第6話 怒り(リメイク中)
目的地のベルヒエに着く頃、日は傾いていた。
町全体を囲う石造りの壁と門が目に入った時、カルロスの表情が曇った。
「どうした」
カルロスは何も言わず、壁上を指差した。俺はその指先を追っていく。
「……成る程な」
ブレスラウ王国の旗が靡いていた。
長年対立関係にあるバピデス王国とブレスラウ王国は、互いの領土、拠点を取りつ取られつという応酬を繰り返していた。昨日の戦いも、その一つだった。
そもそもこの二国の争いの発端は、バピデス王国アルーシ地方を巡るものだった。
アルーシ地方には鉱山が多く連なり、"鉄の泉"と呼ばれる。
これを狙っていたのは、ブレスラウ王国だけでは無かったのだが、唯一軍事行動を起こしたのはブレスラウ王国のみだった。
当初こそアルーシ地方に迫る勢いだったが、バピデス王国が"鉄の泉"を引き合いに周辺の国と同盟を結んだ為、ブレスラウ王国はやむ無く侵攻を中止した。
以降、ブレスラウ王国は国境地帯で小競り合いを繰り広げ、また、バピデス王国もこれに応じた。
最近は軍事費が嵩み、頻度は減っているようだが、それでも国境地帯は情勢が不安定だ。
幾つもの町、城、村が戦火に晒されたのだった。
例に漏れず、ベルヒエも国境から遠くない。気の毒だが、この町は落ちている。
そしてもう一つ気の毒なのは、俺だった。
俺はバピデス軍と――あの戦いだけの――契約を結び、戦いに勝っている。カルロスが――恐らく俺と同じの――契約を結んだブレスラウ軍は敗北している。
とてもすんなりと町に入れる状況ではなかった。
「どうするかな」
ふたりで思案していると、ガタガタと荷車を走らせる行商がやってきた。
「…あれを利用しよう」
行商に金を払い、俺とカルロスは頭巾を深く被って荷車の後ろに飛び乗った。
暫く荷車の揺れに身を任せていると、難なく門を通過した。門衛は居たものの、俺達を怪しんでいる様子は無かった。
いよいよ町に入ってみると、鼻が曲がる錯覚に陥る程の腐敗臭が立ち込めていた。屍がごみの如く投げ棄てられ、かたや一方では鞭を打たれ、労働を強いられる奴隷達の姿があった。中には、年端もいかないような子供も居た。どこもかしこもそうだ。
幾度となく目にしてきた光景だった。だが、慣れなかった。
「」