第7話 解放戦争(前)
5日間グーディアの家(地下)に泊めて貰える事になり、俺とカルロスはテントを張る手間が省けた。
あなた達まで見つかってはならないと、グーディアは5日間俺達に”家から一歩も出てはならない”
と忠告した。それだけ言うと、グーディアは仕事に出ていった。
「ねぇオケアノ…」
カルロスが椅子に腰掛けながら言った。
「何だ?」
「オケアノはさ…何で他人の為に怒れるの?」
他人の為にキレる。
そんな事、普通の奴には出来っこねぇ。
普通の奴からしたら、頭が可笑しい奴に見えるだろう。
けど……その普通じゃない事をするのには理由がある。
「……戦争が嫌なんだ。」
皆ならもう知ってるだろう。
「戦争が……嫌……?」
「二回も言わねぇぞ。」
「戦争が嫌なのに傭兵やってるの?」
「ああ。」
「戦争が嫌なら正規軍に入れば良いんじゃあ……」
「正規軍だと?誰が入るかンなモン。あんなのは戦火を広げるだけだぜ?」
俺が正規軍に入らないのには、もっと理由がある。
「それに…俺は”国自体が嫌い”でもある。」
「国が嫌いだって…!?」
「ああ。悪く言えば国なんざクソ食らえだ。」
カルロスは驚きを隠せないようだ。
口をポッカリ開け、目を見開いていた。
まぁ、普通の反応だろうな。
「何で!?何でそこまで嫌うの!?」
「……じゃあお前、何で戦争が起こると思う?」
「えっ…そ、それは……」
「そんならもっと簡単にしよう。何でケンカが起こると思う?」
「それは……”やられたらやり返す”から…?」
「大体正解。他にも色々あるが…まぁ良いとしよう。簡単に言えば、戦争はデカいケンカだ。
領地を侵攻された、やり返そう。そう言う意志があるのは国が何個もあるせいだと思わねぇか?」
カルロスはコク、コクと頷いた。
何をビビってんのやら…
「だから、さ。俺が傭兵稼業をやってる理由は少なくともな。”戦いを終わらせる闘い”。それが
俺の戦う理由だ。更にもっと言うとだな…」
「えっ!?何々!?」
カルロスが身を乗り出してきた。
俺は少し距離を取って話を続けた。
「俺はこの大陸に存在する国々を―――全て無くす。」
「ッ………!?」
「さっきも言ったよな?国が何個もあるのが嫌いだってな。だから俺はこの大陸を一つの国にする。」
「あ…呆れた……そんな事が出来るとでも…」
「テメーに親は居るのか?」
そう聞いた瞬間、カルロスの顔が固まった。
「その反応からすれば、戦火で失ったようだな。」
「黙れッ!!」
俺は突き飛ばされた。
突然豹変したから多少驚きはしたが、こんな事はもう慣れた。
「君に分かるかッ!!僕の悲しみが君に――」
「分かる。」
「!?」
「俺は……ハナから親なんて居なかった。気が付けば戦場に居た。毎日が疑問尽くしだった。
何故俺には親が居ない?何故誰かが誰かを殺し合う戦場に立っていた?そして……」
俺はカルロスに、体の傷を見せた。
「それが…何だって言うの…!?」
「これは戦いで出来たものではない。何せ俺は今まで戦場で傷を負った事が無かったからだ。
俺はこれにも疑問を抱いていた。これは……何で出来たんだ?とな。鞭で打たれたようなもの、
殴られたようなもの、斬られたようなもの、火傷のようなもの……俺はいつこんな傷を負った?
考えても分からなかった。ただ――”夢”を見るんだ。」
「夢…!?」
「ああ…。誰かに”クズ”とか”ゴミ”とか罵られ、誰かが”止めて”と悲願している夢を…。
で、最近思うんだ。その”止めて”と悲願しているのは…俺なんじゃあないか、とな。一方で
罵っているのは…俺の父親なんじゃあないかと。そして、その夢は段々鮮明になっていくんだ。
ボヤけていた視界がどんどんハッキリしていったりとかな…だが、それは俺にとって苦痛なんだ。何故か知りたくない…もし俺の推測が合っているのだとしたら、俺は自分の親をこの手で…」
「もう十分分かったよ…。」
カルロスが口を開いた。
「恐らくオケアノは僕より辛い過去を送っていたのかもしれない。だから…もうそれ以上は
話さない方が良い。」
「………」
「オケアノ……僕、君の夢を成し遂げる手伝いをしてみたくなったよ。」
耳を疑った。
「ただ…僕の親の話は口外しないでほしい。けど…いつか話せる日が来ると思うから…その時が
来たら話そう。」
「ああ。重々分かったぜ。」