第4話 慕う者、旅する者
俺は、今までの記憶を振り絞った。
山賊団に入ってから、今現在までを一気に追憶した。
やっぱり…こいつは知っている。
こいつは――
「クロト…!」
「良く覚えててくれたな、リーダー…礼を言うよ」
クロトの後ろには、俺が現役時代だった頃の部下達も居た。
クロトが深々と礼をすると、それにつられて部下達も礼をする。
「やめろ…俺は、もうお前らのリーダーじゃねぇ」
「あんたじゃなきゃ駄目なんだ」
そう言うなり、いきなり土下座をした。
「頼む…もう一度俺らを導いてくれ…」
そう言われて、俺はどう返したら良いか分からなかった。
ここでスパッと切ってしまうか、頼みを聞き入れるか。
切ってしまえば…いや…切っても、きっとそれを受け入れないだろう。
頼みを聞き入れば…”戻ってきてくれ”と言われるかもしれない。
”痛し痒し”っつーのは、こう言う事なんだろうな。
「ま、待て。俺は一体…”どう返せば良い”んだ?」
「戻ってきてくれ、とは言わない。聞いたんだ…あんたの仲間の事を」
俺の仲間、と聞いて、俺は血の気が引いた。
知る限りでは――カルロスとネオン、ノトスが連れていかれそうになって…
俺は、あのフタチマルにすがった。
「お、おい!オケアノ達はどうなった!?」
「…オケアノも、恐らく傭兵狩りにあっただろう。俺達があんたを見つけた時には、もう誰も居なかったよ」
一気に力が抜けた。
俺が気絶している間に…オケアノ達は…
「リギギ・ラグガ…あんたの仲間は、”救いたい”と言ってるんだぜ」
耳を疑った。
「あいつら…ああ見えても、信条がしっかり通った奴らしいしな」
クロトの方を振り向くと、”そいつの言う通りだ”と頷いてみせた。
「もたもたしてる暇はないぞ。俺達はそろそろ出るからな」
「クロト」
俺は少し躊躇ってから、クロトにこう告げた。
「……”命令”だ。オケアノ達の救出に向かうぞ」
「又一人捕まえたぞ!」
下で、何かが起こった。
城壁の上から覗くと、そこには必死に抵抗する”キモリ”が居た。
「…せよ…!」
地面から遠ざかっているから良くは聞き取れないけど…”離せ”って叫んでいるみたいだ。
ただ…あのキモリ、何か変なんだ。
「おい!お前達は仕事に集中し…」
バキィッ!
僕は思わず、監視員を殴り飛ばしてしまった。
幸い地面に真っ逆さま、なんて事は無かったけどバレてしまったら大変な事になってしまう。
適当な理由でも考えておこう。
そう思いながら、仕事を再開した。
「今日はここまでだ!」
やっとの事で休む時間――ほんのちょっとしか無いけど――がやってきた。
いつもながら、もう月が沈みかけている時間だ。
千鳥足で、部屋――牢屋――に向かう。
「ハァ……」
溜め息を一つつき、質素なベッドに横たわる。
相変わらずカビの臭いが酷い。
そんなベッドの上で目を閉じようとした時。
「君…カルロスでしょう?」
名前を呼ばれて、体を起き上がらせる。
この声…あのキモリの声だ。
「そう…だけど」
声は右から聞こえてくる。
「やっぱり。そんな整った顔立ちしてるのは、君ぐらいしか居ないしね」
そう言い、カラカラと笑った。
何とも気さくなキモリだ。
「褒めてくれるのは良いけど…君、今自分が置かれてる状況分かってる…?」
「勿論。傭兵狩りにあって、今牢屋でカルロスと話してる」
返す言葉に詰まってしまった。
一体何者なんだろう…
「君…名前は?」
「僕は”ウェルク・ベリー・ワークス”。まぁ…”旅人”さ」
「ベリー・ワークス…?」
どこかで聞いた言葉だった。
――思い出した。確か――
「君…もしかして”アラン・ノゼル・ベリー・ワークス”の何かなの…?」
そう。
僕が今の所一番嫌ってる、あのアラン。
アランのフルネームは――
”アラン・ノゼル・ベリーワークス”。