カルロスの夢
「ーー…ねぇねぇ」
「……あ?」
深夜、眠りに就いていたオケアノを、カルロスは揺り起こした。
オケアノは、不機嫌そうに瞼を開くと、いきなりカルロスの頭を小突いた。
「いたっ」
「ったく…時間を考えてくれよ。もう周りは寝てんだぞ」
「知ってるよ…だけど、ちょっと聞いて欲しい事があるんだよ」
小突かれた頭を摩りながら、カルロスは言った。
「聞いて欲しい事…?」
「そ。僕の夢の話だよ」
それを聞くと、オケアノは黙って再び眠りに就こうとした。
「ち、違うよ!そういう夢じゃなくって」
眠りに就こうとするオケアノを制止すると、カルロスは咳払いをした。
「僕がずっと抱いてる夢の事だよ。オケアノの、戦争の無い世界を創る、みたいな」
オケアノは気だるそうに頷くと、カルロスに、早く話せ、と言わんばかりに黙って催促する素振りを見せた。
「じゃあ…ちょっと長くなるけど、聞いててね」
カルロスは天井を見上げ、語り始めた。
「僕ね、いつか、世界を旅してみたいんだ」
まず行きたいのは…僕達の居る"西洋"から遥か東の海に浮かぶ、"ジャポン"っていう島国なんだ。
昔、その島国に行った事を記録した本を読んだんだよね。その本には、とても自然が豊かだって事とか、その国のポケモンはとても思慮深いだとか、"西洋"のポケモンとはまるで違う文化が記されてた。
そんな中でも、特に僕が気になったのは、"サクラ"っていう花。木に成るのに、花なんて不思議だな、って思ったけど、それのスケッチが有ったんだ。
とても綺麗だった。"西洋"じゃ、とても見る事なんか出来やしない。
だから、僕はまず"ジャポン"に行きたいな。
「ーー…それから、その本には、"ジャポン"に行くまでに通った国とか、そこから南下した所にある国の事が書いてあるんだ」
まるで子供のようにはしゃぎながら、オケアノに語り続けるカルロス。
「…なあ、カルロス」
「ん?」
オケアノは少し間を置いて、カルロスに言った。
「お前の話聞いてさ……俺もちょっと、旅をしてみたくなったよ」
「本当!?」
カルロスはオケアノに飛び付いた。
「ちょっ、カルロス」
「…オケアノ、いつか、この永い戦いが終わったら…」
オケアノの胸に押し当てていた顔を上げ、はにかみながら、カルロスは言った。
「一緒に、旅しようね」
「……ああ、分かったよ」
いつの間にか、空は白みを取り戻していった。