第1話 導く
俺は今まで、”誰かの上に立つ”や、”立ちたい”等とは一度も思った事が無かった。
そもそもの話、俺は”身分”が大嫌いだ。
同じ生きる者同士、そんなモノは必要無い筈なんだ。
それでも、今世界中のどこかでクソッタレ貴族が私腹を肥やしていたり、
スラムで紛争が起きたりしているかも知れない。
そんな訳で、俺は返答出来ずに居る。
「なぁ…」
俺は返答の代わりに、質問をした。
「俺に団長をやれっつーのは…”面倒くさいから”とかじゃねぇだろうな」
シエルはギクッと――すると思っていたのだが…
「いいや、そんな事は微塵も思ってないぜ」
サラッと言ってのけた。
その言葉に多少の疑惑はあったが、嘘をついているようには聞こえない。
ううむ……
「ここに居たか」
どこか懐かしい、よく通る低い声――
声のした方へ視線を向ける。
「よう。久し振りだな」
リギギ・ラグガが立っていた。
「本当、ひやひやモンだったぞ。死んだ様に寝てたんだからな」
「…俺はあれしきじゃ死なねぇよ。多分な」
曖昧な返答をする。
「はは…そうだろうな」
リギギ・ラグガは苦笑した。
「大丈夫なのか?体は」
俺は問い掛ける。
「別に何ともねぇよ。大丈夫だ」
「そうか…なら良い」
すると、リギギ・ラグガは突然座り込んだ。同時に、表情も硬くなった。
「ど、どうした?」
「オケアノ…俺から頼みがある」
「――そうだったか…」
話を纏めると、リギギ・ラグガはかつての仲間――山賊団の部下、クロトと言うそうだ――と
再会し、傭兵狩りに会った俺達を救出してくれた――その時は、この傭兵団も居た――。
救出が済んだ後、リギギ・ラグガはクロトに話を持ち掛けられたそうだ。
――もう一度、俺達を導いてくれ――
つまり、もう一度山賊団のリーダーとして一緒に来てくれ、と言う事だ。
まあ、今は義賊団として活動しているそうだが。
リギギ・ラグガは迷った末、俺達と一緒に戦うと言う決断を下した。
「…今思えば、クロトには悪い事をしてしまったかも知れねぇ」
「どういう事だ?」
「あいつも…きっと学びたかっただろうな。誰かを導く事をよ」
「……」
「…だからよ、頼まれてくれるか?お前がこの傭兵団の団長になってくれる事を…」
俺は、いつだかに起こした戦いを思い出した。
そう…”解放戦争”と呼ばれている、あの戦いの事だ。
あの時、反乱軍を指揮したのは俺だった…が、正直な所、俺も導けていなかったかもしれない。
今なら言える。
あの時の俺は確信したが……今思い返せば、あれは”とんでもない過ち”だった――
結局、俺が出した答えは…
「…時間をくれ、か…」
「ああ…俺はまだ、この傭兵団がどういう場所なのか分からねぇ。
だから…少しだけ時間をくれ」
「…分かった。答えが出るまで、ゆっくり過ごしててくれ。俺達も下手に動けねぇしな」
そう言って、シエルはテントを出た。
――誰か教えてくれ。
”導く”って言うのは……一体どういう事なんだ――