第7話 仲間を追って
頭の中に収めた地図を頼りに、拠点に駐屯していた傭兵を、少し引き連れ、前線へーーリギギ・ラグガを探すのも視野に入れてーー向かっていた。
主軍が包囲されている、という報告は、既に耳に挟んだ。
「あいつ、一体どこへ…」
リギギ・ラグガは、どこへ行くとも言わずに拠点を去った。だから、何の情報も無しにリギギ・ラグガの居場所を掴むのは、当たり前たが簡単に出来る事ではない。
俺達は、ただひたすらに前線へ走った。
「いくら強くても、単騎じゃ戦況は覆らない」
息を切らしながら、ヴィトルは言った。
「敵はこっちの戦力を知ってる。けど、敵は、オイラ達が来ているのを知らない」
元々、この戦闘に参加していたのは、ギール、クロト、アーサーだ。
つまり、それだけしか、敵に情報は伝わっていないのだ。
飛び入り参加した俺達の情報は、恐らく敵に伝わってはいない。ましてや、敵は主軍を叩く事だけに集中し、後方の傭兵隊に回す戦力も乏しい。
「成る程な。…だが、カルロス達はどうするんだ?合図を送らないで来ちまったが」
「それは大丈夫」
ヴィトルはきっぱりと言った。
「拠点の傭兵に、合図を送ってもらうように頼んでおいた」
それを聞いて、再び疑問が浮かんだ。
「…そう言えば、本当の作戦は、シエル達がおびき出した敵を叩く、ってやつだよな」
ヴィトルは、視線を前方に据えながら頷いた。
「だが、リギギ・ラグガが敵に突っ込んでいっちまったから、もう作戦は…」
「大丈夫だよ」
「え?」
俺は耳を疑った。
「大丈夫、だと?」
「そう。少しの支障ぐらい、なんて事じゃない。それこそ、"臨機応変"ってやつじゃないのかな」
それに、と、ヴィトルは付け加えた。
「みんななら、きっと分かってくれる。作戦が遂行できない時に、どうするべきか。ーーお互いを信頼している、みんななら」
リギギ・ラグガの虚ろな眼に、敵の占領した村が映る。
悠然と歩を進めていくと、2匹の門兵がこちらを振り向き、槍を構えた。
「な、何だお前は?」
「"首狩りのジズ"は居るか」
抑揚のない、低い声でリギギ・ラグガは門兵に問うた。
「そんな者は、ここには居ない!用が済んだら、さっさと」
一方の門兵が言い切る前に、リギギ・ラグガは右に腕を振り抜いた。
ゴリッ、と鈍い音と共に、右方の彼方に門兵が吹っ飛んだ。
もう一方の門兵は後退ると、奇声を発しながら槍を突き出した。
リギギ・ラグガは、一直線に飛んで来た穂先を左手で掴んだ。
手と穂の隙間から、血が滴り、草を赤く染めた。
だが、リギギ・ラグガは構いもせずに、"斬れない剣"を首に向かって水平に薙いだ。
骨が折れ、首があらぬ方向に曲がった門兵の死体を見下ろした。
(…すまねえ)
拳を握り締め、歯を食いしばった。
もう、戻れないーー。
死体を後にし、村の中央へ向かった。
「…!旗が振られた」
単眼望遠鏡を覗いていたカルロスは、外壁の上に身を乗り出した。
カルロスは直ぐさま出立しようとしたが、踏み止まった。
胸につっかえていた、疑問ーー
ーー何故、予定よりも遅くなった?
(…レノラの言っていた事は、案外当たっているのかも)
カルロスは、レノラに向き直った。
「レノラ」
「何、カルロス?」
「少し作戦を変えよう。きっと、戦況は既に動いてる」
「…良いわよ」
「…!別の伝令兵が来ました!」
主軍が包囲されたという情報を受けてから、10分ほど経った頃、再び伝令がやってきた。
シエルは、肩で息をする伝令に水を飲ませ、催促した。
「今度は何だ!?」
「…カルロス殿より伝令!作戦を変更、指示に従って行軍せよとの事!」
シエルは、背後のアーサーに向き直り、頷くと、再び伝令兵に視線を戻した。
「…分かった。作戦を教えてくれ」
「はっ、カルロス殿の作戦はーー」
仲間を追って、戦況は動いていく。
そして、導かれるようにして彼らは出逢う。