第9話 居るべき場所
「ハァッ…」
俺は膝から崩れ落ち、その場にひざまづいた。怪我だらけの身体で思いっきり殴ったからだ。
「オケアノ…」
「あ、ああ…済まねぇ」
カルロスに支えて貰わないと立てない位、俺は衰弱していた。
「コイツはどうする…?」
「ここに閉じ込めておこう。オケアノが味わった苦しみの、何十倍もの苦しみを
味わわせないといけない」
「…そうだな…」
その判断に、少し納得がいかなかったが…今はそうするしかないのかもしれない。
「なら、早い所このクソ野郎を縛り上げねぇとな」
そう言いつつ前に出てきたのは、フタチマル。
「お前は…」
「ん、俺か。俺はシエル。傭兵団”ルヴィストン”の団長だ」
傭兵団ルヴィストン。
それを聞いて、俺は一つ思い出した。
ルヴィストンは常勝無敗とまで呼ばれた傭兵団――
「あんたは、”双剣のオケアノ”だろ?」
「みっともねぇ姿で申し訳ないが」
「確かに」
シエルはクク、と笑った。
「それじゃ、用も済んだ事だし帰るか……と、言いたいところだが」
シエルは、俺に”向こう”を見るように催促した。
「なぁリーダー…本当に行っちまうのか?」
「……ああ」
少し躊躇ってから答えた。
実は数分前、クロトがこんな事を俺に伝えた。
――俺達、”義賊団”になったんだ――
こういう言い方はないだろうが、一瞬引き込まれそうになった。
大義名分の下で活動できるからだ。
「…リーダーの決めた事だ。俺が一々口出しする必要はねえ。けどよ」
「”あんたじゃなきゃ駄目なんだ”…か」
「!」
「…いつだかも言ってたな。このセリフ」
俺は一呼吸置き、元山賊団の皆を見回した。
「はは…全く呆れたぜ。こんな所まで付いて来てよ」
目に熱いモノを感じた。それが溢れてしまわないように、空を仰いだ。
「確かに俺は、リーダーとしてお前達を導いた。だが、それは肩書きだけだった。今思えばあれは”導いていたんじゃ無かった”。ただ、”押し付けていただけ”だったのかも知れん」
ああ、何で昔の事を。
すっぱり言っちまえば良いじゃねぇか。
「俺はあいつに付いて行って、”学びたい”。"導くと言う事”を」
「……」
「悪いな。きっと、俺が”居るべき場所”はあいつの下なのかもな」
クロトは、俺に背を向けた。
「…泣いてんのか?」
「べ、別に泣いてねぇさ…ただ、少しつまらなくなるなぁっ、て…」
その声は震えていた。
「つまらなくなる、か。まぁ、そうかもな」
おい、とクロトを呼んだ。
「な、何だよ…もうあんたは」
「じゃあな。義賊団、頼んだぜ。今度会った時は、ゆっくり酒でも呑もうぜ」
そう囁いて、俺は踵を返す。
――クロト、暫くは会えねぇかもだが…それまで死ぬなよ――
背を向けていても、俺は分かった。
皆が声を上げて涙を流している中で、クロトが、声にならない声で号泣していたのを。
――第1部、完――