第2話 元・山賊
あれから4時間ぐらい経っただろうか。
俺達は休む事無く歩く足を進めていた。
カルロスの仲間はどこに居るか分からないが、取り敢えず歩けば見つかるだろう。
後ろを振り返る。
もうベルヒエは見えなくなっていた。
俺のせいで町は滅茶苦茶だが…きっとあの一件で町の皆は強くなっただろう。
復興も直ぐに行われる筈だ。
「そろそろ昼時ですね…」
ネオンが沈黙を破った。
そう言えば、もう日が殆ど真上まで昇っていた。
「ああ…少し休もうか。」
近くの木まで行き、地面に腰を降ろす。
風が吹いた。
それはそれは心地好い風だった。
戦疲れした心と体を、ほんの少しだけ癒してくれた気がした。
「何だかなぁ……死んだらこの風も感じる事が出来なくなるって思うと……
寂しいっつーか何つーか…」
「うん……戦争に出るって事は”死”を意味するのと同じ…生きて帰って来れる方が
珍しい。戦争が長引けば、その死の確率は高くなる。」
「何でですか?」ネオンが問う。
カルロスは空を仰ぎながら、こう答えた。
「この時代より遥か前から、殺す為の技術は発達してきてる。時代が進めば、より簡単に
誰かを殺せる物が出来るかも、って事。」
「確かにそうだな…軍が採用する兵器も、先人の知恵のせいで出来ちまったしな。」
「下手したら、数秒の間に万単位の人達が殺せる時代が来るかも…って事ですか?」
ネオンが不安そうに聞いてきた。
「まぁそうなるわな。だが、そんな時代が来る事は決してあっちゃあならねぇ。
それを防ぐ為にも…戦わなくちゃあな。」
ネオンは納得したように、「そうですね」と答えた。
「さて……もう十分休んだろ?そろそろ行くぜ。」
そう言いながら腰を上げた途端…
「ちょっと待ってくれ。」
どこからともなく声が飛んだ。
思わず癖で剣を抜いてしまった。
「おいおい、初対面の相手に剣向けるのか?物騒だな…」
そう言って出て来たのは、ワルビルだった。
肩に剣を担ぎ、あちこちに傷のあるワルビルが。
「誰だお前は?名乗れ。」
「お前はオケアノだな?その二本の剣…良く知ってるぜ。」
「名乗れと言ってんだ!さもなくばこの場で殺すぞ!」
「分かった分かった。ったく…血気盛んだな……俺はリギギ・ラグガだ。
長ぇからラグとでも呼べ。」
このワルビルは何者なんだ…?
俺はこいつを疑いながら剣を収めた。
「一体何の用だ?俺達を殺しに来たのか?」
「違う。それよかこいつは”斬れない”。」
”斬れない”。
俺はこの言葉を聞いて更にこいつを疑うようになった。
素性の知れねぇ奴が突然現れ、何の用かも分からない上に斬れない剣を持っている?
何度でも言うが、こいつは一体何者なんだ?
「そうだ…何の用で来たか、だったな。オケアノ、お前の話が聞きてぇ。」
「何だと?俺が一体何を話した?」
「お前、”人が一瞬で万単位で死ぬかもしれない時代が来る事は絶対にあってはならない。
それを防ぐ為にも、戦わなくちゃあならない。”とか何とか言ってたろ?」
俺はゆっくり頷く。
「それさ。その話を詳しく聞きたいんだ。」
「………少しだけ話してやる。」
俺はその場に座るよう指図し、話を始めた。
「いっぺんしか言わねぇ。良く聞けよ…」
「成程、な……戦争を根絶する為に、”国を一つに”か…」
「…何が言いてぇ…」
「立派だと思うぜ。少なくとも俺はな。お前の目には”覚悟”がある。
夢を成し遂げる為なら命を捧げられるっつー”覚悟”がな。」
覚悟、か……
確かにこいつの言う通りかもしれねぇ。
「お前の目は、霞んでもいないし汚れてもいない。それどころか、輝いている。
純粋な宝石のようにな。」
「………」
俺は、こいつに聞こうと思っていた事をやっと口に出せた。
「お前……傭兵、だよな…?」
「ああ」と、頷く。
そこに付け加え、こう言った。
「元・山賊団リーダーのな。」