第3話 突然
顔合わせを一通り終えた俺は、テントから出た。
日はもう頭の上にまで昇っている。
久し振りに、昼を迎えた。
「お腹…減ってない?」と、カルロス。
「…全くと言って良い程な」
不思議と、腹は空いていなかった。
何故かは良く分からないが、暫く何も腹に入れていなかったからだろう。
「そうは言ってもねぇ…少しでも入れなきゃ駄目だよ」
「カルロスの言う通りだぜ…っつっても、パンとかしか無いぞ」
”…それだけあれば助かる”
俺はそう返した。
断っても、恐らく聞かないだろう。
シエルは小走りでどこかへ行き、俺は寝ていたテントへ戻った。
テントの中は、俺とカルロスの二人っきりだった。
まぁ、言わなくても分かる事なのだが。
テントの中には、今朝のように沈黙が流れている。
…本当に、何を話して良いのか分からないんだ。
「…暖かいよね、今日」
突然、カルロスが沈黙を破った。
と言っても、どうでも良いような事を言っただけだ。
「ねぇオケアノ…?」
今度は俺の名を呼んだ。
「…うん?」
「オケアノは…傭兵狩りに会ったのを、自分のせいだって思ってる?」
それを聞かれて、俺は固まってしまった。
藍紫色――シアンとも言われる――の瞳が、俺を見つめる。
鮮やかなその色は、俺の心をギュウッと締め付けた。
「あ…ご、ごめん。思い出させちゃって…」
申し訳無さそうに俯くカルロス。
こんなカルロスは見た事が無い――何となく嫌な予感がした。
どこか嘘くさい気が…
そんな俺の予感は、直ぐに的中する事となった。
「……なんちゃって♪」
満面の笑みで、嘘に引っ掛かった俺をからかうカルロス。
「全く…心臓に悪いぞ、カルロス…ついて良い嘘をついてくれ」
「いやいや…僕は、オケアノを心配して嘘ついたんだよ」
さっきの行動から、その言葉には説得力が無かった。
「信じてよぉ!」俺にすがるカルロス。
「やめろ!俺は今全身が…痛ぇッ!」
呆れる俺の中には、安心する俺が居た。
カルロスが変わっていない事、再び戦える…”戦友”が出来た事。
じゃれあっているせいで、側で傍観しているシエルに気が付かなかった。
「楽しそうじゃないか、お二人様」
「…シ…シエル!?」
「まぁまぁ、そう睨むな。ほら、持って来たぞ」
昼食を済ませた俺は、少し眠る事にした。
4日も寝ていた――らしい――が、そんな長い間寝ていた感覚は無い。
横になって20分程経った頃…
俺は未だに寝付けずにいた。
いくら目を閉じても、冴えたくないのに冴えてしまう。
その様子を見ていたカルロスは、”寝なければ良いんじゃないの”と溢した。
それでも俺は、寝るのを諦めなかった。
「なぁ…カルロスの言う通りだぜ。無理に寝ようとすんなよ」
シエルが呆れ気味に言った。
「うるせぇな…関係ねぇだろう」
するとシエルは、突然こんな話を始めた。
「なら、関係”ある”にしてやろう。寝てないんだから、良く聞いとけよ?」
「はぁ…?」
「実はな………」
あんたを団長に任命しようと思う