第6話 ノトス
僕はある村で生まれました。
家は貧乏で、辛い生活を送っていましたが…僕にはお父さんとお母さんが居たので、
それなりに幸せでした。
ですが…やはり生活は困難になっていき、作物を耕して売り出しても収入が得られずじまいで…
そんな時、”傭兵”という職業を耳にしたんです。
僕は傭兵になる事を決意しました。けれども…お父さんとお母さんは猛烈に反対しました。
無理もありません。何せ…戦争に行くんですから。
それでも僕は反対を押しきって、家を飛び出して傭兵になりました。
……初めて戦争へ行った時、僕は足がすくんでしまい、戦う事が出来ませんでした。
大勢の人が手足を斬られたり、死んでいるのに剣や槍をひっきりなしに刺している人…
血を出し、悲鳴を上げながら死んでいく人…
僕は怖くて怖くてたまりませんでした。
すぐに逃げ、力の限り走りました。どこか遠くへ…
そして僕は、意識も絶え絶えの中傭兵狩りに捕まってしまい、重労働をさせられました。
朝5時から夜の12時まで、ずっと……
休む事が許されず、少しでも音を上げれば拷問にかけられ…
そこまで話すと、イーブイは顔を俯けて身を震わせた。
相当のトラウマになっているようだ。
傭兵狩り……
一体何が目的なんだ……
暫くすると、イーブイは話を再開した。
…最悪の場合、殺される事もありました。
しかも、その殺害は他の人達の目の前で行われ、とても口では表せない残虐な殺され方でした…
僕は音を上げずに、頑張りました。
ですが…ある日気を緩めてしまい、それが監視員にバレてしまいました。
直ぐに拷問にかけられ、死の直前まで追い込まれました…
今でも、拷問にかけられていた時間や器具、場所なども鮮明に覚えています。
そして拷問が終わった後、僕は逃げ出しました。
朦朧とし、足取りもおぼつきませんでしたが…僕はただ、恐怖から解放される為だけに
ここまで逃げてきました。
「そうか……大変だったな…。」
「許せねぇぜ…傭兵狩りの事は聞いていたが、まさかここまで腐ってやがったとは…」
リギギ・ラグガが、歯ぎしりしながら溢す。
ぐうの音が聞こえる位、リギギ・ラグガはキレている。
だが…俺はそれ以上だ。
「腐れ外道共が……出会したら細切れにしてやるッ……!」
数分後、少し気持ちが落ち着いた俺はイーブイに名前を聞く事にした。
「そう言やお前、名前はなんつーんだ?」
「は、はい…ノトスです。」
「ノトス…風の神様の名前なんだね。」
カルロスが呟く。
「そうか…覚えとく。」
「それで…どうするんですか?まだ子供ですし…野放しには出来ないですよ。」
ネオンが俺に囁いた。
…どうするか考えてなかった…
「…ノトス、お前はどうしたいんだ?一応俺らに借りが出来てるが…」
「ええっと………」
すると、カルロスがこんな提案をした。
「じゃあさ…僕らに付いて来る?行く宛ないんでしょう?」
ノトスはそれを聞くと、不安な表情を浮かべた。
「そ、そんな…僕みたいな子供が……足手まといなのでは……」
「大丈夫だってば。僕達は君を死なせないし、君を守る為なら死ぬ覚悟は出来てる。」
「おい、何さらっとトンデモナイ発言してんだカルロス。」
リギギ・ラグガがつっこむ。
「確かにその子供の命も重要だが…俺達が本当に命を賭けるのはオケアノだろう?」
「いいや、ノトスの方が重要だい。」
「違う。オケアノだ。」
「ノトス。」
「オケアノだ。」
こんな感じの押し問答が始まった。
俺の命なんかどうでも良い気がするけどな…
「ああもう五月蝿ぇな!テメーらガキか!」
結果、俺達は新たにノトスを加え、カルロスの仲間探しを再開した。
――仲間を見つけたら、俺とネオン、リギギ・ラグガ、そしてノトスはどうしたら
良いんだろうか?
まぁ…ノトスの世話はネオンに任せるだろうし、俺はリギギ・ラグガとまた
どこかへぶらぶら歩いていき、夢を成し遂げずに死んじまうんだろうな…
俺は今更ながら、後先の事を考える。