第1話 顔合わせ
「……う……?」
うっすらと目を開けると、見た事のある光景――テントの中に居た。
起き上がろうとすると、体がギシギシと軋む。
良く見ると、俺はほぼ全身に包帯を巻いていた。
結局、俺は起き上がらずに横たわった。
「スー…スー…」
静かな寝息に気が付き、視線を右に向ける。
中性的な顔立ちのそいつ――カルロスが寝ていた。
中性的な顔立ち、とは言ったが、少し打撲傷が目立つ。
「……ん……?あ、お早う…オケアノ…」
気だるそうな声で、朝の挨拶をした。
「ふあ〜あ……体調はどう…?」
と、欠伸をしながら問い掛けて来る。
「最悪だぜ……起き上がろうとすると”痛ぇ”し…」
「そっか…」
会話がぷっつり途切れた。
思えば、カルロスとは久し振りの会話だ。
「っと……その…何だ……済まなか――」
”済まなかった”を言い切る事は出来なかった。
何故なら…俺にキスしてきたからだ。
「なっ…!?カ…カルロ…」
「ふうっ…可愛いよ、オケアノ♪」
女なんじゃないのか、と勘違いしてしまう程の笑顔。
いつも見ていた笑顔だ。
「おっ…お前っ…!」
「良いでしょ、久し振りなんだし…
ホントはもっとしたいけど…」
何か言った気がしたが、こいつにキスされると頭が回らなくなってしまう。
「クソ…俺は後…何回お前に唇を奪われなきゃならねぇんだ…」
俺はそっぽを向く。
カルロスは「つまらないなぁ」と溢した。
そして、何かを思い出した様に立ち上がった。
「オケアノ、早速で悪いけど皆に顔合わせしようよ」
「顔合わせ…?どういう事だ」
カルロスに肩を貸してもらいながらテントを出た俺は、日差しの眩しさに
驚いた。暫く太陽の下に居なかったからだろう。
「よう。やっとお目覚めか」
どこかで聞いたような声だ。
「カルロス、一体何日寝たきりだった?」
「えっと…4日位じゃなかった?」
俺はその言葉に首を傾げた。
4日も寝たきり?
どういう事だ?
様々な”?”が浮かんでは消えていく。
「ん、覚えてないのか?まぁ無理もないが…」
「…それより、お前は…」
そう言うと、フタチマルは苦笑いした。
「それも覚えてないのかよ…」
皮肉そうに言うフタチマル。
…って事は、やっぱりどこかで会っているのか…
「何度も言いたくねぇが…俺はシエル。傭兵団ルヴィストンの団長だ」
「…シエル…?」
「やっと思い出してくれたか…」
溜め息をつくシエル。
「ったく…手間掛けさせてくれんなよな。大変だったんだぜ、あんたの手当ては…なぁ?」
「まぁね」と、小さく笑うカルロス。
「それよりシエル、顔合わせするんじゃなかったの?」
「ああ、勿論するぜ。来てくれ」
「おい、連れて来たぜ」
支えを受けながらやって来たのは、一回り大きなテントの中だ。
「あら、やっとなの?待ちくたびれちゃったわよ」
そう言って前に出て来た”テールナー”。
見た限り――と言うか、ここに居る時点で傭兵なのは確実だ。
「初めまして…”双剣のオケアノ”。私は、”必滅”と呼ばれている”レノラ”よ」
「必滅…」
”必滅”と聞いて、俺は察した。
「シエル…とか言ったか」
「何だ?」
「この傭兵団に居るのは…全員二つ名を持ってるな?」
言ってやると、シエルは肩を上げた。
「お見通しか…ま、一つ付け加えるなら――」
全員”訳アリの”傭兵だ