第1話 ぶっきらぼうで、頑張り屋
歩き続けて相当な時間が経った。
気が付けば、日が地平線に沈もうとしていた。
東の空がうっすら紫色に染まっている。
「ここでテントを張るか…」
周りには何もない。
見渡せば、湖や山が見えるが…
まぁつまり、平原に居るって事だ。
俺達はせっせとテントを張り、火を焚いた。
…いつだかもおんなじ事してた気が…
辺りはすっかり暗くなり、満月がこうこうと輝いていた。
お陰で、ランプを灯す手間が省けた。
「見張りは俺が務める。だから、ゆっくり休んでてくれ」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
俺はテントの外で、ただボーッとしていた。
見張りと言っておきながら。
「…………」
口をポカンと開け、遠くを見つめていた。
別に、凄いものを発見したとかでは無い。誰だってこうなる筈だ。
ただ…そのせいで、後ろにあいつが居る事に気付かなかった。
「オ・ケ・ア・ノ!」
「っふぅあッ!?」
ボーッとしていた事もあって、変な声が出てしまった。
「カ、カルロスか……ってか抱き付くなッ!」
「良いじゃん。誰も見てないんだし」
「良かねぇよバカ!」
カルロスは「ちぇっ」と溢した後、俺を捕らえていた腕をほどき、
俺の横に座った。
「…ってか、一体何しに来たんだよ」
カルロスは微笑むと、こう言ってきた。
「オケアノの昔話を聞きに」
「ふざけんな!何で古傷を抉るような」
「話せる範囲、で。ね?良いでしょ?」
カルロスは笑顔を見せて来た。この笑顔の奥に、少し腹黒さを見た気がした。
俺は頭をガシガシ掻きながら、話し始めた。
……俺の記憶の許す限りだぜ。
−−記憶では−−俺がま傭兵になりたてだった頃、ある戦場でそいつを見た。
種族は…そうだな、クイタランだったか。
同じ陣営で戦ってたんだが、あまり気にはしてなかった。戦功もずば抜けていた訳でも無かったからな。
戦いは結局勝った。
その帰りの事だ。
そのクイタランは、俺に声をかけて来たんだ――
「ふーう……こっからどうっすかなぁ…」
俺は一人、ぶつくさ言いながら歩いていた。
行く宛なんて無かった。
まぁどうせ、明日をも知れぬ傭兵稼業だ。
適当に歩いてりゃ依頼が舞い込む。
「おいお前」
「あん?」
確かこいつ…おんなじ陣営で戦ってた…
「最近有名になってるオケアノだな?」
「有名…?知らねぇが、オケアノは俺だ。何か用か?」
さっきから、こいつの言動に愛想がねぇ。
「いや…何でもない、じゃあな」
「はぁ…?」
俺は訳が分からなかった。
突然声を掛けられ、挙げ句は何の用で来たのか言わずにどこかへ去ってしまった。
結局俺は、疑念を抱きながら再び歩き始めた。
「……これが出会いだ。訳分からねぇだろ?」
カルロスはコクリと頷いた。
「その後、何回か戦場で会った。で、終わった後同じようなやり取りが何回も続いた。だが、ある日…」
「ふぅん…?」
いつものように、戦いが終わった後あいつは声を掛けてきた。
無愛想な言動、戦場での働きよう…
色々気になっていた俺は、思いきってあいつに投げ掛けてみた。
「なぁ、ちょっと待ってくれ」
「……」
俺が引き止めると、無言で俺を振り向いた。
「お前は何が目的なんだ?話があるなら、聞いてやらねぇ事もねぇが」
「…話なんかない。ただ確認しただけだ」
「ならお前は、何で何回も確認したんだ?」
すると、返す言葉に詰まったのか何も言わなくなった。
俺は小さく溜め息をついた。
「……やっぱりあるんだろ」
「………ああ………」
「分かった…ちょうど暇だしな」
俺は野営を予定している場所に連れていき、火を焚いた。
あんなやり取りをしている内に、夕暮れになっていたんだ。
「……そう言えば、名前聞いてなかったな。なんつーんだ?」
「…ロッソ・エキャルラット…『不遇のロッソ』だ。ロッソとでも呼べ」
俺はそれを聞いて、思い出した。
「ああ…町だの戦場だので噂になってるのは、お前の事だったのか」
ロッソはフッと微笑する。
「お前も、他人の事言えないぞ。『双剣のオケアノ』。珍しい戦法をとるんだってな」
「まぁそうだろうな」
この世界での『双剣』と言うのは、利き手に細剣を持ち、逆の手に短剣を持つ事を言う。
だが俺の『双剣』は、長剣を両手に持つ事。
これは、『東洋』で使われる戦法なんだとか。
そんな事まるで気にしなかったが…
「で…話ってのは何だ?」
話を元に戻し、空気を変える。
「…お前は…何で傭兵をやってるんだ?」
初めてだった。
そんな事を聞いてくる奴は。
普通の傭兵なら、何で強いんだとか、金はどうしてるんだとか、どうでも良いような事ばっかり聞いてくる。
だがこいつは違った。
「何で…?じゃあ逆に聞くが、お前こそ何で傭兵をやってるんだ?」
「俺は…『生きる為』さ」
俺は耳を疑った。