第1話 出立
――――――――
「……これが、オケアノとの出会いだよ」
お父さんは話し終えた後、暫く間を置いて私にそう伝えた。
私のお父さんは小説家だ。
それ故、いつも話す事が本当なのか嘘なのか区別がつきにくい。
「それって…本当?」と、私。
「本当だとも」おうむ返しをするお父さん。
私はまだ、オケアノと言う人(ポケモン)が良く分からない。
ただ、とても勇気があり、強い人だと言う事は何となく分かった。
二つの剣を振るい、町を解放する為に戦いまで起こした。
そして、戦いに見事勝った。
それも、兵士が少なく、訓練されていないと言う逆境に立たされながらも。
「…それで、どうなったの…?」
いつの間にか、話の続きを催促する私が居た。
けれど、何故かこの先を聞きたくない気もした。
「…今までより、辛くて、悲しい話になるけど…聞きたいかい?」
それでも私はーー。
「うん…だって私、お父さんの娘だもん」
――――――――――
「……朝か……」
戦いが終わった後、俺達はその場にずっと佇んでいた。
朝が来るまで、ずっと。
そして俺は、辺りをぐるっと見回した。
……酷い有り様だった。
戦いが終わった後は大体そうだが、今回は特に酷かった。
これは自分が引き起こした事なのに…
俺は目を向けられなかった。
自分が引き起こした事では無いと…現実逃避していた。
「オケアノ、しっかりして。」
カルロスが肩を叩いた。
「ん…?別に…大丈夫だが…」
「大丈夫じゃ無いでしょ?顔色悪いし……もしかして寝てなかったから?」
寝てなかった?
俺はカルロス達が寝ている事にすら気が付かなかったのか…
「オケアノ君も、少し寝た方が良いですよ。」と、ネオン。
「ああ……済まないが休ませて貰うぜ……」
俺はその場に横たわり、目を閉じた。
その日は珍しく悪夢を見なかった。
お陰で良く眠れたし、気分もスッキリ……とはしなかった。
俺は日の光に目を細めながら、ゆっくり起き上がった。
マントに付いた土を払い落とし、カルロス達に合図した。
「もう…行ってしまわれるのですか。」
グーディアが聞いてきた。
「…ああ。」と、俺は返す。
「俺がした事は…正しい事なのか分からない。今の俺に出来る事は、この町の皆に
謝る事ぐらいしか…」
そこまで言うと、グーディアは言葉を遮った。
「いえ、そんな事はありませんよ。」
耳を疑った。
「見てください。」
俺は言われるがまま、グーディアが指した方向を見た。
そこには……
「有難うーー!」
「君達のお陰でこの町は解放されたよーー!」
歓喜の声を挙げる町民達が居た。
唖然とする俺に、グーディアはこう言ってきた。
「あなたの行いは――”正しかった”のですよ。これがその証拠です。
あなたは……この町を解放を解放してくれた”救世主”なのです。」
救世主。
その言葉は俺の心に強く響いた。
あのクソッタレが言っていたように、俺は傭兵という立場だ。
その上、町を解放したいなんつー勝手な要望を戦争にまで発展させた。
それなのに。
俺は救世主なんつー崇高な名前を貰ってしまった。
未だに信じられねぇ。
「本当に…正しかったのか…」
「ええ!皆が喜んでいるのですから!」
グーディアの目には涙が浮かんでいた。
俺はそれを見てやっと、自分は正しい事をしたのだと確信した。
「…それなら良かったぜ……」
歓喜の声は、止む事は無かった。
「それじゃあ……行くか。」
俺達は身支度を整え、町を出ようとした。
その時。
「オケアノさん…」
グーディアが走ってきた。
「何だ?」
「実は私には…家族が居たんです。妻と息子、そして娘が…」
「……まさか…」
「はい…殺されたんです……」
胸が痛んだ。
「家族が殺される前は、毎日が幸せでした……ですが、あいつらが町を支配
するようになってから、私と家族は離されてしまったのです…」
そしてグーディアは涙を流しながら、包み隠さず話してくれた。
妻や息子は必死に抵抗した事。幼い息子と娘は奴隷にされ、
数日後に殺された事。妻はそれを聞き、気が狂ってしまった事。
その弾みで兵士を殺してしまい、その場で斬首された事を……。
そしてグーディアは、最後にこう言った。
「どうか…どうか…私のように家族を失う方が居ない世の中を…作って下さい…!」
「ああ。勿論だとも。それまで、俺は絶対に死なない。」
「有難う御座います…!有難う御座います…!」
「それじゃあ…俺達はもう行く。ただ……俺が夢を実現するまで死ぬなよ。」
そう言い残し、俺達はベルヒエを後にした。