第5話 変装の達人
「…どうやら、勘違いされてるようだね」
「えっ?」
僕は聞き返してしまった。
どういう事なのか、疲れのせいもあって理解に苦しむ。
けど、その答えはすぐに分かる事となる――と、思っていた。
「……これが”俺”さ」
続いて目を疑った。
何回擦っても、前に居るのは”ゾロアーク”だ。
もう、何がどうなっているのか分からない。
「さて、名乗らせてもらおう。俺はクロト・ディスカス…さっきの姿は変装だ」
「変装…?」
「リギギ・ラグガを知っているだろう。俺はあいつの部下なんだ」
そう聞いて、やっと理解出来るようになってきた。
山賊団の一員なら、変装は出来る筈だ。
「はぁ〜あ…すっかり騙されたよ…」
「クックッ、皆そう言うぜ」
せせら笑いながら、格子窓から何かを飛ばした。
「さて…カルロス、一つ伝えておこう」
「?」
「後2日……2日経てば救出隊が来る。それまでの辛抱だ」
そう言うなり、またウェルクの姿に戻った。
「そう言う訳だから、休める時に休もう」
翌朝は、土砂降りの雨――にも関わらず僕達は働かされ、風邪を引く傭兵が続出した。
…最悪な事に、ネオンが風邪を引いてしまった。前から体調が優れていなかったせいもあったんだろう。
「お前、こいつを部屋へ戻してこい」
その言動に腹が立ったけど、連れていかなければ風邪は悪化してしまう。
黙ってネオンを抱え、雨の中を駆けた。
「うっ…ゲホッ!ゲホッ…!」
「ネオン……」
咳き込むネオンの背中を擦る。
ネオンは無理に笑顔を作って、僕に顔を向けた。
「だ…大丈夫…です…ゴホッ…!は…早く戻って下…さい…」
「…しっかり休んでるんだよ」
そう言い残して、部屋を後にした。
「大丈夫だった?」
戻って来るなり、ウェルク――本当はクロトってのだけど――が耳打ちをしてきた。
雨の音が五月蝿くて良く聞こえないけど、きっとそう言っている。
「大丈夫じゃないね…咳が酷かった…熱もあったし…」
「そうか…」と、肩を落とす。
「それよりも…”地”で喋ったら…?」
「…もしかしてそっちの方が良い?」
「本当の姿を知ってるからね…」
「今は良いでしょ。この姿なんだし…」
それもそうだ、と思った。
「しかし…雨は止みそうにないね…これは暫く続くかなぁ…」
「…止むよ」
僕は無意識にその言葉を発していた。
「”止まない雨はねぇ”…オケアノなら絶対そう言うよ」
ウェルクは僕を振り向き、間も無くフッと笑った。
「絶対、ね…そこまで信頼してるんだ。オケアノの事を」
「勿論…だってオケアノは――”強い”から」
ゴーン…ゴーン…
終わりの鐘が鳴った。
雨は深夜になっても止む様子を見せない。
部屋へ戻った途端、ウェルクは僕に話し掛けてきた。
「そう言えばカルロスはさ…疲れないの?」
「…疲れてるよ。表に出さないだけでね」
僕はミミズ腫れに手を当てた。
「ストレスなんか溜まりまくりだよ…少し手を抜けば鞭で叩かれるし、人を物みたいな言い方するし…」
「……」
「オケアノをいじれないし…」
「へ?」
「オケアノのリアクションを思い浮かべるだけで…ああもう!」
「あ、あの…カルロス…?いじれないってどういう…」
「オケアノオケアノオケアノオケアノォォ!」
ストレスの余りか、何回も”オケアノ”と叫んでいた。
ましてや、ウェルクがどんな顔をしていたかなんて分かる訳がない。
「わぁぁぁぁぁ!」
オケアノの処置まで、後2日