第0話 奴隷
人――ポケモン――と物で溢れかえる街の中を、ある一団が堂々と歩いていく。人々は、それを避けて道の横に並ぶ。
先頭集団には、軍人らしき出で立ちの者達――その後ろには、布切れ1枚の、みすぼらしい出で立ちの者達。手足を頑丈な鎖で繋がれている。
何度も鞭で叩かれたのか、体中にミミズ腫れの痕が残っている。先頭集団の軍人を、街の者達は”勇者”や”戦士”等と言って囃す。一方で、みすぼらしい者達には”死ね”や”ケダモノめ”等と罵声を浴びせる。中には、そこらの石や棒切れを投げ付ける者達も居た。
”ダブオート帝国”は、”大陸”の南方に位置する帝国である。1年を通して気温が高く、この
国では水は貴重品として扱われるのだ。もう一つの理由として、辺り一帯が砂漠である事も
含まれる。その為、この国は”戦争主義”を掲げている。軍の訓練に力を入れ、どこの国にも
負けない国を造る。そして、資源豊かな土地を奪う。それだけだった。
この国の国民は、
皆死を恐れない。いや、恐れない様に”洗脳”されている、と言った方が正しいのか。ともかく、この国は見方によっては”狂っている”のだ。
そして――強大な軍事国となったダブオート帝国は、戦争に勝利する度に”奴隷”を引き連れて来る。奴隷は、一生囚われの身だ。ろくな食事や休養も与えて貰えず、ただ働かされるか戦わされるか…いずれにせよ、奴隷に”自由”等と言う言葉や選択肢は存在しない。
「うへぇっ…まるでドブみてぇなニオイだな、あいつら…」
「貧乏王国の奴隷なんか、とっとと殺しちまえば良いのに…」
凱旋を見守る民達は、奴隷に向けて絶え間無く罵声を浴びせた。まるで他人事の様に。
自分が”こうなるかもしれない”と言う…危機感も無しに。
凱旋が終わると、国民達はこぞって宴会を開いた。
「ダブオート帝国、万歳!」
「帝王”ジャハール”様、万歳!」
そんな中、城では宴会が終わっていた。兵士達は酒につぶれ、あちこちに寝転がっていびきを
かいている。当然ながら、城の中は酒臭い。
「……」
開いた窓から、無数の星が瞬く夜空を眺めているジュカイン――ジャハールは、既に”次にどこを
攻めるか”を決めていた。
鞘から宝剣を抜き、夜空に翳す。
「順調だ…このまま行けば…」
ジャハールは不敵に笑うと、城の地下へと向かった。