解放戦争(後)
「おおおッ!!」
ズッパァァァッ!
「誰かあいつらを止めろォォーーーッ!!これ以上先へ進ませるなァーーーッ!!」
「敵増援!?出所を抑えないと……!」
「考えてる暇ァ無ぇぞッ!!兎に角斬れッ!突けッ!進めェーーーッ!!」
ワァァァァァ……
戦場を駆ける。
正に俺達の今の状況を表すのにピッタリな言葉だ。
戦況はこっちに傾きつつはあるが、死傷者が多い。
言っちゃ悪いが、何せ、ろくに訓練を受けていない”民兵”だからな。
ただ…誰かが言った。
”平和とは、犠牲無くしては成り立たない。平和とは、犠牲の上に成り立つものだ。”と。
犠牲は、生きていく中で必ず出る。
それでも、平和は訪れなかった。
ただただ死んでいく奴が増えるばかり……
何年も何世紀も……
汚れた手は、拭う事が出来ない。
それは単純に、土汚れだとか泥汚れとかじゃねぇ。
血で汚れた手だ。
どれだけ自分を責めても、どれだけ後悔しても。
だが……本当に汚れているのは国の上層部だ。
罪も無い国民や農民を兵士として戦争に駆り出し、ろくに訓練もさせず死なせる。
もっと生きたかった筈だ。
もっと家で暮らしたかった筈だ。
そして、ただ意味もなく死んでいった多くの国民や農民を尻目に、重税を課して
自分達は贅の限りを尽くす。
そんな世界があってたまるか。
仮に俺が国の上層部をブッ殺し、大犯罪者になろうが構わねぇ。
それが俺の選んだ道ならな……
「チィッ……」
俺は自分の手で斬った敵の死体を見て、舌打ちした。
俺も言っている事は大層だが、時々自分のやっている事が正しい事なのか、
まるで分からなくなる。
この汚れた世界で…何が正しくて、何が間違いなのか…
恐らく誰にも分からない。
もしかしたら、正しい事なんて無いんじゃあないのか…
誰もが幸せに暮らせる世の中なんて…作れないんじゃあないのか…
「オケアノ!」
そう呼ばれて我に返った。
「何ボーッとしてんの!戦場のド真ん中だよ!?」
「あ、ああ…」
カルロスに一喝され、自分は戦場のド真ん中に居る事を思い出した。
あちこちで矢が飛び交い、剣戟が繰り広げられている、戦場のド真ん中。
気を引き締め、落としていた視線を再び前へ向けた。
「……行くぞ。この先に居るクソ野郎をブッ潰しに。」
「…何故農民共は反乱を起こしたのだ…?」
「恐らく、何者かが引き起こしたかと…」
「ふん…だが、この様子なら直ぐに鎮圧出来よう。」
「全く、そうですな。」
「ハハハハ!」
「ハハハハ…」
ボッ!
「ッ!?」
そいつは振り向いた。
さっきまで談笑していた相手が突然死んだのだから。
「ナイススローイングだぜ。ネオン。」
ネオンの投げた手斧は、見事に談笑相手の頭に刺さった。
大量の血を流し、目を剥きながら死んでいる。
「よぉ…初めまして、だな。クソッタレ。」
クソッタレは状況が理解出来ていないようだった。
死んでいる談笑相手を見たり、辺りを見回したり。
後退りしながら、俺達に言った。
「お、お前達かッ!?この反乱を起こしたのはッ!?」
「如何にも。」と、俺。
すると、クソッタレはニヤリと笑った。
「フフ……貴様、見た所傭兵のようだな…」
「だからどうした?」
クソッタレは手にクレセントアックス(三日月型の刃を持った戦斧)を握り、
俺に向けた。
「貴様のような汚れた傭兵が存在するから…この世は平和にならんのだ!」
聞いた瞬間、頭の中で何かが切れた。
俺はその切れる音がハッキリ聞こえた。
「傭兵を使うのはどこのどいつだ?ああ!?テメーらみてぇなクズ野郎が!!俺ら傭兵を
駒のように使い!!意味も無く死んでいく!!農民や村民だってそうだ!!テメーらみてぇなクズ野郎が平和を!!」
「
語るんじゃねェーーーーッ!!!!」
ガァァギギィィィン!!激しく武器がぶつかり、金属音と共に火花が飛び散った。
畜生ッ!
コンマ1秒遅れ、斬撃は防がれてしまった。
斬撃と言うのは、上っ面は単純そうだが内面は繊細だ。
少しでも手を抜けば勢いは弱まってしまい、かと言って力任せに振れば
剣へのダメージが大きくなってしまう。
実を言うと、俺はこの剣をあまり使いこなせていない。
「こンの……!!クソッタレがァーーーッ!!」
しかし…この時の俺は怒りで頭の中が真っ白だった。
小手先の剣術なんかどうだって良い。
ただ目の前に居るクソッタレをブッ殺す事だけ考えていた。
「うおぉぉァァッ!!」
スパァァァッ!
遂に斬撃が腹に入った。
腹から血が流れる。
が、浅かった。
それでも、俺はクソッタレに一撃食らわせてやった。
勢いに乗り、立て続けに斬り掛かった。
「ぐおっ…!!傭兵如きが調子に乗るなァァッ!!」
ブンッ!
「ッ……」
顔を刃がかすめ、血が出た。
それを見てクソッタレは…
「フハハハッ!良い様だ!しかし…刃が汚れてしまったなぁ…」
ブチッ…
又俺の中で何かが切れた。
「……初めてだぜ……」
「あ?」
「俺に傷をつけた奴はよォーーーッ!!」
ズッパァァァッ!!クソッタレの首をはねた。
首は宙を舞い、血が吹き出した。
クソッタレはその場に倒れ、クレセントアックスは地面に突き刺さった。
又一人…首をはねた。
一体何人の首をはねただろう。
きっと…数えられない。
そんな事を思いながら、俺はカルロス達にこう言った。
「……終わったぜ。」