第4話 感情
確か今日は5月20日。
ごく普通、なんて言えない。
何せ、俺達がぐーたらしてるこの時も、この広い世界のどこかで戦争が起きてるだろうからな。
人が何万と死ぬんだ。
普通なんて言葉はどこへ行っても通用しないだろう。
「随分長い事留まっちまったな…そろそろ行こう。」
「そう?まだここに居たかったけどなぁ…」
カルロスが溢す。
俺達が立ち上がろうとすると、リギギ・ラグガはこう言ってきた。
「そう言えば、最近”傭兵狩り”っつーのが増えてるらしいぞ。」
「傭兵狩り…?何だそりゃ…」
「傭兵を狩って、奴隷にしたりするらしい。場合によっちゃ、軍に死ぬまで戦場で戦わされたりとか何とか…俺も良くは知らないな。」
傭兵狩り、か……
襲って来たらブッ殺せば済む話だ。
「俺達なら心配なさそうだが…」と、最後に付け加えた。
風がビュウッ、と吹いた。
木の葉がざわめく。
「取り敢えず、これからは気を付けて行こうって事だよね?」と、カルロス。
「ああ」と、リギギ・ラグガ。
「…………」
俺達は新たな仲間を加えて、俺達はひたすら歩いた。
どれだけ歩いたかは良く覚えてないが、いつの間にか小さな町に着いていた。
ここは地図によると、”オルボア”っつー町らしい。
”アリカンテ王国”の領地に属している。
まぁ……町っつっても、空き地に家を建てたり人が勝手に住み着いたりして出来たモンだから
町って呼べるのか分からねぇけどな。
辺りは暗い。この小さな町の貧相さを物語っているようだった。
「今日はここで寝泊まらせてもr「俺がテントを持ってきた意味ねぇだろうがバカ」
図々しいにも程がある。
「ったく…テント張るの手伝ってくれよ。」
カルロスは、やれやれと言わんばかりの溜め息をついた。
「はいはい…じゃ、ネオンとラグも手伝って。」
俺達は町から離れた場所にテントを張り、場所を確保した。
火を焚き、暖にする。
もう、これも何回目だろうか。
暖かく感じない。
カルロス達は「暖かい」と言うが、俺には分からない。
「やぁ〜〜……つっかれたぁ〜…」
カルロスが経垂れ込む。
「本当ですね……一体どれだけ歩いたんでしょうか……」
続いて、ネオンも経垂れ込む。
”疲れ”――
普通の奴なら絶対に感じる事だろう。
だが……俺には”疲れ”と言うモノが良く分からない。
それよか、あらゆる感情まで失っている。
”喜び”とか、”焦り”。
それに……”哀しみ”も失っているんだ。
ある感情と言えば、”怒り”位しか思い付かない。
きっと俺は、そのたった一つの感情を糧にして戦っているんだろう。
生きてはいるが、生きている心地がしない、とでも言おうか。
まぁ……今はそれを取り戻しつつあるかもしれない。
「そうそう、聞いてよラグ。オケアノってね……」
カルロスがリギギ・ラグガに俺の事を話す。
けど、俺は上の空だった。
沈み行く太陽を見つめながら、これからを考える。
辺りがだんだん暗くなって行く。
火がパチッとはぜる。
「……ねぇ、ねぇ。ねぇってば!」
「…んあ?何だ?」
カルロスに呼ばれている事すら気付かない位、ボーッとしていたようだ。
俺はカルロスにデコピンされた。
「地味に痛ぇな……で、何だ?どうかしたのか?」
「もう…どうかしたのか、じゃないでしょ?これからどうするの。」
「どうするか…?突然言われたって、俺にも分からねぇよ。」
「ああもう。イライラするなぁ…」
チュゥッ…
「ええええっ!?な、何してるんですかカルロス君!?」///
……え?
今…何をされたんだ…
「これで目が覚めたでしょ。」
リギギ・ラグガを見やると、そっぽを向いていた。
……本当何されたんだ?
「カカカ、カルロス君っ!分かってるんですか!?オケアノ君は男ですよ!?」///
「分かってるよ。分かってる上でキスしてるんだよ。」
……は…?
「うおああああああッ!?」///
何てこった…
まさか又カルロスにあれをされるとは……
「ねっ。目を覚ましたでしょ?」
「バババ、バカ野郎ッ!二人が居る前でッ……」
そう言ったのがダメだった。
ネオンが俺を見つめてきた。
「え……ま、まさか…前にも……」
「そそそ、そんな訳無いだろッ!俺は仮初めにもお、男だぞッ!?」
「前にもしたよ?」
カ…カルロスの野郎ォォッ……!!
い、言いやがったァァッ…!!
「…俺は何も聞いてないからな。っつー訳で俺は寝る。」
リギギ・ラグガは黙々とテントへ入っていき、
そのまま寝てしまった。
こ…これはマズイ状況に……
「いやぁ〜、オケアノってカッコいいけど…裏は結構カワイイ一面を持ってるんだよ〜。」
「や、やめろカルロスッ!それ以上は…」
俺はカルロスを制止しようとした。
…しかし…
喋る口を閉じる事は無かった。
ああ……もう終わった……。