第2話 訳アリ
「訳アリ…」
「ああ、訳アリだ」
思わず聞き返してしまった。
別に驚いた訳じゃ無い。この世に居ない方が可笑しいんだ。
ただ……何故訳アリの奴ばかり集めたのかが気になる。
「なぁ、あんた…二つ名が付く奴ってのは、どんな奴だと思う?」
そう聞かれて、直ぐに分かった。
「…訳アリの奴だろ」
「その通り」と、頷くシエル。
「訳アリの奴ってのはな…」
「ねぇ団長、話は後にしてくれる?顔合わせするって言ったの貴方でしょ?」
言葉を遮るレノラ。
俺達の会話が気に食わなかったか、訳アリと呼ばれるのを嫌ったのだろう。
「分かった分かった。じゃ、来てくれオケアノ」
次に顔合わせをしたのは、”サーナイト”。
「初めまして。私の名は”アーサー”…俗に、”静かな
疾風”と呼ばれています」
深々と礼をするアーサー。
清流のようなすみわたった声が特徴的だ。
「……」
アーサーは、ルビーのような赤い目で俺をまじまじと見つめる。
「な…何だよ」
「あっ…失礼しました…その…一度貴方と話してみたいな、と…」
少し顔を赤らめるアーサー。
「…ああ、いつかな」
俺は小さく返した。
「有難う御座います…それではまた…」
「………」
次の相手は”キリキザン”。
木製の椅子に腰掛け、腕組みをしている。
俺が側に居るにも関わらず、こちらを振り向こうとしない…いや、寝ていると
言った方が正しいか。
「おい、起きろ」と、シエルが叩き起こす。
「顔合わせするって言っただろ」
「はぁ…?俺ぁ、そんな面倒な事に参加するなんて言った覚えはねぇ」
だるそうに椅子から立ち上がり、首を鳴らした。
「ああそうかよ…じゃあこっから出てくれ」
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は焦って、二人の間に割って入った。
「何やってんだ!?」
「ああ、別に傭兵団から出てけって訳じゃないぜ。このテントから、って事だ」
「……」
俺は溜め息をついた…いや、安堵の息をついた、か。
別に安心する事じゃ無いんだが。
「取り敢えず、コイツの紹介をしよう」
シエルは咳払いをした。
「コイツは”ギール”。二つ名は”執行者のギール”だ」
何とも気味が悪い二つ名だ、と心の中で突っ込んだ。
「絡みづらい奴だが、宜しくしてやってくれ」
「…ああ」
次は”ブイゼル”。
「やあ。オイラは”ヴィトル”。”愚者のヴィトル”とも呼ばれてるよ」
「愚者…?」
「変な名前でしょ?実は、オイラもこの二つ名が気に入らないんだ」
”愚者”。簡単に言えば、読んで字の如く”愚か者”である。
しかし、何故”愚者”なのか?
考え込んでいると、シエルが答えを切り出した。
「”タロット”ってあるだろ」
”タロット”とは、占いや遊びに使われるカードの事だ。
占いでは大抵、出たカードの絵によって運勢だのを決めるらしい。
そして、78枚の内22枚を構成する、寓意画が描かれた”大アルカナ”の中に
”愚者”と言うカードがある――
そうか、と俺は思った。
”タロット”における”愚者”の持つ暗示を思い出したんだ。
”愚者”――自由、無邪気、発想力……
「あ、もしかして分かった?」
指をパチン、と鳴らすヴィトル。
「…ああ」
「オイラ、戦場で”普通の傭兵や兵士が思い付かない戦い”が出来るんだ」
それもどういう事なのか、今一分からない。
取り敢えず俺は、「成る程」と分かったフリをした。
「じゃ、オイラここの見回りをしてくるから。またどこかで」
そう言い残し、さっさとテントから出ていった。
俺は長い溜め息をついた。
「少しお疲れの様だな」
シエルが言った。
「別に…疲れた訳じゃねぇよ。ちょっとな…」
「ふぅん。ま、それは良いとして」
話を切り換えるシエル。
「上手くやってけそうか?俺達と」
「…どうだろうな。長い時間喋ったり、過ごしてねぇからな」
シエルがフッと笑った。
「まぁ、直ぐに慣れるぜ。暫く過ごしてりゃ、あんたの居場所が見つかるかもな」
「居場所…か」
「そうそう、言い忘れてた」
またも話を切り換えるシエル。聞く身としては、大分忙しい。
「ネオンとノトスっつったか、あの二人」
「…そうだ、どうしてるんだ?」
「大丈夫だ。ネオンの方はちゃんと安静にしてる」
「安静…?」
「ああ。酷い風邪をこじらせててな…今療養中だ。で、ノトスは…」
「どうなってるんだ」
「精神的にダメージを受けてる…が、今は大分立ち直れてきてるぜ」
精神的なダメージ、とはどういう事なのだろうか。
その疑問は、直ぐに晴れた。
俺は、敢えて口に出さなかった。
「…そうだ、後一人居たな。リギギ・ラグガっての」
「!」
「そう焦るな。あいつは大丈夫だ」
三人の現状を聞いた俺は、どう受ければ良いのか分からなかった。
安堵すれば良いのか…悔やめば良いのか…
「それにしてもなぁ…また訳アリの奴らがやって来るとはな」
「…俺達の事か?」
「ん、まぁそうだな。この傭兵団さ、不思議と訳アリの奴らが集まるんだよ」
俺は首を傾げる。
「もしかしたら…”縁”とか、”運命”なのかもな」
俺はその言葉を聞いて、頭の中でリギギ・ラグガとシエルを重ねていた。