第7話 救出戦
「うおらッ!」
刀身の厚い大剣で、掛かって来る傭兵狩り共を薙ぎ倒す。
受けては振り、受けては振りの繰り返しだ。
間合いに入った敵を飛ばし、活路を開く。
逆に間合いを通り越し、目前まで迫ってきた敵は、背負い投げの要領で叩き付けた。
「ったく…こいつら不意討ち以外に戦法はねぇのか…?」
地面に倒れ、呻き声を上げる傭兵狩り共を見下しながら、俺は溜め息をついた。
実際の所、不意討ちかどうかは知ったこっちゃない。
俺が今すべき事は、あいつらの救出だ。
「リーダー!こっちだ!」
あの懐かしい声――
声の元を目で辿ると、一対のダガーを手に奮闘するゾロアーク、そして
槍を巧みに扱い敵を貫くツタージャが居た。
ちょうど、敵を制圧したようだ。
「クロト!それに…カルロス!」
「ラグ…って!怖い怖い!」
二人の元へ駆けると、カルロスは踵を返して逃げようとした。
「待て!別に取って食う訳じゃねぇんだから逃げるな!」
必死の制止で、カルロスの逃亡を阻止出来た。
「ハァ…久し振りに出会ったと思ったら、第一声がそれかよ」
「だって…ねぇ?」と、クロトに同意を求めるカルロス。
「ま、そりゃそうだ。何せリーダーは背がでけぇからな」
良く良く考えれば、カルロスとは身長差がある。
俺の目線からだと……カルロスはギリギリ見えるか、見えないか位だった。
「…そのナリじゃあ、お世辞にも”大丈夫”なんて言えねぇな…」
俺はカルロスをまじまじと見つめる。
「可愛い顔が台無しだな。カルロスちゃんよ」と、少しからかってやった。
「っ…もう…僕は男だよ!」
顔を赤くして、俺に突っ掛かって来る。
「分かった分かった…それよりも、ネオンが居ねぇようだが…何があった?」
「ネオンは今…風邪を引いてるんだ…まだ地下で寝てる筈だよ」
俺はクロトを一瞥する。
無言で頷き、”付いて来い”と言わんばかりの速度で走り出した。
急いで俺も後を追う。
砦の地下へ滑り込むと、途端に空気が冷たくなった。
天井から水が滴り、地下に谺する。
暫く後を追った先に、簡素な木の扉が道を塞いでいた。
クロトがそいつを蹴り飛ばし、道を開いた。
瞬間、酷いカビの臭いと、尋常では無い寒気が俺とクロトを包む。
「うっ…何つー場所だ…奴らはこんな所に寝かせてやがったのか…」
「ああ…」と、短く返すクロト。
俺は鼻を覆いつつ、ネオンの名を叫んだ。
「ネオン!聞こえるなら返事をしろ!」
「そ…その…声は…」
小さなかすれ声。
俺はそれを聞き取り、直ぐ様声の元へ駆け寄る。
「ネオンか!?」
暗くて良く見えないが、うっすらとネオンと思わしきシルエットが浮かび上がった。
「ラ…ラグさん…ゲホォッ!」
格子の向こうにはネオンが居る。
悟った俺は格子に手を掛け、力の限り引っ張った。
「ぐおおお……ッ!」
手の筋がビシビシと鳴るのが、俺にもクロトにも分かった。
「ぬあああああッ!」
メキメキと音を立てて格子は歪み、一人位なら入れそうな隙間が出来た。
手を抑え、クロトに命令する。
「ハァッ…ハァッ…クロト…化けてネオンを出せ…ッ!」
「分かった」
そう言うなり変装し、さっさとネオンを牢から救出した。
「凄い熱だ…これは相当酷くなってるぜ」
痛む手をネオンの額に乗せる。
クロトの言う通りだった。
「ラ…ラグさん…どうして…ここに…」
「話は後だ!今はここを脱出するのが先だ…!クロト、行くぞ…!」
地上へ戻って来た俺は、砦をグルリと見渡した。
傭兵狩り共の、累累たる死体と俺の部下…そして、あのフタチマル。
後から来た俺には、それが”普通だった”。
横に居るクロトに目を向けると、クロトは目をぱちくりさせていた。
「…どうした?」
「い…”居ない”…!マールスが…”居ない”…!」
「ど、どういう…」
「あいつは…確かに斬った…だが…あいつの死体が”無い”んだ…!!」
つまり。
クロトの攻撃は決まったが――浅かったか、それとも奴がタフだったか。
いずれにせよ、あいつはまだ”生きている”――!
「まずいぞ…あいつが狙うのは絶対に一人……」
「オケアノッ!!」
嫌なイメージが脳裏を過る。
オケアノがマールスに殺される――。
「こ…これは…?」
僕の目の前には、何本もの剣。
そう言えば、僕達が仕事をしている時に何かをしていたような――
落ちている剣を拾い上げる。
片手に、ずっしりとした鉄の重さが伝わる。
「まさか…これは子供が…!」
僕は歯を食い縛った。
子供がこんなモノを持たされ、人を殺す技術を教わるなんて……
剣を投げ捨て、歩きながらノトスの名前を呼んだ。
「ノトス!どこに居る!?」
歩いている内に、扉を見つけた。
どうやら鍵が掛かっているようで、ビクともしない。
少し助走を付けて、扉に体当たりした。
老朽していたからか、すんなりと扉は壊れた。
その先には――
「カルロス…さん…?」
小さく丸まっているノトス。
おどおどと顔を上げ、僕を見つめた。
「ノトス…!無事だったんだ――」
「動くなァッ!」
「あうっ!」
突然、ノトスの背後から傭兵狩りが現れ、首に剣を突き付けた。
ノトスは身を震わせ、目に涙を浮かべている。
その時、怒りが沸々と沸き上がってきた。
それは色で表現するなら――どす黒い赤。
その時の僕は、自分でも何が起こったのか分からなかった。
気が付けば傭兵狩りの顔面をショヴスリで刺し貫いていて、僕とノトスには真っ赤な血が
飛んでいた。
息を荒らげ、ゆっくりノトスに目を向ける。
「ハァ…ハァ……ごめんね…ノトス…」