロスが宥めるが、ノトスはそれに応じない。
「そんじゃ、始めるぜ」
「良いかノトス。剣はただ振れば良いってモンじゃない事を覚えておけ」
「は…はい…」
まず、ノトスには基本的な剣の使い方を教える事にした。
講師は満場一致で俺。
「まず、構え方からだ。今回は剣と盾にするが、これから先お前のスタイルに合った
戦法にしていくぜ」
「良し、今回はここまでだ。中々覚えが良いな」
2時間に渡る訓練の末、ノトスは基本的な剣の使い方を覚えた。
俺自身はうまく教えられたか不安だが…
「次はカルロスだ。行ってこい」
「は、はい…」
「さて、今度は僕が槍の扱い方を教えよう」
「お、お願いします…」
その後、カルロスは俺と同じように2時間みっちり槍の使い方を叩き込んだ。
「さて、次はネオンだよ」
「僕が使っているのは、突く事に重点を置いた細剣です。今回はこれをうまく使えるように
しましょう」
「よ、よろしくお願いします…」
大分ノトスは息が上がっている。
それでも、諦めの色を一つも見せない。
そしてまた2時間…
「それじゃあ、今回はここまで」
「あ、ありがとう…ございます」
合計6時間の訓練…と言うか授業みたいなものは終了した。
「お疲れ様。良く頑張ったね」
「い、いえ…」
ノトスは、息を切らしながら、照れくさそうに返す。
「ノトス…お前の個人的な意見を聞かせてくれるか?」
「え、ええ…僕は、今のところは剣が合っていると思います…」
「そうか。そんじゃ、次は体力作りとその根暗な声を直す訓練だな」
俺がそう言うと、カルロスとネオンは笑った。
ノトスも顔を少し赤らめて、静かに笑っていた。
昼時。
俺達は各自で昼食を摂っていた。
このまま何も無く終わるかと思った矢先…
シュッ!風を切る音がしたかと思う間も無く、地面に矢が深く突き刺さっていた。
矢の刺さり方から、俺は位置を察した。
「…出てこい。今なら命だけは見逃してやるぜ」
「やっぱり……流石オケアノって訳か」
そう言って現れたのは、どこか見覚えのある奴だった。
黒いマスク、黒い装束、青い瞳――
「テメェは……アランか」
「御名答」
「何があったの…って、誰!?」
カルロス達がやってきた。
アランは一歩踏み出し、名乗った。
「私は”アラン・ノゼル・ベリーワークス”。アランと呼んでくれても構わない。で、
あんたは何て名前?」
その態度にムッと来たのか、カルロスは少しキレ気味にアランに詰め寄った。
「そう…アランって言うんだ。君、見た感じ女の子だよね」
「そうだけど」
「なら、もっと慎ましくしてくれないかな。図々しいよ?」
これまたカチンと来たのか、アランが声を大にして返す。
「図々しいだって?あんたこそ図々しいんじゃないのか?女子を前にして、もっと紳士的な態度を取れないのか?」
「紳士的な態度?言っとくけど、僕は傭兵だよ。傭兵がそんな態度取れるとでも思ってんの?」
この二人、まるで気が合わない。
「はぁ?知らないな、そんな事。あんたが傭兵だろうがなんだろうが、もっと丁寧に接する事が
出来ないのか?」
「僕は元から女の子になんて興味ないし、紳士なんてのが居るのかする知らないね」
アランはとうとうブチ切れたのか、背中に納めていた”刀”を抜いた。
「あんた…本気で私を怒らせたみたいだな……」
「へぇ…僕とやろうって訳。いくら女の子でも、そんな態度取るなら容赦しないよ?」
横で見ていた俺は耐えきれず、二人の首筋に剣を当てた。
「なぁテメェら…抹消されたいのか?くだらねぇ事で斬り合うようなら、あの世で斬り合う事だな」
カルロスの冷や汗が刀身に落ちるのが分かった。
「わ…分かったよ」
「なら良し…で、アラン…テメェは」
「あ…あぁ…死にたく、ない……やめて…!」
俺は目を疑った。
あんな強気だった奴が…突然泣き出した…!?
俺は理解に苦しむまま、首筋から剣を遠ざけた。